創発戦略センター ISSUE 341 2017/03/14(火)発行
創発
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前号に引き続き、若手農業生産者から学ぶIoT、ロボット技術の実現可能性について現場意見をベースとしたエッセイをご紹介。
現場専門家の意見を起点に、真に求められる農業ロボットとは。その要件を導いています。
Fintechに関する記事、中国のポスト「一人っ子政策」の記事と合わせてお読みください。
   1. Yumoto Message

・中国経済は本当に底入れしたのか

   2. 創発Eyes

・日本のFinTechは、誰の困りごとを解決するのか

   3. 北京便り

・ポスト「一人っ子政策」に関する一考察

   4. 連載_次世代農業

・農業ビジネスを成功に導く10のヒント~有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?~
第10回 ヒント(9)若手農業生産者から学ぶIoT、ロボット技術の実現可能性(後編)



副理事長
湯元 健治
 

中国経済は本当に底入れしたのか

 2016年秋以降、中国経済の減速に歯止めがかかる兆候がみられる。2016年10~12月期の実質経済成長率は6.8%と前期(6.7%)からわずかながら改善した。その原動力は、国有企業の固定資産投資やインフラ投資など公共部門の投資拡大である。また、大幅な減速を続けてきた民間投資も下げ止まりから緩やかな持ち直しに転じているほか、輸出も2016年秋以降、底入れの兆しがみられる。2017年2月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は51.6と前月の51.3から上昇し、3カ振りの高水準となった。輸出受注が53.8と2014年9月以来の高水準に達していることが背景にある。工業部門の利潤総額も増益に転換しており、中国経済が底入れした可能性を示唆している。

 もっとも、中国経済を巡っては様々なリスク・ファクターがあり、先行きを過度に楽観視することは禁物だ。実際、3月5日から開催された全国人民代表大会(以下、全人代)において、2017年の成長率目標を「6.5%前後」に設定し、昨年の「6.5~7%」から下方修正している。当局は一時的な6.5%割れを容認し、構造改革を重視するスタンスを見せているが、現在の景気情勢は本当に底入れといえるのか、一時的な下げ止まりに過ぎない可能性はないのか。以下では、(1)民間投資や企業収益回復の持続性、(2)企業部門の過剰債務の調整圧力、(3)不動産バブルリスク、(4)人民元相場のコントローラビリティ、(5)米中貿易摩擦激化の可能性の5点に絞って、先行きのリスク要因を検証したい。

1.民間投資や収益回復の持続性には疑問符も
 筆者は、2月末から3月上旬にかけて北京に赴き、政府当局者をはじめ、民間エコノミストや研究者、市場関係者らと意見交換する機会を持った。昨年秋口の時点では、この先経済がどこまで減速するのかが見えないといった悲観論が溢れていたが、今回はそうした見方が後退し、慎重ながらも明るさが増しているように感じられた。とはいえ、彼らは2017年の実質成長率見通しを6.5~6.7%と昨年(6.7%)よりも低めの比較的穏やかな成長を見込んでいる。

 まず、民間投資が大底を打ったとする要因については、彼らの多くは「景気の先行き不透明感の後退」が主因であると指摘する。その背景には、大幅なインフラ投資の拡大があることは間違いない。2016年12月の中央経済工作会議では、「積極的な財政政策」という基本方針が示されたが、昨年初来続いている前年比20%前後の高いインフラ投資の伸びを今年も本当に維持できるのか。最高指導者が入れ替わる5年に一度の共産党大会を秋に控え、経済運営は「安定」を最優先させる方針を示したが、2017年の財政赤字目標は2.38元(39兆円)と2016年から2,000億元の増加にとどめている。これは、歳出拡大よりも増値税率の引き下げなど企業減税に軸足を置くものだ。しかし、減税規模は3,500億元と2016年(5,700億元)を下回る。過剰債務を抱えた民間部門の投資がこのまま一本調子で回復傾向を続けるのかどうか、予断は持てない。

