創発戦略センター ISSUE 339 2017/02/14(火)発行
創発
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今年の春節は、一昔前の爆買いが落ち着いたことに加え日本の伝統文化を体験するなど「コト消費」が話題になりました。
今回の北京便りでは、中国国内で盛り上がりを見せるシェアリングエコノミーの現状についてご紹介。
中国で生まれた新しい消費行動が日本で浸透する可能性もありそうです。

また、トピックスでは2017年3月16日(木)共催シンポジウムのご案内も紹介しています。
あわせてご覧ください。
・<共催シンポジウムのご案内>〜『知識』から『価値』を生み出す人材創出法〜
   1. Yumoto Message

・生産性をいかに引き上げるか

   2. 創発Eyes

・パッケージ型インフラ輸出戦略を見直すことも一考

   3. 北京便り

・中国でのシェアリングエコノミーの現状

   4. 連載_次世代農業

・農業ビジネスを成功に導く10のヒント〜有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?〜
第9回 ヒント(8)若手農業生産者から学ぶIoT、ロボット技術の実現可能性(前編)

   5. トピックス

・<共催シンポジウムのご案内>
〜『知識』から『価値』を生み出す人材創出法〜



副理事長
湯元 健治
 

生産性をいかに引き上げるか

1.日本経済の現状評価〜自律的成長からはほど遠い
 日本経済は、2014年4月の消費税率引き上げ以降、長期間の足踏み傾向が続いていたが、アベノミクス4年目の2016年夏場以降、緩やかな回復傾向を辿り始めた。鉱工業生産は、昨年8月以降5カ月連続でゼロ%以上のプラスを続け、10〜12月期には前期比2%の大幅なプラスとなった。本年1〜2月の生産計画も堅調なプラス基調を続ける見込みだ。他方、昨年10〜12月期の実質経済成長率は、前期比年率1.0%と緩やかながらも4四半期連続のプラス成長となり、2016年年間の成長率も1.0%のプラス成長を確保した。
 ただし、年間成長率の中身を見ると、輸出の増加と輸入の減少による外需寄与度が半分の0.5%、公共投資、政府消費など公的部門の寄与度が0.2%と合わせて7割が外的・政策的需要の増加によるものであり、個人消費や設備投資など民間需要の寄与度はわずか0.3%にとどまっている。こうした傾向は、10〜12月期の成長の中身を見るとより鮮明になる。同期の成長のほぼすべてが外需の寄与で、公的需要、民間需要ともに寄与度がゼロとなっており、未だ民間需要主導の自律的な成長とは程遠い状況にあるといえる。米国を中心とする世界経済の緩やかな回復に牽引された成長であり、持続性や力強さは期待できない。
 日米首脳会談では、市場で懸念された日銀の金融政策による円安誘導批判や日米自動車貿易不均衡などへの言及はなく、日米同盟および日米経済関係を一層強化することが謳われた。しかし、こうした外需主導の経済成長が続けば、米国の姿勢も次第に強硬スタンスへと変わってくることが懸念される。内需の回復力を増すには、アベノミクスが期待する企業収益の回復が賃上げや設備投資の回復をもたらすという「経済の好循環」がさらに強まる必要があるが、依然としてパワー不足のままである。
 筆者は、この背景にはアベノミクスが第1・第2の矢(金融・財政政策)に過度に依存し続ける一方で、生産性や潜在成長率を引き上げるために不可欠な第3の矢(成長戦略)の歩みが余りにも遅いという冷徹な現実があると考える。少子高齢化、人口減少が今後、中長期的に続くことが確実視される中で、内需主導でアベノミクスが目標とする実質2%以上、名目3%以上の経済成長を実現するには、生産性を飛躍的に上昇させることによって、潜在成長率を少なくとも2%以上に引き上げることが至上命題だ。以下では、マクロ、ミクロの双方の観点から、生産性をいかに引き上げるかについて論じたい。

2.マクロ面:アベノミクス成長戦略への期待と課題
 まず生産性について議論する場合、マクロとミクロでは視点が異なるため、生産性を測る経済指標についても、峻別して考える必要がある。まずマクロの生産性を議論する場合には、一般的に、物的生産性すなわち、労働生産性(実質GDP/労働投入<=労働時間×就業者数>)あるいは、全要素生産性(TFP: Total Factor Productivity、技術革新による生産性、一般的に、経済成長率から労働と資本の投入による寄与度を除いた残差として計算)が用いられる。マクロ的に、これらの生産性を引き上げるためには、(1)規制緩和、(2)イノベーション促進・ベンチャー創出、の2つが重要だ。以下、これらの観点からアベノミクスの成長戦略の中身を吟味してみよう。

