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地域再生のために自治体が取り組む課題と民間手法の有効活用 第2回 民間手法の有効活用

2007年11月01日 日吉淳


夕張市の財政破綻に象徴されるように、自治体の財政悪化に歯止めがかからない状況である。このまま進めば数多くの自治体が財政破綻する可能性も否定できない。そもそも、どこに問題があるのか、どうすれば問題が解決するのかなど、主席研究員の日吉淳に話を聞いた。


起債の信用補完がなくなると、自治体はどのようになってしまうのでしょうか?

「三位一体改革」が推進されると、自治体運営に必要な資金調達も、国を頼らず、各々の自治体が自立して行わなければなりません。そうなった場合、自治体の財務的な評価が資金調達の条件を左右することとなります。つまり、自治体の借入金総額、ROAなど財務諸表の評価指標を見て、「A自治体ならお金を貸せますが、B自治体はお貸しするのが難しいですね。」となります。場合によっては、資金調達不能な自治体が続出する可能性も否めません。
 また、市場の評価を得るため、民間企業のようにIRの観点からの情報公開が非常に重要になります。確かに自治体も財務諸表を作成し公開するなどしていますが、公開しただけで終わってしまい、それを戦略的に利用するという発想がありません。
 これからは民間企業のように、自治体も経営指標の改善を行い、信用力や成長力を自ら市場にアピールしていくことが求められます。

経営指標の改善のため、企業はどのような施策に取り組みましたか?

 バブル崩壊後、民間企業は効率的な資産マネジメントを行い、できるだけ資産を持たない経営にシフトしました。保有している資産をファンドなどに売却したり証券化したすることで、オフバランス化を図り、ROAを向上させました。
 また資産を持たないことにより、固定費として重くのしかかってきた経費が発生せず、結果として別の用途に資金を振り向けられるという効果もあります。
 自治体も民間企業と同様、資産マネジメントという発想を持って、可能な限り資産を持たない経営を目指すべきだと思います。






自治体も資産マネジメントが必要な時代になってきたことはわかりましたが、民間企業は近年どのような取り組みをしているのですか。

 バブル崩壊により、企業の多くは、不動産投資や所有で大きな経営上のリスクを経験してきており、さまざまな資産マネジメントの手法が確立されてきました。近年では、資産を単にマネジメントするだけでなく、戦略的に活用して運用効率を上げ、企業価値を向上させるCRE(コーポレート・リアルエステート)戦略が民間企業では注目されています。営利目的である民間企業向けのCRE戦略は、単純には自治体に応用できませんが、自治体の保有する資産(不動産)を重要な自治体財務戦略として位置づけ、資産保有の戦略を根本から見直すPRE(パブリック・リアルエステート)戦略を確立させるべきと考えています。
 たとえば、自治体の保有する不動産の資産効率を行政サービスの視点から評価し、低成長のわが国においては今後、行政需要が大幅に増加しないという前提で、資産の保有量に上限を設ける「資産総量キャップ制度」などの導入を進めることも考えられます。また金融資産、不動産などの資産を売却、証券化して資金を調達するアセットファイナンスという手法もあります。
 このようにPRE戦略への取り組みには、まさに民間企業のノウハウが大いに活用できるのです。

PRE戦略以外にも、自治体が参考にできることはありますか。

 事業そのものが生み出す将来のキャッシュフローを担保にした事業の証券化も企業がとっている手法の1つです。自治体にも水道事業のように収入のある独占事業がいくつかあるわけですが、それらを独立行政法人のような形で民営化し、将来的に完全に民営化することで上場させることも考えられ、上場益で必要な大規模設備更新を行うなどさまざまな展開が可能になります。
 さらに一歩進めて、近隣の自治体の水道局を買収し広域化していくM&Aといった展開も考えられます。消防など、別の事業でも同様のことが検討できるでしょう。
 また自治体ばかりではなく、第3セクターや外郭団体なども所管部局の縦割で組成されてきたため、事業分野が重複するなど無駄も多く再編は必要です。企業においても、グループ会社や関連会社などで同様の問題があり、持株会社を活かして事業の重複をなくし、整理・効率化をはかるグループ経営という手法が採用されています。
 他にもさまざまな手法があり、民間企業の経営改革手法を自治体経営へ応用することは検討できそうです。


自治体経営の改革に民間のノウハウがいろいろと活用できそうだが、実際にどのように進めていけばいいのか、民営化などによって本来求められる公共サービスの質が落ちる可能性はないのかなど、次回は官民のパートナーシップのあり方について話を聞いていく。
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