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地域再生への新たな方策に向けて
~企業再生支援機構と第三セクター改革~

2009年11月02日 日吉淳亀山典子


1.はじめに~地域経済の現状~
 わが国の経済環境は回復の兆しが見えない状況が続いている。特に、地方部においては、地域経済の停滞は深刻な状況にあり、中心市街地の商店街はシャッターが閉まったままの店舗が連なっており、携帯電話ショップとドラッグストアばかりが目立つ状況となっている。さらに、今後、民主党政権下においては、公共事業の大幅な見直しが行われることから、地域の主力産業である建設業への打撃は大きく、地域経済の回復への道のりはまだまだ遠いものと考えられる。
 地方都市は、一部の大企業城下町を除くと、百貨店を核とした流通業や鉄道・バス事業を営む交通業、ホテルや旅館チェーンを傘下に持つ観光レジャー産業が、いわゆる地方都市の名士として地域経済の中核を担っているところが多い。しかし、このような地方経済の中核企業は、地域経済の停滞と共に業績の低迷が深刻な問題となっており、破綻してしまった百貨店や交通企業も少なくない。地域経済が元気を取り戻すためには、地域の中核企業の活性化が不可欠な状況となっている。
さらに、地域金融を担う地方銀行においては、金融危機や地元企業の業績低迷の影響を受け、貸し出しの抑制や地場企業への支援打ち切りなどをせざるを得ない状況に追い込まれており、地域金融は機能不全を起こしている状況といえる。
厳しい地方の経済を立て直すためには、地域経済を担う中核企業の再生と公共投資に依存した経済構造の改革が必要であり、併せて、地域金融機関の機能を回復することが不可欠である。

2.企業再生支援機構の発足~地域経済の再生に向けた新たな取り組み~
 政府としては、地域の経済活性化は日本経済再生のキーポイントであると認識から、地域再生に向けたさまざまな施策を各省庁が進めており、その中で、地域の経済活性化のための企業再生を主眼に置いた施策が「企業再生支援機構」である。同機構の目的としては、地域の中核企業の再生を図り、地域経済の活力を取り戻すことであり、カネボウやダイエーの再建などの実績を上げた産業再生機構の地方版という性格も有している。支援対象としては、地域の中堅事業者、中小企業となっており、当初は支援のスコープに入っていた第三セクターは支援対象から除外されている。国は同機構に対して100億円の政府出資を行うと共に、機構の資金の借入れに係る政府保証枠を1.6兆円に設定している。
 同機構の運用が開始されることにより、対象企業の資産査定(デュー・デリジェンス)や事業再生計画の策定支援、債権者等の利害関係者の調整(債権の買取り・放棄等)、資金・人材面の支援等がなされることとなり、何かと地域とのしがらみの多い地方の企業再生が円滑に進み、地域経済に活気が戻ることが期待されるとともに、地銀の不良債権処理も進めば、地域経済の資金循環も円滑になることが期待される。
 
3.第三セクターの現状
(1)第三セクターの経営状況
 一方、今回の支援対象から外れた第三セクターの現状としては、依然として経営状態の芳しくないところが多い。平成20年度の総務省のまとめによると、第三セクターの3割が赤字、債務残高は2兆円以上。さらに債務が純資産の5倍以上もしくは債務超過となっている会社法法人(いわゆる株式会社)は約15%という状況である。

(2)総務省のガイドラインによる改革
 こうした状況に、総務省も改革を促す方策を講じている。
 まず、一つは昨年(平成20年)6月「第三セクター等の改革について」というガイドラインを策定し、自治体が主体的に改革に着手する環境を整えた。平成19年度に「財政健全化法」によって設定された「将来負担比率」によって、第三セクターや公社に対する自治体の負債を含めて、自治体が将来負担すべき実質的な負債の大きさが分かるようになった。自治体の標準財政規模に対して負債額が都道府県で400%、市区町村で350%を越えると「早期健全化団体」(黄色信号)となる。ガイドラインでは、この将来負担比率の結果を参照しつつ、「経営が著しく悪化しているおそれがある第三セクター等」を判断し、自治体が出資、出えん又は損失補償をおこなっている団体については、「経営検討委員会(仮称)」を設置し、経営状況等の評価と存廃も含めた抜本的な経営改革案の検討を行うよう方針を打ち出した。