(1)規制改革〜前進はしているが、なお課題残る
 まず成長戦略の一丁目一番地と呼ばれる規制改革については、特定分野で一定の進捗や成果が見られるが、課題もなお残されており、スピードや分野の広がりがさらに必要だと判断される。
 安倍政権は、岩盤規制と呼ばれる農業、医療、エネルギー、雇用の4分野を中心に規制改革を精力的に推進中だ。このうち農業分野については、企業の農地売買自由化や株式会社形態での農業参入規制などの岩盤規制は緩和されていない。しかし、1)農協改革、2)農業生産法人への出資比率引き上げ、3)コメの減反廃止、4)農業委員会制度の改革などに取り組み、5)若手新規就農者数の増加、6)2000社以上の企業の農業分野参入、7)農産物・食品輸出額の3年連続過去更新など一定の成果を収めている点は評価できる。
 次に、医療分野では、1)再生医療の実用化促進、2)患者申し出療養制度の創設(混合診療の部分解禁)、3)医療・介護法人の持ち株会社制度創設を実施。再生医療分野では、テルモ(心筋シートなど再生医療製品の製造販売承認を取得)やニコン(スイスのロンザと提携し、再生医療市場に参入を表明)など日本企業の新しい動きが出てきている。また、米国、イスラエルなど海外企業も日本市場への参入や本社の日本への移転を表明するなどの動きが出てきている。さらに、エネルギー分野では、60年振りの電力システム改革を実施し、既存企業の地域・業種を越えた連携や300社近い異業種企業が電力小売分野へ参入、過去1年弱で新電力への契約変更が280万件以上に達するなど一定の成果が表れている。もっとも、労働分野では、派遣法改正は実現したものの、1)金銭解雇制度の導入、2)ホワイトカラー・イグゼンプション(ホワイトカラーへの労働時間規定除外制度)などの法案は未成立に終わり、安倍政権の方針は、同一労働・同一賃金の実現、働き方改革などの方向にシフトしている。全体的に見て、小泉政権下でも出来なかった改革を実現するなど前進はしているが、なお課題は積み残されているといえよう。

(2)イノベーションの促進・ベンチャー創出〜将来への期待持てる
 安倍政権は、1)大学改革、2)国立研究開発法人改革、3)各種ベンチャー創出策を強化している。大学改革では、世界最高水準の教育・研究機能を有する「指定国立大学制度」(日本版スタンフォード大学)を創設、2017年度中に複数大学を指定予定だ。また、IoT、ビッグデータ、AIとモノづくりの融合領域で新たな大学院(卓越大学院)を、複数の大学、研究機関、企業が連携して形成する改革をスタートさせている。国立研究開発法人でも、物材機構、理研、産総研を活用して、世界最高水準の研究成果の創出を目指しており、大学、研究機関、自治体、企業との「橋渡し機能」を強化し、基礎研究の迅速な実用化を図る計画だ。さらに、研究人材と技術の相互交流を柱とする「クロスアポイント制度」を実施した他、大学が大学発ベンチャーに投資するファンド出資を可能とするなど、様々な改革の取り組みを開始しており、政府としてやるべきことを本格的に実行しようとしている点は、成果が出るまでに相当の時間を要すると思われるものの、将来への期待が持てる。
 ただし、日本の課題は、オープン・イノベーションの実践だ。国内企業と海外企業、大企業だけでなく、中小・ベンチャーも含めて共同研究を産官学で行うスウェーデンのような取り組みが必要だ。イノベーションでグローバルな競争に勝ち残るには、スピードを優先すべく、自前主義を捨て社外リソースを積極的に活用するスタンスが重要だ。もちろん、日本でも規模は小さいながら、自治体、産業振興財団、大学、地元金融機関らが連携して、異業種とのコラボレーション、大学との共同研究、大企業との知財交流を図る「川崎モデル」のような好事例も出現している。こうした動きを地域全体に拡大し、地方発のイノベーションやベンチャー企業が現れるような戦略作りが求められる。

3.ミクロ面: 5つの課題を克服する必要
 以上のように、生産性を引き上げるためのマクロ面(経済政策面)の取り組みは、課題がなお残るとはいえ、望ましい方向性が出てきたことは確かだ。これに対して、ミクロの企業経営面では、課題が山積している。ここでミクロベースでの生産性は、付加価値生産性(名目GDP/労働投入量<=労働時間×就業者数>)を念頭に議論する。以下では、付加価値生産性を高めるために、(1)内外グローバル化、(2)イノベーション、(3)ビジネス・モデルの転換、(4)課題解決型CSV経営への転換、(5)ICTなど最新テクノロジーの活用の5つが重要課題であることを指摘する。

