コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

営業管理の現状と課題

2007年12月25日 木下輝彦


1.営業管理システムの限界

 現在営業部門においては、行き過ぎた管理機構のひずみや亀裂が集中的に現れ、管理システムの限界が露呈するようになっている。具体的には以下のような現象が現れている。

(1)訪問回数や商談時間等の効率指標管理を行っても、売上高・利益向上には寄与しない。我々の研究成果によると有意な相関は確認できない。さらに深刻なのは、営業担当者の多くが「訪問すれば実績が上がるというものではない」ことを認識していることである。

(2)営業担当者に対する行動管理を回避する担当者が増加している。訪問回数を上ブレして報告したり、行った先の活動報告をしない、ということも多発している。管理者・本部としては確認のしようもない。

(3)増収増益基調時の管理スタイル(実績結果管理、効率管理)をとっても営業担当者は業績向上に寄与しないことを知っているし、管理者自身もそのことに気づき始めている。

 もはや管理を中心とする運営方法だけでは組織は成り立っていかないところまで来ている。管理システムに変わる営業編成のしくみを待つことが重要であり、そのために脱管理と支援のパラダイムが必要である。
 豊かさを経験した若年層の営業担当者は役職による権威をもってしても管理しきれるものではない。また管理の肥大化を進めるとそのためのコストが膨大になり、組織活力が損なわれる。しかし同時に、管理を緩める動きが無政府状態を助長し、組織活力が損なわれるケースも散見される。それは、管理に変わる新しい営業運営のノウハウが示されなかったからである。脱管理のシステム構築が重要である。
 脱管理において重要な役割を果たすのは市場顧客に対する自律的な価値創造活動である。こうした従来の「御用聞き活動」ではない、「付加価値創造・ソリューション活動」はしばしば創造的逸脱による「組織的なゆらぎの発生」をもたらす。そのゆらぎに対して、「突飛な行動はするな。今までのままで行け」というようにゆらぎを消滅させるように働きかけるのではなく、ゆらぎが組織活力につながるよう支援することが、これからの営業マネジメントの神髄となるだろう。ゆらぎはこれまで組織秩序を乱す攪乱要因と見なされる傾向があったが、ゆらぎの研究が進むにつれて必ずしもそうとばかりはいえないことが明らかになっている。例えば、1/fのゆらぎは快適さの源泉であることが明らかにされ、バイオホロニックでは、ゆらぎは生きていることの証、あるいは活力の源泉であることが明らかにされている。
 価値のあるゆらぎとは、一般論でいえば効率や合理性を重視する機能優先の枠に収まらない。また、ルーティンや慣習などとの構造とも異なる、差異の分節化としての意味追求から発生するものである。
 これは営業活動に翻訳すれば、必要以上のマニュアルワークでもなく、過度な生産性志向の活動でもなく、市場に対する付加価値創造活動に相当する。現代の営業活動は、顧客別に付加価値を創造しなければならないが、営業部門において付加価値を創造するとは、新しい意味(差異)を取り出すこと、顧客のニーズ充足・問題解決に貢献する商品・サービスの組み合わせやアイデアを創ることである。
 このような付加価値創造活動には管理が通用しない。新たな問題解決やアイデアを追求する活動であるため、徒に効率を追求しても意味がない。決められた成果に対しての達成であれば管理やコントロールで対処すればよいが、付加価値創造活動は果てしない差異化の運動を前提とするからこそ管理は有効でなく、支援するしかない。こうした付加価値創造活動は営業活動の中心が「商品・サービスの紹介・お願い活動」から「情報活動」へと移行するにつれてますます重要になり、企業存亡を左右するようになる。付加価値創造のための支援活動がこれからの企業・営業組織にとって大きな課題となる。
 状況依存リスクを抱え、業務プロセスを強制的に変更させる情報技術を持ち得なかった営業部門は企業の中で最も保守的な部門である。企業トップの号令としての営業方針が、オペレーションに展開できないゲートウェイの大きな要素として営業マネジメントが挙げられる。経営層が明確なビジョンを指し示しても、オペレーションに落ちない主な原因は、営業マネジメント層の翻訳不足であり、逆に緻密な運用システムが完成しても、それが有効に機能しないのは、様々な要因が考えられるが、明らかに要因の1つとして挙げることができるのは「営業マネジメント」問題である。
 企業内他部門におけるマネジメントと、営業マネジメントにはいかなる違いがあるのか、この違いの元で、従来からのマネジメント手法は限界を持たないのか、現市場において相応しい営業マネジメントとその限界とは何か、について論じたい。

