創発戦略センター ISSUE 348 2017/06/27(火)発行
創発
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弊社が中心となって立ち上げたシニア市場の創造を目指したコンソーシアム活動も2年半が経過しました。
さまざまなデータを収集してきましたが、シニアのニーズがなかなか整理できない。
シニアの連載コーナーでは、そんな研究員のもやもやを起点としたトピックをご紹介しています。
   1. Ikuma Message

・働き方改革(生産性改革)の阻害要因

   2. 創発Eyes

・「プレミアムフライデー」の効果を考える

   3. 連載_シニア

・第21回 ギャップシニアのニーズの順番



創発戦略センター
所長
井熊 均
 

働き方改革(生産性改革)の阻害要因

 働き方改革の取り組みが全国的な広がりを見せてきました。改革をしないと人材を維持、確保できない、新たな価値が創造できない、と思っている企業が多いことの表れでしょう。並行して、働き方改革とは生産性改革である、という認識も広がってきました。

 一生懸命働いていると思っているのに、日本は欧米より何割も生産性が低い、と言われています。先日、日本の生産性の低さを改善するには規制緩和が必要である、という記述を読んで違和感を覚えました。過度の規制が社会的な生産性を低くすることは確かですが、日々の仕事の中で、規制のために生産性が落ちていると感じる局面がそれほど多いとは思えません。日本の生産性の低さの大きな原因は企業の中にあると考えるべきです。

 例えば、一握りの優秀な人材が考えればいいものを、会議を開催して何時間も議論しているようなケースはないでしょうか。ハンコの行列で誰が責任を取っているのか分からない書類がいまだに残っていないでしょうか。トップの指示を過剰解釈してリスク管理がインフレしていることはないでしょうか。実務面の判断を下すべき人が社内会議に追われて現場に足を運べなくなっていないでしょうか。会議や上申が形式化して、実質的な議論より、準備にばかり時間がかかるようになっていないでしょうか。

 ITやプロジェクトマネジメントなどのスキルが生産性に寄与するのは確かです。しかし、生産性向上の源泉は、無駄だと思うこと、過剰だと思うことは止める姿勢を徹底することだと思います。規制の緩和は政府に任せ、日本企業ならではの工夫を発揮して、無駄なこと、過剰なことを払しょくすれば、日本ならではの働き方改革、生産性改革が進むはずです。

■最新の書籍

自動運転
「自動運転」ビジネス 勝利の法則-レベル3をめぐる新たな攻防-
井熊 均/井上 岳一(編著)

日刊工業新聞社  2017年6月30日発行



創発戦略センター
ESGアナリスト
小島 明子
 

「プレミアムフライデー」の効果を考える

 「働き方改革」を進める上で、長時間労働の削減は多くの企業が抱える重要な課題の1つです。その1つの解消策として、官民連携で行われているのが「プレミアムフライデー」です。平成29年2月24日から、毎月、月末の金曜日を「プレミアムフライデー」と呼び、その日は、仕事を早めに切り上げて豊かな週末を過ごすことを提案しています。
 政府は、「プレミアムフライデー」の導入を通じて、(1) 充実感・満足感を実感できる生活スタイルの変革への機会になる、(2) 地域等のコミュニティ機能強化や一体感の醸成につながる、(3)(単なる安売りではなく)デフレ的傾向を変えていくきっかけとなる、という3つの効果を謳っています。

 官民連携で設立された「プレミアムフライデー推進協議会」の事務局が発行している調査結果(第一回から第三回)によれば、早期退社に取り組む企業の数は徐々に増え、第一回の「プレミアムフライデー」に比べると3倍以上に拡大をしていることが明らかになっています。規模別に見ると、100人未満の企業が実施企業全体の約半数を占めていることが特徴的です。大企業のみならず、中小企業にまで、取り組みが広まっていることは非常に評価ができる点だといえます。

 では、実際にどれくらいの人が「プレミアムフライデー」に特別な消費を行ったのでしょうか。上記の調査結果によれば、第一回の「プレミアムフライデー」では、過ごし方として、最も多かったのが、各世代共通で、「家でゆっくり過ごした」(45.8%)、つづいて「外食・お酒を飲みに行った」(36.6%)で、国内旅行に出かけた人は1割にも満たない結果となりました。しかし、第三回の「プレミアムフライデー」では、「外食・お酒を飲みに行った」(50.0%)、つづいて「家でゆっくり過ごした」(32.5%)、国内旅行(10.5%)であり、第一回に比べると、「家でゆっくり過ごした」人が約1割程度減少し、国内旅行に出かける人が微増しています。このことから、「プレミアムフライデー」は、回数を重ねることで、消費喚起の効果が徐々に出てきているような印象を受けます。

 一方、従業員の早帰りを促すために、本当に効果があるのか、という疑問も残ります。
株式会社インテージの「プレミアムフライデー事後調査」(2017年2月調査)によれば、職場で「プレミアムフライデー」が実施・奨励された人のうち、「プレミアムフライデー」を利用して 「早く帰るつもりがあった」人は47.6%、「早く帰るつもりがなかった」人は52.4%で、職場でプレミアムフライデーが実施・奨励されていても早く帰るつもりがなかった人の方がやや多いという結果が得られています。「早く帰るつもりがなく、早く帰らなかった」と回答した人の理由の多くは、「仕事が終わらなかったから」という回答で、約6割を占めました。つづいて「プレミアムフライデーを特に意識していなかったから」が約3割でした。この結果からは、「プレミアムフライデー」を実施する企業に勤めていても、業務量の多さを理由に、早帰りをしなかった人たちが一定割合存在していたことがうかがえます。このことは、企業側から従業員に「プレミアムフライデー」の呼びかけを行うだけでは、全ての従業員の早帰りが実現するわけではないという実態が浮かび上がります。

