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組織変革のための社内アンケート調査の活用法

2008年04月04日 山本大介


1.はじめに

 ようやく回復軌道にあると言われる日本企業ですが、事業の整理と海外市場展開に依存する部分も多く、本丸である国内事業部門についてはまだまだ改革の途に着いたばかりと言われています。経営企画や営業企画といった企画部門のご担当の方からは「何から手をつけて良いかわからない」といった戸惑いの声を聞くことも多いのが現状です。

 企業改革のステップとしてまず必須なのが「強烈な反省論」だと言われています(参考:プレジデント2004.8.2号 三枝匡「上司も部下も腐らせる集団心理の落とし穴」)。しかし、多くの企業でしばしば起こるのが「意識改革だ!」と高らかに叫ぶトップやミドルこそが古い意識を引きずってしまっているという事態です。会社全体で本当の意味での「強烈な反省論」を共有するためには、反省を引き出す「事実」がなければなりません。それはある企業では「顧客の声」であったり、「事故を起こした製品」であったりするのですが、ここではもうひとつ、「社内アンケート調査」の活用方法をご紹介します。

2.社内アンケート調査の意義

 組織改革の第一ステップが「強烈な反省論」であることは何も新しい発見ではなく、組織変革を試みる誰もが取り組んでいることです。しかしこの第一プロセスをクリアすることができないまま先に進もうとして失敗するケースが後を立ちません。それは何故でしょうか?

 「危機意識」は誰かに強いられるものではなく、「自ら気づく」ものだからです。ではどうすれば自ら気づくのでしょうか。自らの状態を客観的に認識すればよいのです。自分はどんなことを考えているのか。自分はどんなことをしているのか。社員の皆さんはアンケートで自ら手を動かすことで、自らの現状を形にし認識することになります。

 筆者は社内アンケート調査は社員の皆さんに自らの状態を認識して頂く極めて有効な方法だという実感を持っています。たとえ結果がどの本にも書いてあるような指摘や提言であっても、それが自分たちの意見の集約であるという認識があれば人は受容しやすいものです。そして社員の皆さんが自らの状態を認識して変革の必要性を自覚すれば、経営層へ働きかける社員の声も強くなります。経営層にとっても、通常なかなか見えにくい社内の実態を把握する絶好の機会となるでしょう。変革を進めるために組織全体が自ら気づく助けとなることが社内アンケート調査の最大の意義なのです。

3.社内アンケート調査の利点

 組織変革の為にはまず社内の現状把握が必須ですが、この作業は変革プロジェクトの担当メンバーの個人的な意見や抽出された対象者に対するヒアリングを拠り所とすることが多いようです。しかしこれらの手法では社内全体の現状を正確に把握するには視点が不足していると言わざるを得ませんし、少数の人間による状況解釈に不安があることも否定できません。その結果、問題の解決が誤った方向に進む恐れがあるだけでなく、社内に対する説得力が薄まってしまいます。これに対し社内アンケート調査には次の利点があります。

利点1.
一度に大勢の組織構成員の意見を汲み取ることができる。社員全員に回答を求めることも可能である。

利点2.
会議形式では周囲の目が気になり本音を話すことがなかなかできないが、一人で冷静に回答するアンケートは本音の回答が得られる。

 さらに、アンケートに選択回答形式を採用すれば、以下の利点も得られるでしょう。

利点3.
全て数量的に換算可能であり、定量的な分析結果を出すことができる。

利点4.
選択回答形式は自由回答形式と比較して回答が容易であり、全ての設問にわたって真摯な回答が得られやすい。

 これらの利点の結果として次の2つの効果が期待できます。

効果1.より正確な問題把握
効果2.強力な説得力

4.社内アンケート調査が備えるべき10の条件

 社内アンケート調査は、組織変革のための調査として必要とされる条件を網羅しつつ、アンケートの持つ特性を最大限に活用しなければなりません。私たちは、これまでのコンサルティングの中の実績から、有効なアンケートとは以下のような条件を備えるべきだと考えています。

