創発戦略センター ISSUE 340 2017/02/28(火)発行
創発
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今回の創発Eyesは地方の交通事業者との対話から得た地域交通課題の共通点に関する記事。
連載企画-シニア-の高齢者×ICT/ADASテクノロジーのトピックと合わせてご覧ください。

また、井熊メッセージでは、共催シンポジウムと書籍『創造力を鍛える-マインドワンダリング』をご紹介しています。
シンポジウムでは、本書籍の内容を掘り下げます。ご出席の方には書籍の贈呈もございます。
ご案内をご覧ください。
<共催シンポジウムのご案内>~『知識』から『価値』を生み出す人材創出法~
   1. Ikuma Message

・東京大学との3年間の研究成果

   2. 創発Eyes

・地域交通の破綻を阻止する自動運転

   3. 連載_シニア

・第18回 高齢運転者×ICT・ADASテクノロジー



創発戦略センター
所長
井熊 均
 

東京大学との3年間の研究成果

 3月16日に東京大学と共同で、「知識から価値を生み出す人材創出法」と題したシンポジウムを開催します。

 話の発端は4年前に遡ります。シンクタンク、コンサルティングファームとして、これからは技術をインテグレーション、ネットワークできる専門人材を確保しないといけない、と思い、20年来のお付き合いがある東京大学の中尾先生を訪ねました。そこで、日本の教育の厳しい現状を知り、「それなら一緒に、どのようにしたら創造性のある人材を育てられるかを研究しましょう」、ということになったのです。日本総研はこれまでのインキュベーション活動から得られた知見を持ち寄り、東京大学からは専門の機械工学の他、失敗学や学生に向けた独自の研究、企業等との様々な研究など豊富な経験をお持ちの中尾先生に加え、脳科学の専門家である上田先生にも参加していただきました。

 それから三年間、創造的な実績を持つ何人かの方々の経歴を分析させていただき、脳科学の知見に基づく検討や計測を行い、スポーツの世界で実績を上げたトレーニング方法を研究するなど、試行錯誤を重ね、創造性のある人材を育てるためのトレーニング方法を考案しました。実際に、日本総研のスタッフにもトレーニングを体験してもらい、改善を繰り返しています。

 今回のシンポジウムでは、技術、教育、脳科学分野の専門的な先生方に加え、株式上場を果たしたベンチャー企業経営者、デザインを軸に世界的な実績を上げてこられた方、にも参加いただき、いかにして創造性のある人材を育てるかを議論します。

 グローバル市場では、アメリカ、ドイツといった欧米の国々に加え、成長著しいアジア諸国との競争も厳しさを増しています。また、中国やシンガポールでは世界的な研究者やビジネスリーダーを育てるための政策に余念がありません。日本にとって創造性のある人材の育成は待ったなしの状況なのです。教育政策にも期待はありますが、世界のスピードを考えると民間主導で教育プログラムを立ち上げる必要があると考えます。今回の取り組みが、そのための一助になればと思うのです。

■最新の書籍

マインドワンダリング 創造力を鍛える マインドワンダリング -モヤモヤから価値を生み出す東大流トレーニング
中尾 政之/上田 一貴/井熊 均/木通 秀樹/劉 磊(共著)
日刊工業新聞社  2017年2月24日発行

東大との3年間の共同研究を中心にまとめた書籍です。



創発戦略センター
石川 智優
 

地域交通の破綻を阻止する自動運転

 先日2月16日、安倍晋三首相が議長を務める第5回未来投資会議が開催された。議題は大きく、第4次産業革命の検討課題、日本のIT力強化、そして自動運転実現に向けた検討課題の3つであった。とりわけ自動運転については、民間議員からの報告・提言のみならず、関係する閣僚からの報告があった。なぜこんなにも自動運転が世間を賑わせているのか。それは日本の交通は解決しなければならない喫緊の課題に直面しているからだ。

 今回の未来投資会議で世耕経済産業大臣による自動運転についての報告では、交通事故削減、地域の人手不足、移動弱者の解消が課題として挙げられている。交通事故の削減は自動運転分野以外でも議論されてきていたが、その解決方法のひとつとして自動運転技術の活用というのが検討されている。その他の地域の人手不足、移動弱者の解消は今すぐにでも解決しなければならない喫緊の問題である。地域の人手不足というのは、地域交通(バス事業者やタクシー事業者)の運転手不足ということであり、移動弱者というのは、地域交通の衰退により地域内・外での移動が困難となっている住民のことである。また、民間事業者のプロジェクト構想としては「トラックの隊列走行(物流の運転手不足解消)」、「無人移動自動走行による移動サービス(ドライバー不足や赤字路線などにより移動ニーズが満たされていない地域の解消)」が挙げられている。とりわけ後者は国民の移動に直接関わる問題であり、地域によっては地域内すらもろくに移動できない状態が出現している。