 前述のとおり、「プレミアムフライデー」を通じて、消費喚起には少しずつ効果が出てきているものの、従業員の働き方を劇的に変えるまでには至っていないと、現段階では総括できるでしょう「プレミアムフライデー」を契機に、企業の経営層だけではなく、働く人自身が、自分たちの働き方に疑問を持ち、働き方改革に真剣に取り組むようになるには、もう少し時間がかかるのでしょうが、「プレミアムフライデー」が意味のある取り組みとなることを待望したいと思います。



創発戦略センター
スペシャリスト
沢村 香苗
 

第21回 ギャップシニアのニーズの順番

 私たちが「ギャップシニア(注1)市場の創造」を目指し、ギャップシニアコンソーシアム活動を始めて2年半がたちました。たくさんの方と一緒にトライアルを続けていますが、「ギャップシニアのニーズとは結局何なのか」という疑問に対して、腑に落ちる回答を提示できずにいます。今回は、このもやもやについて考えてみたいと思います。

(注1) ギャップシニアとは、元気高齢者と要介護高齢者の間の高齢者を指す日本総研の造語です

 「膝の痛みによって階段の上り下りに苦労している人」「むせなどによって飲み込みに困難を感じている人」といった困りごとを持つ人の数については、日常生活圏域ニーズ調査等の既存データから推定することが可能で、そういう意味ではニーズは見えています。
 それなのに、なぜ「見えない」と言われるのでしょうか。その1つの原因は、ニーズを踏まえた(はずの)提案に対し、反応する高齢者が想定より少ないことです。「データ上は必要としている人は多いはずなのに、なぜ売れないのか」と感じている企業は多いでしょう。ギャップシニアという新たな切り口に対して、既存の調査では把握されていない、未知のニーズが発見されるのではないか、という期待が寄せられることが多いのは、このためだと思います。

 ここでいったん既存のデータは忘れて、実証拠点を訪れるギャップシニアの発言や行動データから、虚心坦懐にニーズを探ってみましょう。すると、「健康・美・楽しみを維持したい」「新しいものと出会いたい」「主体的に行動し、貢献・承認されたい」が三大ニーズとして表出されていることが分かります。有名なマズローの欲求(注2) 段階説での安全欲求、社会的欲求だけでなく、尊厳欲求や自己実現欲求に関連するものが多くを占めています。ギャップシニアはそれぞれが長い歴史を持った成人ですから、こうした高次のニーズが主体になるのは当然です。
 しかし、これまでの多くの高齢者向け商品やサービスは、より低次のニーズ(安全欲求、生理欲求)に対応する機能が強みであり、訴求もその機能がいかに優れているか、に重点が置かれてきました。供給側が想定しているニーズ、見たいニーズが低次のものの場合、ギャップシニアはこれらの機能を最初に訴求されても興味を示さないということが分かってきました。

(注2) 欲求とニーズの違いは諸説ありますが、ここでは厳密に区別しません

 ギャップシニアは元気高齢者と要介護高齢者の間の状態ですから、さまざまな身体的・認知的機能低下を経験し、困りごとを多く抱えています。しかし、長年、無意識に何の苦労もなく満たされてきた低次のニーズが、今や欠乏状態にあることに気づきにくく、気づいてもお金を払ってまで、それを満たすほどに優先順位を上げません。例えば、元気なうちは「自由に歩けること」は長らく自然なことだったからこそ、歩行補助具を購入することに抵抗感が生じるのです。総じて、困りごとにフォーカスした商品・サービスに対して動きにくいのがギャップシニアの特徴だと考えられます。

 では、どうすればこのすれ違いを解消できるでしょうか。私は2つのことが重要だと考えています。
 1つ目はアプローチの順番です。ギャップシニアがまず充足させたいのは、先に述べたとおり高次のニーズです。たとえば膝が痛くでも操作できる高齢者用自転車を新たに使いたい、と思わせるためには、「膝が痛い人でも乗れる!」という機能の訴求の前に、その自転車に乗れたらどんな高次のニーズが満たせるのか、を提示することが有効だと考えられます。行動範囲が広く、生き生きと美しい人でありたいというニーズを実現するための一つの要素として、化粧品やシニアジムと並んで高齢者用自転車が含まれるといったアプローチの順番です。そこでの商品の第一の価値は、行動範囲が広く、生き生きと美しい自分が実現できることであって、膝の痛みをカバーしてくれる機能性の高さではありません。
 実はこの考え方は高齢者以外に対してのマーケティングでは当たり前のことです。「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」という言葉があるくらいです。顧客に届く提案をするには、顧客が達成したい目標は何かを理解しなければならないということです。
 
 私はここに真の課題があると考えています。高次のニーズつまり自己実現欲求や承認欲求を満たしながら生活したいというニーズは間違いなくあるとして、それが具体的にどのような生活なのか(どのような達成目標なのか)については当事者であるギャップシニアを含めて誰も知らないのです。すれ違いを解消するための方法の2つ目が、この誰も知らない生活イメージの提案ということになります。日常生活に制限のある「健康ではない期間(平均寿命と健康寿命との差)」は、2013年の厚労省の推計では男性9.02年、女性12.40年です。この長い期間をどう生活することが自己実現欲求や承認欲求を満たすことになるのか、というイメージを数多く提案することによって、ギャップシニアの高次ニーズの扉が開き、その先にやっと、「そのために手前でクリアしなければならないこと(=低次のニーズ)」が優先課題として見えてくることになるでしょう。遠回りのようですが、人生後期における希望の多い生活イメージが提示されることは、高齢者にとってだけでなく、若年者にとっても重要なことではないでしょうか。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。

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