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コラム「研究員のココロ」

都市自治体における人口誘導戦略の必要性(その1)

2008年04月14日 松村憲一


■なぜ人口誘導か

 最近、関西の都市自治体の企画担当者から、しばしば「人口誘導」という言葉を耳にするようになった。わが国の総人口が減少に転じるなか、人が集中する大都市圏といえども、今後は人口の停滞・減少とより一層の少子・高齢化の進行は避けて通れない。大口納税者であった団塊世代層の高齢化が進み、社会保障の受け手となっていく状況下において、持続可能な都市経営を実現するためには、これからの地域経済や自治体財政を支える若い世代を中心とした人口を誘導し、経済的・財政的な基盤を強化していくことが求められる。
 なお、人口減は、「自然減」と「社会減」に分けられ、前者は死亡数が出生数を上回る状況を、後者は転出者が転入者を上回る状態をいう。本稿では、自治体単位での議論として、主に後者の「社会減」を採り上げるものとする。

図表1 首都圏・京阪神の都市自治体の人口推計
図表1 首都圏・京阪神の都市自治体の人口推計



■人口減少の問題点

 都市自治体における人口減少による問題点としては、住民の市外への転出、特に一定の世帯所得があり、相応の担税力があるファミリー層が流出することによって、個人市民税を中心とした税収入が減少し、歳入が目減りすることが挙げられる。一方、担税力が低く一人当たり社会保障コストの高い高齢者等、流動性の低い層については市外に流出することが少ないことから、ファミリー層を中心に人口が流出しても、歳出はそれに比例して下がらない可能性が高い。また、道路や下水道等の都市インフラや公共施設は、都市自治体においては従来より人口増を想定して整備されていることも多く、人口が減少局面になっても急速にダウンサイジングできないため、どうしても一人当たりの維持管理コストが高くなる。
 都市自治体における人口減少の進行は、ますます歳入と歳出のギャップを広げ、経常的な財政運営を困難にするとともに、都市の魅力創出のための投資財源も十分に確保できなくなることから、より一層人口減少を招く、という悪循環に陥ることが危惧される。

■「都市間格差」拡大の懸念

 図表2では、首都圏・京阪神の都市自治体における財政力指数と人口増加率との関係を示した。これによると、明らかに財政力指数の高い(市税等の自主税源の割合が高い)自治体ほど人口増加率が高い、という傾向が表れている。問題は、この関係が固定化され、上述した悪循環によって、より一層「都市間格差」が広がることである。
 事務権限や税財源の移譲等による地方分権が進展し、各都市の独自性ある政策の展開が可能となる一方で、地方交付税等による財政の再配分機能が低下する傾向にある。特に、財政力の低い都市自治体においては、格差拡大を防止するよう対応策を検討することが急務となる。現状を冷静に分析・課題認識し、中・長期的な観点から、その都市に適した人口誘導戦略を立案・推進していくことが求められる。


図表2 首都圏・京阪神の都市自治体における
財政力指数と人口増加率との関係(平成17年)
図表2 首都圏・京阪神の都市自治体における財政力指数と人口増加率との関係(平成17年)



■人口誘導検討のポイント(1)

 近年の都市自治体における人口動態等の簡易な分析より、人口誘引検討のポイントを整理する。
 図表3では、首都圏・京阪神の都市自治体における第2次産業人口比率と人口増加率との関係を、平成7年、12年、17年の3時点で比較した。
 これによると、平成7年時点では両者の関係は、若干正の相関を示していたものが、平成12年では負の相関を示すようになり、平成17年では、ある程度明確に負の相関が表れるようになっている。かつては、製造業を中心とした第2次産業のシェアが高い都市において人口の伸びが高かったが、近年では、逆に第2次産業のシェアが低い都市の方が人口の伸びが高い傾向にある。
 第2次産業については、製造業の雇用吸収力の低下や製造業立地による都市イメージの低さなどが、人口誘引にとって負の要因となるものと考えられる。地方都市のみならず、大都市圏の都市自治体においても製造業の企業誘致を図る動きが多いが、人口誘導の観点からみれば必ずしも効果的とはいえない。むしろ、居住地としての魅力を高めるために、生活関連サービスや教育・文化関連サービスなど、生活の豊かさや利便性の向上に直接寄与する都市機能を誘導していくことが重要となる。

図表3 首都圏・京阪神の都市自治体における
第2次産業人口比率と人口増加率との関係
図表3 首都圏・京阪神の都市自治体における第2次産業人口比率と人口増加率との関係



■人口誘導検討のポイント(2)

 同じく首都圏・京阪神の都市自治体における人口一人当たり個人市民税額と人口増加率との関係を、平成7年、12年、17年の3時点で比較したのが図表4である。
 これによると、平成7年時点では、若干負の相関であったが、平成12年では正の相関を示すようになり、平成17年では、明確に正の相関が表れている。所得課税である個人市民税の納税額は、平均的な市民所得の高い自治体ほど大きくなることから、市民所得の高い自治体ほど人口の増加率が高く、また年々その傾向が強まっている様子がうかがえる。
 市民所得が高い地域は、かつては住宅価格も高く、いわゆる人口増加地域とは一致していなかったものの、近年の積極的な住宅着工や多様な都市機能の集積に加え、もともと地域イメージや住環境が良いこともあって、人口の定着が進んでいるものと考えられる。人口誘導の観点からは、先導役・イメージリーダーとしての所得の高い層やその居住地域をターゲットとした人口誘導策・人口流出防止策等の検討も必要となる。

図表4 首都圏・京阪神の都市自治体における
人口一人当たり個人市民税額と人口増加率との関係
図表4 首都圏・京阪神の都市自治体における人口一人当たり個人市民税額と人口増加率との関係



■まとめ

 以上、人口動態に関する簡易な分析より、都市自治体における人口誘導を考える視点として、(1)生活関連サービスや教育・文化関連サービスなど、生活の豊かさや利便性の向上に直接寄与する都市機能の誘導、(2)先導役・イメージリーダーとしての高所得層やその居住地域をターゲットとした人口誘導策・人口流出防止策の検討、の2点を指摘した。
 次回は、都市自治体の人口誘導に向けた戦略や政策のあり方について提案する。
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