コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

プロフェッショナルの洞察

低成長時代を乗り切る日本型グループ経営のあり方 第1回 日本のグループ経営の現状と課題

2009年06月01日 山田英司


近年、日本では「グループ経営」の考え方が重視されてきています。お話をうかがっていくに当たり、まず、日本企業のグループ経営の状況とその特徴を教えてください。

日本でのグループ経営は、2000年3月期からの実質支配力基準の導入などを主体とした連結決算の本格化がひとつの転機であったといわれています。しかし厳密にいうと当時の「グループ経営」は「連結経営」と同義で捉えられており、現在いわれているような「グループ経営」の意味ではありませんでした。
  「グループ経営」と「連結経営」は似て非なるものです。連結経営のベースはあくまで財務会計上の企業結合の状況が示されている「連結決算」であり、全てのグループ企業が包含されているわけではないところに留意が必要です。つまり、あくまでも会計に主眼が置かれているのです。グループ経営においては、会計的に企業結合の状況を的確に捉えるだけではなく、連結対象外となっている企業も含めて、全体最適の視点でグループがどのような状況にあるのかを捉えることがポイントとなるのです。
  一例ですが、グループ経営の観点からのリスクマネジメントは、連結の対象とならない小企業が抱えているリスクを勘案する必要があります。グループ経営では、グループに属するそれぞれの企業が抱えている事業を勘案し、グループに属する企業のつながりを考えて戦略策定から実行までのPDCAを実施する必要があるのです。
  近年のグループ経営における重要なポイントは、企業のドメインの変化への対応です。従来、多くの企業はグループ経営のもとで多角化を進めましたが、あくまでも中核企業が中心になっており、事業ドメインは固定されていました。しかしながら経営環境が大きく変化している現在において、企業の成長を考えた場合、将来の成長事業が現在のドメインとは必ずしも一致するわけではないのです。したがって近年のグループ経営においては、全体最適からドメインを見直す局面も十分にありうるというところに留意が必要です。
  このような考えを受けて、グループ経営を推進するための土壌は広がってきています。一連の会計制度や税制の改正を見ても、あるいは会社法改正による企業再編の手続き緩和などを見ても、スピード感のある事業再編が可能性になったといえます。機動的に全体最適を考えられるような制度が整備されてきているということは、日本のグループ経営を考えていく上では非常に大きな意味をなしています。