(1) 内外グローバル化〜潜在性は大きい
 人口減少による国内需要の縮小に対応するには、大企業製造業のみならず、中小企業や非製造業においても海外展開が不可欠であることは論をまたない。新興国の中間所得層(年収5,000〜3万5,000ドル)人口は、2020年には30.6億人と10年間で9億人以上も増加する見込みである。このうち、インド・ASEAN諸国の増加幅は5.8億人と中国(2.7億人)の増加幅を大きく上回る。所得が5,000ドルを超えると、洗濯機や冷蔵庫、自動車など耐久消費財の保有率が急速に上昇。7,000〜1万ドルあたりから外食、教育、レジャー等、各種サービスへの支出が増加。1万2,000ドルを超えるとヘルスケア分野への支出が増加すると言われている。日本企業にとっては、国内人口をはるかに上回る規模の潜在的な海外市場が眼前に開けている訳だ。アベノミクスでも全国の中堅・中小企業4,000社に対して、JETRO、JICA、商工会議所などが相互に連携し、海外展開を積極的に支援しており、経営者がその気になれば、マーケットは一気に膨らむ。
 しかし、海外展開が難しい企業も現実的には少なくない。そうした企業にとっては、インバウンド需要の取り込みが大きなビジネス・チャンスになる。2016年の訪日外国人数は、すでに2,400万人を突破しており、2020年の政府目標は2,000万人から4,000万人に倍増された。確かに、足下、中国人観光客の爆買いなどインバウンド需要は、円高の影響などで頭打ち感が出ている。しかし、中国人の1人当たりGDPは現在8,140ドルであり、日本の1978年の水準に過ぎない。今後20年程度で、中国が先進国の仲間入りし、これが数万ドルまで嵩上げされることを考えると、ドメスティックな企業にとっても潜在的に極めて大きなビジネス・チャンスが存在することになる。田園風景や水車、雪など日本人にとって何でもないものが外国人にとっては素晴らしい魅力を持つと言われる。外国人の東京人気スポットは、2位が渋谷のスクランブル交差点、5位がかっぱ橋の道具街だという。ジャパン・オリジナルの精巧な食品サンプルや包丁をお土産に買って帰るのが人気になっているそうだ。日本人の常識にとらわれない自由な発想で観光資源を発掘することができれば、インバウンドの可能性は何倍にも広がり得る。

(2)イノベーション〜製造業の専売特許ではなく、サービス業でも可能
 イノベーションとは、単なる技術革新に止まらない。その定義は、新しいアイデアや・仕組みから社会的に意義のある新しい価値を創造することである。有名な経済学者シュンペーターの定義でも、プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーションだけでなく、新しい販路開拓や原材料・部品の調達先の開拓、新しい組織やビジネス・モデルの変更まで含む広範な概念として捉えられている。環境・エネルギー関連、ロボット、ヘルスケアなどアベノミクスの成長戦略で掲げられた有望分野では、日本が世界をリードできる潜在力を持っている。ウェアラブル・ロボット、DNAシークエンサー(ゲノム解析)、機能性野菜、AI、ロボット、パワー半導体、高温超電導など、今後期待される次世代技術でもイノベーションを引き起こす先端技術が目白押しだ。しかし、イノベーションは、製造業の専売特許ではない。マンガやアニメ、カラオケ、コンビニなども戦後日本の代表的なイノベーションだ。サービス業でも日本の「おもてなし力」の素晴らしさを考えれば、独自のアイデア、知恵と工夫次第でいくらでもイノベーションを引き起こすことは可能である。ちなみに、経産省は、1)社員の意欲と能力を最大限に引出し、2)地域・社会との関わりを大切にしながら、3)顧客に対して高付加価値・差別化サービスを提供する企業を「おもてなし経営企業選」として、2016年度に22企業を選定している。こうしたロールモデルの推奨は、サービス業でもイノベーションを活発化させるために有効な手段である。

