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コラム「研究員のココロ」

教育・ヘルスケアサービスによる地域活性化の考え方<第2回>
~公立学校ブランディング~

2007年10月05日 志水武史


1. 教育・ヘルスケアサービスによる地域活性化の具体的手法~対象サービス

 前回、地域の活性化に向けて教育・ヘルスケア分野に注力する考え方について述べた。今回は、どのように教育・ヘルスケアサービスによって地域の活性化を図るのか、その具体的手法について述べることにしたい。
 ただ、教育・ヘルスケアサービスと一口に言っても、教育の場合は幼児を対象とした就学前教育から成人を対象とした生涯学習分野まで非常に範囲が広い。ヘルスケアの場合も同様で、幅広い年齢層に訴求する裾野の広いサービスである。そこで今回は、話が拡散しないよう、考察の対象とする住民(移住・交流の顧客)層については、自治体財政(税収)に相対的に強い影響力を持ったタックス・ペイヤーである現役世代(子育て世代)に絞ることにする。
 このため、教育に関しては義務教育分野、ヘルスケアについては小児医療分野のサービスについて述べることになる。また、ヘルスケアサービスによる地域活性化手法について、今回はごく簡単に述べるに留め、教育サービスによる地域活性化手法について重点的に述べることとする。

2. 教育・ヘルスケアサービスによる地域活性化の具体的手法~ヘルスケアサービス

 小児医療サービスについては、何より子どもの生命に関わる夜間等緊急時の診療体制をどう整備するかということが重要であろう。少子高齢化による子ども(患者)の数の減少、小児患者にかかる診療の手間等の要因により、小児科の診療報酬の引き上げにもかかわらず、今日、小児科や産婦人科は医療機関にとっての代表的な不採算部門である。市場に委ねるならば、小児医療分野は縮小していく運命にある。
 しかし、子どもの命に関わるサービスについて確実に提供される仕組みがない地域において、現役世代の移住・交流を期待するには厳しい部分があろう。小児救急医療体制の整備は行政の主導的関与が必要な部分であり、地域の付加価値を高める取り組みというより、現役世代の移住・交流を促進する上で最低限の必要条件であるともいえる。具体的な対策等については筆者の過去の論文(「アクセス改善が求められる小児医療体制」)を参照されたい。

3.「公立学校ブランディング」による地域活性化

 地域外から現役世代を呼び込める義務教育サービスをどのように作り上げるか。一つの回答が義務教育における公立小中学校の高付加価値化、すなわち「公立学校ブランディング」にあると思われる。今日、都市部を中心に公立小中学校の地盤沈下が指摘されて久しい。教育に関心のある親はより良いと思われる教育を求めて、地域内の公立小中学校に子どもを通わせず、地域外の私立小中学校に通わせるケースも目立つ。
 私立学校のように児童生徒や教員を選択・排除できない公立学校はサービスの質を担保する仕組みが機能しておらず、高付加価値化は困難な状況にある。しかし、ある自治体が地域内の公立学校の質を他の自治体と差別化できるほど高めることができれば、地域住民の満足度が向上するとともに、地域外の現役世代住民にとってその地域を選択し移住する動機付けになると考えられる。
 こうした公立学校の質の差別化は、一方で義務教育における教育の平等性を損なうおそれもある。筆者はこのことについて誤解を恐れず言えば、今日の義務教育における行き過ぎた平等主義が児童生徒の私立学校への流出の一因になっていると考えている。教育に対する意識の高い保護者、私立学校の授業料を支払うことのできる経済的に余裕のある保護者が画一的かつ悪平等の公立学校を選択せず、子どもをより自由度の高い私立学校に通わせる流れが固定化されるならば、公立学校内の不平等よりも社会全体における不平等が拡大することになる(現実に教育による社会の階層化、不平等の拡大という問題は顕在化し悪化しているとみることもできるが)。
 さて、本論に戻ろう。公立学校の高付加価値化の方向性としては、以下の4つが考えられるが、一定数の現役世代の転入促進に資するのは(1)(2)の型、あるいは(1)(2)を基本として(3)(4)の要素を加えた混合型と考えられる。
(1)
学力向上目的Ⅰ型(トップ校のみ重点的に引き上げ→プレミアム・ブランド創設型)

(2)
学力向上目的Ⅱ型(地域内全公立校の底上げ)

(3)
特別な教育ニーズへの対応型(特別支援教育、いじめ対応等)

(4)
地域資源活用型(学校と地域の連携による取り組み)

 これらの高付加価値化をどのように行うかということに関して、学校教育のブランディングにおいて一日の長がある学校法人のほか、特定分野の教育についてノウハウを持ったNPOや学習塾などの教育関連団体・企業等を活用するということが考えられる。いささか安直だが、有名私立学校などが持っているブランド力を借りて公立学校の付加価値を高めるという方法である。喩えが適切ではないかもしれないが、一般的なファミリー・レストランの料理も「一流シェフがメニュー・味付けを監修しました」ということになれば、顧客に対する訴求力が増すことになる。
 こうした考えに対し、民間主体が関与する形でなくても、地域との連携を強めることで公立学校の高付加価値化を図るという考え方も存在する。上記(4)の一点突破型ということになろう。実際、一部の公立学校や自治体では学校と地域の連携を重視し、地域内の教育資源を学校教育に取り込む試みや、学校の運営を地域に委ねる試みを行っている。
 しかし、こうした「学校と地域の連携」による高付加価値化は、地域コミュニティの結びつきを強めるという点や子どもの生活力を涵養するという点において望ましい方法であると思われるが、実際に子どもを持つ親に対する強力な訴求ポイントにはなりにくい面があるように思われる。その是非はともかく、現役世代の移住につながるような公立学校の訴求ポイントは、私立学校が売りにするような「学力向上」や「実績あるスポーツ等のクラブ・部活動」に置く必要があるように思われる。
 ここで紙面が尽きた。次回は「公立学校ブランディング」の具体的手法について述べることとしたい。

以上(次回に続く)

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