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プロフェッショナルの洞察

今こそ業務革新をスマートに成功させて次のステージへ

2009年07月01日 佐藤哲史


業務革新についてお話を伺っていくにあたり、まず企業における業務革新とはどのような取り組みで、どのような場合に実施するものなのかをお聞かせ下さい。

「業務革新」は、業務の廃止、自動化、集中化など主に業務の効率化を図る取り組みを指す解釈がこれまでは一般的でした。ところが最近では内部統制への対応が必要になり、職務の分離や統制強化などを含めたものが一般的になりつつあります。
 企業が業務革新に取り組むきっかけは、大きく分けると2つあります。1つ目は、「日常業務が回らなくなったので何とかしたい」という場合です。たとえば、事業拡大や法改正対応によって作業量と複雑度が増し作業品質が悪化した、唯一対応できる社員が退職し作業が停滞しているといった問題が起きているときが該当します。2つ目は、「情報システムを再構築するので業務をシンプルにしたい」という場合です。たとえば拠点ごとに導入の情報システムを業務とともに見直してシンプルにしたい、業務を見直してソフトウェアパッケージを導入したいことなどが該当します。
 どちらをきっかけとして業務革新に着手した場合でも、最終的に情報システムの再構築につながります。つまり業務革新とは、業務の効率性や有効性を高めるとともに業務の信頼性を確保すること、さらに、それらの実現のために情報システム化を図るものであるといえるのではないでしょうか。

最近一般的になりつつある内部統制への対応以外に、業務革新の契機となるものに、どのようなものがありますか。

業務革新に関連する最近の動向としては、ポストJ-SOX、IFRS(国際財務報告基準)への対応などが挙げられます。
 ポストJ-SOXとは、内部統制報告制度への対応後に業務の効率化などを図る取り組み全般を指しています。上場企業の中には、内部統制報告制度への対応によって、職務の分離や確認・承認行為の追加により統制行為が増加した企業は少なくないでしょう。本来、内部統制強化への取り組みという意味では、「財務報告に係る信頼性」を高めるだけでなく、「業務の有効性・効率性」を高めることも合わせて考えるべきです。しかし限られた時間の中では、「財務報告に係る信頼性」の確保を優先せざるを得なかった企業が大半のようです。今後、そのような企業では、業務の効率化に向けた取り組みとして、業務革新に着手するケースが増えてくると考えられます。その際には、業務の効率化と合わせて、統制の高度化や統合にも取り組むことがポイントになります。キーとなる統制行為の移動や統合による全体最適化、IT統制の拡充による省力化にも取り組むことが有効と考えられます。
 IFRSへの対応に関しては、会計方針や会計基準の変更によって、単に仕訳計上処理だけでなく、仕訳計上に至るまでの業務プロセスや、予算業績管理方法の変更も必要となる可能性があります。上場企業の場合、子会社にも同様の対応が求められるので、影響範囲を早期に見極め、業務プロセスの見直しなどに着手することが求められるでしょう。業務プロセスを見直すことになる場合は、業務をサポートする情報システムの改修が必要になると思われます。特に、自社開発した会計システムを使用している場合は、追加開発に必要な期間を見積り、対応を早めることが必要になってくるでしょう。今後も継続的に起こりうる法改正に的確かつ効率的に対応するために、この機会に会計ソフトウェアパッケージの活用を検討するのも一案かと思います。一方、既に会計ソフトウェアパッケージをカスタマイズ無しで利用している場合には、基本的にはパッケージベンダーがバージョンアップしたソフトウェアを導入することで対応が済むというメリットがあります。
 このように法改正などが企業活動に影響を及ぼすことで、業務革新プロジェクト立ち上げのきっかけになることは少なくありません。

これまでのお話から、業務革新は随分と大掛かりな取り組みに聞こえるのですが、自社だけでも対応できるものなのでしょうか。

企画の段階から手順を適切に踏んで計画的に進めることができれば、対応は不可能ではないと思います。業務革新に取り組む際には、企画立案の後、情報システムの開発・導入や、業務革新に向けた施策の業務への落とし込みを行う手順を踏むことが重要になります。過去に企画の段階から業務革新に関わったことのある人材が社内にいれば、自社だけでも対応できるでしょう。しかし企業で業務革新を行うには部門間の調整が重要ですし、また迅速に革新を進めることが要求されます。社内の人材は業務革新の推進の他に担当業務を抱えていることや、上下関係などの組織のしがらみがあり部門間の調整を行いにくいことがあります。そのため業務革新プロジェクトに専任者をアサインできない場合などには、企画の段階から業務コンサルタントが参加し、中立的な立場で部門間の調整を行い、プロジェクトを迅速に推進していくことが必要になってきます。

最初に企画立案を行うことが重要ということですが、企画の段階ではどのようなことを行うのでしょうか。

本質的な問題点の抽出とそれらの解決策を練り上げて構想として取りまとめること、そして概略レベルの新たな業務プロセスをデザインしてこれらの実現に必要な情報システムの機能と開発計画を取りまとめることを行います。
 これらの作業を適切な手順で実施せずに、時間を惜しんでシステム再構築から着手してしまうと、業務及びシステムの部分的な最適化は図れても、全体最適化を達成するのは難しくなるでしょう。顕在化した問題点への対応にとどまることや、なぜシステム化するのか目的を明確にできないことで、場当たり的な対応に陥ってしまうことが懸念されます。その結果、再構築したシステムがツギハギのものとなり、開発費用やランニングコストの増加につながる可能性があります。
 業務革新のための構想と情報システム化のための開発計画の策定には、相当程度の時間と費用を要します。しかし、これらの手順を踏むことは、業務及びシステムの全体最適化や情報化のトータルコストの低減を実現するための王道であり、時間と費用をかけるだけの価値があるといえます。

