創発戦略センター ISSUE 356 2017/10/24(火)発行
創発
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GPIFが7月、ESG指数に連動した日本株の運用を1兆円規模で始めたことなどを背景に、日本でもESG投資に対する関心が
高まっています。
今回の創発Eyesは、拡大するESG投資が不動産投資市場にも波及している背景を解説します。
   1. Ikuma Message

・新しい政権運営では積極果敢な改革を期待

   2. 創発Eyes

・ESG投資の潮流は不動産投資市場にも

   3. 連載_次世代交通

・地域社会の「新しい足」
自動運転移動サービスの創出 No5
自動運転による「コミュニティ・モビリティ・サービス」の実現を目指して



創発戦略センター
所長
井熊 均
 

新しい政権運営では積極果敢な改革を期待

 衆議院の総選挙は事前の予想通り与党が過半数を占める結果となりました。新しい体制の下、心機一転、国民が安心して生活ができ、将来に希望を持てる国造りに邁進して頂きたいと思います。

 今回の選挙で読み取れるのは国民が安定した政権運営を求めていることです。現在執筆中のPPPの新しい本の中で、日本のPPPの年表を作りました。日本では1999年にPFI法が成立してから数年間、世界的にも高く評価される事業がいくつも立ち上がり、華美過剰だった公共事業も抜本的に改革される、という成果を上げました。しかし、2000年代の後半になると、付加価値の高い事業が殆ど見られなくなってしまいます。この時の政治状況を振り返ると、毎年首相が替わる時代であったことが分かります。政権が不安定になると行政サイドもチャレンジングなプロジェクトに取り組みにくくなることが理由と考えます。

 その意味で、2012年末から続いた政権の下で、是非とも積極果敢な改革の取り組みを期待します。個人的には経済・財政の建て直しが進むことを望みます。財政面では、異常なまでに膨れ上がった公的債務は日本経済の最大のリスクになっています。これを改善するためには、消費税を始めとする税制、社会保障、医療、等の改革が欠かせません。消費税については、現状の景気を懸念する声もありますが、将来の人口減少、オリンピックや復興需要の収束などを考えると、今以上の景気回復を条件とするのは楽観論です。成長戦略では、女性や高齢者の就業機会の拡大、IoTを始めるとする革新技術の普及と事業創造のために規制緩和、企業、行政内での慣行の見直し、先導プロジェクトの立ち上げ等からなる政策運営を期待します。この2、3年が日本の将来にとっての正念場という信念を持って政策を引っ張っていって欲しいと思います。



創発戦略センター
ESGアナリスト
長谷 直子
 

ESG投資の潮流は不動産投資市場にも

 ESG投資が拡大している。2016年の世界のESG投資運用額は、22兆8900億ドル(約2500兆円)で2012年比約2倍となり、世界の投資総額の4分の1を占めるまでに成長した。このうち日本のESG投資運用額は、2016年時点で約56兆円である。世界の運用額に占める割合としては依然として少ないものの、世界最大級の資産規模を持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2017年7月、ESG指数に連動した日本株の運用を1兆円規模で始めたことなどを背景に、日本でもESG投資に対する関心が高まっている。

 ESG投資拡大の潮流は、不動産投資市場にも影響を及ぼしている。不動産投資の意思決定プロセスにESGへの配慮を組み込むため、欧州の主要年金基金グループが、「GRESB」という不動産会社・ファンドのESGへの配慮状況を測るベンチマークを2009年に策定した。2017年時点のGRESBの不動産評価参加者は、世界で850(昨年は759)に及ぶ。日本でも53が参加、そのうちREITは34であり、時価総額ベースで日本の上場REIT市場の85%(2017年9月時点)が参加していることになる。GRESBへのREITの参加が増えている背景には、投資家によるESG情報開示の要請の高まりが挙げられる。あるREITの資産運用会社の担当者の話によると、投資家からのESG情報に関する問い合わせは年々増えているという。最近では、GRESBの評価を受けていないREITには投資しない、という投資家すら存在するようだ。

 なぜ、投資家の要請が高まっているのか。それは、ESGに配慮した不動産の投資市場での優位性が認められ始めているからだ。2015年にケンブリッジ大学が行った調査によると、GRESBで評価が高いREITほど、優れた財務パフォーマンスをあげており、ROA、ROEともに高いという。保有不動産への環境配慮の取り組みが、賃料収入に好影響をもたらすことを投資家にアピールする企業も現れている。不動産の再生事業を行ういちごホールディングスは、2017年度の株主通信の中で、保有不動産に対して環境性能向上や省エネの設備改修を行ったことでテナントの満足度が向上し、賃料収入の増加が実現したこと(オフィスでは、不動産取得時に比べて賃料収入が13.8%向上、ホテルの賃料収入は28.3%向上)を報告している。例えば、LED照明や高効率空調設備を導入することでテナントは電気代が安くなるため、その代わりに賃料を上げるという提案がしやすくなるというわけだ。テナントの賃料を上げることができれば、REITの資産運用会社は投資家への分配金利回りを上げることができる。資産運用会社が保有不動産の環境性能向上を積極的に進めるのは、利回りアップという狙いがあるのだ。

 日本は、ビル建築や設備改修において優れた環境技術を持つことから、環境に配慮した不動産開発や設備改修を進めることに優位性を持つはずだ。しかし、2017年のGRESB不動産評価結果によると、日本は他国の平均に比べて、テナントとの関係構築に関するスコアが低い。環境への配慮に加えて、例えばオフィスビルや商業施設であれば、テナントの従業員の健康や働きやすさへの配慮を意識することで、さらなる賃料収入の増加や賃貸面積の増加、テナント稼働率の向上が期待できる余地がある。利回りが改善すれば、世界の投資家にとって日本の不動産は魅力的なものとなるだろう。不動産に対してESGへの配慮を積極的に進めることは、日本の不動産投資市場全体を活性化させるチャンスとなり得る。



