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Business & Economic Review 2009年10月号

【特集 環境制約下での新しい経済・社会】
分散型整備風力発電の普及を

2009年09月25日 松井英章


要約

  1. 国内外で新エネルギー導入の機運が高まっている。日本では、福田ビジョンで2030年における太陽光発電導入量を2005年の40倍にすることを目指すと表明される一方、2009年2月に発表された固定価格買取制度の対象から風力発電を外されるなど、太陽光発電重視の政策姿勢が顕著である。

  2. 日本の太陽電池メーカーは、諸外国の同業メーカーの追い上げが激しく地位を大きく後退させているとはいえ、技術水準は高く、世界3位の生産量を誇っている。一方、風力発電分野における日本メーカーのシェアは低いといった事情もあり、産業政策上、太陽光発電が重視される傾向にある。また、昼間に電力需要が増えることに応えやすいという太陽光発電の特性が、電力会社にとって風力発電よりも扱いやすい理由の一つとなっている。

  3. 発電単価では風力発電は新エネルギーの優等生であり、太陽光発電の半額未満である。将来、技術開発により太陽電池パネルの価格が低減しても、発電設備全体のコストを風力発電なみにしていくことは容易ではない。風力発電には、施設が占有する用地が少なくてすむというメリットもある。こうした事情から、世界の再生可能エネルギー先進国はまず大量の風力発電を導入している。

  4. 日本で風力発電の導入が進まない理由として、a.風速の変化が大きい、b.雷が多い、c.山地割合が高い(建設適地が少ない)、d.日本の電力網が風力発電の大量導入に適していない、e.導入政策が不十分、などが挙げられるが、風力発電に関連する日本特有といえる本質的な問題は、第3の風況の良い適地が少ないことであると考えられる。

  5. 日本は豊富な海洋資源を活用できるという優位性を持っており、風力資源が膨大な海洋まで目を向けると発電適地は広がる。しかし、日本の近海は深いために建設コストがかさむことに加え、漁業権とのバッティングの問題もあり、洋上風力の推進は困難を伴う。一方、漁業権に関連するトラブルが発生せず、建設上の課題も少ない港湾地域は風力発電設置の検討対象として有望である。

  6. 港湾地域にはすでに人工建造物が建設されており、風力発電を設置しても自然環境への影響は比較的軽微であり、建設コストも陸地と大差ない。風力資源も比較的豊富なところが多いが、現状では風力発電が稼動している港はごくわずかである。3割弱の港湾に1MW程度の風力発電を2基ずつ入れるような、分散型発電の整備を重ねていくだけでも、2009年の導入量と同等以上の設備容量を追加することが可能である。

  7. こうした風力発電の分散型整備は、投資ファンドが収益を期待して投資するタイプの事業ではなく、公共セクターが中心となり民間企業に運営を委託するPFI方式が適していると考えられる。グリーンニューディール政策には民間主導のものが多いが、“広く薄く”エネルギー資源を活用する事業では、公共セクターが中心的な役割を果たすことが求められる。その場合、都市と風力発電設備の連携を模索するような、まちづくりの視点も重要になるだろう。
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