創発戦略センター ISSUE 337 2017/01/10(火)発行
創発
当メールマガジンは、日本総研/創発戦略センターの研究員と名刺交換させていただいた方に配信させていただいています。>> 登録解除はこちら
当メールマガジンは、HTML形式で配信させていただいております。うまく表示されない方は>> こちらからご覧ください
日本総研 創発戦略センター | 研究員紹介 | セミナー・イベント | 書籍 | 掲載情報 | ESG Research Report |
新年最初のメールマガジンです。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今回のメルマガでは、エネルギーの地産地消の具体的な方策として廃棄物系バイオマス利用についての記事。
固定価格買取制度後を見据えた再生可能エネルギー利用の新たな仕組みとして期待しています。

また、トピックスでは2017年1月25日(水)開催のシンポジウムのご案内も紹介しています。
あわせてご覧ください。
・<シンポジウムのご案内>: IoTが拓く次世代農業〜アグリカルチャー4.0の時代〜
   1. Yumoto Message

・トランプ・ユーフォリアはいつまで続くのか

   2. 創発Eyes

・廃棄物系バイオマス利用の転換による地域での新たな付加価値創出

   3. 北京便り

・中国環境保護税法の施行と日本企業への影響

   4. 連載_次世代農業

・農業ビジネスを成功に導く10のヒント 〜有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?〜
第8回 ヒント(7)2050年、新たな「肉」が人類を救う?

   5. トピックス

・<シンポジウムのご案内>: IoTが拓く次世代農業〜アグリカルチャー4.0の時代〜



副理事長
湯元 健治
 

トランプ・ユーフォリアはいつまで続くのか

 2016年11月のトランプ大統領誕生は、市場のみならず全世界の人々にとっても大きなサプライズだった。しかし、その後のマーケットは、ドル高、長期金利上昇、株価上昇という予想外の反応を示し、トランプ・ユーフォリアともいうべき状況が続いている。市場は、トランプの公約である金融、環境分野などでの規制緩和や大規模な所得・法人減税、インフラ投資などの財政支出拡大を好感。超低金利時代は終わりを告げ、債券から株式へのグレート・ローテーションが始まると囃し立てている。まさに、期待先行のリスクオン相場が形成されているわけだ。果たして、このトランプ相場はいつまで続くのか、本稿では、トランプノミクスの負の側面を徹底的に検証し、その本質的矛盾について考察したい。

1.トランプノミクスの負の側面〜保護貿易主義と反グローバリズム
 市場の楽観論の背景には、トランプ発言が大統領選勝利後、比較的穏やかなトーンに修正されたことの影響が大きい。トランプ大統領は何をするか全く分からないポピュリストだという当初のイメージが、彼は実業家であり、自分の間違いに気づけば柔軟に修正する現実主義者だという好意的な見方に次第に変わっていった。
 しかし、筆者はそこまで楽観的にはなれない。トランプ大統領誕生の基本的背景は、(1)貧困や格差拡大に対する大衆の強い不満、(2)反エスタブリッシュメント、反ワシントンなど現体制や既存政治家では、自らの境遇は絶対に変わらないという米国民、とりわけ低所得層の不満にトランプがポピュリストとして上手く便乗したからに他ならない。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政策には、自由貿易やグローバリズムという米国経済の強さの根幹を揺るがす危険な負の側面が内在しているからだ。
 第1は、保護貿易主義への傾斜だ。トランプは、選挙期間中、不公正な貿易を行っているとして、中国製品には45%、メキシコ製品には35%の関税をかけると宣言した。この内容は、1988年に成立したスーパー301条(包括通商競争力法)の復活を彷彿とさせる。この法律は、不公正な貿易政策を取る国を特定し、制裁措置を振りかざしながら譲歩を迫るための手続きを定めており、USTR(米国通商代表部)が米国製品の輸出を妨げている国と政策を特定し、それを改めるよう交渉するものだ。交渉後、一定の成果が得られない場合には、報復関税などが課される。
トランプの本気度は、USTR代表に対中強硬派で有名なライトハイザー氏を指名したことからも明らかだ。彼は、レーガン政権下でUSTR次席代表を務め、日本製品の輸入抑制に中心的な役割を果たした人物であり、今度は中国を相手に強硬姿勢で臨むことになるだろう。しかし、中国がかつての日本のように簡単に譲歩するとは思えない。政治・外交面も含めて米中関係の悪化は必至であり、米中対立は世界貿易の縮小など深刻なリスクを孕むことは間違いない。

