創発戦略センター ISSUE 358 2017/11/28(火)発行
創発
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農地の集積・集約化の際に「所有者不明土地」の問題が指摘されています。
今回のメルマガ「次世代農業の“芽”」ではこれら「所有者不明土地」に関する対応策をご紹介します。
   1. Ikuma Message

・アジア諸国と日本の教育政策の本質的な違い

   2. 創発Eyes

・SDGs待ったなし、経団連 企業行動憲章の改訂

   3. 連載_次世代農業

・次世代農業の“芽”
第5回 急がれる相続未登記農地等への対応



創発戦略センター
所長
井熊 均
 

アジア諸国と日本の教育政策の本質的な違い

 毎月のように中国関係の仕事に関わっていると、驚異的な速さでアメリカに次ぐ経済大国となり、近い将来、アメリカに肉薄するであろう中国の勢いの源泉が教育基盤にあることが分かります。北京大学、清華大学は既に世界で日本の大学をしのぐ評価を得る地位を獲得し、両校に次ぐレベルの学校がいくつも控えています。各省には地域の行政・経済を支える人材を輩出する地域の中核大学があります。こうした大学界の構造が、中央においては先進国と競い得る経済政策を講じ、地域においては中央の政策と連携して振興を図ることを可能としているのです。また、大学の下には、小中学校、高校を経て優秀な人材が選抜される仕組みがあります。

 シンガポールが独立した時、リークアンユー氏は、「われわれにあるのは、戦略的な立地条件と立地条件を生かすことのできる国民だけだ」と語ったとされます。以降、シンガポールは氏の指摘どおり国民の教育に力を入れ、同国の大学がアジアで最高の評価を受けるまでになりました。
 有力大学を頂点とした教育システムには過度の受験競争などの弊害もあります。しかし、日本の教育政策が迷走している間に、アジア諸国が教育と経済政策に力を入れ、中国は経済規模で、シンガポールは一人当たりGDPで日本を追い越し、その差を広げ続けていることは確かです。

 ここのところ日本では教育無償化の議論が盛んです。経済的な格差が教育機会の不平等を生む状況を解消することが大事であることは間違いありません。しかし、日本でもかつて米百俵の話があったように、教育とは人づくりであると同時に、国づくりでなくてはなりません。そのことを見失い、無償化だけが独り歩きするのであれば、日本は国の成長という教育投資の回収原資を失うことになるのです。



創発戦略センター
マネジャー
橋爪 麻紀子
 

SDGs待ったなし、経団連 企業行動憲章の改訂

 2017年11月8日、経団連は新たな企業行動憲章を発表した。企業行動憲章とは、会員企業約1,350社が順守し、実践すべき事項が記載されているものだ。前回の改訂は2010年のISO26000(企業の社会的責任に関する国際規格)の制定に応じたものであったことから、7年ぶりの改訂となる。改訂の主なポイントは、企業がIoTやAIなどの技術を活用し、経済成長を進めるとともに持続可能な開発目標(SDGs)が定める社会的課題の解決に積極的に取り組むことを促している点だろう。その他、個別テーマとしても「人権の尊重」や「働き方の改革、職場環境の充実」など新たに掲げられている。前者は、グローバル化する企業活動・サプライチェーンにおける労働問題や人権侵害をなくすための取り組みの必要性を言及するものであり、後者は、国内でも近年注目されている従業員の労働環境の改善、企業のダイバーシティ促進、健康経営の推進などに関する記述が目立つものであった。

 政府が2016年12月に日本の「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」と「具体的施策」を発表していから1年が経過しようしている。その後、2017年10月には外務省がSDGs達成に資する優れた取り組みを行う企業・団体に対するアワードを制定するなど、これまでも個別企業・団体によるSDGsの取り組みは国内でも着実に増加しつつある。このような中、今回の企業行動憲章の改訂は、国内経済を支える経済団体による号令として、SDGsがさらに企業活動の重要な一要素として主流化していく大きな一歩と言えるのではないだろうか。もちろん、改訂の過程においては、企業の最終的な目的はSDGsの達成ではない、という意見もあったはずである。それでもあえて経団連が、企業行動憲章にSDGsの要素を盛り込んだ理由は、世界の潮流からもそれが企業にとってもはや無視できないものになりつつある、と判断したからだろう。国際的な流れを見ても、既にSDGsに事業を通じた貢献をしている企業が評価、選定される株価指数の開発や、そうした株価指数に連動した債券商品の開発や投資家の出現がこの数年で急速に進んでいる。つまり、企業側がそれを望まなくても、企業の評価のものさしのひとつとして、SDGsという切り口が存在感を高めているのである。

 現在、企業のサステナビリティ報告の普及・促進を行うGRI(Global Reporting Initiative)と国連グローバルコンパクトが主導し、企業のSDGsへの取り組みに関する情報開示手法やベストプラクティス集を策定している。これには、国連グローバルコンパクトに署名済みの有志企業グループ(Corporate Action Group)も参画し、2018年末を目処に企業のSDGsの取り組みに関する情報開示手法を検討しているのである。このような企業の情報開示の標準化が進む中、グローバルに活躍する企業であればあるほど、SDGsへの取り組みを対外的に情報発信する場が増えることが想定される。

 これまで、SDGsは目標が多様すぎる、範囲が広すぎて取り組みにくい、などさまざまな企業の反応があった。しかし、それは裏を返せば、SDGsが企業へ求める取り組みとは、事業活動における多様なステークホルダーへ配慮すべきだということでもある。企業は、投資家や株主に加え、競合、サプライヤー、従業員、消費者、地球環境、地域社会とあらゆるステークホルダーへの配慮を行い、それらを事業活動へと統合していかなければ、国際的な環境においては競争力を失い、ステークホルダーから評価されなくなってしまう。そうなる前に、世界の置かれている社会・環境を理解し、自社の経営に反映させなくてはならない。今回の企業行動憲章の改訂は、そういったメッセージ性を強く感じるものであった。



