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Business & Economic Review 2012年7月号

【特集 アジアの銀行の発展に向けて】
タイの中小企業金融の機能強化に向けた課題

2012年06月25日 野村敦子


要約

  1. タイの企業数や雇用者数において中小企業の占める割合は大きく、企業数の99.6%、雇用者数の77.9%に達している(2010年)。もっとも、GDPに占める割合を見ると、中小企業の位置付けはそれほど高いわけではなく、かつ年々縮小傾向にある。

    近年、エネルギー価格や金利の高騰、インフレの進行、人件費の上昇などにより、製造業の生産拠点のタイ国外への移転が進みつつある。加えて、中小企業の割合が大きいサービス業や小売業においても、大手外国企業の参入により集約化が進んでいる。さらには、2015年のASEAN経済共同体(AEC)創設に伴い、貿易や投資の自由化など市場統合が促進され、域内の中小企業間の競争が一段と激しくなることが予想される。これらの環境変化は、タイの中小企業の経営に多大な影響をもたらすと考えられる。したがって、中小企業の経営基盤の強化に向け、必要とされる資金調達の円滑化を図ることが重要と考えられる。


  2. タイは、伝統的に銀行中心型の金融システムである。タイの銀行セクターは、①商業銀行、②リテール銀行、③外国銀行の支店、④政府系金融機関(SFIs)の四つに区分され、なかでも商業銀行が中心的な役割を果たしており、企業の資金調達手段も主として商業銀行からの借入である。大企業向け金融が資本市場の利用などで減少傾向にあるなか、中小企業との取引は地場商業銀行にとって重要なビジネスとなっている。もっとも、商業銀行のターゲットは、業績良好で担保となる資産を保有する優良な中規模企業に集中している。また、民間金融機関の機能を補完するために、SFIsが設立されたものの、資金や人材が限られており、期待される機能を十分に果たしていないのが現状である。


  3. タイの中小企業が銀行から十分に資金調達ができないことの背景として、①中小企業の財務諸表の信頼性の問題、②担保に過度に依存する金融機関のリスク管理の問題、③民間金融機関の機能を補完すべきSFIsの能力不足、といった点を指摘できる。したがって、まずはこれらの課題解決に向けて、①中小企業の財務・経理や経営をサポートする専門人材の育成、②金融機関内部の審査体制の見直しとアドバイザリー機能の強化、行員の専門資格取得の推進、③SFIsの機能拡充と民間金融機関との
    連携強化、等を図る必要がある。

    加えて、民間金融機関が中小企業金融の信用評価を行うにあたり必要となる信用情報基盤の構築、ならびに、小規模零細企業が銀行借り入れに必要とされる金融リテラシーを身につけるために、これをきめ細かにサポートする金融サービスプロバイダーの拡充、にも取り組む必要がある。


  4. わが国では、大企業ばかりでなく中小企業においても、タイを足がかりとした海外展開が増加している。タイは、AECに伴い実現が見込まれるASEAN統合市場に向けた生産拠点・輸出拠点としての活用が展望され、わが国企業にとって、地場中小企業の資金調達の円滑化を通じた経営基盤強化への取り組みは、裾野産業の育成という観点からも望ましいものと思われる。また、当地に進出しているわが国中小企業にとっても、現地に所在する金融機関から、現地通貨による資金調達が円滑にできるようになれば、より弾力的な現地経営が可能になると考えられる。

    以上のように、タイの輸出産業を牽引するわが国企業の事業活動を支援する観点からも、裾野産業を構成する日タイの中小企業の育成・強化は重要課題であり、金融面からのサポートも含め、引き続き日タイ両政府が協力して取り組むことが求められる。
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