 現在、われわれは全国各地の交通事業者との意見交換などを行っており、課題の共有や自動運転の導入による地域交通課題の解決に向けて検討を進めている。あわせて、自動運転に対する受容性の醸成や交通事業者以外での自動運転の実需についても議論を行っている。これらの活動の中で地方の交通事業者の声を聞く機会が多く、そこから地域交通の課題、交通事業者の課題の共通点が見えてきた。度々述べられてきたことではあるが、人口が多い地域のみを営業エリアとしている状態でなければ、ほとんどの場合で複数の赤字路線を抱えているのが交通事業者の現状だ。利用者の多いエリアで生み出した利益を赤字路線に回し、地域の足を守っている。しかし、地方都市ですら赤字路線が大半であり、黒字路線の方が少ない、という事業者も多い。過疎地に行けば、それはもう悲惨な状態であろう。 地方の交通事業者が抱える課題は主に以下のようなものがある。
・二種免許保有の運転手不足、運転手の高齢化
・運転手を確保するためのコスト(広告宣伝費、運転手教育費)上昇
・運転手不足・コスト上昇により1路線あたりのコストが上がり、路線の本数削減
・路線の本数減少による利用者数の減少
・路線減少により不便なエリアとなり、住民が減少し、さらに利用者数が減少

 このほかにも、需要あるエリアですら運転手不足でサービスを提供できず、赤字路線を廃線にし、運転手を需要あるエリアにまわさざるを得ない事業者もある。こうなると、移動困難者の増加に拍車をかける。事業採算のとれないエリアの路線は自治体から補助金をもらい運行、もしくは完全委託を受けて運行しているが、自治体のこの予算も取りにくくなりつつあるという意見もあった。

 上記のような状態が、地方の交通事業の実情だ。最終的には赤字路線の運転手の人件費等をその他路線や補助金でまかなうことができず、一部を廃線にすることを考えている交通事業者すらも存在する。現在の状態が続けば、このような地方における地域交通というのは完全に成り立たなくなるだろう。「二種免許を必要としない自動運転車両を走らせていいのなら今すぐにでもほしい、走らせたい」。このような声を複数の交通事業者から耳にした。もちろん、自動運転の導入には初期投資や事故発生時の責任区分など課題は山積であり、実現は容易ではない。

 各地の交通事業者が抱える課題を解決するためには、ドライバーによる運転を前提とした交通関連法規の見直しが必要であると思う。完全無人の車両を走らせることは難しくても、いわゆる二種免許が必要ないような交通事業というのも考えられるのではないだろうか。二種免許でなくとも、「普通免許+自動運転技術」で二種免許保有者と同等のくくりとできる、などの見方を可能とすれば、赤字路線を黒字化することもできるかもしれない。もちろん、それは現在の交通事業者の利益を守り、かつ地域交通の衰退を防ぐものでなければ意味がない。

 近年、世界の自動運転の議論は技術面ばかりが目立ち、実際どのような場所で必要なのか、誰が必要としているのかという議論はあまり表に出てきていない。さらに言うと、日本に自動運転を普及させるには、自動運転といういままで見たことなく得体の知れないものを住民に受け入れてもらう必要があるのだが、そのためにはどのような活動が必要であるかの議論も際立ってなされているわけではない。もちろん技術の議論が最初になければ話にならないのだが、今後は実需・受容性といった点での議論を、政府をはじめとして民間でも活発的になされることを強く望む。

 現在、日本は急速に高齢化、過疎化が進んでおり、自動運転の実需を見極め、早急に取り入れていく必要がある。また、それにより日本が世界の最先端のモデルとなり、今後同様の課題を抱える国の解決モデルとなるべきであろう。世界が技術競争に走る中、日本ではその部分を早々に突破し、「自動運転による交通課題解決」「住民の受容性醸成」について実証し、サービス化を実現することができれば、世界でのリーダーとなることができるだろう。

(参考)2017年2月16日未来投資会議 世耕経済産業大臣提出資料「自動走行プロジェクト実現に向けた政府の取組」より抜粋

自動走行図



創発戦略センター
スペシャリスト
劉 磊
 

第18回 高齢運転者×ICT・ADASテクノロジー

 76歳の義母が自らの意志で免許を手放すことにした。その理由を聞くと、淡々とこう話した。「去年の秋からあなたたちと同居をはじめて、私には優秀な若い専属ドライバーが二人も付いた(私と妻)から、自分で運転する必要がなくなったわ。それにこの家はバス停も近いし、ちょっとした外出なら私はまだ足腰が大丈夫だから歩いて行ける。それが健康にもいいしね。あとね、やっぱり去年くらいから急に夜の運転が怖くなってきたの。老眼は前からだけど、暗いと本当に見えづらくなっちゃって。それに最近はニュースも多いでしょ?今はまだ大丈夫そうだけど、大事(おおごと)になる前に、返しちゃおうって思ってね」。

