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コラム「研究員のココロ」

地域資源活用を通したコミュニティ・イノベーション

2007年11月19日 柿崎平


 現在、地方再生ないしは地方活性化のための様々な施策が展開されている。省庁それぞれの多様な施策展開は一部から「乱立」とも揶揄されてきたが、ここにきて、その統合および充実化の流れが増してきている。10月には、地域から見て分かりやすく、より効果的な取組を実施するため、地域活性化関係の4本部(都市再生本部、構造改革特別区域推進本部、地域再生本部及び中心市街地活性化本部)を「地域活性化統合本部会合」と実質的に統合(合同開催)することとした。また、経済産業省と農林水産省は、地域の農林水産業や商工業が手を結んで新たな事業に取り組む「農商工連携」を対象に、税制優遇措置など総合的な支援策を打ち出す方針を固めた(11月6日、日本経済新聞)。これまでも大きな課題であった農林水産業と商工業の連携を促すことで、地域からの新産業隆盛が大いに期待できる。さらには、地域の中小企業の知恵とやる気を活かし、地域の強みとなり得る地域資源を活用した新商品・新サービスの開発・販売を促進する「中小企業地域資源活用プログラム(経済産業省・中小企業庁)」においても、地域中小企業応援ファンドの創設、販路開拓の支援等、これまでよりも一歩踏み込んだ支援策が展開されている。
 このように、地域再生を支援する施策の充実・統合化(注1)が進みつつあるが、その真価が問われるのはこれからだ。地域再生・地域活性化という冠をかぶせただけでその中身は各省庁所管の補助事業にしか過ぎないといった疑問・批判をどれだけ覆せるのか、それは今後の具体的行動のなかで示していかなければならい。

地域資源の活用による地域活性化

 上で見た通り、国の地域再生ないしは地域活性化策は豊富になりつつあるが、地域の活性化における最大のポイントは、その地域自身が「地域資源を活用した持続的取り組み」を推進していくことである。その一環として、国の支援プログラムは大いに活用すべきであるが、それで終わってはならない。国の支援プログラムはあくまでも活性化の契機・トリガーとなるものとして考えておく必要がある。
 では、「地域資源を活用した持続的取り組み」を進める上でおさえておかなければならない事項は何か。大まかなフェーズに沿って示してみたい。

【フェーズ1】地域資源を知る、発掘する

 先ずは、「地域資源」というものを知る必要がある。一般に資源といえば、ヒト、モノ、カネが想起されるが、「地域で活用できる資源」はもっと多様なものがあり得るということを知っておくべきだ。使い方によってはあらゆるものが資源になり得る。逆に言えば、どんなよいものがあっても、それを活用しよういう意図や戦略がなければ資源にはなり得ないということでもある。たとえば、徳島県の上勝町では、山林に落ちた「葉っぱ」を資源とした事業を立ち上げ年間2億円以上の売り上げをあげている。また、愛媛県双海町では、「(日本一美しい)夕日」を資源としたオンリーワンの地域づくりを進めた。何が地域再生の切り札になるのか誰にも分からない。どんな地域にも大きな可能性が秘められている。

<地域資源発掘のノウハウ>

(1)地域資源分類表に基づいてアイデアを出し合う
 実際に自らの地域の資源を知るためには、次表のような分類表を活用するのがよいだろう。それぞれの要素について、「この地域にはあれがある、あれが使えるかもしれない・・・」と、多様な人々を集めて皆で出し合うことがよいだろう。それは、楽しくもあり、その行為そのものが地域への愛着を深める契機にもなるといった効果も期待できる。

(2)外部の人材を活用する
 さらには、地域外の人材を招きいれ、異質な視点から地域の資源を見出してもらうことも効果的だ。双海町で夕日を資源と意識し出したきっかけは、村に「明るい農村」の取材にやってきたNHK職員が、「こんなきれいな夕日は見たことがない、すごいですね」と驚いたことに地元の人たちが驚いたことであったという。それを1つのプログラムとして進めてきているのが島根県隠岐郡海士町だ。同町では、昭和63年度から、地域の農協の婦人部が中心となって、味噌や漬け物、餅と言った農産加工品の製造を実施していたが、売れる特産品づくりが課題となっていた。そこで、平成10年度より、商品開発研修生という1年契約の研修生制度を設け、同町を舞台に、やる気のある者に常駐してもらい、地元にない発想で、島の者と一緒になって「島の宝」とも言うべき地域資源を掘り起こして、特産品や観光商品等の商品開発につなげて行く試みを行っている。

