創発戦略センター ISSUE 354 2017/09/26(火)発行
創発
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 創発戦略センターでは、産学連携によるリビングラボ事業の推進に向けて一般財団法人高齢社会共創センターと協力覚書
を締結致しました。
 本メルマガ連載記事である『サロンやカフェの政策的活用には「評価のしくみ」が必要』とあわせて、下記ニュースリリースも
ご確認ください。
http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=31719
   1. Ikuma Message

・中国天津の次世代都市開発

   2. 創発Eyes

・日タイ修好130周年に寄せて(2) 「タイのR&D(研究開発)強化の取り組み」

   3. 連載_シニア

・第23回 サロンやカフェの政策的活用には「評価のしくみ」が必要



創発戦略センター
所長
井熊 均
 

中国天津の次世代都市開発

 久しぶりに、中国の天津生態城を訪問しました。天津生態城は200を超えると言われる中国のスマートシティの標準モデルとして建設された国家プロジェクトです。われわれは、2012年、日本企業と共に再生可能エネルギーとエネルギーマネジメントシステムをふんだんに取り込んだマイクログリッドプロジェクトを計画し、経産省の支援の下、国家発展改革委員会、国家能源局、国家電網、と日中の特別なプロジェクトとして進めることを合意しました。しかし、それからわずか2カ月後に尖閣列島問題が発生し、中国側との会合ができなくなってしまったのです。

 プロジェクトが頓挫してから2年後、今から3年前に、天津生態城を訪問しました。その時は、中国の不動産市場の停滞もあり、開発が途中で止まり、中国を代表するエコシティとして輝きは失われてしまったのかもしれないと思いました。
 しかし、今回の訪問では3年前のイメージが吹き飛びました。開発が始まった頃に植樹された木々は青々と茂り、汚染されていた池は満々と水を湛える湖となって都市内に中水を供給し、ごみの真空輸送も始まっていました。域内には3つのテーマパークができて年間300万人を超える来訪者を集め、土日は渋滞が起きホテルも満室になるといいます。通勤時間には浜海地区につながる橋が渋滞します。アメリカのLEEDに倣ったとされる省エネ基準に基づいて建てられたマンションには、生態城や浜海地区で働く人8万人の住民が住み、販売すればあっと言う間に完売するということです。

 われわれのプロジェクトの頓挫、不動産市場の鈍化、天津港地区での爆発事故などを得ても天津生態城が方向性を失わなかったのは、環境面だけでなく、生活環境を含む20を超える指標を立て、世界中から先進的な技術や制度を取り入れる努力を怠らなかったからです。次世代に向けた都市開発に挑む中国政府の意気込みと中国市場の底の深さを感じる想いでした。新たな想いを抱き、我々はここで新しいプロジェクトにチャレンジします。



創発戦略センター
マネジャー
中村 恭一郎
 

日タイ修好130周年に寄せて(2) 「タイのR&D(研究開発)強化の取り組み」

 今回は、日本とタイの新しいパートナー関係発展のもう一つのきっかけとなる、タイのR&D(研究・開発)強化の取り組みをご紹介します。

 前回、タイに進出する日本企業は5,000社を超えており、両国の関係は製造業を機軸に発展してきたことに触れました。ASEANでの中核的な製造工場をタイに設けている日本企業は多くあり、当初は日本など先進国への輸出拠点として、その後はASEAN周辺国への輸出拠点として、大きな役割を果たしてきました。

 一方、2015年のASEAN経済共同体(AEC)発足に見られるように、ASEAN全体が成長していく中で、タイ周辺国のベトナムやミャンマーに製造工場を設ける動きは一層活発化しています。企業の製造拠点国となることで経済成長を遂げたタイは、今後、新たに経済成長の基盤となり、投資や企業立地を促すテーマを打ち立てる必要があるのです。その一つとして期待されているのが、R&Dの強化です。

 2016年夏、タイ政府は今後20年間でR&Dへの支出をGDP対比4%に引き上げていく方針を表明しました。現状を見ると、2016年のR&D支出はGDP対比で0.5%にとどまっており、世界平均が2%を超えるとされる中で、タイは大きく後れを取っていると言えます。また、今後タイがいわゆる「中所得国の罠」に陥ってしまうのではないかという危機感が高まっており、技術革新や産業の高度化、それを支える高度人材(研究者や高度な知見を持つエンジニアなど)の育成が急務という認識も広まっています。タイ政府でR&Dを所管する科学技術省の大臣も、「タイが中所得国の罠を回避できるか、重要な岐路に立っている」と述べています。