 第2は、NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱による影響だ。自由貿易から得られる恩恵を最も享受している米国が自らそのメリットを放棄することの意味は大きい。米共和党は、元来自由貿易を党是としているため、トランプがNAFTAやTPPからの離脱を主張しても、議会で簡単に法案は通らないとの見方が有力だ。しかし、今回の大統領選では共和党有権者全体の53%、トランプ支持層に限れば67%が自由貿易に反対している。トランプの主張は自由貿易に真っ向から反対するのではないにせよ、米国にとって不公正な協定は断固見直すということであり、就任初日にTPPから脱退すると宣言したのは、単なるブラフでないことは明らかだ。
 日本企業にとって深刻な影響が出かねないのはTPPではなく、NAFTAの再交渉問題だ。トランプは、GMやフォードなど米自動車メーカーのみならず、トヨタに対してもメキシコでの工場建設に待ったをかけた。フォードは、トランプの意向を受けてメキシコ工場建設を撤回すると表明したが、これは明らかに企業経営への政府の過剰介入であり、自由貿易はおろか、資本主義経済をも否定しかねない暴挙だ。トランプが本気でNAFTA再交渉ないし離脱を行うとすれば、近年NAFTAのメリットを前提にメキシコへの進出を加速させてきた日本企業にとって大打撃となりかねない。自動車だけでなく、自動車部品、鉄鋼、機械など957社がメキシコに進出、大規模なサプライチェーンを構築しているだけに、NAFTA離脱となれば、北米戦略の根底からの見直しを迫られるからだ。

 第3は、移民排斥など反グローバリズムの動きだ。メキシコとの国境に壁を作るといった過激な発言はトーンダウンしたとはいえ、移民制限を行うことは確実だ。米国の不法移民は1,100万人とも推計されているが、トランプはまず第一弾として犯罪歴のある不法移民300万人を国外に強制退去させると宣言した。トランプがどこまで本気で移民排斥を行うのかは定かでないが、司法長官に指名したセッションズ氏は、共和党最右派で不法移民排斥を主張している。しかも、彼は不法移民のみならず、米国でビザを取得した合法移民についても、低賃金米国人労働者保護の観点から移民削減を主張する強硬派だ。一定規模の移民制限措置が打ち出される可能性を排除することはできないだろう。しかし、そもそも人口の13%を占める移民は米国経済の活力を支える原動力になっている。低賃金労働者の活用を妨げられれば、米国企業のコスト競争力が低下するだけではない。シリコンバレーの創業ベンチャーの半分は移民だといわれている。例えば、Uberの共同創業者の一人はカナダからの移民、シェアオフィスのWeWorkのトップはイスラエル出身だ。本格的な移民制限は、労働力面だけでなく、イノベーションへの影響も含めて、米国経済の潜在成長率を低下させる要因となる。

2.トランプリスクの世界への伝播
 第4に、トランプ大統領の誕生そのものが世界中にポピュリズムを蔓延させ、政治・経済の不透明感を高める要因になる。とくに、欧州にとって3月にはオランダ議会選挙を皮切りに、4〜5月にかけてフランス大統領選挙、9月にはドイツ議会選挙が相次いで予定されるなど、今年は選挙の年であり、政治不安が経済の混乱を助長する可能性に警戒が必要だ。トランプ大統領誕生で、欧州では反移民、反緊縮財政、反EUを標榜する極右政党が躍進を続けている。オランダでは、反イスラムを掲げる極右・自由党(PVV)のヘルト・ウィルダース党首の支持率がトップになっており、PVVが第一党に躍り出る可能性が高まっている。フランスの動向は、より警戒が必要だ。反EUと反移民を掲げる極右政党の国民戦線(FN)党首のマリーヌ・ルペン氏の国民的人気は高く、中道・右派の統一候補となった保守政治家フランソワ・フィヨン元首相との一騎打ちとなり、接戦が繰り広げられると予想されている。仮に、ルペンが大統領となった場合には、移民制限は当然のこと、EUからの離脱に関する国民投票が実施される可能性も否定できない。また、9月に予定されるドイツ連邦議会下院選挙では、移民排斥を訴える反イスラム、反EU政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を伸ばしている。同党は、昨年秋、メルケル首相の地元選挙区である州議会選挙で、キリスト教民主同盟(CDU)の得票率を上回り、第2党に躍進している。4選を目指すメルケル首相にとって、侮れない厳しい選挙となることは間違いない。さらに、イタリアでは昨年末に憲法改正の国民投票を否決された結果、レンツィ首相が辞任に追い込まれたが、他方で、反ユーロを掲げる新興野党で支持率も与党民主党と拮抗している「5つ星運動」がユーロ離脱の国民投票を行うとして、即刻、総選挙を行うべきだと主張している。次回総選挙は2018年2月の予定だが、今年の前半にも前倒しで総選挙となる可能性も取り沙汰されており、予断は許さない状況だ。
 以上のように、トランプ大統領誕生の余波は、欧州政治に大きなインパクトを与えつつあり、野党政権がどこかの国で誕生すれば、EU離脱ドミノが一気に噴出するリスクを孕んでいるといえよう。