(3)ビジネス・モデルの転換
 生産性、物価、賃金の3指標を日米欧で比較すると、日本だけが、賃金・物価が右肩下がりで、欧米はともにすべて右肩上がりと、日本と欧米では顕著な違いがある(図表)。これは、日本企業は生産性向上分を賃上げに回さず、製品価格の引き下げで消費者に還元、マーケット・シェアの拡大を優先してきたためだ。この結果、賃金・物価が同時下落するデフレが長期化した。他方、米国は金融・ITなど特定分野を中心に画期的なイノベーションで付加価値を向上、欧州はブランド力で新たな付加価値を創造している。日本企業は付加価値生産性を高めるビジネス・モデルへの転換が必要だ。日本だけが欧米と異なる理由は、1)過去、持続的な円高による賃金・物価の引き下げ圧力、2)労働移動率の低さ、正規・非正規の二重構造に象徴される日本型労働市場の特異性、3)イノベーション、ブランド価値よりもコスト削減を重視する日本型ビジネス・モデルによるところが大きいと考えられる。付加価値生産性*を高めるには、「良いモノを安く売る」「サービスはタダ」という日本企業の固定観念を打破し、「良い物を高く売る=高くても売れるモノを作る」「モノ+サービスで付加価値を高める」という方向への発想転換が重要になる。

生産性、賃金、物価
*日本の時間当たり名目付加価値額(2015年の購買力平価105.3円で換算)は、42.1ドルとOECD諸国中20位、主要先進国中最下位にある。その水準は、米国(68.3ドル)の62%、ドイツの64%に過ぎない。1人当たりの名目付加価値額でみても、7万4,315ドルとOECD諸国22位。主要先進諸国中も最下位だ。水準はやはり米国の61%、ドイツの77%に過ぎない。この最大の要因は、サービス産業(非製造業)の生産性の相対的低さ(計測上の問題もあって、それほど低くないとの指摘もある)であり、その原因としては(1)規制の多さ、(2)金融、IT、ビジネス・サービスなど高付加価値産業のウェートの低さ<産業構造上の問題>、(3)プライシングの問題(要求は厳しい半面、カネは払いたがらない、サービスはタダという日本のユーザー、消費者の感覚、お客様は神様だという経営者側の感覚)、(4)サービスが画一的で差別化されていないなどの問題点がある。

 サービス・イノベーションという言葉が注目されているが、国際的にみて低いとされるサービス業の生産性を引き上げるために、1)規制の緩和やICTの活用による新規サービスの創造、2) 付加価値の源泉をモノからサービスにシフトする製造業のサービス化、3)KIBS(Knowledge Intensive Business Service、弁護士、会計士、コンサルティングなど専門サービス)の強化、4)徹底的な差別化によるプライシング戦略の強化、5)ホワイトカラーの生産性向上を図る働き方改革(詳しくは、(詳しくは、湯元健治の視点「人口減少社会を乗り切る企業経営-多様な人材活用と働き方改革が基本」(2016.2.8)」参照))など、次元の異なる様々な取り組みが必要である。

(4)課題解決型CSV経営への転換
 第3は、課題解決による付加価値、生産性の向上だ。日本は、エネルギー・原発問題、インフラの老朽化、少子高齢化、人口減少、財政・社会保障制度の綻びなど、様々な課題を抱える「課題先進国」である。こうした社会的な課題解決に、政府、民間企業が積極的に取り組むことで、新しい需要や市場の創造が可能になるはずだ。これら困難な課題の解決には、まず政府として、規制・制度の抜本的改革を行う(この制度改革には規制以上に既得権益の塊と言われる補助金制度の改革も必要)ことが必要だ。また、民間企業としては、ICT、すなわち最近の流行語で言えば、IoT、ビッグデータ、AIなど最先端技術を活用することで困難な課題解決が可能な時代になっている(この点については次項で改めて述べる)。
 少子高齢化が進む中で、医療・介護・保育・教育分野は、財政上の制約が今後、重くのしかかるが故に、民間企業に任せていかなければ制度が崩壊の危機に瀕するわけであり、民間企業にとっても将来的に大きな成長市場と捉える必要がある。例えば、ヘルスケア分野(医療・介護・健康増進の3分野)の市場規模は2020年には100兆円(足下66兆円、再生医療は2050年に53兆円市場に拡大と予想)以上に拡大すると期待されている。先端技術を駆使することで、まったく新しいサービス市場が生まれる可能性もある。現在、ヘルスケア分野には、将来への期待から製造業(オリンパス、ソニー)のみならず、流通(イオン、ローソンがメディカルモール立ち上げ)、外食(ゼンショー)、IT(ソフトバンク、ドコモ)、教育(学研)、警備(セコム、ALSOC)、ホテル(リゾートトラスト)、保険会社・福利厚生事業者(損保ジャパン)など様々な分野から異業種が予防医療・介護分野を中心に続々と参入するなど活発な動きが出てきている。その他、製造業・大学でも、山形大学が主導する世界最先端の重粒子線(がん治療装置)や、半導体・ナノテク技術を応用したカプセル内視鏡(電子部品、半導体チップ)、広島大学主導のがん検出装置、バイオMEMS(マイクロ電子機械システム)の医療分野への応用(オムロン、浜松ホトニクス)、ナノバブル水素水(高濃度水素水、横浜市のオプトクリエーション)などの革新的技術が適用されるなど、先端的な動きが広がりつつある。
 これからの企業経営は、地域や社会の課題解決と収益性・企業価値の向上の両立を図るCSV(Creating Shared Value共有価値創造)経営が最新トレンドになると予想される。

