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アジア・マンスリー 2012年11月号

【トピックス】
中国市場に急速に接近するASEAN

2012年11月05日 大泉啓一郎


中国では今年1~6月にASEANからの輸入額が日本を上回った。工業製品が中心を占め、年内にASEAN
中国FTAは新しい段階を迎える。日本企業は中国市場開拓にASEANの活用を検討すべきである。

■急増するASEANからの輸入
欧州経済危機の影響を受けて中国経済は減速傾向にあるものの、通年の成長率は7%を超える見込みである。過去30年間の中国の年平均成長率は10.0%であり、長期間にわたってこのような高成長を実現した国は中国をおいてほかにない。世界第2位の経済大国となった中国は、近年、その旺盛な購買力から「世界の市場」として注目を集めている。
中国の輸入は、2000年の2,251億ドルから2011年には1兆7,434億ドルと約8倍に急増した。輸入規模は米国に次ぐ世界第2位である。輸入相手国は多様化しており、年間輸入金額が1億ドルを超える国・地域の数は2000年の65から2011年は120に急増した。日本からの輸入は2000年の415億ドルから2011年には1,946億ドルに増加し、現在中国にとって第1位の輸入相手国である。いまやわが国の持続的成長にとって中国向け輸出は重要な役割を担っている。ただし、中国の輸入全体に占めるわが国のシェアは、2000年の18.4%から11.2%に低下していることに注意が必要である。
他方、地域別にみると、ASEAN6(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、シンガポール、ベトナム)からの輸入が219億ドルから2011年には1,898億ドルに急増している。そのシェアは9.7%から10.9%に上昇した。そして、2012年1~6月の輸入(速報値)において、ASEAN6からの輸入が929億ドルと日本からの883億ドルを上回った。中国にとって第1位の輸入相手国は現在もなお日本であるが、第1位の輸入相手地域はASEAN6である。

■工業製品が多い輸入構成
ASEAN6からの輸入品目は、かつては石油や木材などの原材料が多かったが、現在では工業製品・部品が中心となっている。ASEAN6からの輸入品目の第1位は集積回路、第2位がHDDを含むコンピュータ関連製品、第7位が半導体デバイス、第8位がコンピュータ関連部品と電子電機製品・部品が多い。中国は世界第1位のコンピュータ輸出国であるが、その部品や周辺機器はASEAN6から調達されるものが多く、中国とASEANの分業体制が進展していることがわかる。そのほか、第3位の天然ゴム(タイヤの原料)は中国の自動車市場の拡大、第6位のパーム油は中国の食品市場の拡大を反映するものである。高成長を背景にエネルギー需要も高まっており、石炭(第4位)、石油精製品(第5位)、原油(第11位)、亜炭(第12位)とASEAN6からの輸入に依存するものも少なくない。さらには、環式炭化水素(第13位)やエチレン重合体(第14位)、非環式アルコール(第19位)など石油化学製品も増加している。
これら工業製品の多くは、ASEANに展開する多国籍企業が生産したものであり、日本企業の製品が多く含まれることは疑いない。ちなみに日本の製造業のASEAN6への直接投資残高は、2011年末時点で5兆2,999億円と中国の4兆8,017億円を上回っている。

■新しい段階に入るASEAN中国FTA
このようななか、ASEAN中国FTA(ACFTA)が新しい段階を迎えている。
ACFTAは2005年に発効し、すでに7,262品目(全品目の91.6%)の関税が撤廃されている。2012年末までに232品目(同2.9%)の関税が撤廃され、残る429品目(同5.4%)についての関税率も20%以下に引き下げられる予定である。
仮に、ACFTAの関税撤廃・削減の枠組みが日中間の貿易に適用されれば、中国の日本からの輸入総額の91.4%で関税が撤廃されることになる。もちろん日本の対中国輸出のすべてをASEANからの輸出に置き換えられると考えるのは現実的ではない。しかし、日本企業がASEANに大規模な生産拠点を持つこと、日中韓FTAの締結・発効にはまだ時間を要すること、中国での賃金が急上昇していることなどを考えると、中国の市場開拓・確保にASEANの生産拠点とASEAN中国FTAの活用も選択肢のひとつに加えるべきである。
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