 第5は、トランプ外交が世界のパワーバランスを変化させ、地政学リスクを高める懸念である。トランプ政権の外交政策がどうなるかは、現時点では不透明要因が多い。しかし、確実に言えることは、(1)イランに対する強硬姿勢の強まり、(2)米中関係の悪化、(3)ロシアとの関係改善模索の3点である。まず、トランプはイランに対して、核合意を破棄する可能性がある。確率は高いとは言えないが、現実にそうなった場合、イランが核武装を再開し、シリア内戦に本格介入するなど一気に中東情勢が緊迫化しかねない。次に、トランプは台湾総統との電撃的な電話会談やツィッターで中国の為替政策や南シナ海での活動を批判するなど中国との対決姿勢を強めている。トランプは、オバマ大統領の対中政策が中国の軍備増強を放置したと批判し、米軍のアジア地域における軍事力増強を示唆しており、米中の対立が南シナ海での一触即発の危機に発展するリスクをあり得ないと一笑に付すことはできないだろう。さらに、トランプはロシアとの関係改善に意欲的だ。これは、新ロシア派のティラーソン氏を次期国務長官に任命したことからも明らかだ。トランプ大統領は、ロシアとの関係改善によって、シリアへの軍事介入から手を引きたいとの思惑があるとみられるが、これは、下手をすればアメリカンパワーの低下を意味する。米国が新たな孤立主義に向かい、「世界の警察官」がいなくなった後の世界は、イラン、ロシア、中国、北朝鮮などが勝手気ままに自国の利益追及に邁進し、地政学リスクを世界中にばらまく懸念を高めよう。

3.トランプノミクスの本質的矛盾
 以上のように、トランプノミクスの負の側面は、その具体的な姿が次第に明らかになるにつれて、投資家のみならず世界経済全体にとって大きなリスク要因となることが懸念される。しかも、市場が称賛している財政拡大策についても、米国経済ひいては米国企業、米国民にとってもマイナスに転化しうるという意味で、本質的矛盾を抱えていることを見逃すべきでない。すなわち、大規模減税やインフラ投資などの財政支出拡大は、現実に、株高だけでなく、ドル高、長期金利の上昇を招いている。財政支出の規模がどの程度になるのかは、大統領就任後に公表される予算教書の内容と議会共和党との法案審議状況などを見極める必要があるが、規模が大きくなればなるほど、ドル高、長期金利上昇、インフレ高進による政策金利引き上げ加速などの懸念が高まろう。
 市場では、トランプノミクスを1980年代のレーガノミクスになぞらえる向きが少なくないが、レーガノミクスの帰結は、財政・貿易の双子の赤字拡大であり、財政支出で生産性は高められないことは明らかだ。貿易赤字の拡大は米国の労働者の利益にも反する。結局のところ、トランプは、保護貿易主義とドル安誘導に走るしかなくなる。これは、日本も含めて世界各国にとって決して望ましい結果はもたらさない。また、トランプの政策、とりわけ所得税減税は却って格差拡大を助長する。税率区分の3段階への簡素化と全般的な税率引き下げの効果は、中低所得層よりも高所得層への恩恵が大きいからだ。この事実に、トランプ支持者の白人ブルーカラー層が気づいた時、トランプへの期待は失望に変わることは間違いない。
 さらに、ドル高の加速が長期化する場合には、新興国の通貨危機発生リスクを高めかねない。大幅なドル高は、(1)新興国通貨安によるインフレ圧力の高まりと金利上昇、(2)資源価格の下落、(3)新興国から米国への資本流出、(4)新興国のドル建て債務増大という4つのルートを通じて、資源国・新興国経済を下押しするからだ。すでに、トルコは2年10か月振りの利上げに踏み切り、メキシコもペソ暴落で昨年12月に0.5%と市場の予想を上回る大幅な利上げを余儀なくされている。インドネシアやブラジルは自国通貨買いの為替介入を始めているが、為替介入は外貨準備を減らし、通貨危機への対応能力を弱める点には留意が必要だ。今年は新興国のドル建て債券の償還ラッシュが予想され、金利上昇と債務増大のダブルパンチに見舞われることも通貨危機発生の懸念を高めよう。

