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炭素制約による企業への影響

2008年07月31日 青山光彦


 先日の日経新聞で、日本興亜損害保険が2012年度までに二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにする、という記事がありました。2006年度比で15%を建物の照明や空調の省エネ化、書類等の電子化といった自助努力により削減し、残りの85%は排出枠を買い取る、とのことです。

 エネルギー多消費型産業においては、排出量を実質ゼロにするには相当な量の排出枠を買い取る必要があり、実際困難が予想されますが、こうした事例を踏まえて、今回、CO2排出量と経常利益という「環境と経済」の2大指標を切り口として、炭素制約による企業への影響について整理してみました。

1.排出枠購入による財務インパクト
 現在、国内排出量取引制度について国で検討が進められていますが、実際に、企業ごとに排出量の上限値(CAP)が設定されるようになると、企業活動にどのような影響が生じるのでしょうか。

 環境省は、5月に発表した「国内排出量取引制度のあり方について中間まとめ」において、排出量の多い7業種でそれぞれ売上高の大きい上位4~11社を取り上げ、過去5年間(2002~2006年)の平均経常利益・平均CO2排出量を算出し、排出削減を行わず排出枠・クレジット購入のみでオフセットした場合の経常利益へのインパクトを試算しています。(価格転嫁は想定しない単純比較)
 これによれば、1tあたりのCO2の取引価格を3000円とした場合、鉄鋼で65%、紙・パルプで62%、石油で53%の減額、と影響が非常に大きい一方で、自動車で1%、電機・電子で4% の減額、と影響は小さくなっています(いずれも一般電力由来排出量含む)。

 このように、企業活動に伴う炭素制約が進むと、各業種とも排出枠・クレジットの購入に際して、一定量の財務インパクトは否めません。また、留意点として、排出枠の購入にあたっては、その価格が常に流動的であるため、財務インパクトの振れ幅を単純に予測することは困難なことがあげられます。
 ただし、排出枠の購入は一つの選択肢であり、企業は、まず排出量削減の取り組みありきで検討を進めるべきでしょう。その上で、費用対効果の判断を通して、省エネ設備の投資を進めるのか、排出枠を購入するのか、といった戦略を立てていく必要があると考えられます。

2.ROC(炭素利益率)による企業診断
 いかに少ないCO2排出量で多くの利益を生み出すか、という視点に基づく経営指標としてROC(Return On Carbon:炭素利益率)があります。これは、値が大きいほど評価が高く、CO2という環境負荷が少ない事業活動を通して、より付加価値の高い事業活動を行っていることを示しています。

 ボストンコンサルティンググループでは、連結売上高上位100社の製造業を対象として、国内企業のROCのランキングを作成しており、2006年度はキヤノンがトップで1318、武田薬品工業が1008、トヨタ自動車が719となっています。
 また、海外の証券会社等はこうした考えに類するものにすでに着目しており、カーボンディスクロージャープロジェクトのメインスポンサーであるメリルリンチは、「売り上げ100万ドル当りのCO2排出量」を一つの指標(ROCと分子・分母が逆)として、業界ごと・主要な個別企業ごとにこの指標の値を算出しており、これに加えて総CO2排出量をオフセットするのに必要な費用、その費用のEBITに占める費用割合(上記1と同一の視点)もリストにしています。

 業種によって収益構造やエネルギー利用構造が異なっているため、単純に企業比較をすることは難しいですが、業界ごとの平均値と比較した場合の各企業の位置づけを把握するなど、地球温暖化リスクへの対応能力という視点での企業診断を行うことも可能です。
 今後、こうした指標が、日本国内の企業にも適用され、対株主、対投資家への環境コミュニケーションツールの一つとして重要な位置づけになるかもしれません。
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