コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

クローズアップテーマ

日本の温室効果ガス排出量の中期目標が意味するもの

2009年06月12日 三木優


 麻生総理は6月10日、2020年における日本の温室効果ガス排出量を1990年比マイナス8%とする中期目標を公表した。この中期目標に対する産業界・環境NGO・各国の評価・コメントは以下の通りである。

・産業界:厳しい目標との認識。産業界に求められる削減量が多くなれば、生産を海外移転する必要がある。国際公平性の観点でも日本だけが突出した削減になり不公平。
・環境NGO:気候変動を緩和するためには、1990年比マイナス25%以上の削減が必要であり、不十分な目標。
・中国などの途上国:先進国は大幅な削減をすべきであり、数値目標を示した事は評価できるが、目標水準は不十分。
・EU:中期目標を公表した事は評価できるが、排出権取引など国外における活動により削減できる温室効果ガスについても目標に含めるべき。


 中期目標検討委員会で示されていた6案(1990年比プラス4~マイナス25%)のほぼ中間を選んだ事もあり、各方面からの評価・コメントは「行き過ぎ・不足・中途半端」と言うものが多くなっている。数字だけを見ると今の目標であるマイナス6%から2%ほど削減するだけに見えるため、さほど影響がないようにも感じられる事が、あまり評価されない遠因になっているのかもしれない。

 中期目標が意味するものを事実ベースで並べてみると以下の通りである。

・今のマイナス6%の目標は、森林吸収(3.8%)と京都クレジット(1.6%)により、実質的にはマイナス0.6%の目標となるため、中期目標では削減幅が7.4ポイント増加する。
・2007年度の温室効果ガス排出量は13億7,400万t-CO2であり、1990年比プラス9%。ここからマイナス8%にするためには、2億1,250万t-CO2(17%)の削減が必要。これは事業所単位で見た場合、日本で最もCO2排出量の多い、JFEスチールの西日本製鉄所5個分に相当する。
・産業・業務・家庭の全てにおいて、最も効率の良い設備・機器を導入する必要がある。導入を確実に進めるために、義務化の一歩手前となる政策(例:省エネ法における罰則の強化など)が必要になる。
・発電におけるCO2の削減などにより、エネルギー価格が上昇する。上昇幅は炭素税や排出権取引制度が導入されるか否かによって変わるが、20%以上は上昇すると見込まれる。


 以上の4点を眺めただけでも、日本の中期目標は少なくとも簡単に達成できる水準ではない事は容易に想像できる。しかし、電力や鉄鋼、化学などのCO2排出量が多く、危機意識の高い産業を除けば、今回の中期目標に対する反応は総じて「他人事」と言う反応が多いように見受けられる。中期目標には、確実に社会や経済を大きく変えるインパクトがあり、それはたった10年で進められる。

 中期目標が1990年比プラス4%であれば、「他人事」で終わっていたかもしれない。しかし、そのような目標にはならなかった。「自分事」としてとらえた場合、企業にとっては、設備投資のスケジュール感を考えると、残された時間はそう多くはない。様子見はそろそろお終いにして、中期目標の意味を理解し、最適な投資・費用で「低炭素社会」に適応していく準備を進めてはいかがだろうか。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