創発戦略センター

ISSUE 314 2016/01/12(火)発行

創発
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 あけましておめでとうございます。
 旧年中は格別のご厚情を賜り、ありがとうございました。
 新年1回目の創発戦略センターメールマガジンは<次世代交通><シニア>をテーマにした新連載が始まります。
 ドゥタンクとしての地道な現場活動から得られた示唆を連載にする予定です。
 ぜひご一読ください!
   1. Yumoto Message
      ・2016年の日本経済を読む5つのポイント
   2. 創発Eyes
      ・再生可能エネルギーのグローバル流通の必要性
   3. 連載_次世代交通
      ・ライドシェアの解禁はなるか?(その1)
   4. 連載_シニア
      ・第1回 ギャップシニアとはどんな人か



創発戦略センター
副理事長
湯元 健治
 

2016年の日本経済を読む5つのポイント

2015年日本経済の総括と2016年の位置づけ
 2015年の日本経済を振り返ると、夏場以降、中国発の世界同時株価下落が発生するなど、グローバル・リスクが顕在化した年であった。中国経済の減速は、年末にかけて米国利上げ観測の強まりと相まって、(1)ドル高・新興国通貨安、(2)原油・国際商品市況の暴落、(3)新興国経済の減速という形で影響を及ぼし、日本経済も足踏み状況に陥った。辛うじて2四半期連続のマイナス成長=景気後退は免れたが、景気の回復力は力強さを欠いた。地方経済も、インバウンド需要に潤う地域と、輸出型製造業の不振が色濃く表れた地域に二極分化の様相を呈した。

 2016年に入ると、年明け早々、またもやグローバル・リスクが顕在化した。中東情勢の緊迫化、北朝鮮の水爆実験に加えて、人民元安加速を契機とした中国株の再下落、原油価格(WTI)も一時1バレル30ドル割れ寸前まで下落するなど、世界的にリスク・オフの流れが強まり、米国株(NYダウ)は1万6,300ドル台まで昨年末ピーク比▲7.8%の下落。日経平均も1万7,400円台まで同▲8.2%下落し、円ドル相場は1ドル117円台まで上昇するなど、リスク回避の円買いが進行し、株価下落を加速させる要因となっている。
 国内に目を転じると、2016年は、アベノミクス4年目に入り、その成否を分けるまさに正念場の年と位置づけられる。昨年は消費者物価上昇率がゼロ%に逆戻りし、安倍政権が成果として高らかに謳う「経済の好循環」すなわち、企業業績の改善が賃上げや設備投資に波及するメカニズムも依然として力不足の状況が続いた。ローカル・アベノミクス=地方創生もようやく各地域の創生戦略がまとまり、今年は具体的なプロジェクトが始動することが期待されるものの、成果がどこまで出るかが試される年となる。10%への消費税率引き上げを来年4月に控えて、地域経済も含め、経済を本格的な回復軌道に乗せることが今年の最大の課題である。

2016年経済を読むポイント〜実質所得のプラス幅はどこまで拡大するか
 こうした中で、2016年の日本経済はどのような展開をたどるだろうか。以下では、筆者が景気予測上重要と考える5つのポイントを提示したい。
 第1のポイントは、実質所得のプラス幅がどこまで拡大するかだ。この点については、世の関心は実質賃金の上昇に集中しがちだ。昨年11月の実質賃金指数は前年比▲0.5%と5ヵ月振りのマイナスに転じた。11月の家計消費も前月比▲2.2%と3ヵ月連続のマイナスとなり、個人消費の回復力が弱い最大の原因となっている。ベースアップを反映して所定内給与の伸びが前年比0.5%のプラスになったことは歓迎できるが、今後、原油価格低下の影響が徐々に剥落する中で、今年はコアCPIで1%前後の緩やかな物価上昇が予想される。賃金の伸びがこれを大きく上回らない限り、実質賃金の大幅なプラスは期待しがたい。その意味で、今春闘のベアに期待が集まる。榊原経団連会長の「ベアも含めて前年を上回る賃上げを期待する」との異例の前向き発言は素直に歓迎したいが、前年を上回るかどうかは賃金水準の低い非正規雇用中心の雇用拡大だけに、微妙な情勢だといえよう。
 しかし、賃上げやベアだけでなく、雇用者数の増加幅も含めたマクロの所得の伸びは意外と健闘している。GDPベースの個人所得である雇用者報酬(名目)は、昨年7〜9月期の実績で前年比1.7%、実質でも同1.6%の上昇と堅調な伸びとなっている。今後の物価上昇を加味しても、1%を上回る実質所得の増加は十分期待できる。もちろん、これとて、アベノミクスの目標である実質2%以上の経済成長を安定的に実現するには力不足だ。正規の有効求人倍率は0.79倍にとどまっており、正規の雇用者数が増加するまでに至っていない。正規と非正規の賃金格差の是正も必要だ。労働市場改革の加速が求められる所以である(詳しくは、湯元健治の視点「アベノミクス3年の評価と課題」2015.12.7参照)。

