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Business & Economic Review 2010年9月号

【特集 金融システムの将来像】
ポストクライシスの金融規制改革議論の潮流

2010年08月25日 李立栄


要約

1.今次の金融危機では市場型システミックリスクが顕在化した。これには、①金融イノベーションによる金融商品の多様化、②金融取引の肥大化、③金融市場の連結化等によって、世界の金融取引における市場型取引の割合が近年急増したことが背景にある。

2.市場型システミックリスクは、従来の金融システミックリスクに比べて、①影響が市場を通じて瞬時に伝達され、②市場参加者の行動を変化させ市場が機能不全に陥り、③国内のみならず世界中の市場に伝播される、という特徴を有する。さらに、その影響は、経済全体に及ぶ影響を与えるため甚大である。これに対処する方策としては、従来の金融システミックリスクへの対策であった防止策の強化(入口論)に加えて、危機顕在化後の事後処理のルール整備(出口論)が必要とされている。

3.金融危機後から始められた金融規制改革の議論は、具体的な案に基づいて議論が進められている。その内容は大きく五つに分類可能である。すなわち、①金融機関の財務健全性の強化、②金融規制監督体制の強化、③市場インフラの整備、④消費者保護・投資家保護、⑤破綻処理ルールの整備、である。

4.ギリシャ発の欧州危機を受けて、世界の金融システムには不確実な要因が残存していることが明らかになった。また、公的資金を受けた金融機関の役員が高額報酬を得ていたことが納税者の反発を招き、金融機関に対する懲罰的な税や保険料を徴収する案が出るなど、規制案に厳しい内容が盛り込まれつつある。

5.アメリカの金融規制改革は2010年7月に成立した。主な内容としては、①国内金融監督の枠組みの変更、②大手銀行に対するより厳格な規制、③破綻処理への対応策の整備、④銀行グループの業務範囲を宣言するボルカールールの一部採用、などである。なお、併せて審議されていた190億ドルの銀行税は結局導入が見送られた。

6.イギリスは政権交代に伴い、金融監督の枠組みも変更した。すなわち、FSAは廃止され、BOEに監督規制の権限を大幅に移管する。銀行税導入の提案を行っており、2011年1月以降実施される。フランスやドイツもこれに続く見込みである。一方、イギリスはリビングウィル(平事に策定した破綻処理案)の導入にも熱心である。

7.欧州ではギリシャ問題を受けて、ドイツでヘッジファンドに対して空売り規制を行うなど、市場取引自体が否定されるような状況まで現れている。先日公表された欧州の金融機関のストレステストでは、対象91行のうち、7行が資本不足として認定された。そこでは、「カハ」と呼ばれるスペインの地方金融機関の資本不足が指摘されている。

8.国際的な金融規制改革については、金融危機に直接巻き込まれなかった国々の反対や、ギリシャ問題を契機とした財政問題のクローズアップ、欧州の景気悪化懸念によって、危機後の規制強化を求める声も弱まりつつある。その意味で、当初わが国で起こった世界的な金融規制強化への懸念は若干緩和されたものの、今後も、欧米主要国の議論の行方および、政治、経済の状況を併せて注視し続けることが必要であると思われる。