(5)ICTなど最新テクノロジーの活用
 安倍政権は、IoT、ビッグデータ、人口知能(AI)、ロボット分野で2020年までに30兆円の付加価値創造を目標に設定しているが、筆者はその潜在力は30兆円程度にはとどまらず、将来的には100兆円以上にもなりうる潜在的市場とみる。例えば、すでにコマツはドローンで実測した3次元データを用いつつ、建機を自動制御できるスマート・コンストラクション・サービスを提供している他、トヨタなど自動車メーカー各社では2020年を目途に高速道路での自動走行を目標として技術開発を行っている。そうした大企業のみならず、例えば、北海道のファームノートというベンチャー企業が農業分野で新しい取り組みを実施している他、筑波大学発のベンチャーであるサイバーダインは、ロボットスーツ「HAL」を病院や介護施設、建設現場などに導入するなど先端事例は枚挙に暇がない。
 政府は、データ活用プロジェクトとして、1)個別化健康サービス、介護ロボットの活用、2)製造業では、サプライチェーン全体の在庫ゼロ、即時オーダーメイド生産、3)スマート工場、4)自動走行、5)FinTech、6)ドローンの6分野で先行的なプロジェクトを開始している。すでに、GEやGoogle、IBMなど世界のトップ企業やベンチャー企業が、農業、製造業、自動車、住宅、医療の各分野で最先端のAIビジネスを開始しており、日本も負けてはいられない。日本企業は、SNSなどネット上のバーチャルデータ活用では、Google、Facebook、Amazonなど米国IT企業に後れを取っていると言われている。ドイツでも工場のスマート化を図るIndustri4.0が一歩先行していると言われるが、リアルデータ(購買履歴、行動履歴、設備の稼働状況など)の蓄積・活用はこれからが本番で、筆者は日本企業の巻き返しは十分可能だとみる。
 AI時代においては、付加価値の源泉はデータ(とくに住所、氏名、年齢、職業から、行動・購買・検索履歴、位置情報、ライフイベント情報、医療・薬剤・健康情報、遺伝子情報に至るまであらゆる人間に関する情報であるパーソナル・データ:)になる。そうした中で、競争に勝ち残る企業は、先端技術を持つ企業ではなく、データを握る企業になるのではないか。AI時代における経済社会の潮流は、1)マス・カスタマイゼーション(個別化商品、個別化サービスの提供)、2)シェアリング・エコノミー(民泊、ライドシェア、スキルシェア、クラウド・ソーシングなどマッチング・ビジネス)、3)人間の役割変化、すなわち専門知識をベースとした職業はAIに代替されるが、AIを使いこなす能力、AIを使って自己学習しも自分を進化させる能力がますます求められるようになる。AIの進化で仕事がなくなるとの懸念は杞憂であり、人間は、人間でないとできない、1)未知の仕事、2)Face-to-Faceの仕事(おもてなし)に特化するようになる。しかし、忘れてならないのは、付加価値を生み出すのは、AIなどの機械ではなく、あくまで人間の創造力だということだ。最先端技術の活用は、潜在的な顧客や消費者、ユーザーのニーズの在りかをデータ分析で把握可能になり、付加価値生産性を一段と高めることに寄与するだろう。

        



創発戦略センター
コンサルタント
七澤 安希子
 

パッケージ型インフラ輸出戦略を見直すことも一考

 2017年1月半ば、安倍首相がフィリピン、オーストラリア、インドネシア、ベトナムを訪問し、日本の技術と知見を活用してインフラ整備に貢献したいと現地政府に説明したというニュースは記憶に新しい。日本政府は、設計・製造から管理運営・メンテナンスまでを含めたシステム売り(パッケージ型インフラ輸出)が、激しい受注競争を勝ち抜くための主要戦略であると打ち出している。ODAやPPPの活用を念頭に、現地政府への安倍首相によるトップセールスの効果が期待されている。内閣府によれば2014年度のインフラ受注実績は約19兆円であり、2020年には30兆円という目標が掲げられている。ただ、一方で、完全に現地民間企業主導でインフラ整備が進められている場合に、日本企業が上述の戦略でビジネスチャンスを掴みに行くことが出来るかといえば、必ずしもなかなかうまくは行かないと私は考えている。約3年間ASEAN地域で日本企業のインフラ輸出を支援してきた経験に基づき、現地企業の特徴を踏まえて理由を述べたい。

