創発戦略センター ISSUE 349 2017/07/11(火)発行
創発
当メールマガジンは、日本総研/創発戦略センターの研究員と名刺交換させていただいた方に配信させていただいています。>> 登録解除はこちら
当メールマガジンは、HTML形式で配信させていただいております。うまく表示されない方は>> こちらからご覧ください
日本総研 創発戦略センター | 研究員紹介 | セミナー・イベント | 書籍 | 掲載情報 | ESG Research Report |
2020年の60歳以上人口が2.5億人。
中国の少子高齢化問題は課題も山積なものの、市場として捉えれば魅力的なマーケットともいえます。
今回の北京便りは北京郊外の老人ホーム見学から感じた中国の高齢者サービスの方向性についてお届けします。
   1. Yumoto Message

・日銀は出口戦略に向けた議論を早急に開始せよ

   2. 北京便り

・中国の高齢者サービスに考えさせられること

   3. 連載_次世代農業

・次世代農業の“芽”
第2回 多機能ロボットに対するアグリテックプレーヤーの反応



副理事長
湯元 健治
 

日銀は出口戦略に向けた議論を早急に開始せよ

1.はじめに
 欧米諸国の金融政策が転機を迎えている。米国では年内にバランスシート縮小が開始され、ECBでは秋頃にもテーパリング方針が示される可能性が高まっている。英国でも今後、利上げの議論が開始される見込みであり、各国が前例のない金融緩和策からの出口への歩みを着実に進めようとしている。これに反応して、欧米の長期金利はジリ高基調に転じている。一方、日本では出口がいつになるのかが全く見えない状況で、出口戦略についての議論すら封印されたままだ。以下では、日米欧の金融政策の行方を展望するとともに、日銀の大規模金融緩和の長期化に伴う潜在的なリスクについて警鐘を鳴らしたい。

2.米国は9月にもバランスシート縮小を開始か
 米国では、6月14日のFOMCで、0.25%の利上げととに、バランスシート縮小計画が公表され、その後の記者会見で、イエレンFRB議長が「比較的早期にバランスシートの縮小を開始する」と明言。市場では、9月にも縮小が始まるのではないかとの見方が有力となっており、長期金利(10年物国債利回り)がジリ高基調に転じている(7月7日時点では2.39%まで上昇)。
 米国では、これまで出口戦略として、(1)テーパリング(国債・MBS等の債券購入の段階的縮小、2014年1月~10月)、(2)利上げ(2015年12月~)、(3)バランスシートの縮小(2017年9月~?)、という3段階のプロセスで出口への歩みを進めてきた。本年12月にも追加利上げが予想されており、利上げプロセスはまだ終了していないと見られるが、いよいよ最終ステージであるバランスシート縮小に向かい始める。
 公表されたバランスシート縮小計画では、(1)米国債の再投資停止額をまず月間60億ドル、3ヶ月毎に60億ドルずつ増加させる、(2)MBS等の債券への再投資停止も同様にまず月間40億ドル、同3ヶ月ごとに40億ドル増加させる、(3)合計で月間当初100億ドル、3ヶ月ごとに100億ドルずつ再投資の停止を増加させる形でバランスシートを縮小させるものだ。これは、年間3,000億ドルペースに相当するが、FRBのバランスシートが現在4.5兆ドルに膨れ上がっており、量的緩和(QE)開始時点では9,000億ドルだったことを考えると、縮小ペースは極めて緩やかだといえよう。このペースでの縮小なら、QE開始時点のレベルまで縮小するのは、7年後の2024年になるからだ。米国では、6年間にわたる量的緩和を完全に終了させるのに、実に11年の年月をかけることになる。

3.欧州でも出口に向かい始める機運が高まる
 欧州でも、6月27日にドラギECB総裁が「デフレの脅威は過ぎ去った」「デフレ圧力はリフレ圧力に変化している」と発言し、市場では早ければ9月の理事会でテーパリングの方針が示されるのではないかとの観測が浮上している。出口戦略に慎重なドラギ総裁の発言だけに、市場では驚きを持って受け止められ、ユーロ高、長期金利の上昇基調につながった。ただし、ドラギ総裁は「かなりの金融緩和が依然必要」とも言及しており、2017年12月までと設定されている量的緩和の期限延長もあり得るだろう。欧州経済は、着実に景気回復が進んでおり、一頃と比べるとBrexitリスクやフランス大統領選挙等の政治リスクも大きく顕在化せずに済むなど、景気・物価の下振れリスクはかなり低下している。もはや量を拡大する方向での追加緩和の選択肢は無くなったと見るべきだろう。
 すでに2012年12月にテーパリングを終えている英国でもカーニー総裁が6月28日の講演で「英国経済が好調なら金融刺激策の一部撤回が必要になる公算が大きい」「今後数カ月以内に利上げの議論を行う可能性がある」などと述べ、条件付きながらもBOEが利上げの方向に舵を切る可能性が高まっている。
 ECBは出口の第1段階にこれから着手する一方、英国は第2段階の利上げに向かうなど、米国には遅れているものの、いずれにしても欧州も出口に向かって着実に歩みを進めているといえよう。