 企業収益回復の要因は、企業物価(PPI)の持ち直しによる価格効果が大きい。2月のPPIは前年比7.8%と2008年9月以来の上昇幅となった。この背景には、(1)国際商品市況の上昇、(2)インフラ投資の拡大、(3)鉄鋼、石炭等の分野における過剰生産能力の削減効果がある。実際、企業収益の回復は鉄鋼や石炭等の素材業種の業績回復によるところが大きい。しかし、2月の消費者物価(CPI)上昇率が前年比0.8%にとどまったことを考えると、川下分野での物価上昇圧力はさほど強くなく、素材分野を中心とするPPIの上昇はいずれ加工組立産業や非製造業のコスト上昇に跳ね返ってくるはずだ。数量の伸び(=実質成長率)がさほど高まらない中での仕入れ価格上昇は、企業収益の圧迫要因になるとみておく必要がある。

2.企業部門の過剰債務の調整圧力が景気を抑制
 中国経済の最大のリスク・ファクターは、企業部門の過剰債務とその裏側に潜む潜在的不良債権の大きさだ(詳しくは、湯元健治の視点「中国リスクをどうみるか」2016.9.14参照)。これをどう見るべきかに関して重要なポイントは、企業債務残高対GDP比率が168%と日本のバブル期(140%弱)を上回る状況の中で、この高いレバレッジ比率の中心を占めるのが民間企業なのか、国有企業なのかという問題だ。残念ながら、官民の債務の割合を示す公式データはなく、「国有企業債務が70%と大半を占める」との見方から、「官民比率は50対50」と民間債務も大きいとの見方など様々な見方が交錯している。確かに、鉄鋼、石炭等、過剰生産能力の削減対象となっている業界は国有企業が多いが、固定資産投資全体に占める民間投資の比率は65%と過半を占めており、民間債務の大きさも無視できない。
 国務院は昨年10月に「企業のレバレッジ比率の積極的かつ安定的な引き下げに関する意見」を発表し、企業債務の削減を(1)生産能力の削減、(2)過剰在庫の解消、(3)企業コストの引き下げ、(4)経済の弱みの補強と並ぶ、(5)大任務の一つに位置付けている。一般的に、デレバレッジ(企業の債務比率引き下げ)の手段としては、(1) 過剰生産能力の削減、(2)企業の合併・再編など国有企業改革、 (3)ゾンビ企業の整理・淘汰、(4)銀行貸出、シャドーバンキングの抑制、(5)債務の株式化(DES: Debt Equity Swap)などによる債務再編があるが、その推進ペースを誤ると、雇用の悪化や大幅な経済成長率の低下につながりかねないだけに、どうしても実行は慎重スタンスに傾きやすい。

 まず、鉄鋼、石炭の過剰生産能力の削減は、2016年1年間の目標(各々6,500万トン、2.9億トン)が達成され、市況の回復など一定の成果につながった。しかし、今年は秋の共産党大会を控えて安定重視の年であり、目標は鉄鋼が5,000万トン、石炭が1.5億トンと昨年を下回る。また、鉄鋼、石炭以外の業種では目標が設定されておらず、不徹底感を拭えない。国有企業改革も、合併再編は一定程度進んでいるが、内実は国有企業を益々強くする改革となっている。改革の目玉である混合所有制の導入に関しては、当初の狙いだった民間企業の国有企業への出資という色彩が薄れ、国有企業の民間企業への出資に重点がシフトするなど、「国進民退」に拍車をかけかねない状況だ。国有資産監督管理委員会は、国有企業の傘下にある345社の「ゾンビ企業」を3年以内に整理・淘汰する方針を表明し、社債のデフォルトを容認する姿勢に転じているが、これは短期的には経済への調整圧力となって跳ね返る。銀行貸出やシャドーバンキングの抑制は劇薬であり、金融監督・規制の強化を通じて徐々に進めざるを得ない。また、李国強首相が提唱した1兆元とも言われる債務の株式化は、契約ベースで4,350億元、実行ベースではわずか400億元にとどまっている。1999年にも4,050億元のDESを実施したが、当時は国有の資産管理会社(AMC)を設立して国家主導で実施した。今回は企業や金融機関の自主性を尊重する「市場主導」での実行を打ち出しているが、損失を恐れる銀行が冷ややかなスタンスで臨むなど、その実効性は不透明だ。過剰債務の削減は中長期的には重要課題であり、進捗が遅れれば遅れるほど、金融システムに潜在的リスクが蓄積する。他方で、短期的にはバランスシート調整圧力は景気の抑制要因として作用し続けることは間違いない。