2.営業マネジメントの変化への圧力

 大半の企業において、営業組織は、収益に最も大きく貢献すると同時に、最もコストのかかる部分である。1950年代~1980年代にかけての経済成長期には、売り上げとコストの均衡を保つだけで企業経営が成り立ったが、現在の市場の状況では、営業部門の支出は収益と結びつく理由付けが必要になっている。ダウンサイジングとコスト削減によって、本社、現場を問わず営業スタッフが減少し、営業所を廃止した企業も数多い。また、マネジメントの中間層をカットしたり、現場の管理範囲を拡大したりするケースが増加しているほか、人事、教育、マーケティング等営業サポート部門でも人員削減が実施されている。
 このような変化が重なり、現場の営業マネジメントの責任はますます拡大し、区分もファジーになってきている。このようなプレッシャーがあって、以下の諸点がこれからの営業マネジメントに突きつけられている。

  1. 管理スパンの拡大

  2. 事務管理業務支援の減少

  3. 本社が用意する支援資源の減少

  4. より臨機応変な戦略、計画を実行するための重い責任

  5. 収益貢献に対する責任範囲の拡大

  6. より少ない資源と本社側の負担を軽減して営業担当者のトレーニングを進める責任

  7. 複数の流通チャネルを使用するケースの増加

3.顧客の期待

 営業部門において業績を向上させるために、営業活動時間や訪問件数等効率問題と結果数値を管理すればよかった時代は終焉を迎えている。結果管理の時代に変わって、個々の顧客が購買しやすい営業プロセスにするためには、顧客の購買プロセスを反映する必要があり、このことは顧客の購買センター(キーマン構造)が実施している内容に合わせる技能や知識を持つ営業マネジメント層と担当者を現場に配置しなければならないことを意味している。
 CAPS(Center for Advanced Purchasing Studies)の1993年調査<注1>によると、このような知識と技能には、以下の要素が含まれるという。


 この表の要素は、ほとんどが顧客の購買サイクルを円滑にするものであるため、従来の営業プロセスに対する考え方(顧客の状態を考慮せず自社がどう動くかを主体に考える。「アプローチ」「商談」「クロージング」という種類のプロセス)を改める必要がでてくる。サプライヤにとっては、このような要求を満たせる人材を採用して、トレーニングや実地経験の場を与えて能力を高めていくことが課題となる。
 営業マネジメントには、業績を向上させながら、さらに顧客の期待を満足させる担当者という資源をリードしていくことが求められている。

4.今後の営業マネジメント

 これらの状況を踏まえ、現成熟市場下における競争環境においては、次の4つが営業マネジメントの重要機能として整理される<注2>

  1. Strategist
    経営陣がビジョンとして描いた会社の戦略を日常の現実にあわせたものに翻訳し、製品やサービスに作り込まれている以上の価値を顧客に届けることによって差異化を図り、企業収益に貢献する機能。


  2. Communicator
    同一組織の他メンバーに、組織ニーズを行動と計画という形で的確に伝える機能。


  3. Coaching Staff
    営業担当者に指示命令するのではなく、協力しあって互いに納得できる目標設定を通じて影響力を及ぼす機能。


  4. Decision Making Unit
    自分の戦略が狙い通りに展開されているかどうかを判断し、市場レベルの問題を機動的に処理する意志決定能力を備える必要がある。

 これら機能は、何も今に限ったものではない。旧来モデルにおいてもセールスマネジャーは重要な役割を期待されていたが、多くの場合、それは実行されていなかった。その理由については深く分析する必要があるが、端的には以下の3項目に整理される。

  1. 人間関係構築、及び御用聞きにより目標達成が可能であった、成長経済下の自分の成功体験に依拠した管理をもって営業マネジメントと認識している


  2. 営業活動とは、全社目標を各自の営業担当者に、担当エリア、担当顧客の量にしたがって配分し、各自が達成すべきものであるという個人型営業を強くイメージしている


  3. 現在において業績向上を志向するモデルとしての、問題解決志向の組織営業を実践しようにもそのための営業マネジメントを理解し得ていない。会社も一般的なマネジメントやリーダーシップに対する教育・研修は行うが、時代に応じた育成体制を構築し得ていない。

 現市場下では、従来にも増して、営業管理者に現場営業担当者と本社をつなぐリエゾンとしての役割がクロ-ズアップされている。

 バブル崩壊後の危機を脱し、またぞろ営業改革の気風が衰え始めている。史上最高益を出している企業こそが、次世代に向けて営業管理のあり方を再考し、業績向上に向けての営業マネジメントの確立をまさに実行する時期である。

(注1)
Mark Blessington and Bill O’Connel “Sales Reengineering from the Outside in”New York:McGraw Hill,1995,230


(注2)
Sales & Marketing Management1990~1995
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