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第9回 重要な欠陥の判断を急げ!【下野 雄介】(2008/11/27)

2008年11月27日 下野雄介


1.J-SOX対応の現場で起きている事

 J-SOX本番年度も半分の道のりが過ぎ、本番年度の収束に向けて、大半の上場企業の内部統制担当者は会計監査人の指摘への対応に追われ、忙しい日々を過ごされているものと思われる。
 筆者もそういった場に立ち会い、不備を含む様々な指摘を整理しているが、対応企業によって指摘内容や進捗に大きな差があるように見受けられる。例えば、現段階で、ある企業では統制の内容の不備の指摘がなされているが、ある企業では文書の記載レベルや記載の様式について、まず指摘を受ける。つまり内容についての監査はまだ先に予定されている、といったような状況である。まだ監査が実質的にはスタートしていない、といった企業もあるのではないだろうか。
 J-SOX対応において、誤解を恐れず言えば、最終的な成績として、「重要な欠陥の有無」が関係者の一番の関心事だろう。筆者は現時点で監査進捗が比較的遅い企業において、重要な欠陥が期末時点で突然指摘されるという事もあり得ると考えている。この場合、重要な欠陥を改善する時間的余地が非常に少なくなり、重要な欠陥を開示しなければならなくなる可能性が非常に高いと考えられる。
 本稿では、企業ごとの進捗の差を生み出している背景と、企業がこの状況に対してどう取り組むことが望ましいのか、という点について述べたい。

2.背景と想定される事態

 実施基準では、重要な欠陥について、以下のように記述されている。

・財務報告に係る内部統制が有効であるのは、当該内部統制に重要な欠陥がない場合
・重要な欠陥とは財務報告に重要な影響を及ぼす可能性の高い内部統制の不備
・内部統制の不備が重要な欠陥に該当するかは、金額的、質的な面の双方から検討

 また、金額的、質的な判断基準については、実施基準や、いわゆる実務上の取扱いで下記のように例示されている。

・金額的な重要性は、例えば連結税引前利益については概ね5%程度(後略)
・質的な重要性については、上場廃止基準や財務制限条項に関する記載事項などが投資判断に与える影響の程度、関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項などが財務報告に与える影響の程度で判断する。
 
 このように、重要な欠陥について、金額基準では具体的に不備をどのように金額換算するのかといった点について記載がなく、質的重要性については、その具体的な判断の手順(どの程度上場廃止基準に影響を与えると重要な欠陥なのか等)について明示されていない。日本版SOX法では、US-SOX法での基準一律適用による混乱の教訓を活かし、企業の実態に合った内部統制の構築を主眼としている為、全体として許容度が広い表現とせざるを得なかったわけだが、この点で、逆に「重要な欠陥」がどういう場合に該当するのかについて実務的にどう判断するか、会計監査人や対応企業を始め、関係者にとって、答えを“出しにくい”状況となっているものと推測される。
 こういった背景の元、内部統制システムが非常に“理解しやすく”、かつこれまでの会計監査の経験から言って、既にリスクが低いと想定できる企業に対しては、“重要な欠陥に該当するリスクが低い為”内部統制の有効性に対する監査結果が、期中でも“緩やかながら”提示されていると思われる。対して、財務報告全般にかかるリスクが高い(と会計監査人が判断している)企業ほど、どの程度の重要な欠陥であれば、公表するのが一般的なのかという世間相場を見極めながら、内部統制監査の結果を、できるだけ期末日に出すというインセンティブが高まる。その場合、期中の監査結果に対する名言は極力避けることになると思われる。
 このような“見えざる意図”によって、企業ごとに進捗が、場合によっては大きく異なっているのではないかと考えられる。
 なお、これは会計監査人側に瑕疵があるかというと決してそうではない。実施基準では、あくまで内部統制の有効性は経営者の評価が前提となり、会計監査人は期末時点でその有効性を判断する事が認められているからである。つまり、経営者の評価がそもそも遅れている場合などは会計監査人が結論を出せないのは当然だろうし、経営者の評価した内部統制に対して、会計監査人が(緩やかな)重要な欠陥の指摘を期中に行わない事についても、会計監査人を責めるのは筋違いかもしれない。
 また内部統制が有効ではないと判断された場合においても、財務諸表監査上で有効性を確保するという場合もあり、内部統制が有効ではない事が即座に投資家の意思決定に大きく影響するかという点についても明確ではない点に留意する必要があるだろう。

3.重要な欠陥は会社主導で判断を実施

 とはいえ、重要な欠陥の公表が、現時点でどのような事態を惹起するかが不明確である限り、企業としてはリスクを低減する行動を取るべきであろう。
 事態の回避に向けて、企業が行うべきは、まず全ての分野における経営者評価を早急に終了させることである。上述した通り、本法では経営者評価が大前提となっている以上、会計監査人に対して、内部統制の有効性判断は迫れない。
 二つ目に、企業独自に重要な欠陥の抽出及び判断手順を明確にする必要がある。例えば、市販の内部統制実務に関する手順書等を基本として、経営者評価で抽出されている個々の不備をベースにして、実際に判断を行う事で、判断基準を企業独自のものにカスタマイズしていくのが現実的だと思われる。
 三つ目に、企業側が主体となって、会計監査人に自社としてはこうした、という基準を提示し、早急に協議する事である。あくまで企業側が主体となって取り組まない事には、結論が出る可能性は低いものと考えられる。
 これらを十分に行っても、期末における重要な欠陥の指摘は免れないケースもあるだろう。但し、リスクを放置し、世間相場から見てもあまりにお粗末な結果となるのは企業としては回避するべきである。
 特に3月決算会社については、残り少ない時間を有効に活用頂き、内部統制報告書の提出に至る事を切に願う。
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