4.日本は出口が全く見えない状況
 これに対して、日本では量から金利への操作目標の変更があったにもかかわらず、「年間80兆円を目途に国債を購入する」という基本方針がなお堅持され、出口はいつ頃になるのか全く見えない状況にある。日米欧の中央銀行のバランスシート規模(対名目GDP比率)を比較すると、テーパリングを終えた米国が23.4%から縮小に向かい、これからテーパリングに向かう欧州は33.5%となお拡大中であるのに対して、日本は実に91.2%に達しており、この拡大がいつ止まるのかは全く分からない状況にある(図表)。
0711_日米欧中央銀行のバランスシート_画像

 先月15・16日の日銀金融政策決定会合後の黒田総裁の記者会見でも出口論への具体的言及はなく、却って市場の混乱を招きかねないとして、時期尚早を繰り返すばかりであった。振り返って、2013年4月の量的・質的緩和導入、14年10月の量的・質的緩和拡大を経て、2016年1月のマイナス金利導入、2016年10月の長短金利操作付き量的・質的緩和から現在に至るまで、前例のない大胆な金融緩和はすでに4年を超えている。しかし、コア消費者物価の上昇率は本年5月時点でも0.4%に止まり、目立った物価上昇圧力は出てきていない。日銀は「2018年度頃」に2%目標を達成できるとしているが、民間予測機関の2018年度消費者物価見通し(ESPフォーキャスト)は0.99%に止まっており、日銀の見方とのかい離が大きい。景気(実質GDP)の予想は日銀の方がやや強気なものの、物価見通し程の大きなギャップはない。失業率や有効求人倍率、需給ギャップや賃金上昇率など、物価見通しのベースとなる経済データは全く同じものをみて予測しているにもかかわらず、どうして、民間と日銀で物価見通しがこれほど異なるのかについて、日銀は真摯に説明責任を果たす必要がある。過去の日銀の物価予想がことごとく下方にはずれ、物価目標の達成時期を5度にわたって先送りしてきた事実を直視すれば、なおさらだ。このままでは、日銀の信認(Credibility)の低下は避けられない。