3.不動産バブルの抑制は成功するか
 昨年の不動産価格は、大都市を中心に大幅に上昇した。北京、上海、深センなど沿海部のみならず、合肥や南京など内陸都市でも前年比3割を超える上昇を示し、不動産バブル懸念が高まっている。当局は、昨年10月以降、20都市で住宅購入規制の強化や頭金比率の引き上げなどの投機抑制策に踏み切り、価格上昇に歯止めがかかる兆しもみられ始めた。専門家の間では、これ以上の価格上昇はないとの見方が有力視されているものの、不動産業者の間では、大都市圏では土地の供給が依然不足しており、価格はまだまだ上がるとの見方も根強い。不動産価格と相関性が高いM2伸び率の2017年の目標値は12%と昨年よりも1%ポイント引き下げられたものの、依然として2桁の伸びを容認するものであり、金融面からの価格上昇圧力は根強い。仮に、不動産バブルのリスクが高まる場合には、不動産取引税の強化や固定資産税の導入など、税制面からの価格抑制措置が導入される可能性もある。しかし、こうした税制措置は劇薬であり、導入された場合、バブル崩壊の引き金を引きかねない。

 金融政策についてはどうか。中央経済工作会議では「穏健かつ中立」との方針が示され、貸出基準金利や預金準備率の引き上げは想定されていない。しかし、現実には、(1)公開市場操作を行う際のリバース・レポ金利を0.1%引き上げ、(2)銀行間市場における実質的な上限金利である常設貸出ファシリティ(SLF)金利の0.1%引き上げ、(3)SHIBOR(上海銀行間取引金利)の高め誘導など引き締め気味の政策運営がなされている。その狙いは、(1)不動産バブルの抑制、(2)人民元安阻止、(3)物価ジリ高への対応、(4)銀行の過度なリスクテイク抑制など様々だが、この程度の引き締め措置で所期の効果が期待できるのか、疑問なしとしない。金融当局は不動産バブルを抑制しつつも、バブル崩壊の引き金を引くことを警戒しており、大幅な金融引き締めはしない方針だ。しかし、そうした微妙な舵取りでバブル抑制が可能なのか、政策運営は正念場に差しかかっているといえよう。

4.人民元安阻止など為替相場のコントロールはいつまで可能か
 人民元相場は、足下1ドル6.91元と2015年末の1ドル6.49元から6.5%の元安となっている。この背景には、(1)中国経済の減速に対する先行き不安、(2)米国利上げに伴う米中金利差拡大予想、(3)元安進行期待などにより、資本流出が加速したためだ。IIF(国際金融協会)によると、2016年の資本流出額は過去最大の7,250億ドルに上り、前年対比で500億ドルもの増加となった。当局は、元買い介入の実施や資本流出規制の強化によって、これ以上の元安阻止の構えをみせており、年明け以降の人民元相場には安定化の兆しも見える。しかし、介入によって外貨準備はピーク対比で1兆ドルも減少し、これが米国長期金利の上昇と相まって巨額の資本流出圧力になっている。このため、当局は銀行に対する行政指導、口頭指導によって人民元貸出の抑制や外貨送金の抑制などなりふり構わぬ規制強化を行っているが、こうした対応は金融・資本市場の自由化や人民元の国際化に逆行するものであり、持続性が乏しいとみておく必要がある。
 この点に関し、ヒヤリングした某民間エコノミストから傾聴に値する話を聞いた。不動産価格の安定と人民元相場の安定の両立は持続可能ではないと。なぜならば、GDP規模が米国の6割強に過ぎない中国の不動産時価総額が米国とほぼ同じであり、これは(1)中国の不動産価格が高すぎるのか、(2)人民元相場がなお高すぎるのかのいずれかだという。当局がバブル崩壊を恐れて不動産価格を引き下げられなければ、調整は一段の人民元安加速という形で起こらざるを得ないわけだ。