原油価格低下の効果がどこまで顕在化するか
 2つめのポイントは、昨年を通じて発生した原油価格の大幅な低下の効果が実体経済面にどのような形で浸透、顕在化するかだ。WTIなど原油先物価格の暴落は、資源国経済に大幅なダメージを与えるだけでなく、米国エネルギー産業にも無視できない打撃を及ぼしている。しかし、資源の大宗を輸入に頼る日本経済にとっては、大きなプラス効果をもたらす。景気への影響という点では、WTIではなく、通関ベースの輸入価格がより重要だが、昨年11月の平均価格は1バレル47ドルまで低下している。1年間の低下幅は5割以上に達しており、その恩恵は多大だ。昨年1年間の平均原油輸入価格は1バレル55ドルと推定され、1ドル120円で円換算すると、原油安メリットは実に6.5兆円にも達している計算だ。しかし、少なくとも昨年に関する限り、こうした原油安メリットが実体経済にどの程度の刺激効果を持ったのかは判然としない。その理由として、以下の3点が考えられる。
 第1に、原油価格暴落のグローバル株価押し下げ影響が顕在化したため、原油安メリットと相殺された可能性だ。確かに、これは解釈としてはあり得る。しかし、株安の影響はそれなりに大きいとはいえ、原油安メリットを相殺するような大きさではないとみられる。
 第2に、円安デメリットが原油安メリットを相殺した可能性だ。これもあり得るが、1ドル120円で計算すると円安デメリットは1.9兆円にとどまり、原油安メリット3分の1以下に止まる。
 第3の可能性は、原油安メリットの波及に相当の時間がかかることだ。一般的に、原油価格の低下は、資源、原材料の輸入価格低下を通じて、企業のコスト低下、ひいては企業収益の改善につながる。それが賃上げや設備投資の増加につながって初めて実体経済にプラス効果が及ぶ。消費者にとっては、ガソリンや灯油価格の低下などの形で直接メリットが及ぶが、だからと言って浮いたお金を消費に回せるほど、賃金上昇圧力は強くない。
 昨年は、以上のような理由で原油安の恩恵が余り表れなかった。しかし、過去の実績データから明らかに言えることは、かなりの時間がかかるにせよ、原油安はいずれ実体経済を浮揚させる方向に結び付く。今年はそれが期待できる年だ。

設備投資は本格回復に向かうのか
 今年の経済を占う3つめのポイントは、企業の設備投資が本格的な回復局面に向かうかどうかだ。昨年7〜9月期の設備投資は、年率2.3%増と前期(同▲4.9%)からプラスに転じたものの、回復力は決して強くない。先行指標の機械受注(除く船舶、電力)も7〜9月期前期比▲10.0%の後、10月は前月比10.7%と持ち直しに転じたものの、10〜12月期の見通しは、2.9%増に過ぎず、水準は低調に止まっている。
 もっとも、設備投資を巡る環境は、1)企業収益改善に伴うキャッシュフローの増加、2)異次元緩和による実質マイナス金利の実現、3)期待成長率の緩やかな高まりなど、大きく改善している。ただし、昨年までの動きを見る限り、企業は海外M&A、IT関連投資、研究開発投資には前向きのスタンスを続けている半面、国内投資には依然として慎重姿勢を維持している。中国、新興国経済の減速など海外の不透明要因が企業の投資姿勢を慎重化させ設備投資の実施を先送りさせてきた。
 しかし、日銀短観(12月調査)によると、大企業の2015年度設備投資計画は、製造業15.5%増、非製造業8.5%増、全産業で10.5%増と2桁増の計画を維持している。中堅・中小企業を含めた全規模・全産業ベースでも7.8%増と堅調な計画となっている。これは3年振りの高い伸び率でアベノミクスへの期待も感じさせる。今年は、国家戦略特区や地方創生絡みの具体的なプロジェクトがいよいよ動き出す。昨年度の計画は、グローバル・リスクの顕在化とともに後ろ倒しになる公算が大きいが、その分、今年度は設備投資拡大が期待できるのではないか。