制度が整えられ、グループ経営を推進しやすくなった日本ですが、グループ経営を行う際の課題はなんでしょうか。

グループ構成企業における意識改革の進捗度合いと、組織や評価のあり方、さらにはその運営方法など、経営インフラ面のあり方が非常に大きく影響します。特に、グループ経営を進める上で意識改革は非常に大きなウエイトを占めますが、その意識改革はなかなか進んでいないのが実態です。グループ経営と連結経営の違いが理解されていないために起こっているともいえますが、グループ経営は経営インフラを強化して効果的に実施することが重要であるとの認識を持つことがより重要となります。
  現状の大きな課題としては、連結経営の段階にとどまっているため財務会計面だけで結び付けられており、経営インフラの再構築が遅れていることが指摘できます。
  意識改革の面を例にとると、グループをマネジメントする人材が中核企業や主要事業の出身であるケースが多く、自己の成功体験から企業の再編やM&Aを進めようとする傾向が見受けられます。時代が変革する中、ニュートラルかつグループ最適の視点で将来を見据えた事業再編が必要であるという意識を持つことが重要なのです。
  さらに現在においては、グローバル経営が重要な局面にあるといえます。かつての日本企業は生産拠点を移転するために海外進出するというケースが一般的でした。しかし現在、日本のマーケットが縮小している中、単に安い製品を作る拠点という位置づけから、販売先として海外市場へどのようにアクセスするのかが一つの鍵となっています。インターネット等の情報手段が飛躍的に発達した現在、世界と日本では、商取引の距離、ビジネスを推進する上での距離はますます縮まっています。国内でビジネスをしていた企業が海外といかに向き合っていくかが今後、重要となっていくことにも留意が必要です。
  このような状況においては全体最適の視点でグローバルに人材を活用することが必須となっていますが、これを妨げる要因としてグループ会社内の「主従関係」が挙げられます。企業は一定規模以上になると、迅速な意思決定を行うため分社化をしたり、さらなる拡大を目指してM&Aを進めるのが一般的です。しかしながら、この過程で分社した事業会社との間での親子関係や、M&Aの対象会社との間での支配関係が「主従関係」となり、逆にグループとしての円滑な事業推進を阻害する可能性をはらんでしまうのです。具体的には優秀な人材が子会社にいるが上位職に登用できない、親会社の給与水準を超えてはいけないなどというケースが散見されます。このような主従関係は人材などの資源循環の観点で妨げになるのはいうまでもないことです。従来の人事制度という経営インフラの中で対応しようとするためにこのような事態が生じるのです。
  さらにいえば、日本の企業には今でも親会社から子会社への「転籍」という形が厳然として存在します。転籍は子会社への「片道切符」であり、給与も下がるケースがほとんどで、当然モチベーションも下がります。人材育成・活用の観点からキャリアパスを構築し、子会社におけるポジションを生かした人材循環が必要ですが、親会社・子会社の枠を超えたダイナミックな改革が阻害されているのが現状です。
  意識改革のほかには経営インフラの整備の遅れが指摘できます。会社分割による分社化や、持株会社化などで企業活性化を推進するケースがありますが、どのタイミングまで事業を持ち続けるかなどの判断や仕組みが現状の経営管理制度では十分に整理できていないケースが散見されます。特に、財務会計におけるステークホルダーへの説明が中心となった経営管理体系を採用しているところが多く見受けられますが、財務会計による管理が必ずしもグループ経営に有用とは限りません。経営管理においては、グループのセグメントを評価してインセンティブをどのように与えていくかが重要なポイントですが、財務会計はあくまでも過去の業績の結果指標です。事業の成長性のポテンシャルや取り組みプロセスの評価など、グループを将来にわたってどのように運営して行きたいのかを経営管理の中で明確にする必要があるのです。
  さらには、経済の成長期で会社も資金が潤沢にある状態であれば従来の管理でさほど問題は生じないのですが、現在は低成長期に入っているため、資源配分の観点からは効率性が求められます。その際に、グループの構成企業で評価指標がバラバラな状態では非効率性が増長します。また、人事制度についても先ほど述べたとおり矛盾を孕んでいます。これらの状況を踏まえて、いかに経営インフラとしての経営管理制度を整備していくかが重要なポイントといえるでしょう。

海外ではグループ経営が一般的になっているというのが定説ですが、海外と日本のグループ経営を比較して、現時点で日本企業にグループ経営がなかなか適合しない理由は何でしょうか。

米国での企業の考え方は株主価値という観点が重視されています。究極的に株価を上げることが企業理念の根底にあります。事業部門売却のケースで、中核事業以外は全て売却してしまうという選択が頻繁になされていることなどはこの考え方によるところが大きいといえるでしょう。一方、日本では、長期的な観点からものごとを考えることが一般的です。中核事業はある一定期間の動向を見るし、人材育成でも一定期間の雇用を前提とした採用を実施します。失敗の中から人材を育てていくという考え方も有しています。欧米では即戦力がよく求められますが、ここに人材採用の違いがあるといえます。
  しかし、この欧米の考え方や日本の考え方はどちらも株主価値や企業価値を否定するものではありません。M&Aを利用して企業価値を向上させるという手法が日本で問題視されたことがありましたが、これは完全に否定できるものではないのです。さらにいうと一部のマスコミの論調で悪者にされたDCF(Discounted Cash Flow)などに代表されるファイナンス手法はあくまで道具に過ぎず、株主価値や企業価値と同じ土俵で捉えるべきではありません。ファイナンス理論は否定すべきものではなく、将来にわたり企業価値をどのように上げていくかの重要な道具であるという理解が必要です。このような手法を使いつつも、日本企業においては、本来持っている特質である長期的な視野で企業価値をどのように向上させていけるかという視点でグループ経営のあり方を考えていくべきでしょう。
  グループ経営を実施するには、日本の良さと欧米の良さをすり合わせながら、日本企業独特のDNAを維持し、活用していくことが重要です。特に短期的思考で事業を再編していく場合、事業のシナジーを求めることが困難になります。事業にはサイクルがありますので、短期的な業績回復が見込めても衰退期にどう対処するべきかまで考えた再編をするべきでしょう。現時点で業績が悪い事業から撤退してしまってもよいのか、人員のリストラを実施してもよいのかは、事業自体が衰退期なのか否かの検証も含めて、どのように事業を回復させるのかまで考えて実行すべきなのです。

次回は、日本独自のグループ経営を推進するためのポイントと留意点について聞いていきます。

関連リンク
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