図表 1 地域資源の分類

固定資源
  • 地域に固定されているもの
  • 地域内で活用、消費されるもの
地域特性資源気候的条件降水、光、温度、風、潮流 等
地理的条件地質、地勢、位置、陸水、海水 等
人間的条件人口の分布と構成 等
自然資源原生的自然資源原生林、自然草地、自然護岸 等
二次的自然資源件人工林、里山、農地 等
野生生物希少種、身近な生物 等
鉱物資源化石燃料、鉱物素材 等
エネルギー資源太陽光、風力 等
水資源地下水、表流水、湖沼、海洋 等
環境総体風景、景観 等
歴史的資源遺跡、歴史的文化財、歴史的建造物、歴史的事件、郷土出身者 等
文化・社会資源伝統文化、芸能、民話、祭り、イベント、スポーツ 等
人工施設資源構築物、構造物、家屋、市街地、街路、公園 等
人的資源技術資源労働力、技能、技術、知的資源 等
関係資源人脈、ネットワーク、相互信頼、ソーシャルキャピタル 等
情報資源知恵、ノウハウ、電子情報、ブランド、評判、制度、ルール、愛着、誇り 等
流動資源
  • 地域内で生産され、地域外でも活用、消費されるもの
特産的資源農・林・水産物、同加工品、工業部品・組立製品 等
中間生産物間伐材、家畜糞尿、下草や落葉、産業廃棄物、一般廃棄物 等

(『地域資源』三井情報開発(株)編著、ぎょうせい を日本総研が一部修正・加筆)



【フェーズ2】地域資源を活かした事業を興す

 地域資源を「一時的に活用してみる」だけで地域が活性化するわけではない。地域資源を活かした活動が継続できる条件を確保していく必要がある。その条件とは、「人材(地域住民等)の参画・成長」、「ビジネス・システムの構築」、「顧客の評価に裏付けられた適正利益の獲得」である。

(1)人材(地域住民等)の参画・成長
 地域資源を活かした事業を軌道に乗せるには、住民をはじめとした多様な主体の参画を促すことが肝要である。目的を地域再生、地域活性化とするならばそれは不可欠となる。規範的な意味合いからそう言っているわけではない。地域資源を活かした事業を展開する上で、その商品・サービスが市場で選択される際の差別化要因・強みの源泉となり得るものが、その地域特有の「住民、各種団体等のさまざまな知恵」なのである。その緊密な知恵ネットワークが商品・サービスを磨き、それに参画する人自身が磨かれ、延いては地域を元気にしていくことになる。
 そのような住民等の参画で事業を展開していく前提として、そもそもこの地域はどのような地域を目指そうとするのか、この地域での生活・活動で守っていきたいものは何か、といったビジョンを共有しておくことが求められる。それがなければ有機的・創発的なつながりは沸き起こってこない。四万十川流域で、地域資源を活かした事業を地域住民の参画を得て営んでいる(株)四万十ドラマは、「四万十に負担をかけない商品づくり」を標榜している。どんな「おいしい」事業機会があろうとも、四万十川に負担をかけてしまう事業には手を出さないという信条が事業の方向性および正当性を与え、地域住民の共感を得ている。
 地域資源を活かした事業展開は、言ってみれば「地域の総力戦」という面がでてこざるをえない。そのためには、相互連携が促進される仕組みづくり、連携が連携を呼ぶ重層的・多層的な取り組みを意識的にデザインし、進めていくことが重要になってくる。

(2)ビジネス・システムの構築
 ここでいうビジネス・システムには、外部と内部がある。外部とは、商品・サービスを最終顧客に提供する仕組みである、内部とは、それを実現するための組織体制である。

(ア)商品・サービスの開発と提供
 ここでの最大のポイントは「地域の強みを生かせるマーケット」を見出すことである。大部分のケースでは、大量生産・大量消費型の市場で大企業ないしはアジア各国の製品と勝負しようとはしないはずだ。その勝負は割が合わない。わが地域ならではの‘ニーズとシーズのマッチング’ができる領域(ニッチ)を探し出し、そこに「小さくとも安定した独自の市場」をいかに作り上げていくかがカギとなる。‘ごっくん馬路村’をはじめとした柚子関連商品で年間30億円以上の売り上げを上げている高知県馬路村では、都会にない魅力(自然、人々の笑顔等)を武器にして、都会の市場で勝負することで成功を得た。同じ戦略・商品で高知県内で勝負したとしてもここまでの成功はなかっただろう。つまり、自分たちが持つ資源の価値をもっとも高く評価してくれるセグメント(=同様の嗜好を持つ顧客の固まり)を発見していくことが事業成功のカギとなるということだ。もっとも、それを見出すまでに馬路村では10年余りの歳月と類まれな努力を注いだ事実を知っておくべきだ。成功した地域・事業者にあっても、はじめから何もかも分かっていたわけではないし、最初から明確なビジョンがあったわけでもない。現場での実践を通して創り上げていくのだ。
 また、市場での競争優位という観点から、地域資源の組み合わせにより、他が容易に真似することが出来ない独自の価値を創ることが求められる。そのためには、その地域らしい資源を活かすことはもちろんのこと、開発段階から最終利用者や流通サイドの意見を取り入れること等も効果的である。地域での取り組みは、どうしても、「つくりあげるまで」が目標になりがちであり、その結果として、市場には受け入れられないものづくり(=そのものづくりが継続できない)を進めてしまう傾向があった。そこに外部の人材を入れることで従来にはない視点が導入されたり、流通関係者の意見によりマーケット側の評価を取り込んだり、そうした関係構築の中から地域内で新しいアイデアが生まれる可能性が広がる。
 矛盾したことを言うようだが、「一般の顧客やマーケットの声を過度に聴かない」ということも頭に入れておいてよいだろう。一般の顧客やマーケットの声を聴くことで既存商品の部分的改善は出来るだろうが、そこから、あっと驚くような地域発の独自商品を作り出せるわけではない。やはり、地域資源を活かした展開を目指すなら、その地域のどんなところに価値を見出すか、何を手放したくないのかをとことん地域住民等が考え抜くところから、1つの商品やサービスを組み立てていく必要があるだろう。それを市場でテストしながら前に進むことになるが、その際も全ての顧客の声を100%聴けばよいというものではない。全ての顧客に評価していただく必要はまったくない。「よくわからないけど自分たちの商品・サービスを高く評価してくれる人たち」の声を徹底的に深く聴いていくことだ。そこを深堀りしていくことで、一般には無い、その地域独自の商品やサービスが出来あがっていくことになる。さらに、商品・サービスをつくりあげるだけではなく、その品質を守り、磨き上げていく仕組みも同時に構築していくことがもとめられる。生産方法の規定、表示の規定等を第三者が監査する仕組みをつくったり、利用者の声を受けて素早く改善していくことの出来る仕組みを確保していくことも、その事業が成功すればするほど大事なことになっていくことを忘れてはならない。