インフレ期待はどこまで高まるのか
 4つめのポイントは、インフレ期待が今後どこまで高まるのかという点だ。昨年11月のコアCPI(除く生鮮食品)は、原油価格下落の影響により、前年比0.1%と3ヵ月振りにプラスに転じたものの、依然ゼロ近辺に止まっている。ただし、日銀公表の新型コア(除く生鮮食品およびエネルギー)は、3ヵ月連続で1.2%の上昇と黒田総裁の言う「物価の基調」は改善を続けている。さらに、生鮮食品とエネルギーに加えて下方硬直性の強い家賃と公共料金を除くベースの消費者物価は前年比1.8%まで上昇しており、このベースなら2%目標は目前といえる。しかし、2016年度後半頃に達成可能とした物価目標は、これらを含むベースであり、最近の一段の原油価格低下を勘案すると、16年度中の達成は不可能に見える。ちなみに、民間予測機関のコアCPI予想は、15年度がわずか0.12%、16年度も0.92%に止まっている。
 日銀は、昨年10月の展望リポートで景気・物価見通しを下方修正した上で、2016年度は民間予測より高い1.4%の物価上昇を見込んだが、その実現には、需給ギャップのプラス転化に加え、期待インフレ率のさらなる上昇が必要になる。しかし、市場・家計・企業の期待インフレ率は1%を切ってむしろ鈍化傾向にあり、インフレ期待がさらに高まる展開は予想しにくい。その最大の理由は、日銀の政策運営に対する疑念だろう。日銀は、物価の基調は着実に改善しているとして、追加緩和を見送ってきた。しかし、昨年12月18日、突如「国債買い入れ平均期間の延長や設備・人材投資に積極的に取り組む企業のETF購入枠(3,000億円)設定」などの政策を公表した。市場は緩和の内容が不十分として失望売りを浴びせた。日銀自身も「これは追加緩和策ではなく、量的・質的緩和の補完策だ」と説明、市場の混乱に拍車をかけた。この措置に対しては、審議委員の中でも反対意見が目立つなど、異次元緩和の限界を感じさせることとなった。
 期待インフレ率は日銀の金融政策スタンスのみによって決まる訳ではない。現実の物価上昇があって初めて期待インフレ率も高まる筋合いにある。最近の期待インフレ率低下は、現実の物価上昇率鈍化を反映しているに過ぎない。日銀の金融政策スタンスや実際の金融政策を巡って市場の不信感が高まってしまっては、なおさらインフレ期待に働きかけることは難しくなる。筆者が本コラムで繰り返し指摘してきた通り、真に高めるべきはインフレ期待ではなく、企業の成長期待、あるいは収益期待である。これは金融政策の役割ではなく、成長戦略の役割と言えよう。

グローバル・リスクの影響をどうみるか
 5つめのポイントは、グローバル・リスクが日本経済にどこまで大きな影響を及ぼすかだ。リスクの実体経済への波及ルートとしては、1)中国、新興国経済の下振れがわが国の輸出を減少させる結果、企業収益を下振れさせる、2)原油価格の暴落やグローバルな株価下落、リスク回避の円高進行による企業マインドの悪化と設備投資の先送りがある。
  実際、昨年の中国発世界同時株価下落、中国、新興国経済の減速は、深刻ではないにせよ、一定の影響を経済に及ぼしたことは間違いない。実質輸出は、昨年4〜6月期に年率▲3.2%と大幅な落ち込みを記録し、7〜9月期は同1.9%とプラスに転じたものの、回復力は弱い。こうした輸出の弱さが生産・在庫調整と設備投資の先送り、ひいては景気の足踏みにつながったと見てよい。日経平均株価も8月半ばまで2万円台を維持していたが、年末には1万9,000円、年明け早々、1万7,000円台半ばまで下落、円相場も117円台と企業の想定レート(15年度平均119.4円)を上回る円高となり、企業業績の下方修正が意識され始めている。
 もっとも、下振れリスクがあるとはいえ、2016年の世界経済の成長率は、3.6%と15年(3.1%)を上回って回復を続ける見通しだ。堅調な米国経済に牽引される形で、インド、ASEAN経済が成長率を高めるからだ。原油価格の下落も日本にとっては好ましい出来事だ。中国経済の大幅な下振れや米国利上げペースの加速による新興国市場の混乱などのリスクには警戒を要するが、日本経済の屋台骨を揺るがすまでには至らないとみる。