5.米中貿易摩擦激化の可能性
 米国トランプ大統領の誕生によって、米中間の貿易摩擦が一段と激化する可能性には警戒が必要だ。足下の輸出底入れも対米輸出の回復が寄与しており、今後、中国の対米黒字は一段と拡大することは間違いない。トランプ大統領は「中国製品に45%の関税をかける」「中国を為替操作国に認定する」など保護主義的な発言を行っている。中国サイドの見方は、米中経済の相互依存関係は密接であり、米国側が相互の利益を損なうようなことはやってこないはずだと冷静な分析をしている。
 しかし、米国サイドからみれば、米国の貿易赤字の47%は中国が占めており、貿易不均衡の是正はトランプ大統領にとって最優先課題である。実際、主要閣僚の顔ぶれをみる限り、USTR代表のロバート・ライトハイザー、新設の国家通商会議(NTC)議長にピーター・ナバロ、商務長官にウィルバー・ロスといずれも対中強硬派で名高い人物を登用しており、米国の本気度の高さがうかがわれる。3月1日にUSTRが議会に提出したトランプ政権の「通商政策報告書」では、WTO(世界貿易機関)の紛争解決手続きが米国の不利益になる場合には、「従うことはない」として国内法を優先するスタンスを強調している。それでは、米国は何をやってくるのか。45%の高率関税は難しいにしても、鉄鋼や化学製品に対するアンチダンピング課税や大統領権限を活用したセーフガード(緊急輸入制限措置)、輸出補助金国に対する関税引き上げなどは検討の俎上に上ってくるだろう。最も可能性の高いシナリオは、通商法301条(通称スーパー301条)を復活させ、中国に対して、市場開放やサービス分野における規制緩和、政府調達の米国企業への開放などを求めてくることが予想される。これは1980年代の日米摩擦激化時にやった手法で日本は大幅な譲歩を余儀なくされた。しかし、中国サイドは秋の共産党大会を控えて習近平主席の面目を失うような譲歩だけは絶対にできない。中国側は「報復措置には報復措置で臨む」というスタンスも示唆しており、現在、韓国企業に対して行っているような米国製品不買キャンペーンを実施する可能性も十分にある。米国企業の中国における売上高は4,700億ドルに上っており、そうなった場合の米中双方の打撃は計り知れない。
 もう一つの「為替操作国」認定は、(1)年間200億ドル以上の対米黒字、(2)対GDP比3%以上の経常黒字、(3)対GDP比2%以上の為替介入の3条件が満たされる場合に指定が可能となる。現在の中国は第1条件のみが当てはまっているに過ぎず、現行法に則る限り、指定は難しい。中国は、そのあたりも客観的に分析している。しかし、トランプ大統領が本気で中国を「為替操作国」に指定するつもりなら、上記第1条件を「米国貿易赤字の過半を占める国については1条件だけて認定可能」とすればよい。いずれにせよ、米中貿易摩擦激化の可能性は過小評価できない。報復合戦に発展した場合には、米中経済に打撃が及び世界経済の成長も脅かされないことを銘記すべきだろう。

6.おわりに
 以上のようにみると、中国経済の政策運営は、構造改革を着実に進めつつ、金融システムリスクを未然に防止し、不動産市場や為替市場、株式市場の大幅な変動を回避し、6.5%以下への景気減速を引き起こさないというまさに綱渡り的運営を強いられ続ける。景気減速に歯止めをかけるためのインフラ投資拡大は、過剰生産業能力の削減と矛盾する側面がある一方、デレバレッジによる過剰債務の削減は、景気減速リスクを高める。市場の人為的なコントロールは、中国が先進国の仲間入りを目指す上で不可欠の自由化、国際化、市場化に逆行する。足下の景気指標の改善をみて、中国経済のリスクが低下したとみるのは早計であり、中国経済の先行きには今後とも警戒が怠れないだろう。