4.おわりに
 以上のようにみると、トランプ・ユーフォリアともいうべき現象は、少なくともトランプノミクスの詳細が明らかになるまでは、一定期間続くとみられるが、それはとりもなおさず、リスクがマーケットの中に深く静かに蓄積されていくことを意味する。投資家がトランプノミクスの負の側面を本当に意識した時、米欧中が共振する世界的金融危機が到来する可能性を過小評価してはならないだろう。

        



創発戦略センター
岩本 典之
 

廃棄物系バイオマス利用の転換による地域での新たな付加価値創出

 パリ協定が目指すCO2排出ゼロに向けては、バイオマスなど再生可能エネルギーの有効利用をさらに推進することが重要である。しかし、日本のバイオマス利用を先導してきた大規模集中型の発電は燃料調達という課題に直面しており、最近ではパーム油加工残渣であるPKS(椰子殻)やEFB(空果房)などの海外からの輸入バイオマスに頼る計画も見られる。
 大規模集中発電とすみ分けながら、さらなる有効利用を促進するために、今後は分散型の中小規模利用の重要性が増すこととなるが、規模が小さい場合には発電の効率も低下するため、新たな工夫が必要となる。具体的には燃焼熱として取り出したエネルギーの熱利用を拡大することが有効である。この結果、必然的に地域内での、エネルギーの地産地消あるいは自産自消の方向性が見えてくる。
 分散型の中小規模利用では、バイオマスの中身の見直しが1つの具体的な答えとなり得る。採算を確保しにくい中小規模利用にとって、安価な燃料という視点から、廃棄物系バイオマスは親和性が高い。筆者は、中規模の面的な地産地消モデルとしての「ごみ」と、小規模の自産自消モデルとして「農業残渣」にそれぞれ注目しているところである。

 ごみ処理施設では燃焼熱から蒸気を作って発電を行っているが、ごみの持つエネルギーのうち、平均で12%程度しか使用されず、大半は大気に捨てられている。併設プールへの供給など一部に留まっている熱利用を、冷暖房や給湯用途で地域に拡大すれば、利用効率を最大で80%程度まで改善することが可能である。ただし、ごみ処理施設は郊外に設置されることが多く、周囲の熱需要が乏しい。安定した熱需要を持つ公立病院や公共施設を周囲に配することも暫定的には有効な手段だろう。
 しかし、抜本的には、公衆衛生の向上、環境保全、環境負荷低減へと変遷してきたごみ処理の目的を、地域へのエネルギー供給という新たな目的へと転換すべきである。従来の目的は、そこでは単なる必要条件となり、技術革新によって今や安心安全な施設となったごみ処理場はCEB(セブ:Community Energy Base)のような呼称に変え、より多くの需要家に効率的に電熱を供給する拠点になる。ごみはCEBの燃料の一部になり、地域の未利用バイオマスなどを混焼利用することで電熱供給量を増加できる。また、CEB周辺では自営線や熱導管から安価なエネルギーを得ることができ、常に一定量のごみ(=燃料)を貯留しているため災害時におけるBCPの面でも地域に付加価値を創出できるのである。

