1.はじめに
組織は戦略に従うという言葉の通り、組織設定は非常に難しい問題です。マネジメント層にとって最適な組織がどうあるべきなのかという問いは永遠のものではないでしょうか。
そうした問題意識に対して一つのアプローチを示します。組織はその保持すべき機能を明確に定義した上で、その機能をどの程度の品質で実現するかにより設計するというものです。しかしながら、現状でどの機能にどれほどの時間(資源)をかけているのか、それ以前にどのような機能が組織に現在存在しているのかが見えない企業は意外に多いものです。職務分掌などが古すぎて現実を表していないなどもよく聞かれる話です。
そうした組織の問題に第一に取り組むべきは、「現状把握」であることは間違いありません。例えばどんな医者であれ現状を把握せずに薬などを処方することはありえません。手術の前などは必ず精密検査をします。組織最適化を考える場合も同様であり、組織の現状を把握することは何よりも第一に必要な事であると考えます。
本稿で紹介するのは、そうした現状把握を目的とした業務量調査ツールを用いた現状業務の可視化の手法です。調査により得られた現状の業務量情報は、組織最適化を考えるにあたり非常に有効なものになりえます。問題の箇所を見つけるだけでなく、実施施策の目標を設定するためのベースとなる情報としても活用できます。また、実施施策の前後で測定することで効果測定にも利用が可能です。
また、組織最適化だけでなく、業務改革(ビジネスプロセスリエンジニアリング)やシステム導入における重点機能の導出にも実際に利用をしており、その効果を上げています。
2.組織最適化に対する考え方
◆組織再構築に対する考え方
筆者が考える組織のあり方を定義する上で考えるべきポイントは以下の4つです。下記の4つの視点において総合的に分析することで組織の規模などが導出されることになります。
- 機能分析
該当の組織はどのような機能を保持すべきかを定義します。全社の目的と同一の方向性を持った組織目標を達成するために「最も必要な機能は何なのか」 また 「目標達成に効果の得られない機能は何なのか」「該当の機能がないことで全社的に致命的な損害を受けるか」の三つを明確にします。合わせて戦略との整合性を見ることも必要となります。 - サービスレベル(貢献)分析
該当の組織の貢献は誰に対してのものなのか(顧客は誰か)。顧客に対してどのような貢献を果たすべきなのかを明らかにします。 - 意思決定階層分析
該当の組織の意思決定の階層、手順などは適切になっているか。意思決定すべき事項が可能な限り簡素化されているか、責任の所在が明らかか、意思決定階層が適切化(全社へのリスクがあるものが一部門で意思決定されていないか、またその逆はないかなど)などを明らかにします。 - 組織間情報分析
該当の組織が他の組織の間でどのような関係にあるか。組織間の情報は最適化されているか、必要不可欠なものがないか。組織単位の設定が冗長ではないかなどを明らかにします。
3.組織最適化に向けての5つのステップ
◆組織最適化に向けての5つのステップ
組織の最適化に向けて次の5つのステップを行うことで、合理性のある改革を実践できます。
- 現状業務の分析
- 課題の明確化(何が本当に問題なのか)
- 定量化目標設定(機能をどの程度の人的資源で対応するか)
- あるべき姿の立案(保持すべき機能とサービスレベルの定義)
- 実践
また、4における機能分析において、組織は戦略に大きな影響があることから、機能は戦略的な視点から導出されなければなりません。
(以下に示す図表は本社機能を意識したものとなっていますが、企業のあらゆる機能に置き換えることができます)
4.業務量調査ツールのご紹介
◆業務量調査の効果
業務量調査ツールを用いて定量情報をあきらかにすることで次の3つの効果が期待できます。
- 現状の業務の姿があきらかになる。
・ 一人当たりの作業時間と業務構造
・ 部門やチームなど組織単位の作業時間と業務構造
・ システム入力作業や、帳票作成、打合せ時間など業務の属性ごとの作業時間
・ 負荷の大きい業務の特定
・ 強化すべき業務の現状の資源配分状況。
などの現状の姿が明らかになります。 - システム投資、業務改革に向けての目標設定及び効果測定のベースとなる。
システム投資や、業務改革の前後で実施することでどれほどの効果が得られたかを把握できます。現状の業務量から、経営目標などから導出される目標値を設定(現状業務から○割削減等)を行うためのベースとしての情報になりえます。 < - 組織改革における社内でのコンセンサスを得るためのエビデンスとすることができる。組織変革においては、既存の枠組みからの抵抗なども大きいことはよく聞かれます。定量的に業務構造を把握することで、現状を明確に共有して合意のもとで組織改革を行うことができます。
◆業務量調査ツールの特徴
本業務量調査ツールは以下の7つの特徴を持っています。
- 個人ベースで申告形式において入力する。
- エクセルを利用しており、メールなどで送信が可能であるため、現地に行かなくても調査が可能。
- 全数調査が最も傾向を捕らえることができるが、限られた人数で実施してモデルケースから全体を算出することもできる。
- 簡易な入力方法であるため、入力にはさほど時間を必要としない。
- 調査は個人単位に行いますが、番号を付与して行うため、個人情報保護法への問題はない。
- 汎用的な業務構造が準備されているため、それらを元にして業務構造の洗い出しが可能。
- 汎用業務構造が準備されている業務:経理財務、総務、人事、情報システム、営業など。
なお、その他業務に関しても流用してテンプレートを準備することは可能
◆活用のポイント
業務量調査の定量情報を活かすには次の3つのポイントを重視して取り組むことが必要不可欠です。
- 定量データは一つの「情報(≒事実)」であるため、それをどのように活用するかの目的意識を事前に持つ。
- 業務構造は、貴社の調査対象者にとって十分理解できるものでなければならないため、業務構造の定義に十分検討を行う。
- 限定された範囲で調査する場合は、調査対象者が業務的に偏りがない人などを人選することが必要(新人などでは実態の姿が見えない)。
また、目的が組織体制の最適化であるならば、間接部門(支援機能)における業務の適正規模は、その組織が保持しなければならない機能を定義した上で、更に、機能をサポートする制度、業務ルール、システムの活用の程度を鑑みて、体制を検討しなければなりません。
業務量調査により現状の業務機能のどこに時間を割いているかが明らかになります。組織最適化検討を行う上でまず取り組まなければならないのがこのような現状把握といえます。
◆業務量調査ツール
業務量調査ツールは下記図表のようなエクセルファイルで作成されております。マクロが組み込まれており、自動的に数値を集計することができます。
◆業務量調査実施手順
業務量調査実施に当たっては、上記のエクセルをメールで配信し、個々人の申告により入力を行い回収します。