        



創発戦略センター
コンサルタント
泰平 苑子
 

日本のFinTechは、誰の困りごとを解決するのか

 「銀行ATMを探さなくても、コンビニやスーパーのレジから預金を引き出せる」
そんな便利なサービスが、近いうちに実現するかもしれない。従来の金融サービスに大きな影響を与えるFinTechに関して、日本政府は前向きに検討している。金融庁の金融審議会「金融制度ワーキング・グループ」では、金融機関とFinTech企業とのオープン・イノベーションを進める制度的枠組みの整備が議論された。特に、銀行システムへ接続ができる「オープンAPI」や、決済・預金・融資の仲介サービスを行う「銀行代理業者」は、活発に議論されていた。

 では街中にATMがあり、ICカード型電子マネーも普及する日本において、「コンビニやスーパーのレジで、お金を引き出したい」と切実に思う人はどこにいるのだろうか。私は過疎地に住む人々、生活圏が限られる高齢者こそ、このサービスを求めていると思う。過疎地は都市部に比べ、銀行の選択肢や金融サービスは限定され、足腰が弱く生活圏が限られる高齢者は、月1でお金を引き落とし、日々やりくりしている。本当は様々な金融機関から最適な銀行を選びたいし、必要な時に必要な金融サービスを利用したいはずだ。この利用者の不利益や困りごと目線の議論が、日本は欠けているのではないか。

 日本政府や金融機関は欧米を手本としているが、見習うべきはインドにある。インドは2006年に銀行代理店業者やオープンAPIを整備し、金融サービスの普及に努めている。インドの地方や貧困地域は、識字率が低く、公的な信用や証明も難しいため、銀行口座保有率が著しく低かった。そのため、彼らへの補助金や年金などは現金支給されていたが、支給漏れや二重取り、自治体職員による不正が問題だった。また都市へ出稼ぎに出た親族や家族からの仕送りも大切な生活費であり、銀行口座の普及は重要な課題であった。インドの銀行代理店業者は、現地では「Business Correspondents(以下BCs)」と呼ばれ、銀行支店やATMが設置できない地方や、十分な需要が無い貧困地域で、銀行口座開設や金融サービスの提供を行う。BCsは、主に口座開設時や金融サービス利用時の手数料を収入源としている。

 私が訪れた、あるBCs事業者のサービスモデルはとても興味深い。
1.村のキラナ(パパママストア)が銀行支店になり、キラナのレジがATM代わり。
2.キラナ店主の携帯電話に銀行アプリをダウンロードして、銀行システムへリアルタイム接続。
3.暗証番号が覚えられないから、本人確認は指紋認証(以前は虹彩認証だった)。
4.モノの管理が苦手だから、通帳もカードも無い。利用履歴は店主の携帯で確認してもらう。
5.その日必要な分だけ買い物をするから、10ルピー(約17円)から引き落とし可能。
6.皆が困っていたから、金融サービスの他に保険加入・旅券購入・携帯チャージも提供。

 村の人々は「夫や息子が勝手にお金を使うので隠していたが、その必要が無くなった」「手持ちのお金が無い時、近所にお金を借りる恥ずかしさが無くなった」「子供の教育のため、貯金をはじめた」と言っていた。彼らの困りごとを解決するために、政府は制度を変え、BCs事業者はオープンAPIや最新認証技術を積極的に導入した。

 話を戻すが「日本のFinTechは誰の困りごとを解決するのか」を今一度、考えてみよう。車社会の過疎地なら、最寄りのガソリンスタンドが銀行代わりにならないか。高齢者なら、いっそ現金を使わず電子マネーを使い、家族は利用履歴を確認することで見守りにならないか。高齢者の後見制度で、財産管理によるトラブルを減らすためにPMFを活用してはどうか。過疎地や高齢者である故の金融サービスの問題を見直すと、FinTechだからこそ解決できることが見つかるだろう。