1)価格と品質のバランスに対するシビアさ
 「提案に対して常にオープンマインドである」と語る現地企業には、既に多くのトップグローバル企業が上流段階から入り込んでいることが多い。現地企業にとって選択肢は幅広く、あらゆる提案を見聞きした経験に裏打ちされている。この結果、価格と品質のバランスには極めてシビアである。

2)「日本の高品質の源泉」に対する理解不足
 「日本の製品の品質は高く、技術力はすばらしい」という言葉は良く聞く。しかし、品質の担保には個別要素技術のみならずシステムも重要であることをどこまで現地企業が理解しているかは疑問だ。言語の問題も少なからずあると思うが、個別要素技術の優劣で判断されることが多く、日本企業が有するシステムの優位性をアピールする時間が十分に確保できていない。

3)事業体制・ビジネスモデルに対するユニークな評価
 ASEAN地域においては、インフラ整備を主導し経済成長を支える現地企業が、財閥系の総資産・売上高共に数兆円といったレベルの超巨大企業であることが多い。彼らが日本企業に求めるものは、資金ではなく技術とブランドである。資金力を強みに出来ない場合、日本企業にとって、事業体制・ビジネスモデルで優位かつ低リスクとなるポジションを狙うには相当な交渉力が求められるだろう。また、現地企業が重視するビジネスの作法やネットワークといった現地のエコシステムとの共存を前提とすることが必要となる。

 要するに、パッケージ化のメリットが、日本企業が意図する程には現地企業に伝わりづらい可能性、そして時に現地企業が有する既存のビジネスパートナーを脅かす存在と見られる可能性に留意すべきなのだ。また、パッケージ化という手段が目的化しビジネスチャンスを逃すケースも散見される。パッケージ型戦略以前は技術輸出戦略が話題になった。尖った強みだけを持って現地企業と共にビジネスモデルを作りこむ、といった柔軟性のある売り込み方法に回帰しても良いのではないかと結論づけられる。



創発戦略センター
シニアマネジャー
北京諮詢分公司
総経理
王  テイ
 

中国でのシェアリングエコノミーの現状

 2017年の春節期間中に、約150万の中国人観光客が日本を訪れるとの予測が伝えられました。一昨年や昨年の「爆買い」と比べ、中国人観光客の消費パターンがにわかに変わりつつあることがニュースになっています。団体旅行の形態が減り、個人旅行が増え、関心が「もの(爆買い)」から「こと(観光ややグルメなど)」へ移りつつあるというのです。

 最近、中国国内の若者の消費パターンも変わってきました。
 2017年1月に中国の家計簿アプリの「随手記」が「若者消費の将来展望に関するデータ報告」を公表しました。2億人のユーザーの家計簿データを分析し、若者消費の現状と今後の展望を整理したものです。結論からいうと、80年代から90年代にかけて生まれた若者がシェアリングエコノミーを受け入れる度合いが強く、かつ消費の主力となっているとのことです。中国タクシー配車アプリ最大手の「滴滴出行」(ディディチューシン)を例にとってみると、2016年には、アプリの運営が開始された2014年と比べ、利用者数が17倍に増え、1回平均利用金額が62元から681元へと10倍になりました。同報告では、月給3,000〜4,999元の若者が消費の主力で、全体の3分の1強を占めるといいます。

 「滴滴出行」だけではなく、インターネットを介して、生活の空き時間や使われていない資産を有効活用するシェアリングエコノミーが、小売、旅行、教育、家事、コミュニティ、金融、自動車、美容など10のジャンルで急速に浸透しているといいます。さらに、シェアの対象を大きく分類すると、5種類に分けられます。
 一つ目は、商品のシェアです。前述の「滴滴出行」やウーバーが代表的な企業です。
 二つ目は、空間のシェアです。例えば、Airbnb(家屋の短期賃貸)、ework(在宅勤務)などあります。
 三つ目は、資産や技能、経験のシェアです。「知乎网」(https://www.zhihu.com知識をシェアするプラットフォーム)、「名医主刀」(医療知識をシェアするプラットフォーム)、アリババが運営する「淘工場」などが、これを支える代表的プラットフォームです。
 四つ目は、労務のシェアです。「京東到家」(買い物やお手伝いサービスを提供)、「阿姨来了」(アーイー来了。お手伝いさんと雇い主のマッチング)などがあります。
 五つ目は、資金のシェアです。kickstarter(クラウドファンディングによる資金調達支援)やLanding Club(貸付型クラウドファンディング)があります。

