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Business & Economic Review 2011年12月号

【特集 グローバル債務問題】
アメリカ債務問題の現状と展望-アメリカの「日本化」リスクを検証する

2011年11月25日 岡田哲郎村瀬拓人


要約

  1. 2011年夏場にかけて、欧米の債務問題が世界経済の不安定化要因として急浮上。その過程で、バブル崩壊後の「低成長の常態化」と「公的債務の急膨張」という日本の経験と、最近の欧米の状況の類似性(いわゆる「日本化」)についての指摘も見られる状況。本稿では、アメリカに焦点を当て、昨今の状況とバブル崩壊後の日本の経験との対比を通じ、アメリカの「日本化リスク」および債務問題の先行きをどう見るべきか、について考察。


  2. 最近のアメリカの経済・財政関連の指標を日本の経験と対比してみると、次の通り。
    ①ISバランス
    アメリカでは、リーマン・ショック以降、政府の大幅な赤字を家計・企業の大幅な資金余剰(および海外からの資金流入=経常赤字)で賄う構図が定着。経常収支の符号は異なるものの、日本では金融危機が発生した98年以降、同様の構図が10年超にわたり持続。
    ②潜在成長率
    日本では、バブル期の4%台から90年代後半の金融危機前後には2%前後へと段階的に低下。アメリカでは、2000年代半ばまでの3%台からリーマン後2%前後へと低下。
    ③歳出
    リーマン後のアメリカは、思い切った施策を矢継ぎ早に繰り出したものの、早急な回復軌道復帰を果たせていない現状は、バブル崩壊後の日本と共通。また歳出項目別に見ると、当初は公共事業等の増加が目立ったものの、徐々に社会保障関連支出の割合が増えつつある構図も日米で近似。ちなみに、アメリカは今後2030年にかけて、日本がバブル崩壊後15年間で経験したのと同等の高齢化率の上昇に直面。
    ④歳入
    日本ではバブル崩壊後、景気対策としての課税軽減措置の頻発を主因に、所得税収の落ち込みが顕著。アメリカ米国でも、2000年代初頭のブッシュ減税以降、所得の伸びに比して税収が伸び悩む局面が多見。日米ともに歳入構造に脆弱性がみられる状況。


  3. 上記のように、最近のアメリカとバブル崩壊後の日本の類似性を示すデータは数多く存在。一方、「日本化」に懐疑的な見方もあり、その最大の論拠は「人口動態」の違い。実際、国連予測によれば、総人口が中長期的な減少局面入りした日本に対し、アメリカは今後も増加基調が続く見通し。もっとも、その増勢は従来の年+1%前後から2030年頃にかけて+0.6%へ鈍化。過去の相関は、人口面からの成長率押し上げ効果の減衰を示唆。


  4. 総人口以外にも、35~49歳(本稿では「壮年」と呼ぶ)人口の増減と資産価格の連動が経験的に看取され、こうした経路からも人口動態が実体経済に影響を及ぼしている可能性あり。すなわち、壮年人口と代表的株価指数の動きをみると、日米ともに変動のベクトルと方向転換のタイミングが似通っており、地価も若干のラグを伴うものの同様の傾向。


  5. 壮年人口と資産価格の連動の背景として、想定される仮説は主に二つ。一つは、需要創出の側面から、同年代での世帯形成に伴う、①支出性向の高まり、②不動産取得意欲の高まり、③老後に備えた資産運用の本格化、等が経済・市場を活性化する、というもの。もう一つは、労働供給主体としての側面から、企業などにおいて職務経験を十分に積んだ中核世代として、報酬対比で見た生産性が他の年令層対比高く、この世代の増加が単位労働コストの引き下げ、ひいては経済活動や資産価格の盛り上がりにつながる、というもの。


  6. 「壮年人口減少(=広義の高齢化)社会への転換」と「バブル崩壊(資産価格の大幅かつ持続的な下落)」の同時発生は、経済に「2重の足枷」を課し、低成長の長期化を招来。

    一般に、高齢化の進行は潜在成長率を押し下げ、資産価格の大幅な下落は逆資産効果やデレバレッジによる調整圧力を実体経済に課す。高齢化進行局面でのバブル崩壊は、潜在的な成長軌道が下方屈折することに加えて、成長力の低下それ自体がバブル後の調整深度を深め、調整期間を長引かせることにより、追加の下押し圧力が増大。これが、低成長の長期化とその表裏としての公的債務の累増を招来。


  7. 以上より、総人口の増加が続くアメリカ経済は深刻な「日本化」には至らない公算大ながら、壮年人口が減少する2015年頃までの数年間は、資産価格の低迷とともに厳しい経済状況が続く可能性。それに伴い、盛り上がる財政の健全化論議とは裏腹に公的部門の債務膨張が続く恐れ。人口動態という構造的要因がもたらす成長制約に対しては、それに応じた持続可能な経済・社会体制の再構築が必要。政策当局に求められる対応は、財政の健全化と景気のオーバーキルのリスク双方への配慮を保ちつつ、社会保障制度改革を急ぎ、高齢化が経済成長に与える悪影響を軽減していくこと。
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