費用対効果を最大化するためには、業務革新のための構想と情報システム化のための開発計画の二つを策定することが必要不可欠ということが分かりました。では、実効性と実現性の高い構想と計画を策定し、業務革新を成功に導くためには、何が重要なのでしょうか。

まずは、全社を巻き込んだプロジェクトの立ち上げを行うこと、さらに施策実現の阻害要因を洗い出し確実に排除するための対処策を事前に具体化することです。
 1点目に関しては、業務革新を着実に遂行するために、強力な推進体制が必要になります。部門最適ではなく全体最適を目指すので、業務を革新する意欲を強くもつとともに最後までやり抜く強い意志をもつメンバの参加が欠かせません。嫌われ役になれない人、チャレンジ精神が弱い人などはメンバに向きません。
 業務を熟知していることも必要で、現場が抱えている問題点や改善要望を吸い上げてプロジェクトの議論に持ち込む、プロジェクトで決定した施策の狙いを現場に理解させ実践させるという重要な任務を負うことになります。

そのような人材でプロジェクトメンバが構成されていないと、どのような問題が生じるのでしょうか。

施策の狙いや重要性が会社全体で共有されずに、情報システム化の段階で施策のいくつかが葬られてしまう懸念があります。これらの問題は、スピードを重視するあまり十分に現場のコンセンサスを得ないまま、特定のメンバだけでプロジェクトを進行させてしまった場合に起こりえます。業務革新成功のためには、企画の段階から、施策の狙いや重要性について十分にコンセンサスを得ておき、現場を巻き込みながら業務革新を推進していくことが必要になります。したがって施策を策定する時間だけではなく、現場のリーダ間で協議する時間、リーダから各担当者への説明を行うための時間を十分に確保することが求められます。

現場の理解を得やすくするためには、どのようにしたら良いでしょうか。

業務革新の「期待効果」の示し方を工夫することが有効でしょう。採用する施策の実施が会社や自分にとってメリットがあることだとわかれば、納得感を得やすくなります。経営層が施策実施の可否判断をするために利用すること、さらに現場の理解を得るために利用する情報として業務革新の期待効果を整理し説得することが重要になります。
 期待効果の算出では、現行の作業時間の集計と業務革新後の作業時間の推定を行い、削減可能時間を算出後、人件費削減金額に換算する方法を採用するのが一般的です。しかし、この方法だけでは、業務革新に必要なコストに見合う期待効果は十分に示せるとはいえません。業務革新によって作業時間を減らせても、人員の削減と人件費の削減には至らないケースがあるからです。また作業時間を集計するためには、会社が現場の担当者に作業時間の記録を依頼するのが一般的です。しかし、この方法では、記録者や調査の実施時期によってバラツキが発生し、作業の実態と記録した作業時間に乖離が発生する可能性があります。
 乖離をなくすためにも、自己申告を主体とする作業時間の調査方法には、改善の余地があると考えられます。そこで我々のグループでは、これまでの作業時間を計測する方法に代えて、業務のパフォーマンスを計測する新手法の開拓に取り組んでいます。この手法では、アウトプット、インプット、リソース、ノウハウ及びマネジメントの5つの要素毎に定めた評価指標をもとに、業務の価値を計測します。それぞれの要素の評価結果を集計して部門や企業全体のパフォーマンスを比較・分析することで、業務革新の期待効果を分かりやすく効率的に示すことができるようになります。
 プロジェクトの体制が整い、全社的な取り組みが可能となることで、初めて2点目に挙げた阻害要因が顕著になります。
 業務革新の企画の段階では、施策の内容を具体化するだけでなく、施策実現の阻害要因の洗い出しと対処策の策定を行うことが重要になります。「なぜ、今までこのようにできなかったのか」、「この施策を新たに実践する際に邪魔をするものは無いのか」と論理的、体系的に整理することが求められます。その上で、それらを排除するための対処策を一つずつ考えていくのです。この作業の巧拙が業務革新の成否に直結することになります。

阻害要因が排除されないまま業務革新活動を進めた場合には、どのような問題が生じるのでしょうか。

施策が実現性のないものになってしまい、新業務の運用をいざ始めようという段階で、運用を妨げるような事態が発生する可能性が高まります。 阻害要因の洗い出しと対処策の策定の入念な実施は、企画の段階の検討時間の増加となります。しかし新業務の定着化段階で運用できないことが発覚し、後戻り対応や施策実施の見送りとなってしまうことを考えれば、時間を十分にかける価値はあるといえます。
 さらに企業が継続的に業務の効率性や有効性を高め、信頼性を確保していくには、企業外部や内部の環境変化に敏感に反応し、迅速に対処していくことが重要といえます。そもそも業務革新はプロジェクトを立ち上げて一度実施すれば終わるものではなく、継続的に取り組むべきものです。新システムの稼動と新業務への切り替えが無事終わったからといって安心していてはいけません。業務革新の推進を担う人たちには、環境変化を敏感にキャッチするための感度を磨くとともに、業務への影響の大きさを的確に見極める力量も求められるといえるでしょう。

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