 農業残渣である籾殻は、年間に約200万トンが発生し、うち40万トン、重油10万キロリットル以上に相当する量が廃棄されている。米の副産物で食料との競合関係がなく、主に平野部に賦存して米と一緒に収集される利点がある。一方で薄く広く分布し、供給時期が限定され、農村部ではまとまった熱需要も期待できない。しかし、欲張らずに時期と用途を限定すれば、籾殻の有効活用を進められる可能性がある。例えば、寒冷期の農業ハウスで暖房に使用することで、北海道などで課題となっている冬の営農を燃料コスト面でサポートでき、他の地域でも施設園芸の収益を左右する暖房費の削減という付加価値を創出できる。籾殻の用途は燃料だけではない。籾殻燃焼灰は耕作地に積もった雪に散布することで融雪効果を発揮する。有料の融雪剤を購入することなく、春の営農を早期再開できることでも農業に貢献できる。そして。灰はそのまま燻炭として土壌の通気性改善やpH矯正の効果もある。籾殻をエネルギー利用することで、米は食物、燃料、融雪剤、土壌改良剤とのべ4回の活躍ができるのである。

 CEB構想の実現にはバックアップ、需要変動対応や規制緩和など、籾殻利用にはクリストバライトという有害物を発生させない燃焼技術など、それぞれに多くの検討課題はあるが、固定価格買取制度(FIT: Feed-in Tariff)後を見据えた再生可能エネルギー利用の新たな仕組みとして実装を目指していきたい。



創発戦略センター
シニアマネジャー
北京諮詢分公司
総経理
王  テイ
 

中国環境保護税法の施行と日本企業への影響

2016年12月25日に、第12回全人代常務委員会第25回会議が「環境保護税法」を採択し、2018年1月1日より施行すると決定しました。大気汚染や水汚染、廃棄物、騒音の4種類汚染物質に対して環境負荷税を徴収する制度です。
2014年以来、中国政府は環境保護法をはじめ、大気汚染、水汚染、土壌汚染などの法律や規制を新たに改正・策定し、環境保護法体系の整備に取り組んできています。環境保護税法の施行は、こうした環境保護法体系を補完する位置づけになっています。

 環境保護税法は5章、28条から構成され、総則、課税基準・課税額、税収減免、徴収管理、附則などの内容が含まれています。
 課税の対象について、環境保護税法には、「課税汚染物を直接に排出する企業、事業単位及びその他の生産経営者は環境保護税の納税義務者となり、本法の規定通り環境保護税を納める義務がある」と規定されています。
 課税の税額について、付則である「環境保護税税目税額表」において、大気汚染の汚染当量あたりの税額が1.2〜12元、水汚染の汚染当量あたりの税額が1.4〜14元、固体廃棄物は石炭、危険廃棄物などの種類によりトンあたり5元〜1,000元となり、騒音は国の定めている基準を超えるデシベルの数値によって税額は350元〜11,200元、と定められています。さらに、この付則においては、大気汚染物質をSO2、NOx、CO2など40種類に分類し、各種類の汚染当量値を決めています。水汚染についても4レベル、約80種類の汚染物に分類し、各種類の汚染当量値を決めています。

 さらに、細かい税額と徴収項目について、各省は自らの地域の実情に基づき、大気汚染物質や水汚染物質の適切な項目分けと税額を策定できるとし、税額が最低基準の10倍を超えないとの上限を決めたのです。
 環境保護税の徴収は、地方政府の税務部門となります。地方政府は環境保護税を徴収し、環境保護に利用すると定められています。
 環境保護に積極的に対応する企業のインセンティブとして、環境保護法には2つの減免措置を設けています。排出物の汚染濃度が規定の30%より低い納税義務者には75%まで税額を減らし、排出物の汚染濃度が規定の50%より低い納税義務者には50%まで税額を減らす、となっています。また、以下の5つの場合には一時的な税収減免を実施すると決めています。すなわち、農業生産に伴う汚染、自動車、鉄道、船舶等の移動する汚染源からの排出物、城郷汚水集中処理場、生活ゴミ集中処理場、総合利用された固形廃棄物、国務院が認めたほかの場合です。

