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コラム「研究員のココロ」

インド住宅市場への参入検討の方向性 (後編)

2009年07月27日 田中靖記


 前編では、経済・政策・金融・住宅関連事業者などの動向を確認した。まとめると、インドにおいて住宅投資が活発化している3つの要因が指摘できる。つまり、(1)中間所得層の拡大により、質が高く適切な価格帯の住宅需要が増大していること、(2)富裕層向けと中・低所得層向け住宅に大きな需給ギャップが存在し、中・低所得層向け住宅が不足していること、(3)住宅ローン金利が低下し、住宅ローンが組みやすくなってきていることである。これらの状況を踏まえ、日本の住宅業界がインド進出を図る際の方向性、検討に当たっての留意点を指摘したい。
 
1.参入検討の方向性と留意点

(1) 参入検討の方向性

1)工業化住宅の展開
 日本の住宅メーカーや関連企業は、1960年代以降プレハブ住宅などを相次いで発売し、住宅の工業化に注力してきた。工期の短さ、低コストでの建築、品質のばらつきの少なさに特徴付けられる工業化住宅は、短期間に大量の住宅供給が必要とされるインドの現状に適合している。とりわけ、中・低所得者向け住宅供給が喫緊の課題とされているなかで、日本の住宅関連企業が事業に関与する余地は大きいだろう。一方で、日本の住宅と比較して、より低価格での住宅供給が求められるため、部材の現地生産・大量供給モデルを確立するなど事業の現地化を進めることが必要である。顧客の購買力も慎重に見極めなければならない。また低所得層向け住宅建設は公的セクターによる投資が中心である。公共投資には内需拡大という側面もあることから、参入を検討する場合は現地企業との連携が不可欠であろう。

2)エリア開発ノウハウの活用
 現在インドで開発が進められている大規模住宅建設プロジェクトは、エリア一体開発が主である。この傾向は対象顧客の所得階層が高い住宅開発プロジェクトほど顕著であり、住民向けのショッピングモールやスポーツクラブなどがあわせて建設される。つまり住宅のみならず商業施設や公園、周辺インフラの整備ノウハウも求められる。日系企業にとっては、ニュータウンや大規模集合住宅開発等の経験を活用することができよう。

3)セキュリティ・IT関連技術の活用
 富裕層向けの住宅を中心に、設備機器・安全管理の自動化・遠隔操作などホームオートメーション設備の需要が高まりを見せている。また富裕層の一層の拡大により住宅所有のステータスシンボル化が予想されることなどからも、高機能住宅へのニーズは拡大すると考えられる。富裕層向け住宅に関しても、一部で供給過剰となっている地域はあるものの、世帯数の増加により今後もニーズ拡大が見込める。後述するインフラ未整備の影響から、家庭用太陽光発電や家庭用燃料電池等のニーズは今後拡大する可能性がある。住宅メーカーのみならず住関連企業にも参入余地は大いにあるのではないだろうか。

(2) 留意点

1)インド特有の住宅/インフラ事情への対応
 国土が広大なため地域によって気候が異なるが、インドは概ね熱帯・サバナ気候に属しており、夏季はモンスーンの影響が大きい。最高気温が常に30度を上回る、あるいは最低気温が30度を上回るような地域も存在する。また、地域によっては舗装されていない道路が多く存在するため、空気中に無数の塵が巻き上げられる。これらの事情により、住宅には遮光性、通気性、排水性、防塵性などの機能が求められる。
 未整備なインフラ事情への対応も必要である。インドの投資環境上、インフラの未整備は最大の問題点として認識されている(注1)。電力・ガス・水道等のライフライン環境が脆弱であり、都市部であっても停電がしばしば発生している。開発区画に自家発電設備を設置するなど、設備の提供も必要であろう。また物流インフラの未整備も深刻だ。道路・貨物鉄道の整備が進められているが、改善されるまでには至っていない。また州境には各州政府が設置した「チェックポスト」があり、積荷確認を受ける必要があるため輸送時間が増大していると指摘されている(注2)。このような制度面での障壁も留意せねばならない。

2)労働者・技術者の確保・育成の問題
 インドでは、労働者不足が深刻化している。2008年時点でインフラ整備だけで9200万人の労働者が必要とみられているが、労働者は商業ビルや住宅建設など民間部門だけでも必要人数の約3分の1が不足している(注3)。また施工技術水準の向上も課題となっている。工業化住宅の普及を促進させることによって現場の施工技術水準を平準化することはある程度可能になると思われるが、最終的な品質担保の側面から現場労働者の水準向上は不可欠である。進出企業・現地パートナー企業にとって、熟練労働者の確保と育成体制の構築が求められる。

3)外資規制の問題
 インドの外資政策は、経済自由化路線のもとで規制緩和が進められてきた。住宅建設や建設開発プロジェクトに関しても、2005年以降一定の条件のもとで外資100%出資が認められている(注4)。その条件とは、住宅建設の場合は、1万平方メートル以上の開発であること、1000万ドル以上の投資を行うこと、などである(インド企業との合弁の場合は500万ドル以上)。また、プロジェクトが認可されてから5年以内に50%以上の開発が終了する必要がある。これらの条件の他にも、外資規制はケースによって弾力的に運用される可能性があるため、リスクの一つとして認識しておく必要がある。

2.さいごに

 インド国内の住宅関連企業や国外企業が事業を拡大しており、政府も住宅関連投資を拡大させる意向であることから、今後多くの競合企業が参入してくることが予想される。そのため市場環境、自社資源、競合/パートナー企業の動向等を見極めた上で、迅速な意思決定が求められよう。一方でインドにおいて住宅関連統計を含む各種統計指標は、わが国と比べて質・量の両面で充実しているとは言い難い。したがって事業進出の検討にあたっては早い段階から現地と連携した調査検討が不可欠である。

(注1)ジェトロ[2008].「平成20年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
(注2)伊藤博敏[2008].「物流企業に立ちはだかる州境・収税の壁」『ジェトロセンサー2008年2月号』
(注3)FujiSankei Business i. 2008/5/3
(注4)Ministry of Commerce & Industry, Department of Industrial Policy & Promotion [2005]. “Press Note 2 (2005)”
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