(3)期間限定の特例による起債~第三セクター等改革推進債~
 総務省が打ち出した方策の二つ目としては、「第三セクター等改革推進債」が挙げられる。これは、今年度から5年間(平成21~25年度)の期限つきの制度であり、この間においては、第三セクターや公社の整理または再生に伴い自治体が負担する必要のある経費については、地方債の起債(いわゆる「第三セクター等改革推進債」(以下、「推進債」という。))を認める制度である。これまでは、経営状況が悪い第三セクターを清算しようとしても、自治体が損失補償を行っている場合はその負担が単年度に一度に重くのしかかるため、自治体としても清算に乗り出せず、経営状態の悪い第三セクターを放置してしまう原因となっていた。推進債が設けられたことによって、損失補償を行っている団体に対して、自治体がより積極的に改革に乗り出すことができる素地が整えられた。

4.第三セクター改革における課題
(1)将来負担比率の限界と新たな指標の必要性
 以上のとおり、総務省も第三セクターの改革に向けて方策は打ち出している。
 しかし、いずれも道半ば、あるいはより効果を高めるための改善や工夫が必要となっているのが実態である。「将来負担比率」は、第三セクターや公社に対する自治体の負債も含めた負担を表しているが、第三セクターの改革を喚起する指標としては、いささか期待はずれになっている。将来負担比率の分子には、第三セクターや公社に対する負担に加えて、一般会計における地方債、及び公営企業債の償還に係る負担も含まれている。昨年度の公表結果を当社で分析してみると、将来負担比率の分子の中で第三セクターや公社に対する負担が占める割合は都道府県、政令市の平均でわずか2%にも満たない(都道府県1.2%、政令指定都市1.9%)のが現状である。第三セクターや公社に対する自治体の負担は、一般会計における地方債の負担に対して相対的に小さすぎるため、将来負担比率ではその本来の重さを的確に表現しているとは言い難い。
 もとより、将来にわたっての自治体の負担を明らかにするという趣旨に基づく将来負担比率の意義そのものは疑う余地はない。しかし、第三セクターや公社の改革の必要性を顕在化させる指標としては将来負担比率だけでは十分ではない。第三セクター等の改革を喚起するためには、一般会計などと合算するのではなく、独立した指標にすることが望ましい。
 たとえば、標準財政規模に対する損失補償額の割合である。
損失補償はひとたび履行されれば一括支払いとなる。しかし、損失補償額の合計が標準財政規模の3割以上にのぼるなど、損失補償を行っている団体を処理しようとしたとき、負担に耐え切れないと想定される自治体も実際に存在するのが現状である。当該年度の標準財政規模の3割以上を損失補償の支払いに充てることは現実には考えられない。つまり、履行が不可能な損失補償をしているケースがあるのである。こうしたことは将来負担比率からは見えてこない(ただし、第三セクターの経営状況が良好である場合には、損失補償が履行されるリスクはきわめて低い。このため、リスク度合いに応じた判断が必要である)。
 さらに経営の改善を促すための指標として、赤字の団体を抱える自治体を毎年公表するのも一案である。これに、債務超過が加わればさらに破綻リスクが高い先であることになる。もちろん、事業の性質によっては一定期間の赤字は避けられないものも存在する。重要なことは、解消の目処を立て改善に向けた対策が取られている赤字なのか、対策を打たずに漫然と続けられている赤字なのかを見極め、後者のタイプを解消していくことである。

(2)推進債の活用促進に向けた方策
 また「推進債」については、その利用意向を今年8月に当社がまとめた結果によると、推進債の活用意向が高い自治体は59団体で、回答全体の約1割程度に留まり、多くの自治体で推進債の活用の検討が見送られている(下表)。また、推進債の活用対象は、地方三公社(主に土地開発公社)に集中している。一方で、株式会社、財団・社団法人の活用意向は少数に留まっている。推進債は、土地開発公社の処理(解散、業務の一部の停止)にも活用できることから、自治体にとっては第三セクターの改革よりも、債務残高が多い土地開発公社の処分の方が相対的に優先されていることがうかがえる。
 また、本来、推進債は土地開発公社の「処理」だけではなく、損失補償を行っている株式会社や財団・社団法人の「再生」にも活用できる。地域で重要な役割を担っている第三セクターであればこそ、今後の地域活性化に前向きに位置づけられる「再生」にもぜひ期待したいところである。このためには、国としても「再生」のための推進債の活用事例や方策を積極的に周知するなどして、期限として定めている平成25年度までにより多くの「再生」実績を積み重ねていく方向で取り組むことが求められる。



おわりに
 以上のとおり、地域の中堅企業の再生を手がける「企業再生支援機構」と、第三セクターの改革を担う「推進債」によって、地域経済の活性化に不可欠なプレイヤーに対する支援制度は整ってきた。あとは、これらの枠組みを活用して、いかに再生を現実のものにしていくのか、現場の実行力が問われている。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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