 在中国日本企業にとって、環境保護税法が施行されても新たなコスト増にはならないと中国の関係者は指摘しています。「環境保護税」は、現行の「排汚費制度」(汚染物排出費制度)から移行されるだけのものであり、税額も現行の汚染排出費の徴収基準に基づき定められたためです。ただ、今後、揮発性有機化合物などが課税対象になるとの見方もあるように、徐々に課税範囲は広げられていくでしょう。こうした段階になれば、日本企業にとって、新たな対応が迫られることになります。
 環境保護税法の施行は、2017年からスタートするCO2排出権取引市場の拡大、さらに中国の気候変動対策の目標の実現にもプラスになると考えられます。
 2016年11月1日に開かれた国務院記者会見において、気候変動事務特別代表の謝振華氏が、2017年より全国CO2排出権取引市場がスタートすると改めて宣言しました。同氏によると、2016年に全国重点排出企業である7,000社の過去の排出データの計算、分析を行い、企業への割当量の試算を行ったとのことです。全国排出権取引市場の第1段階においては、石油化学、化学工場、建材、鉄鋼、有色金属、製紙、電力、航空など8業種の重点的排出企業に絞って、年間1万トン標準炭以上を消費する工場が規制対象となります。また、新エネ車も対象業種に入れることが検討されているそうです。
 中国に進出する日本企業のCO2排出削減へのプレッシャーも年々厳しくなるでしょう。在中国日本大使館の資料によると、7つ省市におけるモデル事業の対象である数千社の企業リストを調べ、日本企業と思われるものを抽出したところ、約70社がリストアップされたといいます。その業種は、製鉄、化学、ホテル、スーパーまで幅広い業務にわたるとのことです。こうした環境対策は、企業のコストアップ要因になりますが、在中国日本企業は、いちはやく対応を検討しなければならない状況といえるでしょう。



創発戦略センター
コンサルタント
各務 友規
 

農業ビジネスを成功に導く10のヒント 〜有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?〜
第8回 ヒント(7)2050年、新たな「肉」が人類を救う?

 2015年時点における世界の総人口は約73.5億人。2050年にはこれが97億人に達すると推計されています(注1)。また、所得水準の向上やそれに伴う食生活の現代化が進行し、世界のたんぱく質需要が増大することが想定されています。これに対し、家畜生産を通じた動物性たんぱく質の供給は、そもそも生産効率が著しく低い(注2)こと、過放牧による環境汚染や森林減少を招く恐れがあること、動物福祉(アニマルウェルフェア)を重視する消費者の台頭等、さまざまな観点から、その限界が指摘されています。今回のメルマガでは、この地球上の人類を養い得るたんぱく質の確保に向けた近年のビジネスチャンスについて、興味深い3つのトピックをご紹介したいと思います。中には「ゲテモノ感」が拭えないものもありますが、人類の未来を思慮すれば、これらは決して無視すべきものではありません。

1. 植物性たんぱく質を活用したフェイクミート
 最初にご紹介するのは、植物性たんぱく質を活用したフェイクミートです。ここで言う「フェイクミート」は、特定の植物から抽出したたんぱく質を基に、セルロースやデンプン等を加え、肉のように成形したものという定義を用いることにします。菜食主義が多く見られる欧米では、既にさまざまなベンチャー企業が立ち上がり、当該市場を盛り上げています。この植物由来のフェイクミートを製造・販売する企業として一際注目を集めるのが、米国のベンチャー企業「Beyond Meat」社です。Beyond Meat社の商品は、高級小売店の精肉売場で販売されており、食感が肉に近く、ヘルシーであることから、健康志向の強い消費者を中心に人気を集めています。2016年10月には、世界最大の食肉加工会社であるTyson Foodsから出資を受け入れ、今後の規模拡大や海外進出が期待されています。

2. 人工肉・培養肉
 次にご紹介するのは、動物の幹細胞を人工的に培養することで、肉を生産する方法です。遡ること数年前の2013年8月、英国において、牛の幹細胞を培養して作られた「人工肉バーガー」を試食するという、何とも驚異的な会が催されました。各種報道によると、この培養肉の食感は肉に近いものの、ジューシーさに欠けるという評価でした。なお、当初の懸念であった製造コストは、2013年ではハンバーガー一個当たり32万5千ドルでしたが、2015年4月には11ドルまで低減されています。工業的に培養された肉を食べることに対する抵抗感は一定程度存在すると思われますが、今後の技術動向や長期的な視座に立った消費者心理の変容によっては、再び脚光を浴びる可能性があります。

