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コラム「研究員のココロ」

製品絞り込みの現状と課題
~ プロダクトライフサイクルマネジメントによる投資効率改善へ ~

2009年03月23日 太田康尚


製品絞り込みの現状

 未曾有の不況である。恐慌といっても良い。その中で、多くの企業が製品(商品)の絞り込みを推し進めている(図表1)。
 確かに、多品種少量生産へのシフトが一般化する中で、製品数が無秩序に拡大し、非効率になった状況であれば、製品ラインアップを改善する為に絞り込みは必要といえる。ただし、コスト削減の視点だけで製品絞り込みを実施したならば、この状況を乗り切るのは難しい。未曾有の状況であるということを考えれば、さらに踏み込んだ対応が必要である。そのベースにあるのが、PLM(Product Lifecycle Management)の考え方である。
 本コラムでは、製品絞り込みの目的と問題点およびPLMの概念と必要性について述べる。



製品絞り込みの目的

 製品絞り込みの目的は、一言でいえば投資効率の向上である。選択と集中という視点で、製品の絞り込みで削減した資源を、新製品開発や他製品の販促等に再配分して、競争力を強化しようというものである。絞り込みには、その取り組み方針によって、「攻めの絞り込み」と「守りの絞り込み」がある。企業が最初に着手するのは、利益の出ない製品のカットであることが多いので、単なるコスト削減と捉えられることが多い。守りの絞り込みは単なる赤字製品の削減を目的とするものであるが、攻めの絞り込みは、主力製品の育成を強化するために、代替品などは潔く廃止していくものである。(図表2)
 実際に廃止対象製品を検討する場合には、まずは利益が出ない明らかな死に筋製品を、次の段階で貢献が少なく将来性の乏しい製品を、さらに代替品を、というように削減評価基準を段階的に上げていく方策を採用する企業もある。(図表3)



製品絞り込みにおける問題

 各社は増加する製品の廃止などを検討してこなかったのか?というとそうではない。大抵の企業は製品の動向をみながら適切な判断を下してきたつもりであった。しかし一度製品を世に送り出すとなかなか製造・販売を中止にできないという実態がよくある。中止にしようとすれば多少なりとも売り上げが消滅したり、他社にシェアを奪われたりという危惧から実施に踏み切ることが難しいのである。その結果、製品数が増加する傾向となり、管理費などのコストが肥大し、効率の悪い製品が増えて企業の投資効率が低下し、競争力も低下するというケースがある。

 製品絞り込みの検討において、撤退リスクを危惧する様々な立場の人間から消極的な意見が絶えないことがよくある。その際の議論で代表的なのは下記のようなものである。

 売上・利益の減少
 競合製品(代替品)の市場シェアが拡大
 自社の他製品の市場シェアが縮小(相乗効果の見落とし)
 共通の工程で生産していた製品ラインの製造コストが上昇
 共通の納入先から仕入れていた製品ラインの原材料コストが上昇
 共通で配送していた製品ラインの物流コストが上昇

 したがって大鉈を振るう場合、これらの議論で作業が進まないことを回避するために、トップダウンで明確な削減目標を出すことが多い。ただし、製品絞り込み自体が目的となるのはおかしな話なので、製品市場戦略上どうあるべきかという方針は欠かせない。
 また、トップダウンで目標が決まったとしても、取るべきリスクを評価することは必要である。その際には、上記の議論にあるような様々な影響をあらゆる視点で評価することが求められる。これら評価を円滑にするために、極力定量的な評価基準を設けることが必要となる。

 これら製品絞り込みの検討は、景気が悪化したときだけ実施するものではない。大鉈を振るうのはそうだとしても、定期的に各製品の存在意義を検討する仕組みを企業内に持っておくことが理想である。市場環境が早いサイクルで変化している昨今、継続的に製品のパフォーマンスをモニタリングし、常にその時代に相応しい製品ラインアップを維持することが投資効率を向上させる。それらを実現するためには、製品のライフサイクルをモニタリングして、適切な判断を下す仕組みが必要となる。その仕組みのベースにある概念がPLMである。

PLM(Product Lifecycle Management)とは

 PLMとは、製品の企画、開発から設計、製造、販売、出荷、メンテナンス、さらに生産・販売の打ち切りまで、製品のすべての過程を包括的に管理することで、市場のニーズに合致した製品を適切な時期に投入、改善および廃止することを目指す、製品を軸とした経営管理の仕組みである。
 PLMでは、特定製品のライフサイクル各時点において、その状況をモニタリングして、適切な活動をすることにより、該当製品の貢献度(利益貢献)を向上させようというものでもある。(図表4)

 部門の縦割りで、開発、生産、販売など各部門などでの部分最適化に陥って弊害が出ている場合、製品軸で包括的に管理できる仕組みを構築することによって、より迅速な活動ができる。このPLMという概念は、多品種少量生産で、製品の寿命が短くなる傾向が強くなった昨今、特に注目を集めている。

 製品のラインナップを常に最適と考える状態にしたいとするならば、PLMの概念に基づいたマネジメント・システムの構築と運用が有効である。

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