  結論的には、2016年度の日本経済は緩やかな回復基調をたどり、実質成長率は1.2%と過去3年の平均(0.7%)を上回る成長を遂げよう。その原動力は、実質所得のプラス転換、原油安メリットの浸透、企業の設備投資拡大の3つである。17年度は消費税率の再引き上げという試練が待ち受けており、前途は決して楽観を許さない。その影響を最小化するためにも、成長戦略の実行加速によって経済の好循環をより一層強める努力が不可欠であり、アベノミクス4年目の真価が問われる。企業経営面では、1)中国・新興国戦略の練り直し、2)絶えざる研究開発・新商品開発、イノベーションへの取り組み強化、3)少子高齢化・人口減少社会を展望した新たなビジネス・モデルの確立など中長期を展望した戦略作りが求められよう。

        



創発戦略センター
シニアスペシャリスト
木通 秀樹
 

再生可能エネルギーのグローバル流通の必要性

 COP21が昨年末に開催され、世界196の国と地域が温室効果ガスの削減目標を設定するパリ協定の合意を見た。日本は、2009年には、「2050年 温室効果ガス80%削減」の目標を設定し、2014年には米国も80%削減の目標を設定するなど、2050年に向けて、先進各国で高い目標が掲げられている。一方、従来の削減目標だけでは、気温は2100年までに2.7℃上昇するという報告もあり、温暖化を食い止めるには、日本が他の先進国とともに公約している80%の削減は必達目標と言える。

 2050年に温室効果ガス80%削減を達成するためには、運輸部門などでエネルギー消費の大幅な削減が求められる。ところが、需要自体の大幅な削減は、人々の生活を制限することになり、経済発展を停滞させる要因ともなりかねず、過度に強要することは難しい。そこで、エネルギー供給側面において再生可能エネルギーによる温室効果ガスの削減が期待されている。
 しかし、わが国では国土構造の制約で再生可能エネルギー獲得量には限界がある。経済的に妥当性がある国内の太陽光発電の設置可能面積は2,000平方キロメートル程度であり、最大限、再生可能エネルギー発電施設を整備してもエネルギー供給量が不足することは避けられない。

 実は、こうした設置面積が原因で再生可能エネルギー供給可能量が不足するのは、日本やシンガポールなどアジアの数カ国、地域しかなく、世界的には供給が潜在的には過多だ。こうした、再生可能エネルギーの偏在を考慮すれば、自国内の生産にこだわらずに、オーストラリアなどの余剰地域から再生可能エネルギーを調達することが有効なのである。
 また、再生可能エネルギーをグローバルに流通させる際には、用地の利用効率、輸送特性などに優れる、太陽光、風力によって生成される水素燃料が有効である。こうした再生可能エネルギー由来の水素燃料を海外から調達することで、運輸などの動力や熱を必要とする需要に対して、エネルギーの多様性と効率性を確保することが可能となる。

 とりわけ、再生可能エネルギーのグローバル流通によって不足するエネルギーを確保する方策は、人口当たりの再生可能エネルギー生成率の高い国々と低い国々が混在するアジア圏で効果的だといえる。2050年の温室効果ガス80%削減に向けたエネルギー転換を進めるに、再生可能エネルギーの流通ネットワークを構築し、長期契約による安定確保の仕組みを導入する好機ではないか。新たな政策構築が求められる。



創発戦略センター
マネジャー
井上 岳一
 

ライドシェアの解禁はなるか?(その1)

 2015年10月20日に開催された第16回国家戦略特区諮問会議において、安倍総理が、「過疎地等での観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する」と発言したことで、いよいよマイカーを利用した有償での乗り合いサービス(=ライドシェア)が日本でも解禁されるのではないかと注目を集めている。

 ライドシェアは、世界では急成長している分野だ。しかし、日本では、マイカーを利用した旅客行為は、白タク行為として道路運送法によって禁止されている。この解禁を求めて政府に働きかけているのが、楽天の三木谷氏率いる新経済連盟で、2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略」では、ライドシェアとは明記されていないものの、「シェアリングエコノミーなどの新たな市場の活性化のために必要な法的措置を講ずる」と謳われた。10月20日の総理発言はこれを踏まえてのものだが、事前の調整を了した上での発言ではなかったため、道路運送法を所管する国交省側は困惑を深めている。

 総理が「過疎地等」と言ったのは、公共交通の減少に悩む京丹後市が過疎地等に限定してのライドシェアの解禁を求めていたからだが、総理発言を受けて、既に国家戦略特区に認定されている養父市、仙北市でも、ライドシェア解禁に向けての動きが始まっている。