5.深く静かに蓄積する潜在的リスク   
 日銀の国債保有残高は、427兆円(2016年6月末)、うち長期国債は393兆円と国債発行残高の45%に達し、バランスシートの拡大に歯止めがかかっていない。対GDP比率が100%を超えるのはもはや時間の問題だ。しかも、マネタリーベースの拡大が日銀の宣言通り、「物価上昇率の実績が安定的に2%を超えるまで続く」とすれば、客観的に見て、向こう数年以上、バランスシートは拡大を続けることは間違いない。
 こうした状況が見込まれる中で、未だ出口戦略に関する議論すら封印していることは、将来に大きな禍根を残しかねない。日銀は、すでに以下の3つの潜在的リスクを蓄積しており、これをこのまま「見て見ぬふり」を続けることは許されない。
 第1に、日銀の保有する国債には償還差損が生じている。これは、日銀が額面よりも高い値段で市場から国債を購入したために生じる損失だ。すでに2016年度決算でも▲1.3兆円の償却負担が生じているが、筆者の計算では、保有国債の満期が到来した際の償還差損の累計額は、▲9.9兆円に達している。これは、日銀の広義自己資本8.0兆円を上回る規模だ。日銀は償却原価法で評価するため、毎年の差損は受取利息でカバーできる範囲内に止まっており、すぐさま日銀が赤字決算に陥ることはないが、マイナス金利導入以降、差損は急拡大しており、今後とも金融緩和が続く限り、差損は拡大し続ける。
 第2に、将来、日銀が出口に向かう際に不可避的に生じる長期金利上昇による評価損(含み損)だ。これは、日銀自身も総裁、副総裁の国会答弁の中で示しているが、1%の長期金利上昇で実に▲23.8兆円もの巨額に上る。もちろん、日銀は国債を満期まで保有し続けるため、こうした評価損は、実損にはならない。しかし、時価評価を求められる民間金融機関にとっては、急激な金利上昇の痛手は計り知れないほどに大きい。この痛手を緩和しようと日銀が民間金融機関からの国債購入を増やすならば、日銀は永遠に出口に出られないことになる。つまり、出口戦略に向かう場合に、その時期や手法、ペースなどに関する情報を予め市場に示さない場合、長期金利の急騰が十分起きうるということに留意する必要がある。
 第3は、将来の利上げ局面移行時における逆ザヤの問題だ。現在、日銀の保有する国債の平均利回りは、わずか0.3%に過ぎない。これは将来、政策金利(=準備預金への付利)を0.3%以上に引き上げただけで、容易に日銀が逆ザヤに陥ることを意味している。そのインパクトは想像を絶する。仮に、現在の米国のレベルに近い1%まで利上げした場合、現在のバランスシート規模を前提としても▲20兆円の損失が生じる。これは評価損ではなく、実損だ。仮に、2020年度までバランスシートを拡大し続ければ、この損失は▲48兆円に拡大すると試算される。黒田総裁は、記者会見での質問に答える形で、「日銀の財務が赤字に陥ることは前提次第であり得るが、あくまで一時的なものであり、日銀には通貨発行益があり、長期的には収益を確保できる」と答えた。しかし、これだけの規模の損失を計上するには、数年程度の赤字決算では済まず、日銀の自己資本が毀損され、政府による大規模な公的資本注入が必要となることは疑いない。少なくとも日銀は、こうした潜在的リスクに対する議論や対応策に関する情報発信を躊躇してはならない。

6.FRBの出口戦略に関する情報発信に学ぶ必要
 この点、6年間にわたる量的緩和を終了し、着々と出口戦略を進めている米国FRBに見習うべき点は少なくない。
 まず米国は、出口戦略実施の時期、手順、手法などについて、量的緩和4年目の2012年12月のFOMCで議論を開始し、その内容を議事録で公開した。実際のテーパリング開始は2014年1月であり、2年以上前に議論を開始したことになる。また、将来の利上げ局面におけるFRBの財務への影響についても、2012年12月のFOMCで議論され、翌2013年1月にFRBスタッフによるディスカッションペーパーの形で、シミュレーションが公表された。
 もちろん、2013年5月にバーナンキ議長が議会証言でテーパリングについて言及した際に、世界の金融資本市場が大混乱に陥った、いわゆる「バーナンキ・ショック」が発生したことは記憶に新しい。これだけ用意周到な情報発信を行っても、市場は議長発言のニュアンスに敏感に反応してしまった訳だ。しかし、バーナンキの後を継いだイエレン議長はさらに慎重なスタンスを貫いてきた。利上げについて、2015年1月のFOMCで議論を開始し、同3月にイエレン議長が利上げを示唆したものの、実際の利上げ開始は同年12月、2回目の利上げは2016年12月と1年も間を置くなど、慎重姿勢に徹した。最近では、2017年3月のFOMCでバランスシートの縮小を議論、6月には詳細なバランスシート縮小計画を提示した。その際の記者会見では、「比較的早期にバランスシートの縮小が必要になる可能性」に言及し、9月にも縮小開始かとの観測が浮上するなど、市場との積極的な対話に努めている。
 FRBの場合、FOMCメンバーが予測する将来の政策金利見通しについて公表しており、どのようなペースで利上げが進んで行くのか、バランスシートの縮小についてもどの程度のペースで行うのかをきちんと情報発信している。FRBの4倍以上のバランスシート規模を持つ日銀の出口戦略がいかに困難な道のりになるのかは、想像を絶する。しかし、その影響を最小限に止め、国民負担についての理解を予め得ておく必要は、日銀の信認、日本円という通貨の信認を維持し続ける上で不可欠の課題だ。日銀は、今後の政策決定会合で出口戦略に関する議論を早急に開始することが求められる。



