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自転車とエコ

2008年08月27日 青山光彦


 2007年7月にフランスのパリで社会党ドゥラノエ市長のリーダーシップの下、大規模な貸自転車(レンタサイクル)事業がスタートし、約1年が経過しました。「ベリブ(Vélib’)」(Velo(自転車[仏語]+ Liberte(自由[仏語]の造語)と呼ばれるこの事業は、京都議定書における温暖化ガスの削減義務が1990年比0%と負担が軽いフランスにおいても、EUの温暖化対策の進展に伴い国民の関心も高まりを受けて、地球温暖化や排ガス等の環境保護を目的に、市民の移動手段として自転車利用の促進を図っています。

 この事業は、24時間・年中無休の利用が可能で、約300m間隔で路上にあるステーション(1,500箇所以上)にて、2万台を超える自転車を利用者自身の手で貸出・返却を行う「セルフレンタル」方式であり、クレジットカードによる支払いで、自転車にはICタグをつけ利用状況をコンピュータ管理されている、とのことです。
 基本料金である年間29ユーロを払えば30分以内は無料という料金設定も受け、ステーション間を短時間利用するスタイルが定着し、システム開始から1か月間の延べ利用者数は約165万人に達するなど、パリ市内の新たな風景となっているようです。

これほどまでに成功した要因はなんでしょうか。様々な情報を整理すると、以下のような項目が推察されます。
・職住近接のコンパクトなまちで活用された
・自転車が無料共有物でなく有料のものとしたビジネスモデルが確立され、税金を使わず広告代理店がシステム運営経費を負担した*
・自動車流入抑制という明確な目標が市にあった(放置自転車の削減ではなく)
・ICタグによる自転車の一括管理が可能であるなど最新技術が使われた
このほかにも、自転車のデザイン性、価格の手頃感などもあるかと思います。もともとは2005年にリヨンでスタートされたようですが、今後、ロンドンなどでも導入を検討するなど世界的に注目されています。

 それでは、こうした取り組みは日本国内でも適用が可能でしょうか。
国内を見ると、無料共有自転車の設置や、特に観光地などでは有料のレンタサイクルやなどのサービスが導入されている都市も多くあるようですが、フランスほど爆発的な人気を博しているという話は耳に入ってきません。
 無料共有自転車は基本的に善意に委ねられる事業であるため、自転車の返却等の管理面で問題があるようです。
 有料のレンタサイクルについては、貸出場所と返却場所が同じとしているものが多く見られ、単純な「乗り捨て」ができないなど、「チョイ乗り」には不向きとなります。
 こうしたことを考えると、「貸出・返却用のステーションの網羅性」が1つの成功要因として考えられそうです。ただし、インフラ導入には、様々な利害も絡むため、トップダウンによる一気通貫の取り組みが求められます。

 今後の低炭素社会のまちづくりの一つのオプションとしての自転車利用を掲げる自治体は、全国にも多数見られます。今後、導入検討に当たっては、その検討体制にも留意しつつ効果的な施策の推進が必要ではないでしょうか。


*税金を全く使わず、まちなみ景観を守るための広告規制があるパリでは、市当局と大手広告代理店が契約することで、同社がパリ市内で優先的に1,600枚の広告パネルを設置できる権利と交換に、システム運営に掛かる経費を負担することで、Win-Winの関係が築けた
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