(イ)組織体制
 地域資源を活用した事業展開では、多様な主体の参画を得なければ持続性が期待できないが、その反面、多様な主体が関係すればするほど、その相互連携のコーディネーションとインセンティブ設計は難度が増すことになる。その意味で、事業のガバナンスを整理し合意しておくことが大切だ。
 先ずは、利害関係者(ステークホルダー)を明確化しておく必要がある。どのような主体が、どのような想い・期待を持って参画しているのか、この事業にどのように貢献しようと思っていて、どのようなリターンを得ようと考えているのか、を整理しておくことは無駄ではない。地域での取り組みでは、お互いに遠慮し合い、そうした面が曖昧にされることも少なくないが、少なくとも「顧客に評価してもらおう」とするレベルの事業を進めようとするのであれば、はっきりと率直に理解し合うことが必要だ。それはお互いの信頼関係の強化にもつながっていくことになる。
 さらには、意思決定の透明性、正当性を確保しておくことである。だれが、あるいはどのチームがどのような責任で何を意思決定するのか、事業が成功すればするほどその重要性は高くなってくるし、リスクも高くなる。

(ウ)顧客の評価に裏付けられた適正利益の獲得
 地域資源を活かした事業展開は地域再生(コミュニティ・イノベーション)を実現するための最重要な活動である。冒頭にみたように地域再生には様々な支援メニューが存在しており、実際に様々な取り組みが進められている。しかしながら、いつかはその支援策は終わる可能性があることを勘定に入れておかなければならないだろう。もちろん、地域の活性化策は国全体ないしは地方政府の重要施策でありつづけることは間違いなく、形を変えてその支援は継続していくであろうが、地域サイドでそれを過度に期待しては、その地域が持つ本来のパワーを阻害してしまうことにもなりかねない点に注意を要する。
 地域資源を活かした事業展開においては、中長期的には、その一連の活動で「地域が稼げる仕組み」を作り上げていこうとする意思、展望が必要だ。今後の‘国のかたち’がどうなっていくにしろ、それに左右されない力強い地域ビジョンがほしい。それを現実のものにしていくためには、やはり適正な利益をあげていくことが求められる。地域の生活と経済的な事業活動を分離して議論する向きもあるが、それは逆である。地域資源を活かした事業活動であるからこそ、地域の生活と経済活動を統合した議論が必要なのである。
 当たり前のことをいうようだが、経済的な成果を出すということは、それを高く評価してくれる存在(=顧客)があってはじめて成立するものだ。国や県が評価するものではない。国や県の評価で獲得できるのは補助金等であろう。それを獲得するノウハウも大事だが、それ以上に、地域内外の人々(=潜在的な顧客)に喜ばれる商品・サービスを持続的につくりあげていくノウハウを時間をかけてでもつくりあげていくことが地域の最大の課題ではないだろうか。

図表2 : 地域資源活用を通したコミュニティ・イノベーション


図表2:地域資源活用を通したコミュニティ・イノベーション

(注1)
その他省庁でも地域再生を支援する施策を展開している。たとえば、本年、安倍政権でとりまとめた「地域再生総合プログラム」の対象となっている施策(一部)は次の通り。農山漁村活性化プロジェクト支援交付金(農林水産省)、都市エリア産学官連携促進事業(文部科学省)、地域自立・活性化総合支援制度(国土交通省)、地域における若者自立支援ネットワーク整備モデル事業(厚生労働省)、再チャレンジ支援寄付金税制(内閣府)。
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