 ハキハキとした腑に落ちる回答を聞きつつ、私はコンサルタントとしての職業病からか、この文脈の分析をはじめた。この回答には、高齢運転者を取り巻くほぼすべての「要素」が詰まっている。最初の文節からは「独居高齢者の増加」、第二文節では「地域交通の衰退×外出困難高齢者の増加」が浮かび上がる。三つ目の句点までは「加齢に伴う身体能力の低下と運転に与える影響」が投影されている。言うまでもないが、これらの要素は単独ではなく、緊密につながっている。

 内閣府の2015年の調査によれば、高齢者の主な外出手段は自前の自動走行車両(自動車、バイク、原付自転車)であり、この割合は全体の57%を占める。この割合は加齢と共に減少するが、80歳代においても依然として3割程度の方が自分で運転している。一方で外出の目的に目を向けると、第一位は買い物であり、第二位以下に通院などが並ぶ。公共交通が相対的に整備された都市部以外の地域では、文字通り、自分で運転する車が高齢者の「ライフライン」である。

 マクロデータから見た高齢運転者は社会問題であるが、ミクロにまで目線を落とした場合、運転免許証を返上する(運転をあきらめる)ことは紛れもなく家庭の問題であり、個人のQOLに直結する問題だ。家庭問題と示したのは、独居する高齢運転者の免許返上は子供世代によって進言されることが多く、感情的な問題に発展することが散見されるからである。この場合、生活の足と家族の理解の両方を高齢運転者は手放すリスクにあることを、施策側は理解しておくべきだ。75歳を過ぎると自治体、警察、あるいは家族から運転を控えるよう「圧力」がかかる訳だが、「安全運転できる方には、乗れる限り長く安全に運転いただく」方法はないだろうか。答えは実はそう遠くないところにある。テレマティックスサービスによる運転特性の見える化と、近年の進歩が目覚しいADAS技術による運転支援である。

 テレマティックスサービスという手法は、すでに取り組みが始まっている。車載機による運転特性のモニタリングはこれまで一般的な法人サービスを中心に展開されてきた。GPSと加速度センサーを内蔵する機器を車輌に搭載し、運転者の緊急動作(急加速、急ブレーキ、急ハンドルなど)をモニタリングし、管理することで、事故低減や燃費改善に対するサービスが展開されている。実際これらのサービスを導入した企業は事故削減や燃費改善が確認されている。この種のサービスを高齢運転者個人とその家族に提供し、身体機能や認知機能を含めた運転特性の経時的な変遷と、「運転年齢」のような参考値を常に見える形で本人にフィードバックすることは意味が大きい。「家族や関係者と議論して、まだ運転できるとする判断や車を納得して降りる判断」を下すようになることが期待される。事前に運転をやめるタイミングが分かれば、本人や周りも「運転して買い物に行く」代わりに宅配を利用するなど、その時のための準備ができる。備えあれば憂いなしとまではいかないが、小さい事故等のライフイベントをきっかけに突然運転をやめるよりは、少しでも予見して準備ができるほうがよいのは自明だろう。日本総研が推進しているギャップ・シニアコンソーシアムではまさに今、関連するサービスの実証試験をコンソーシアムメンバー社、団体と共に浜松市で展開中であり、3月末にその結果を纏める予定だ。

 一方でADAS技術も急速に進化している。完全自動運転といわれる、いわゆるレベル4の社会実装には技術、ルール作りの両面でまだ時間はかかる見込みであるが、開発の過程で培った技術をベースに、高齢運転者を含む運転者に対する運転補助機能の開発・実装が期待される。特に高齢運転者の場合、具体的には、例えば停止状態や低速状態からの急アクセル/(ブレーキ)踏み間違いを判定し、操作停止を行う機能や、車載カメラ等を用いた衝突防止機能による車輌の能動的制御が考えられる。これらの機能は、新しい車輌への標準装備が理想であり、また検討可能の範囲で、既存の車輌へ後付けできるものであることが望ましい。関連技術、サービスの普及は民間だけでは困難であることが想定され、公民連携のスキーム運用がさらに期待される。その開発や試行にも、実際の高齢運転者を巻き込んだ共創が、あるべき姿だ。

 義母との会話は、そのあと思いもよらない展開となる。
 「あのねー、別の記事で読んだのだけど、高齢者の事故が特別に割合として多いってわけでもないでしょ?それなのにニュースばっかり騒いちゃって。高齢者をのけ者にしないでほしいものだわ」
 その通りだと思う。サービスユーザーとして、サービス共同開発者として、高齢運転者には、主役でいてほしいものだ。

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