3. 昆虫食
 最後にご紹介するのは、昆虫食です。日本では、古くからイナゴや蜂の子等の食虫文化が根付いていますが、近年では食の欧米化・都市化の影響から、こうした文化は下火となっていました。しかし、世界に視野を広げると、アジア、アフリカ、南米においては、昆虫は現在でも食生活の基礎となっている地域があります。実は、2013年に、FAO(国際連合食糧農業機関)が「Edible insects Future prospects for food and feed security」という重厚な報告書を発表しました。同報告書によると、昆虫は、環境面での利点(変温動物故に飼料交換効率が高く(注2)、温室効果ガスの排出が抑制できる。また、生活廃棄物を餌にすることが可能で、必要水分量が少なく、土地利用も少ない)、健康面での利点(良質なたんぱく質や微量栄養素を供給し、動物性感染症の媒介リスクが低い)、社会・経済面での利点(採集が容易で、養殖に要する初期コストが小さく、生計・経済への貢献が期待できる)を有し、食用昆虫は有望な食材に成り得る、という帰結が導かれています。この報告書の発表当初、関連業界ではちょっとした話題になりました。賛否両論ありますが、昆虫食に対する嫌悪感を心理学的に分析する等、各領域で研究が進められています。

(注1)出所:World population prospects 2015, United Nations Department of Economic and Social Affairs
(注2)農林水産省の試算によると、「牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵1kgの生産には、とうもろこし換算でそれぞれ11kg、7kg、4kg、3kgと多くの穀物が必要」とされています。他方、FAOによると、昆虫の種類や飼料の種類・製造工程によるものの、概して昆虫の飼料変換効率は、牛の4倍程度高いと言われています。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。



創発戦略センター
シニアスペシャリスト
三輪 泰史
 

<シンポジウムのご案内>: IoTが拓く次世代農業〜アグリカルチャー4.0の時代〜

 近年、農業分野でもIoTやAIに注目が集まり、農業ロボットや自動運転農機等の研究開発が進められています。これにより、農業就業人口の減少というピンチをチャンスに変えることが期待されます。
 このような昨今の農業を取り巻く環境の変化を踏まえ、この度、日本総合研究所・創発戦略センターでは農業シンポジウムを開催することと致しました。
 シンポジウムでは、IoTを活用した農業従事者みなが儲かる農業を「アグリカルチャー4.0」と定義し、そのコンセプトについて日本総合研究所から具体的に提言するとともに、有識者や農業生産者も交えた議論を展開します。参加費無料で、定員が限られておりますので、ご関心のある方はお早めにお申し込み頂ければと存じます。

■開催概要
【 日時 】2017年1月25日(水) 14:00〜17:00 (開場13:30)
【 場所 】イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング 4階)
    (地下鉄 日比谷線・千代田線 「霞ケ関」駅 C3出口 徒歩1分)
【参加費】無料
【 定員 】 500名(定員に達し次第、申込みを締め切らせていただきます)
【お申込み】 こちらよりお申込みください
【開催要項】
http://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/seminar/170125_466/guidance_170125_466.pdf

■プログラム
【講演】
「IoTを活用した農業従事者みなが儲かる次世代農業」
三輪 泰史(株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト)

【特別講演】
高橋 正樹 氏(慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 准教授)

【パネリスト】
高橋 正樹 氏(慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 准教授)
米澤 誠仁 氏(米澤果樹園)
濱本 壮男 氏(有限会社濱本農場 代表取締役)
安岡 澄人 氏(農林水産省 大臣官房研究調整官(技術政策担当))
三輪 泰史(株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト)

【コーディネーター】
井熊 均(株式会社日本総合研究所 常務執行役員 創発戦略センター所長)

【お問い合わせ先】
株式会社日本総合研究所  創発戦略センター シンポジウム事務局
担当:前嶋・清水 TEL: 03-6833-6565  
E-mail: 100860-IoTAgriculture4@ml.jri.co.jp
〒141-0022 東京都品川区東五反田2丁目18番1号大崎フォレストビルディング 

【最新書籍】
 『IoTが拓く次世代農業 アグリカルチャー4.0の時代』
 http://www.jri.co.jp/company/book/2016/detail/1610_miwa/

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター Mail Magazine (第2週と第4週の火曜配信)
   このメールは創発戦略センターメールマガジンにご登録いただいた方、シンポジウム・セミナーなどにご参加いただきました方、
   また研究員と名刺交換した方に配信させていただいております。

【発行】 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
【編集】 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター編集部
〒141-0022 東京都品川区東五反田2丁目18番1号
大崎フォレストビルディング
TEL:03-6833-1511 FAX:03-6833-9479
<配信中止・配信先変更・配信形式変更>
https://www.jri.co.jp/company/business/incubation/mailmagazine/privacy/

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
Copyright © 2015, The Japan Research Institute, Ltd.