創発戦略センター
シニアマネジャー
北京諮詢分公司
総経理
王  テイ
 

ポスト「一人っ子政策」に関する一考察

 中国で35年間続けられてきた「一人っ子政策」が、2016年1月1日で終止符を打ちました。2015年10月に開かれた中国共産党第十八回中央委員会第五回全体会議公報において、「計画生育の基本国策を堅持しつつ、人口老齢化に対応する行動を積極的に展開し、『二人っ子政策』を積極的に実施し」と言明がなされ、「一人っ子政策」を取りやめ、全面的に「二人っ子政策」を実施することになりました。

 ただ、「一人っ子政策」の見直しは、2011年より段階的に実施されてきました。2011年には、「双独二孩」(夫婦ともに一人子の場合、2人目の子供を産むことができる)と変更されました。次に、2013年から「単独二孩」(夫婦の片方が一人子の場合、2人目を産むことができる)へ変更され、今回の「全面二孩」(夫婦が一人子かどうか関係なく、二人目を産むことができる)に至ったのです。

 「一人っ子政策」が最初に見直されてから6年、また全面的に「二人っ子政策」が実施されて1年、政府が期待していた効果が果たしてあったのか、世間はどのように受け止めているのかについて、今回は言及したいと思います。

 2016年12月26日に全国婦人連合会が「二人っ子政策の全面実施の家庭教育に対する影響報告書」を公表しました。同報告書は、2016年4月から北京や遼寧省など10の省市/区で0~15歳の子供の親を対象にアンケート調査を行い、その結果を分析したものです。報告書によると、53.3%の調査対象は「二人目を産む意向がない」と答え、26.6%の調査対象は「わからない」と答えています。「二人目を産みたい」と回答した調査対象はわずか20.5%に留まる結果になっています。また、沿海地域など経済が発達した都市部において、高学歴の人々は、二人目を産みたくないと回答した割合が60%以上だといいます。

 私の周囲でも、大都会に住み、高学歴の中流階級の友人たちのなかでは、二人目を産むかどうかについて、躊躇する人が多いのです。
 中国では、二人目を産みたくない理由として、以下のような事項がよくあげられます。
(1)お金と時間のコストを負担できない
(2)多くの子供に束縛されたくない
(3)幼稚園などの施設が足りない、高額であるなどの理由で利用できず、結果として、子供の面倒を見る人がいない
(4)出産で、特に高齢出産で体の負担が重くなる
(5)キャリアプラン昇進が影響され、就業上のハンデキャップが厳しくなる
(6)一人っ子の場合、子供にもっとよい生活と教育、医療を与えられる

 都市部に住む若者の出産・育児観が、教育状況、病院等医療状況、食品や子供用品の安全性、生活する地域の環境などに影響される傾向は一層強まっているといえるでしょう。
 どうしたら、若者が安心して子供を産むことができるようになるのか、政府は様々な措置を検討しています。例えば、2016年1月に施行された「人口及び計画生育法修正案」では、晩婚晩育や一人子の奨励規定が修正され、また、産休の日数を113日から158日間に増やす(地域によりさらに増やすことが可能)措置などが導入されました。これだけではなく、開催中の全人代において、「不必要な人工中絶をやめさせる」、「法定結婚年齢を18歳(今は20歳)に切り下げる」など様々な提案がありました。

 しかし、こうした規制改正や措置が、若者にとって魅力的かといえば、決して十分とはいえません。中国社会科学院が発表した「経済青書:2015年中国経済形勢分析と予測」では、現在、中国の出生率は1.4で、世界で公認された1.3の「低出生率の罠」(子どもを持たない人々の数が増えれば,子どもを持つ人々の経済的コストが増加するため,子どもを持とうとする意欲をさらに減退させる結果になる状況)に非常に近いといいます。また、中国の高齢者人口の比率は2010年の13.3%から2014年の15.5%へと、驚くべきスピードで上昇しています。国連の統計によると、本世紀の半ばまでに、中国では5億の人口が60歳を超えるといわれています。