 2015年から政府が推進してきた「インターネット+」戦略を背景に、シェアリングエコノミーが新しい産業として、隆盛を遂げているといえるでしょう。こうした業界の新規事業者は、積極的にユーザーの新たな習慣を創出し、未来の有力なビジネスモデルを探索しているといえます。

 国家信息中心が公表した「中国シェアリングエコノミーモデル及び最新データ2016」によると、2015年の中国のシェアリングエコノミーの市場規模は19,560億元に達したといいます。内訳としては、取引金額が18,100億元、融資額が1,460億元となっています。主に金融、生活サービス、交通、生産能力、知識技術、家屋の短期賃貸などの分野が目立ちます。また、シェアリングエコノミーのサービス提供に携わる労働人口は約5,000万人(このうちプラットフォーム型企業の社員数は約500万人)に達し、労働人口の約5.5%を占めているといわれています。
 また、上述の国家信息中心の報告書では、今後5年間、シェアリングエコノミーの年平均成長率は40%と予想され、2020年には、シェアリングエコノミーがGDPの10%以上を占める見込みであるとされています。これから10年で、中国には、さらに5〜10の大手プラットフォーム型企業が出現すると期待されているのです。

 「所有することを求めるのではなく、利用さえできればいい」。生活、仕事、趣味のバランスを重視する若者にとって、シェアリングエコノミーは新しい生活パターンになりつつあります。こうした若者の消費観は、中国の市場と消費者の間の伝統的な関係を変えることになるでしょう。日本企業は、中国ビジネスにおいて、こうした若者の消費パターンの変化に対応しつつ、商品開発やサービス提供を進めなければなりません。



創発戦略センター
コンサルタント
清水 久美子
 

農業ビジネスを成功に導く10のヒント〜有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?〜
第9回 ヒント(8)若手農業生産者から学ぶIoT、ロボット技術の実現可能性(前編)

 弊社では先日、「IoTが拓く次世代農業〜アグリカルチャー4.0の時代〜」と題したシンポジウムを開催しました。500名を超える申し込みがあり、熱気あふれる会となりました。

 以前から、農業IoTの検討の際には、「農業生産者の方が本当に必要としていることが知りたい」という声を耳にしていました。それに応えるべく、パネルディスカッションでは、IoTやロボット等の技術を使って働き方の改善を目指しておられる若手農業生産者2名をお招きし、現在直面している課題や、新しい技術への率直なご意見を伺いました。農林水産省の担当官、ロボティクスの専門家にもご参加いただき、IoTやロボット技術導入の実現可能性について議論を深めることができました。ここでは何回かに分けてパネルディスカッションから得られた知見をご紹介していきたいと思います。今回は、静岡県で柑橘(主にミカン)を栽培されている、米澤果樹園の米澤様のお話に焦点を当てます。果樹栽培は水田作や畑作と比較し、本格的な機械化はこれからの分野です。

 農業における自動化技術には収穫にフォーカスしたものが数多くあります。年間通して最も作業が集中するのは収穫期だからです。米澤様からは、その収穫に至るまでの防除や摘果といった作業においてもそれに準ずる時間が費やされおり、IoTやロボットのニーズがあることをご紹介いただきました。それぞれの適用可能性について補足したいと思います。

 防除は必要となる回数が多いことが特徴です。さらに、ミカンの圃場は平地、段々畑・傾斜地にわたって点在しており、1農家が所有する圃場間の距離が離れていることもめずらしくありません。圃場が点在していると、同じ面積でも必要労働時間は長くなります。米澤様からは効率化の一案としてドローン等を使った状況監視を挙げられました。「実導入には、操作の自動化を組み込んだサービスがあると良い」というご意見も出てきました。モニタリング性能が優れていても、操作に時間がかかってしまうと省力化にはつながりません。これについて弊社三輪より、操作の自動化以外に加えて、その地区(例えば単協単位)のドローン監視を一括して代行するサービスの可能性についてアイディアを述べました。

