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Business & Economic Review 2012年6月号

【特集 非製造業の海外展開を考える】
農水産物輸出拡大の可能性と課題

2012年05月25日 蜂屋勝弘


要約

  1. わが国の農水産物の輸出は、2011年春以降、原発事故の影響を受けて大きく落ち込んでいる。しかしながら、品質に対する評価は総じて高く、他国産に比べて高価であるにもかかわらず、アジアの高所得層を中心に人気を博している品目は数多く、このことが近年の日本産農水産物輸出の増加を支えてきた。一方、わが国の農水産業の先行きを展望すると、人口減少や高齢化に伴う内需の縮小、TPPなど他国との経済連携の強化を受けた輸入品との競争激化など、国内の市場環境は一段と厳しくなることが予想される。そうしたなか、海外市場に活路を求め、農水産業が新たな有力輸出産業となることを期待する声も少なくない。本稿では、わが国の農水産物輸出について、今後の拡大のポテンシャルと拡大の障害となっている課題を整理したうえで、輸出産業として立ち上げていくためにはいかなる戦略で臨むべきかを考察した。

  2. わが国農水産物に対する潜在的な需要者であるアジアの高所得層は、中国を中心に拡大し、2015年には2010年対比2.4倍程度になる。これに伴って、2015年のアジアでのわが国農水産物への需要は2010年対比3,000億~5,000億円程度増加すると推計される。

  3. これまでのわが国農水産物の輸出拡大に向けた取り組みを振り返ると、一定の成果につながった事例も多い。しかしながら、こうした取り組みは基本的に産地単位で行われており、①通年での安定供給の問題、②輸送コストの問題、③地域ブランド戦略の限界といった課題が輸出規模のさらなる拡大を阻む要因として指摘されている。こうした課題への対応策の一つとして、産地をまたぐ品目別の取り組みの有効性を指摘したい。

  4. 農産物輸出大国のオランダでは、全国規模の品目別団体である生産管理機構(Productschap)が組織されており、これが中心となって①品質の規格化、②販売促進活動、③研究開発投資に全国規模で品目別に取り組むことで、自国農産物の国際競争力の強化に大きな成果をあげている。また、生産管理機構は農家、流通業者、労働組合から構成されることから、バリューチェーン全体での一体的な取り組みが可能であることも、国際競争力の強化にとって重要なポイントと考えられる。

  5. 日本産農水産物は生産や輸送コストなどが嵩むことから、総じて価格競争力が弱く、輸出拡大にあたっては、まずは、高い品質を維持することで他国産と差別化を図ることが大前提となる。最近の品目別輸出データから、今後の有望市場であるアジア地域において、すでに一定の成果を収めていると判断される品目をピックアップし、その堅調の背景を整理・類型化すると、次の3点がポイントになると考えられる。①相対的に大きなマーケットが存在する品目の選択(りんご、ぶどう、なし、みかん、玉ねぎ、キャベツ・白菜、米、かつお・まぐろ)、②輸出先の国・地域の食習慣等とのリンケージ(ながいも、かんしょ、すけとうだら、ほたて貝、乾燥なまこ)、③加工品の原料としての輸出(栗、かつお・まぐろ、さば、すけとうだら、さけ・ます)。所得水準の上昇や食習慣の欧米化など、今後もアジアにおける日本産農水産物の輸出環境は変化するとみられ、取り組み次第では輸出拡大のチャンスは大きいと考えられる。
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