 少子・高齢化社会に対応するため、政府が講じるべきことは、小手先の行政指導、規制策定ではなく、「若者が実際に抱えている問題を解決するためには、何をすればよいのか」を検討し、本質に迫る必要があります。二人っ子政策を実施するのであれば、学校、病院、幼稚園、さまざまな公共サービスで改革を進めなければなりません。政府が、こうした公共インフラ、公共サービスを改めて整備し、若者が安心して子供を産み、子育てができるような社会を作る、包括的ビジョンが求められているといえます。



創発戦略センター
コンサルタント
清水 久美子
 

農業ビジネスを成功に導く10のヒント~有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?~
第10回 ヒント(9)若手農業生産者から学ぶIoT、ロボット技術の実現可能性(後編)

 第9回メールマガジンでは、本格的な機械化がこれからである果樹栽培に焦点を当て、現在直面している課題や新しい技術への率直なご意見を紹介しました。今回は、北海道岩見沢市で米、麦、大豆、かぼちゃ、ニンジンの生産をされている濱本様のお話に焦点を当てたいと思います。

 北海道は1経営体あたりの耕地面積が広いことが特徴です(平成28年北海道平均:27.13ha、都府県平均:1.99ha)(注1)。スケールメリットが出せるため、機械化による効果を享受しやすく、最新技術の導入もいち早く進んでいます。濱本様も運転アシスト付トラクターを所有され、身体的な負荷の軽減と、直進作業等の精度の向上を実感されています。ドローンによるモニタリングに関しても、生育状況だけでなく、現在目視で行っている生育ステージの確認(推測)まで可能な技術を導入すれば、身体的な負荷の軽減だけでなく、品質や栽培技術の向上が期待できるというご発言がありました。

 一方、地域の勉強会では、次のような検証結果も出ているそうです。(1)農業人口の減少に伴い1経営体あたりの面積が増大した結果、負債が増加している、(2)機材への投資が過剰気味である、(3)政府管掌作物への依存度が高く、補償割合が低下すると利益率が悪化する。

 事業継続性を高める取り組み一つとして、濱本様は地域内で高収益作物を作る仕組みづくりを研究されています。高収益作物を生産するには労働時間を増やす必要があります。しかし、一時的な労働時間のピークに合わせて雇用をしてしまうと、作業が発生しない時期に労働力を活かしきれません。現在は、米・麦・大豆等を主とし、空いた時間に高収益作物を作っている農家が多いため、出荷時期が重なり、狙いとした高価格が実現できないでいるようです。作業平準化、品質向上にはIoTやロボット技術が有用ですが、事業継続性を高めるためには労働力の流動化と投資効率を上げていく仕組みも必要です。濱本様からは、次のようなご提案がありました。(1)農家同士が協力し作業分担をする、もしくは合併し法人経営体となりコントラクター事業を行う、(2)個々で投資していた機材の共同購入を行う、(3)これによって生まれた労働面、資金面の余力で、十分な人材を雇用する。

 今回パネリストとしてご登壇いただいた米澤様、濱本様は生産されている作物も、地域も全く異なります。しかし、お二方のお話からIoT、ロボット技術に対して共通のニーズが見えてきました。例えば、作業代行サービス、作業分担、機材の共同購入というキーワードが出てきました。このキーワードからは、専門オペレーターによる操作、地域にN台という普及のあり方が考えられます。1経営体に1台、ユーザーレベルの混在を前提とする場合と、必要な機能や負担できるコストが大きく異なるはずです。技術開発者が農業生産者と取るべきコミュニケーションの内容も変わるでしょう。農業におけるIoTやロボット技術の本格普及はこれからです。技術を研究だけに留めず、現場に役立つ製品にするためには、発展の仕組みを今から考えることが必要なのです。

(注1) : 農地に関する統計http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noucen/index.html



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