創発戦略センター
シニアマネジャー
北京諮詢分公司
総経理
王  テイ
 

中国の高齢者サービスに考えさせられること

 先日、保険会社に勤めている友人から、北京市内に近い郊外に立つ、設備が立派な高級老人ホームを、私の両親のためにと勧められました。両親は最初乗り気ではなかったのですが、私が何度か勧めるうちにようやく重い腰を上げ、見学に行ってくれました。
 その後、感想を聞くと、父は「空気がよく、人ごみもなく、とても静かなところで、医師も常駐しており、入居した老人たちが満足そうに暮らしていて、すばらしいところだった」と嬉しそうに話を聞かせてくれました。また、「全国にチェーン展開しており、他の地域の老人ホームに短期間滞在することも可能で、例えば、冬になれば、海南島にある施設に1週間入居することもできる」とのことでした。しかし、最後には「私たちは老人ホームには入らないよ」と釘を刺すようにはっきりと言ったのです。

 父は私が「老人ホームに行け」と考えていると誤解していたらしく、よくよく説明して、ようやく誤解を解くことができました。私の両親は幸い二人とも元気ではあるものの、既に70歳を超えており、近い将来、介護が必要となってもおかしくはないのですが、それでも老人ホームには行きたくないのです。実際、私の両親のように、「老人ホームに行きたくない」、「どんな状況でも家にいたい」という人は、決して少数派ではありません。あるアンケート調査によると、中国では老人ホームに入りたい老人はわずか3%に過ぎず、そうした回答者には自分で生活できない重度な要介護の老人が多いといわれています。

 13次5カ年計画では、2020年には中国の高齢者人口(60歳以上)が2.55億人に達し、全人口の17.8%を占めると予測されました。老人の一人暮らしや老夫婦二人の世帯の人口は1.18億人になり、要介護の高齢者の比率が28%にまで高まるといわれています。
 1979年から一人っ子政策が始まりましたが、そのスタート時点で親になった人のなかには、既に介護が必要な年齢になっている人も出始めています。一人っ子政策や最近の核家族化の影響があり、421(老人4人、若夫婦2人、子供1人)のような家庭組織では、従来と同じような、子沢山を前提にした家族による介護が限界に近づきつつあります。
 「13次5カ年国家老齢事業発展と養老体系建設計画に関する通達」において、「在宅介護を基礎とし、コミュニティ介護を後ろ盾とし、施設介護を補充とする」という基本方針が示されました。中国政府は、多様なサービスを組み合わせ、老人福祉の課題を解決しようとしています。

 一方、日本や米国とは異なり、経済発展よりも先に高齢化時代に突入した状況があり、「未富先老」が中国の課題です。個々の老人には、福祉サービスを購入する経済力がなく、結果としてサービスの発展が遅れ、老人のニーズが放置されているという問題が顕在化しています。政府運営の割安の老人ホームは、常に満員で、入居するには数年待ちの場合がある一方、逆に民間運営の老人ホームには高級なものが多く、入居できる人はごく限られているというジレンマがあります。また、在宅介護とコミュニティ介護において、政府が公共サービスの一環として、コミュニティサービスプラットフォームを構築し、在宅ながらも緊急時対応、食事、掃除、外出、入浴、ディケアなどの補助サービスを提供するような構想が進んでいますが、サービスを提供できる人材確保に加え、こうした巨大システムを構築するだけの、政府の財政負担能力があるかといえば磐石ではありません。政府だけの力では、こうしたシステムを支えられるとは考えにくいのです。
 全国老齢工作委員会弁公室の統計によると、2011年の中国の高齢者サービス市場の需要は既に3 兆元規模だといいます。2020年までに8 兆元に、2030年までに22 兆元に達すると見込まれています。
 この巨大な高齢者サービス市場に参入しようと、地場系や外資系を問わず、多くの事業者が参入しています。競争は日に日に激しくなっており、一部の高級老人ホームでは、過剰供給となっている実態も顕在化してきています。

 日本企業でも、老人ホームの運営、福祉設備の販売など多業種にわたって市場参入している例を目にしますが、一方で補助器具を販売する一部の企業が大きく伸びたこと以外に、事業が爆発的に成長したという話はなかなか耳にすることがありません。
 高齢者サービス事業はローカル性の強い産業です。中国でも大家族の価値観が薄くなりつつありますが、今でも儒教文化の「家」、「孝」という価値観は根強く残されています。自宅にいながら、地域の人々や介護補助者の手を借りて、老人が幸せに生活を送れることが理想だとの観点に立って、日本企業は、中国において高齢者サービスを提供する上で何ができるのか、いま一度、点検してみる必要があると考えさせられます。



