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森林クレジットと木材利用価値の「見える化」

2008年10月23日 佐々木努


 現在、農林水産省において、木材利用に係る環境貢献度の「見える化」に関する検討が行われている。筆者も当コラムにて何度か森林や木材資源の環境価値を取り上げてきたが(【2008/5/15】見える排出権、見えない排出権)、本稿では改めて森林や木材利用の価値について整理してみたい。

 森林や木材利用には地球温暖化対策のカーボン価値と、水源涵養機能や災害防止などの価値が存在するが、ここでは、話を簡単にするためにカーボン価値のみに焦点を当てることとする。

 筆者は、森林や木材利用のカーボン価値を、(1)再生可能価値、(2)吸収価値、(3)蓄積価値、の3つに分類することができると考える。それぞれの定義は次の通りだ。
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<再生可能価値>
エネルギー源として木材資源を利用する場合、木材の再生可能な特性から二酸化炭素の排出をゼロ(カーボンニュートラル)にできる価値。

<吸収価値>
植林や間伐などの森林経営や森林減少の回避などの活動を通じて、大気中の二酸化炭素を吸収することができる価値。

<蓄積価値>
木材は大気中の二酸化炭素を吸収・固定していることから、木材を利用することで炭素を大気中に放出せずにストックできる価値。
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 森林や木材利用のカーボン価値というと、人々の感覚的に最も受け入れられているのは「吸収価値」である。森林保全や植林を否定する人はほとんどいなし、企業もそうした活動をCSRとして取り組んでいることが多いことに表れている。また近年では、温暖化問題への意識の高まりから「カーボンニュートラル」という言葉も市民権を得つつあるように、「再生可能価値」への理解も急速に広まっている。

 一方で、それらの価値を具現する制度としては、カーボンクレジットが存在する。ただし、現状では「再生可能価値」と一部の「吸収価値」のみを対象としているに過ぎない。例えば、バイオマス発電は日本や途上国のどちらにおいて実施しても価値化できるのに対して、森林経営による「吸収価値」の具現の取り組みは、国内では一部都道府県などで動き始めているものの、途上国においては何の制度も存在しない。

 今回、農林水産省が検討している「見える化」の検討は、「再生可能価値」や「吸収価値」に追いやられ、陽の当たらなかった「蓄積価値」の価値化の道筋を示すという点で評価できる。ただし、「蓄積価値」だけに特化するような価値化の仕組みでは、森林や木材が持つ本来の価値を十分に表現できない。森林や木材は上記の3つの価値を併せ持つだけでなく、カーボン価値以外の機能も有する複合的な存在である。我々消費者は、そうした複合的な森林に価値を見出しているように思う。そうした消費者の心理に訴えかけていく森林クレジットが求められているのではないだろうか。
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