調査部
主任研究員
蜂屋 勝弘
 

次世代農業の“芽”
第5回 急がれる相続未登記農地等への対応

注目される「所有者不明土地」の問題
 近年、災害復旧や街の再開発等に際し、所有者の所在の把握が難しい土地(いわゆる「所有者不明土地」)が問題視されています。これは、相続の発生後に不動産登記が行なわれないまま長期間放置され、その間の相続人の転居や死亡の結果、所有者の確認が困難もしくは長期間を要するなど、土地の利用に支障が生じる問題です。国土交通省が2014年度に行なったサンプル調査をみると、調査対象の登記簿400サンプルのうち、最後に所有権が登記されてから30年~49年経過している登記簿が26.3%あり、50年以上経過している登記簿は19.8%に上ります。実際、数世代にわたって登記が行なわれず、法定相続人が多数に上るケースも多く、こうした場合には、所有者の全体像の把握や所在等の確認にかなりの時間と労力等を要することになり、結果として、再開発等の事業が滞るといった弊害が発生しています。

農地の集積・集約化における「所有者不明土地」の問題
 同様の問題が、農地の集積・集約化の際にも指摘されています。不動産登記は当事者の申請に基づいて任意で行なわれることから、大都市に比べて地価の低い地方で相続時に登記されないまま放置される傾向にあるとみられています。農林水産省の調査をみると、全国の農地のうち、「登記名義人が死亡していることが確認された農地(相続未登記農地)」と「住民基本台帳上ではその生死が確認できず、相続未登記のおそれのある農地(相続未登記のおそれのある農地)」は合計で93.4万haあり、これは全農地の20.8%に相当します。

 こうした相続未登記農地等のうち、相続人が地域にいない等のために遊休農地になっている農地は5.4万ha(相続未登記農地等の6%)あります。残りは相続人のうちの誰かが耕作を継続する等により、今のところ農地として活用されているものの(注1)、今後を展望すると、農家の高齢化が見込まれるなか、リタイヤする際に後継者がいないケースも想定されます。そうした農地を、集積・集約化を推進している農地中間管理機構の活用等によって他の農家が利用する際、相続未登記農地等の場合には、所有権を持つ人の特定や所在の確認、同意に相当の時間と労力等がかかることが見込まれます。そうしたケースでは、農地の集積・集約化が円滑に進まずに遊休農地になるおそれがあり、農地が荒廃しかねません。

「所有者不明土地」問題への対応
 このような「所有者不明土地」問題への対応策として、相続登記を促す取り組みが強化されつつあります。具体的には、法務省・法務局による情報発信や死亡届時における市町村による登記の働きかけが既に行なわれているほか、本年5月には「法定相続情報証明制度」が創設され、相続登記を含む相続時の手続きが簡素化されています。また、税制面からは、来年度税制改正に向けて、登録免許税の軽減措置が要望されています。

 さらに、中長期的な課題として、登記制度や土地所有権のあり方に関するより本質的な議論が求められています。このための研究会が、本年10月に法務省によって立ち上げられ、登記の義務化の是非や土地所有権の放棄の可否などの論点について、民法の考え方との整合性を含む踏み込んだ議論が予定されています。今後、こうした議論を踏まえ、農地を含む「所有者不明土地」問題の抜本的な解決に向けた制度の見直しが進むことが期待されています。

相続未登記農地等の集積・集約化の促進向けた対応策
 こうしたなか、農地については、相続未登記農地等の集積・集約化の促進に向けて、以下のような対応策が検討されています。

 第一は、簡易な手続きで利用権を設定できる制度の創設です。これまでの経緯をみると、相続未登記農地等のような複数人が所有権を有する共有農地を賃貸借する場合、所有者全員の同意が必要でしたが、2009年の法改正(農業経営基盤強化促進法)で要件が緩和され、共有持分の過半を有する者が同意すれば、最大5年間の利用権を設定することが可能になっています。それでもなお、持分権者の全体像の把握や過半の同意を取るため労力等は小さくないことから、一段の緩和に向けて、例えば、固定資産税等を負担するなど事実上その農地を管理している農家等が簡易な手続きで利用権を設定できる制度の検討が求められています。

 第二は、利用権の設定期間の延長です。先述のように、共有持分の過半を有する者が同意すれば、最大5年間の利用権を設定することができますが、これは民法上、処分能力がない者による短期賃貸借の期間が5年以内と定められていることとの見合いによるものです。しかしながら、利用権を更新する際に、その都度改めて所有者の過半の同意を取る等の手続きが必要になるほか、荒廃した農地では一定のレベルの作物を収穫できるまでに土作りを仕上げるのに数年を要するという農業の実際に照らしてみれば、5年という期間は短いとの見方があります。

 第三は、賃貸借時に不明だった共有者が事後的に現れた際の対応です。耕作している農家が長期にわたって安心して耕作を継続できるよう、事後的に現れた共有者との利害調整の仕組みが求められています。

 農地の集積・集約化は、農地の荒廃を防止するだけでなく、農家あたりの経営規模の拡大や多品目生産などを通じて農業の収益力を高める上でも重要な取り組みと言えます。全農地の54.0%(2016年度、注2)が集積・集約化されているもとで、一段の集積・集約化を進めるには、全農地の20.8%を占める相続未登記農地等がカギになるとみられ、対応が急がれます。

(注1)(注2)出所:農林水産省調査

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