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コラム「研究員のココロ」

強い大学の作り方
~アメリカのカレッジスポーツに学ぶ「寄付金」集めの極意~

2008年06月02日 宮田雅之


国際的な評価が低い日本の大学

 昨年11月9日に英国「タイムズ」誌の別冊THES(The Times Higher Education Supplement)で『世界大学ランキング2007』が発表された。それによると、TOP100にランクインした日本の大学は僅か4校。1位のハーバード大学をはじめ、欧米の大学が上位をほぼ独占する結果となった。当ランキングは研究力に評価の重点が置かれている(Peer review score 40%)が、もし優秀な人材の欧米への集中が背景にあるとしたら大変深刻な問題である。参考までに、TOP200内にランクインした日本の大学は11校、TOP500では35校にすぎない。

教育へのお金のかけ方に大きな差

 教育の良し悪しが、国力に影響を及ぼすことは異論のないところであろう。特に大学は最高学府であり、そこでの教育の充実化は、重要な国家戦略といっても過言ではない。質の高い教育には優秀な教員・研究者が必要であるが、引き手あまたの人材をリクルートするためには、相応の教育・研究環境の用意が必要になる。しかし、日本とアメリカの大学を比較すると、「学生一人当たりの高等教育費」に大きな差が生じている。

桁違いの基金を持つアメリカの大学

 ある調査によると、日本の学生一人当たりの高等教育費は約150万円。アメリカの約半分の水準にとどまっている。1年間だけで小さな車が買えるレベルであり、在籍学生数を考えれば数千億円に達する金額となる。これが毎年毎年格差として発生し続けていると考えると背筋が寒くなる。もちろん、教育費をかけさえすれば、良い教育が実現できるわけない。しかし、使えるお金が大きれば、費用を要する研究活動にトライできることは事実である。日本の大学は補助金(税金)と授業料が収入の柱となっているが、前者は縮小の傾向にあり、後者も値上げは時代の流れに逆行しており今後期待できるものではない。ではどうしたら良いのか?アメリカの大学に習うと、収入拡大の鍵は「寄付金」にある。アメリカの大学では、収入に占める寄付金の割合が大きく、日米の収入格差につながっている。収入の基盤となる大学の基金を比較すると、ハーバード大学は約3兆円と、慶應義塾大学の100倍近い規模であり、その格差は桁違いである。これを生み出しているのが、OB・OGからの「寄付金」である

寄付集めは大学の重要な戦略

 アメリカは「寄付社会」であり、もともと寄付に対する国民の意識が高いことに加え、税制面での優遇措置が後押ししている、と言われており日本の状況と直ちに比較できるものではないという見解もある。確かに、その影響もある。しかし、アメリカの大学への「寄付金」が自然に集まって来るわけではない。調査によって浮かび上がってくるのは、アメリカの大学自身が寄付を集めるための施策を極めて戦略的に打ち出し推進しているという事実である。卒業生による寄付は大学への「愛校心」があってこその行為であるが、アメリカの大学は「愛校心」を高める戦略的な仕掛けを講じている。

カレッジスポーツは「愛校心」を育む

 「愛校心」を高める代表的な策として「カレッジスポーツ」が挙げられる。アメリカンフットボールのシーズンになると、週末の度に大学内のスタジアムは賑やかになる。学生はもちろんのこと、地域住民を含めたビッグイベントになっている。お揃いのウェアを着て母校を応援する中で、学生の「愛校心」は無意識に醸成されて行く。ちなみに、カレッジフットボールの名門ノートルダム大学は、収容人数が8万人を超えるスタジアムが超満員になり、プロスポーツ以上といえるほどの人気を誇っている。多額のチケット収入はもちろんのこと、アメリカ4大ネットワークのNBCから膨大なテレビ放映権料も入ってくる。グッズ販売の規模も桁違いで、ホームゲームのある週は、ギフトショップの売上が2億を超えると言われており、収益面で大学に多大な貢献をしている。

カレッジスポーツは「収益」をもたらす

 このように、アメリカのカレッジスポーツは、チケットやグッズなどの「一時的な収益」と、寄付による「継続的な収益」の両方をもたらしている。基金規模の上位校を見ると、スポーツ名門校が多数ランクインしている。カレッジスポーツの影響力の大きさを認識している大学経営者は、その効果を最大限に発揮するため、「ブランド戦略」を緻密に展開している。スクールカラーやユニフォームデザイン、チーム名を大学全体で統一し「大学」をアピールするための、視覚効果策を徹底して講じている。さらに大学のブランドイメージを汚す種目が出ないように、全ての種目に強化資金が行き渡るような仕組みも整えている。具体的には、アメリカンフットボールやバスケットボールなどの人気スポーツで得た収入を大学がプールし、他の種目に再配分して全体的な底上げを図り、個別の「競技」が前面に出るのではなく「大学」が前面に出るように心がけている。

カレッジスポーツに関与しない日本の大学

 一方、日本では、大学が主体となってカレッジスポーツを運営する仕組みになっていない(一部の例外を除き)。大学から活動資金は提供されるものの、それだけでは不十分であるため、各部活動単位で資金集めを行っている。人気種目は比較的容易に資金を集められるが、そうではない種目は部のOB・OGからのカンパに頼りながら、ギリギリの運営を行っている。その結果、各部活動の独立性が強くなり、大学組織の一員でありながらも治外法権となっている。ユニフォームデザインやチーム名が大学として統一されていないことも珍しくない。競技ごとのOB・OGの結束は非常に強くても、それが「大学」と結びつき、大学の大きな財産、財政基盤となっていることはほとんどない状態である。

カレッジスポーツは大切な「資産」

 カレッジスポーツは、本来大学の持つ貴重な「資産」のはずである。事実、アメリカでは大学経営に大きく貢献している。日本においても「箱根駅伝」のように、人々の関心を惹き付けることに成功した事例は幾つか存在している(ビデオリサーチ社によると、2008年の第84回大会は関東地区で25%を超える視聴率となった)。大学に財務面の独立が強く求められている今日においては、こうした「資産」を有効に活用して資金を獲得することは、経営上欠かせない視点である。日本の大学はカレッジスポーツの価値の高さを認識し、各部活動単位に分散してしまっている「資産」を集結し、大学全体の活性化に結び付けて欲しい。日本においても、「カレッジスポーツ→愛校心→寄付→大学の活性化→国力の向上」というモデルが実現することを切に願っている。

参考:「大学に関する意識調査」 日本総合研究所 ビジネスデザインクラスター
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