 摘果は、優良果の選別に熟練した技能が求められます。そのため、若手には品質向上を目指す上で高いハードルとなってしまっています。米澤様は、「摘果すべき実を教えてくれるARグラス等の開発が進めば、誰でも作業できるようになる」と期待を述べられました。これについて、ロボティクスの専門家である慶應義塾大学理工学部の高橋准教授からは「その作業に何が必要なのか、まず現場に行って、データを集めたい」というご意見がありました。他分野で実績のあるロボットについても、必ず同様のプロセスが必要になるそうです。

 農業生産者が本当に使えるIoTやロボット技術の開発には、農業生産者と技術者のコミュニケーションの場を作ることがその第一歩になることは間違いありません。国内のスマート農業の事例を数多く見てこられた農林水産省大臣官房研究調整官の安岡様も、「両者をつなぐコーディネーターの役割が重要だ」と述べられました。そのコーディネーターには、単純に二者間を引き合わせるだけでなく、その先の発展の仕組みを作っていく役割が重要になっていくと考えます。この話は次回、北海道岩見沢市で水田作・畑作・野菜作をされている、濱本農場の濱本様のお話を紹介しながら続けたいと思います。

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創発戦略センター
シニアスペシャリスト
木通 秀樹
 

<共催シンポジウムのご案内>
〜『知識』から『価値』を生み出す人材創出法〜

日本総研・東京大学大学院工学系研究科
「次世代社会システムのための社会技術の創成」社会連携講座 共催

 近年、AIやIoTなどによってビジネス環境は大きく変化しており、革新的事業を開発する人材へのニーズがこれまで以上に高まってきています。しかし、人材育成は大学も企業も『知識』提供型がいまだに主流となっており、新事業立ち上げを担う人材の育成には、「『価値』ある発想・行動を引き起こす基になる素養」を伸ばすという着眼が必要となっています。
 本シンポジウムでは、今後、求められる創造的人材像を提示し、従来経験論で議論されることが多かった脳と創造性の関係を整理して、最新の脳科学の手法を取り入れた「創造的な発想・行動を引き起こす人材開発の方法」を提言いたします。
 参加費無料で、定員が限られておりますので、ご関心のある方はお早めにお申し込み頂ければと存じます。

■開催概要
【 日時 】2017年3月16日(木) 14:00〜17:00 (開場13:30)
【 場所 】東京大学本郷キャンパス 工学部2号館1階213大講堂
    (地下鉄 南北線「東大前」駅 徒歩10分 ほか)
【参加費】無料
【 定員 】250名(定員に達し次第、申込みを締め切らせていただきます)
【お申込み】 こちらよりお申込みください
【開催要項】
http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=30477

■プログラム
【基調講演】
「アブダクションのすすめ」
中尾 政之 氏(東京大学大学院工学系研究科 教授)

【基調講演】
「創造性を高めるための脳科学的アプローチ」
上田 一貴 氏(東京大学大学院工学系研究科 特任講師)

【講演】
「新事業創出に必要な5つの素養基盤と人材創出のトレーニング手法」
木通 秀樹(株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト)

【パネリスト】
中尾 政之 氏(東京大学大学院工学系研究科 教授)
上田 一貴 氏(東京大学大学院工学系研究科 特任講師)
中川 聡 氏(トライポッド・デザイン株式会社 代表取締役)
西村 実 氏(株式会社エンバイオ・ホールディングス 代表取締役)
【コーディネーター】
井熊 均(株式会社日本総合研究所 常務執行役員 創発戦略センター所長)

【お問い合わせ先】
株式会社日本総合研究所  創発戦略センター シンポジウム事務局
担当:前嶋・劉 TEL: 03-6833-6565  
E-mail: 100860-JRI-TokyoUnivSympo@ml.jri.co.jp
〒141-0022 東京都品川区東五反田2丁目18番1号大崎フォレストビルディング 

【最新書籍】
 『創造力を鍛える マインドワンダリング
   −モヤモヤから価値を生み出す東大流トレーニング−』
日刊工業新聞社
中尾 政之 ・ 上田 一貴 ・ 井熊 均 ・ 木通 秀樹 ・ 劉 磊 (共著)
  (2月23日発売予定)

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター Mail Magazine (第2週と第4週の火曜配信)
   このメールは創発戦略センターメールマガジンにご登録いただいた方、シンポジウム・セミナーなどにご参加いただきました方、
   また研究員と名刺交換した方に配信させていただいております。

【発行】 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
【編集】 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター編集部
〒141-0022 東京都品川区東五反田2丁目18番1号
大崎フォレストビルディング
TEL:03-6833-1511 FAX:03-6833-9479
<配信中止・配信先変更・配信形式変更>
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