 大方針が示された2016年に対し、2017年に入ってからはさまざまな具体的施策が矢継ぎ早に施行されています。2月には、R&Dに取り組む企業の法人税を最長で13年間(一部の政府認定事業は15年間)免除すること等を含む「改正投資奨励法」が施行されました。また、「国家競争力強化法」が同時に施行され、産業高度化に重要なターゲット産業(ロボット産業、航空・ロジスティック産業など政府が定めた10産業)や民間企業のR&Dを支援するために、100億バーツ(約300億円)の基金が設立されました。7月には、R&Dを支える高度人材のデータベース化や企業への紹介を行う“Strategic Talent Center (STC) ”が政府により設立されました。8月末には、R&Dを担当する新しい行政機関(省)の設立検討が発表されるに至っています。

 タイは、ASEANの中長期的な経済成長を見据え、ASEANのR&D拠点国として成長することに活路を見いだそうとしています。ASEANの経済成長が進めば、各国で個人の趣味や嗜好に合わせた新しい製品、サービスが求められるようになります。ASEAN市場におけるR&Dの重要性は、今後、どんどん増していきます。そうなった際に、R&Dを日本で行うのか、タイで行うのか、これは企業にとって重要なテーマです。私は、タイがR&D強化に取り組むことにより、日本企業から見たタイの位置づけも多様化が進み、日本とタイの新しいパートナー関係発展を促していくものになると考えています。



創発戦略センター
シニアスペシャリスト
齊木 大 
 

第23回 サロンやカフェの政策的活用には「評価のしくみ」が必要

 地域包括ケアシステムの構築に向け、サロンやカフェと名のつく取り組みが自治体(保険者)の政策として取り上げられる場面が増えている。医療、介護、福祉といった制度の縦割りではなく、高齢者が要介護状態となっても出来るかぎり地域で暮らし続けられるよう、介護予防や支え合いの体制を構築することに重点が移っていることが背景にある。
 高齢者一人ひとりの「暮らし方」に軸足を移すわけだから、当然、地域ごとに必要な取り組みや効果のある取り組みは異なるはずだ。したがって、国が主導する一律の制度運営から、自治体(保険者)ごとの判断に大きく委ねられる制度運営へ、さらに介護事業者やNPO、住民など民間を主体とした制度運営へと、制度運営のやり方も変化が迫られている。
 こうした背景の中で、高齢者一人ひとりの嗜好や個性、地域の特性を踏まえて、高齢者と制度との接点を作る手段の一つとしてサロンやカフェが注目されているわけだ。高齢者の生活を支えていくには、個人の嗜好や生活スタイルに合わせた情報やサービスの提供とともに、個人の意識変革・行動変容も求められる。サロンやカフェは利用者との深い関係性を構築できるため、まさにこれからの制度運営にとっては有望な手法と言える。

 ただし、落とし穴もある。サロンやカフェは持続的な運営が難しいのだ。収支ももちろん課題だが、何よりも利用者の固定化・硬直化が課題となる。利用者が特定の範囲に収まってしまうと活動は拡大せず、収支の改善も見込めない。民間が独自にやる活動なら何も問題ないが、公費を投入して政策的に活用する以上、地域に暮らす高齢者のQOL向上や介護予防といった波及効果が期待される。
 この課題を解決するためには、利用者の分布や参加状況を定期的に評価して振り返り、活動内容が偏らないよう常に見直しを図っていくことが不可欠だ。実際、全国でも先進事例として取り上げられるような取り組みは、こうした見直しを体現できるキーパーソンがおり、見直しと実践を積み重ねている。しかし、そのノウハウは言語化しにくく、視察や研修ですぐに伝えられるものではない。では、どうすれば良いか。

 答えは、サロンやカフェの活動に「評価のしくみ」を実装することにある。つまり先進事例に見られるような「たまたま出来る人」がキーパーソンとして現れるのを待つのではなく、意識的に活動を見直すしくみを導入するのだ。具体的には「利用者動向の把握」と「定例の評価・振り返りミーティング」が有効だ。
 ギャップシニア・コンソーシアムでは、地域プラットフォームの現場運営において、利用者の動向や発言を把握するために簡易なシステムを導入し、そのデータ分析に基づく活動の評価・振り返りミーティングを定例化している。現場で実践しているスタッフからすれば「そんなことは全て頭に入っている」となるだろうが、活動の実態を見える化して客観的に振り返ることの効果は侮れない。実態把握は、取り組みがもたらす地域への波及効果を説明したり、検証したりすることにも活用できる。
 サロンやカフェといった緩やかな取り組みに「評価」という言葉はそぐわないかもしれないが、活動の良しあしの査定ではなく、活動をより良いものへと持続的に改善し、政策的な効果を説明できるようにしておくためにも、ぜひ「評価のしくみ」を組み込んで活動を設計するべきだ。

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