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コーポレートガバナンスの落とし穴

2008年10月31日 冨島正雄


 近年コーポレートガバナンスに関する議論が盛んとなってきている。コーポレートガバナンスには様々な定義があり、例えば内閣府(旧経済企画庁)は
「企業のステークホルダー(利害関係者)が、自己の利害に基づいて、自己の利益に合致する経営を行わせることを目的として、何らかの手段によって、経営者の意思決定に影響力を及ぼすこと」
と定義している。つまり、ステークホルダーが経営者の行動を牽制する仕組みといえる。ステークホルダーとは、この場合「a.株主」「b.債権者」「c.従業員」「d.消費者」「e.地域社会」等があたる。現在は、会社法や金融商品取引法改正もあって、株主保護や株主価値向上の観点から、株主が経営者を牽制する仕組みをいかに作るかに議論が集中しているようである。

 しかし、株主主体のコーポレートガバナンス構築には落とし穴がある。オーナー企業(=オーナーが経営者であり大株主である企業)に対してコーポレートガバナンスを如何に機能させるかという視点が不十分なのである。実証研究においては、経営者による株式保有は、経営者と株主との利害対立を緩和し、企業価値の増大に貢献する(Jensen and Meckling (1976)) 反面、内部経営者の保有比率が高くなるに従い、外部からの圧力を受けにくくなるため、トップ経営者の交代と株価パフォーマンスの関連性が薄くなる(=業績不振や経営陣の暴走があっても、経営陣は交代させられることはない)。(Denis, Denis and Sarin(1997)) といわれている。

 では、オーナー企業において、株主以外のステークホルダーが経営牽制機能を発揮するのは可能だろうか。残念ながら困難である。例えば社外取締役がその機能を発揮しているかというと、多くの疑問がわく。監査役は実質的に経営者が指名するのであるから、経営者に対する牽制機能を期待するのは無理がある。従業員は組織化されないとパワーは発揮しにくいと考えられる。いずれも経営者にモノ申すときには、解雇や左遷を覚悟せねばならない。債権者(金融機関)は融資引き揚げという牽制機能発揮手段があるが、近年そのパワーは低下しているといわれている。
 結局、オーナー企業においては経営者が暴走したとしても、重大なコンプライアンス違反を起こすか、企業体力が疲弊して倒産に至るまで経営者を牽制すべきガバナンス機能は働かないのである。例えば上場企業における内部統制報告制度導入の一つのきっかけとなった西武鉄道は典型的なオーナー企業であった。

 日本の上場企業にはオーナー企業が少なからず存在する。茶木(2007) の研究によると、2004年3月31日現在の東証一部上場企業のうち「10大株主の中に創業者又は創業者一族及びその関連企業または財団が名を連ねており、かつ一族が会長又は社長の地位にある」企業は274社あった。企業規模が小さくなるほどオーナー企業の割合が増え、かつオーナーの議決権所有割合が増加する傾向があるので、ジャスダックやヘラクレスを含めた上場企業全体で考えると、上場企業でオーナー企業というのはかなりの数にのぼると推測される。

 株主と違った立場から経営陣に牽制をきかせる仕組みを作るのは困難である。世界的に見ても、社外取締役の強化や労働者代表による監査役会設置程度しか見当たらない。しかし、オーナー企業に対するガバナンスをどうするかという視点が無ければ、より充実したコーポレートガバナンスの構築は望めないのではないだろう。また、一般株主にとって本当にコーポレートガバナンスの構築が必要なのは、オーナー企業なのではないだろうか。

参考文献:
Jensen, M.C. and W.H. Meckling (1976) “The Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure, “ Journal of Financial Economics, 3, PP.305-360

Denis, D.J., D.K. Denis and A.Sarin(1997) “Ownership Structure and Top Executive Turnover, “ Journal of Financial Economics, 45,pp.193-221

茶木正安 「ファミリー企業:その正統/正当性とコーポレートガバナンスについて(ファミリー企業の収益性分析)」 2007年度 日本経営品質学会秋季発表会資料
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