創発戦略センター
コンサルタント
清水 久美子
 

次世代農業の“芽”
第2回 多機能ロボットに対するアグリテックプレーヤーの反応

 去る5月23日から25日の3日間、日本経済新聞社が主催する「Agritech Summit」に参加しました。当社はメインスポンサーを務めた三井住友フィナンシャルグループの一員として、パネルディスカッションへの参加、ブース出展を行いました。ブースでは、昨年10月に出版した書籍「IoTが拓く次世代農業 アグリカルチャー4.0の時代」でコンセプト提言を行った、自律多機能型の農業ロボット「DONKEY」について紹介しつつ、各国のアグリテックプレーヤーとディスカッションを行いました。今回は、ディスカッションの内容を紹介したいと思います。

 まず「DONKEY」について、ここでも簡単に紹介したいと思います。「DONKEY」が目指すのは、日本の農業特有の課題の解決です。(1)1経営体あたりの耕作面積が小さく、機械化によるメリットが享受しにくい。(2)管理する圃場が点在しており、収益拡大のために農地を増やすほど、移動コストが拡大する。その結果、手間がかからない=付加価値の低い作物へ転換してしまう。(3)農家の圃場での作業時間が長く、営業やマーケティングにかけられる時間が少ない。こうした課題の解決を目指し、「DONKEY」の主要コンセプトは次の3点としました。(1)本体は、移動・駆動・通信制御といった中核機能をモジュール化。アタッチメントを変えることで多数の品目や機能に対応できるものにし、年間稼働率を上げる。(2)移動の運用性を高めるため、小型(軽量)にし、複数台所有していても、軽トラック等に積んで持ち運びもできるようにする。(3)ロボットが自律して作業する。

 シンポジウムで「DONKEY」のコンセプト紹介をしていたこともあり、出展ブースにお越しいただいた方とのディスカッションの多くは、農業ロボットに関するものでした。最も関心が高かったのは、展開拡大に向けたコストダウンについてです。

 農業ロボットのコスト削減は、1台で対応できる作付品目や機能を増やすことにあります。作付品目が増えれば多くの農家が導入可能となって量産化が図りやすくなり、また、多機能であることによって1つの作業にかかる機械コストを低減できます。前者の代表はドローンでしょう。高度なモニタリングによる農薬・肥料のスポット散布・散布量削減の実績も出てきていますが、次のステップとして、より多くの作付品目に対応するために、ペイロードの上限を上げる、スポット散布に適した農薬を開発することが技術課題とされているようです。後者については、研究段階のものが多く、商用化の検討はこれからです。「DONKEY」は前述した通り、どちらの方向性も視野にいれて検討しています。

 イベントでは、海外のアグリテックプレーヤーとのディスカッションの機会もたくさんありました。当初、「DONKEY」のような多機能ロボットに関心を持つのは、日本と同じく点在した小規模圃場を管理する、東南アジアのプレーヤーだと推測していましたが、意外にも反応が大きかったのは、機械化・効率化がすでに進んでいる欧米のプレーヤーでした。彼らからは、次のような意見を多くいただきました。「大型圃場においても、単目的ではコストが合わないため、機械化の対象とされていない作業もたくさんある。大型機械でできない作業をフォローする、小回りの利く多機能のロボットのニーズがある」。すでに確立している技術を、運用上の利便性から小型化・多機能化するのとは異なるニーズです。

 このようなロボットを開発するのに必要となる基礎的な技術については、知財が確立されているものもたくさんあります。本体に中核機能をモジュール化することを想定する「DONKEY」では、アタッチメントさえあれば、機械化対象となり得る技術も積極的に取り込んで行く予定です。「DONKEY」のアタッチメント開発には、技術を持っているメーカーにリードしていただきながら、オープンイノベーションで展開していきたいと考えています。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター Mail Magazine (第2週と第4週の火曜配信)
   このメールは創発戦略センターメールマガジンにご登録いただいた方、シンポジウム・セミナーなどにご参加いただきました方、
   また研究員と名刺交換した方に配信させていただいております。

【発行】 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
【編集】 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター編集部
〒141-0022 東京都品川区東五反田2丁目18番1号
大崎フォレストビルディング
TEL:03-6833-1511 FAX:03-6833-9479
<配信中止・配信先変更・配信形式変更>
https://www.jri.co.jp/company/business/incubation/mailmagazine/privacy/

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
Copyright © 2017, The Japan Research Institute, Ltd.