コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

自治体のIT調達・運用のさらなる効率化

2008年07月07日 矢野聡


1.効率化のために必要なアクション

 ここ数年で多くの自治体がホストコンピュータ方式からクライアントサーバー方式に移行し、以前よりもシステムの運用・改修コストが下がってきているとは言うものの、「100を超えるシステムが存在し、年間数億円から十数億円の運用管理費が発生している」という状況にある自治体も少なくありません。今後は切り替えたクライアントサーバー方式の情報システムを、中長期的な視点のもとで、いかに効率的に運用していくかが求められる段階に移ってきていると言えます。
 これら情報システムの企画、調達及び運用・管理については、技術の進歩が著しいこと、また、システムがブラックボックス化しているケースが多いことから、自治体職員だけでは専門知識が不足し、業者の薦めるままにシステムを導入し、特定ベンダーの技術あるいは提案に依存してしまい、必要以上にコスト負担が大きくなっているケースが少なからず存在していると考えられます。
 そこで、自治体のIT調達・運用において求められるのは、「現在の情報システムの調達及び管理・運営の状況について、必要以上にコストを負担していないか」、「非効率な情報システムの運用を行っていないか」という点を検証して改善点を明らかにするとともに、「業者との交渉においても、自治体が有利に交渉を進める」ことができるよう、庁内の情報共有化、人材育成、体制作り、手続き・評価の標準化を確立し、情報システムの最適化及びコスト削減を実現することです。
これらを実現するための方策の1つとして、山口県をはじめとする幾つかの自治体では「外部人材によるITアドバイザーの活用」を採用し、調達コストの削減や庁内体制の再構築など具体的な成果を挙げています。

2.ITアドバイザーに求められる資質・機能

 シンクタンク、コンサルティング会社などの外部人材を活用したITアドバイザーを選択する際、ITアドバイザーに必要な資質として、情報システムに関する知識・経験を有していることはもちろん、自治体業務に精通していることも必要です。
 例えば、新システムの企画を策定する際、システムの内容はもちろん、予算時期や庁内の序列、仕事の仕方・仕組み(どのような予算要求書類が必要で、誰の理解を得るべく作成するか、など)を知っていること、調整能力・合意形成能力を有していることが自治体の現場では特に重要となると考えられるからです。
 その結果、当事者である部署間・局間での調整、議論がまとまり難いケースでも、このような資質を持ったITアドバイザーが加わることで、第三者的な立場で庁内の文化に染まることなく、ITアドバイザーとしての責任及び中立的な立場で、適切な判断・発言ができます。ITアドバイザーと同様の機能を期待してCIOやCIO補佐官という立場で人材を登用しても、公務員の序列・上下関係に組み込まれているが故に、本来求められる機能が発揮できなくなる可能性もあるので、第三者的立場は重要なポイントとなります。
 また、中立的な判断ができるという点では、ITベンダー・メーカーと関係・しがらみを持っていないことも選択ポイントの1つとなります。これにより、利用者視点で利便性が高く、費用対効果の高いシステムの導入・運用検討が可能となります。

ITアドバイザーの機能としては、具体的に次のような項目が挙げられます。
(1)計画立案
  • 現状分析から最適化計画、再構築計画、実施計画の策定支援

  • 既存の計画の進捗状況評価に関する支援


  • (2)IT調達
  • 発注仕様書や提案依頼書の作成支援

  • 提案内容の妥当性評価支援

  • 見積書の評価検証支援


  • (3)IT運用
  • 運用保守契約内容・費用の評価検証支援

  • システム改修の内容・見積費用の評価検証支援


  • (4)その他
  • 他自治体の成功事例、失敗事例についての情報提供・調査支援

  • IT技術に関する調査研究支援

  • 3.ITアドバイザーはあくまでも一時的な処方箋

     ITアドバイザーを活用して情報システムの最適化及びコスト削減を実現し、現時点での効率化を図ることはもちろん重要ですが、そのノウハウを職員に移管し、ITアドバイザーに頼らなくても庁内リソースだけでその機能を担えるようになることが最終的には必要となります。
     したがって、ITアドバイザーを活用する場合には、結果だけを共有するのではなく、「なぜそのように変更したか」、「なぜ業者の資料に疑問を感じたか」など、その結果に至ったプロセス、判断基準についての情報共有を行うことが重要です。
     ただし、情報システム課の職員と情報共有するだけでは、その職員が人事異動した場合、ナレッジを喪失することにもなりかねません。このような事態を回避するためにも、情報システム課の職員と情報共有するだけではなく、例えば調達のための要求仕様書作成のプロセス、注意点(チェック項目)を標準化・マニュアル化して、人事異動時にも円滑にそのナレッジを引き継げるような環境の構築も重要となります。

    4.中長期的な視点に基づいた庁内体制作り

     前述の「ナレッジを引き継げるような環境の構築」の具体策の1つとして、情報システムに関連する事業を実施・運営するための庁内体制を確立するという手法があります。
     事業の実施主体は基本的には原課が担うことが望ましいと考えますが、全庁的なシステム利用状況(導入・運用・投資状況)を把握し、あわせて専門的な知見から原課を支援するため、例えば首長管轄でどの局からも独立した「情報化推進室」のような体制、すなわち、PMO(project management office)の設置が、中長期的なシステムの最適化、コスト削減を実現するために効果的であると考えます。
     PMOの設置については、初期段階ではITアドバイザーを活用しつつも、最終的には職員が中心となって機能することをあらかじめ視野に入れておくことが大切であり、情報システムの調達方法や予算策定などの業務をできるだけマニュアル化し、PMO機能を担う職員のレベル向上がどれだけ図れるかがポイントとなります。言い換えれば、「今後のPMOのあり方」、「運営方法」などをITアドバイザーと十分に検討し、庁内にPMO機能を確立するための土台作りを行うことが重要となります。
     ITアドバイザーの活用においては「プロセス、判断基準についてITアドバイザーと情報共有することが重要」と申し上げたとおり、「つまり、こうするべきです。」とアドバイスをするだけのITアドバイザーではなく、「職員と一緒になって検討、議論できるITアドバイザー」こそが、求められるITアドバイザー像ではないでしょうか。
    経営コラム
    経営コラム一覧
    オピニオン
    日本総研ニュースレター
    先端技術リサーチ
    カテゴリー別

    業務別

    産業別


    YouTube

    レポートに関する
    お問い合わせ