<質問項目の内容について>

1)顧客との接点となるマーケティング、営業、サポートサービスなどのフロント機能の活動状況、管理体制の状況を把握できること
2)社内の連携状況(ライン/スタッフ各組織内、ライン-スタッフ間)が把握できること
3)組織を支える人材育成、評価体制、情報化レベルの現状が把握できること
4)1)~3)の現状と、業績との関連性を把握できること
5)何より、全ての社員が容易に質問の意図を正しく理解し回答できること

<アンケートの形式について>

6)大半の質問は複数段階の選択回答制(回答の段階数は揃える)であること
7)無記名とした上で、分析に必要な年齢層や所属部署についてある程度の属性情報は収集すること

<分析について>

8)分析はあくまで個人を特定せず、組織としての現状を客観的に記述すること
9)分析結果及び分析結果を受けて策定された課題対策案は社内に公表し、回答者にフィードバックすること

<実施方法について>

10)回答要請については回答者からの最大限の協力が得られる方法を選択する(トップダウンでの回答要請あるいはボトムアップでの取り組み、電子媒体を使用あるいは紙媒体を使用、など)こと

 経験上の意見としては、これらの条件全てを備えた調査設計、実施、分析、報告の各作業にはかなり負荷がかかります。よいアンケート設計ができれば、目的の半分以上が達されたといってもよいほどです。大規模な組織変革の第一歩という調査の持つ意味を考えれば、これらの作業に相応しい人材を調査の企画段階から投入し、調査報告以後の変革プロセスの推進にもこれらの人材を参画せしめていくことが望まれます。

5.社内アンケート調査結果の活用例

 アンケート調査を社内の危機意識喚起に用いた例を一つ紹介しておきましょう。

(大手メーカーA社の事例)
 同社ではこれまで本部主導で変革の取り組みをしてきたものの現場に受け入れられず行き詰まりを感じていました。そこで、経営トップ層のサポートのもと、営業部門の全社員1000名以上を対象に社内アンケートを実施しました。その上で企画部門スタッフが我々と共に分析した結果を手に全国10営業支店を訪問し、支店長をはじめとする現場の人々に対して数時間にも及ぶ説明を行いました。

 最初は分析に対する疑念もいくつか出されましたし、不本意で認めたくない部分があることから反発も発生しました。しかし、企画部門スタッフの粘り強い説明により現場の人々は「自分たちの意見を集約した」会社の現状を認識しはじめるようになりました。そして現状を認識した上で、その解決のための意見が現場から出るようになってきたのです。このアンケート結果は直接説明を受けていない社員の間でも話題になり、様々な場で説明会が繰り返された。

 この後、同社では、全社の営業体制変革活動が実際に実行に移されました。この活動はアンケート調査による社内の意識の高まりを背景に円滑に受け止められ、現在もなお活動は継続されています。

6.おわりに

 本稿では社内組織の変革にあたって社内アンケート調査という手法で変革の方向性を探ることを提案しています。社内で大規模に実施された調査結果は実に貴重なものですが、しばしば書庫の片隅に置き忘れられているようです。調査結果をどのように解釈し、変革プロセスを設計し、プロセスを推し進めていくかは実施企業の意志に委ねられますが、重な調査結果を最大限に活用していくには調査チーム内での意見交換に留まらず、社内広くの意見を募ることが必須です。普段現場を直接見る機会に恵まれない経営トップ層にとっては客観的で精緻な分析結果が意思決定の大きな助けになります。また現場としても、自分たちが回答した結果なのだと思えば分析結果に違和感を持つことは少ないものです。問題意識が顕在化され、変革の必要性が現場で語られるようにもなります。このように、変革のうねりをトップから最前線まで行き渡らせる、「共通言語」を生み出すことこそが変革プロセス推進を成功に導く鍵だと言えるでしょう。
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