 実は、京丹後市の背後には、世界中でライドシェアを展開する米国Uber Technologiesの存在がある。Uber社は、2015年3月、福岡でライドシェアの実証実験「みんなのUber」を行ったところ、「白タク」に該当するとして運輸当局から中止命令を受けている。そこで、タクシー事業者のいる都市部での展開が難しいと判断したUber社は、公共交通が十分に存在せず、移動手段の多様化が求められている過疎地に狙いを定め、そこを突破口にして、ライドシェアに対する認知と理解を広げる戦略に転換したのである。

 もっとも、過疎地等の公共交通空白地帯においては、現状でも登録制で白タク行為(自家用有償旅客)が行えることになっている。ただ、登録に当たっては、関係するステークホルダーを交えた運営協議会を設置し、そこで合意形成できることが条件だ。運営協議会のメンバーには、地域の交通事業者や運転手の労働組合を入れることが義務付けられているため、よほど不便な地域でない限り、合意形成に至るのは容易ではない。

 特区の諮問会議で検討されている規制緩和案は、特区に限り、運営協議会による合意を不要とするというものだ。運営協議会が不要ならば、交通事業者が反対することはないから、白タク行為がしやすくなる。ここがミソで、過疎地でライドシェアの有用性を認められれば、過疎地ではない特区にも広げてゆける構造になっている。つまり、過疎地だからと認めてしまえば、ライドシェアを都市部にも展開できる道が開けてしまうわけで、そうなると道路交通法の体系に穴が開いてしまうから、国交省にしてみれば、いくら総理の発言だとは言え、慎重に対応せざるを得ないという事情があるのだ。

 果たしてライドシェアの解禁はなるのか。その行方は次回。



創発戦略センター
マネジャー
岡元 真希子
 

第1回 ギャップシニアとはどんな人か

 「お芝居を見に行くのが好きだったんだけど、腰痛でずっと座っているのがつらくなってきたの。腰が痛くて、もぞもぞと身体を動かすから、後ろの席の人に迷惑かなあと思って、最近はもう行かなくなっちゃったわ」「一度は富士山に登ろうと思っていたんだけれど、この年で無理をするなと息子に言われて、なんだか行かずじまいになってしまったよ」「庭の敷石につまずいて転んで肩を打ってから、右腕が上がらなくなってしまって、物干し竿に洗濯物を干すのが大変なの」

 そんな高齢者が、あなたの身近にいませんか。日本総研が注目している高齢者の一例です。要介護というわけではないけれど、日常生活のなかで諦めや我慢が積み重なっているという意味では、アクティブシニア(元気高齢者)ともちょっと違います。日本総研では、2014年にこのような高齢者を「ギャップシニア」と名づけました。
 高齢になって病気にかかったり、体力が低下したりすると「できること」が減り、「やりたいこと」との間に隔たりが生じます。そのときに、「どうやったらできるようになるか」と考えたり工夫したりするのではなく、「年だから仕方がない」と諦め、我慢することによって、この隔たりを解消しようとするのがギャップシニアの特徴です。そのように、みずから自分の気持ちを抑制してしまうと、さらに「できること」が減ってきて、生活が不活発になり、徐々に要介護状態に近づいてしまいます。

 ギャップシニアは、二つのギャップに直面しています。ひとつめは、先ほど申し上げた「できること」と「やりたいこと」とのギャップですが、さらに、サービスや情報の面でも「ギャップ」があります。要介護になって認定を受ければ、介護保険のさまざまなサービスを利用するチャンスも広がるだけでなく、ケアマネジャーを通じて、生活上の課題が明らかになり、さまざまな情報が入手できるようになります。一方で、ギャップシニアには、サービスも情報も届きにくい状況にあります。もちろん、元気でアクティブな高齢者のように、自ら欲しいものを探す、といった積極的な行動に出ることもまれです。なぜなら、自分自身が「困っている」という認識が弱く、情報収集意欲が低いため、情報が集まりにくいのです。逆に、サービスを提供する側から見ても、アクティブシニアに対するマスコミュニケーションは届けにくく、さりとて要介護高齢者のようにケアマネジャーというキーパーソンを通じてアプローチするという方法もとれません。そういう意味で、制度・サービス・情報の面においても、狭間の位置にあるという意味で「ギャップ」に直面しているのです。

 情報やサービスが届きにくいギャップシニアは、逆の見方をすると、市場として開拓の余地が大きいとも言えます。次回メールマガジンでは、シニア市場におけるギャップシニアの位置づけや、ギャップシニア市場の特徴について書いていきたいと思います。

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