創発戦略センター
マネジャー
武藤 一浩
 

地域社会の「新しい足」
自動運転移動サービスの創出 No5
自動運転による「コミュニティ・モビリティ・サービス」の実現を目指して

■地域コミュニティをサポートするモビリティサービス
 前号まで(No1, No2, No3, No4,)は、2016年10月に神戸市北区筑紫が丘で行った、低速モビリティによる近距離圏内移動サービスの実証について、利用状況や利用者からの期待の声をお伝えしました。具体的には、高齢化が進む数年後の有効な対策としての期待が高かったこと、サービス実証の主体となった地元交通事業者が実際に需要の手ごたえを得られたことなどをご紹介しました。また、このサービスを自動運転技術による「コミュニティ・モビリティ・サービス」と定義しそのあらましを示しました。
 今回は、連載の最後として自動運転技術によるコミュニティ・モビリティ・サービスの社会実装に向けた我々が考える道筋について言及します。

■社会実装に向けた道筋
 自動運転技術によるコミュニティ・モビリティ・サービスの社会実装においては、実現の課題を明らかにし、その課題一つ一つを解決するようなサービス実証を繰り返すことが重要となります。
 今回の課題としては、まず規制面があります。ジュネーブ条約やウイーン条約などの国際条約では、公道でのドライバー不在による自動運転車両の走行を禁止しています。条約改正についての見通しはまだ立っていませんが、欧州を中心に改正を働きかける動きは見られます。よって、条約が改正され、無人での自動運転車両の走行が解禁されたときに、速やかに無人サービスが開始できることを見据えて、有人によるサービスを先行的に開始し、知見を蓄積しておくのが有効と考えます。

図1

 ドライバーの配置が必須となると、コスト面と人材不足面の課題に直面します。交通サービスのドライバー人件費の高さや人材不足の要因は、二種運転免許保有者に限定されているからです。一つの突破口として期待したいのが、規制緩和です。低速で安全な運行ができる車両と認められる場合に限って、普通免許保有者でも交通サービスを提供することが許されるよう、国内法規の解釈がなされたり、一部改正されたりするアイデアがあり得ます。
 技術面での課題としては、自動運転(レベル4の技術)による走行がサービスを提供する上で十分か検証する必要があります。現在、企業や大学などが用意している様々な自動運転車両も、まだ限定エリアの自動運転(レベル4)の交通サービスに耐え得る技術を有しているのかは未知数です。実際のサービス環境における実証を重ねながら、安全性を確保していく必要があります。
 リスク面での課題もあります。技術的に未知数な自動運転は、事故などのリスクがどのような範囲にまで及ぶのかが不明です。よって、損害保険が高額になってしまう可能性もあります。このリスクコスト負担を誰の責任でどの程度まで見込むべきかを明確にしならなければなりません。
 最後に、サービスを成り立たせるための事業採算面の課題があります。ニーズがあっても、提供するサービスのイニシャルやランニングコストが高額になってしまっては、コミュニティという規模では成り立ちません。コミュニティの身の丈にあったコストで提供できるよう、自動運転技術面でも運用面でも、先進性より確実性と効率性を優先させる配慮が必要となります。
 また、コミュニティの構成主体は住民だけでなく、移動先となる店舗や商店、そして住民活動によって受益者となり得る地域の自治体や開発事業者まで広がります。これらのコミュニティの受益者が参加し、サービスを支える仕組みを構築していくことが重要です。
 その他、大手企業へのデータ提供も事業の一つとして検討するべきです。自動運転を活用したサービスで得られる画像をはじめとする大量のデータは、人工知能(AI)の開発やマーケティングに活かしたい企業にとって非常に魅力的です。彼らへのデータ提供による収益が獲得できれば、事業としてより安定が見込めます。

図2

 自動運転技術によるコミュニティ・モビリティ・サービスの実現までには、表のようなステップを踏んだ展開を想定しています。
 ステップ1はニーズの確認です。我々が今回実施した実証が、これにあてはまります。
 ステップ2は、レベル4の自動運転を用いて、ドライバーが乗車した形でのサービス実証です。国内法規に従い、利用者からの料金は徴収しません。ここでの実証で得られるデータは、自動運転に関連する規制緩和を検討している国の機関や、保険商品を考える金融機関にとっては、課題解決につながる重要な情報となるはずです。また、事業モデルを構築するために、必要コストの最小化の検討と、サービスを支える側の価値を関係受益者に認識してもらうことも重要です。
 ステップ3は、ステップ2のモデルをベースに、利用者から料金を徴収してサービスの提供を開始するものです。ただし、規制を緩和し、二種免許のないドライバーでも有料によるサービス提供が可能となっていることが条件となります。
 ステップ4は、ドライバー不在でのサービス提供です。前述のとおり、国際条約の動向に左右されますので、国内では当面ステップ3までの実施を目指すことになります。

図3

 以上の課題に対応する形で、我々は実証を繰り返しながら早期の社会実装を推進していく考えです。まずはステップ2の段階を、2017年度中に実証実験を目指し活動していますので、ご注目いただければ幸いです。

『LIGARE(リガーレ) vol.33』(自動車新聞社出版)地域社会の「新しい足」自動走行移動サービスの創出(後編)P30~33を一部改変して転載

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