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コラム「研究員のココロ」

《小技》から考えるチームづくり

2007年08月20日 加藤彰


 「どうしたらうちの部署がもっと活気付くのだろう?」
 「どうしたらメンバーがお互いに力を合わせてくれるのだろう?」
 「みんな、バラバラだ…。どうしたら、一体感を高められるのだろう?」

 そういう悩みを抱いたことのない人はほとんどいないのではないでしょうか。身の周りのちょっとした、3~20人規模の集団はもちろんのこと、合併企業の合併後の文化融合(PMI: Post Merger Integration)といった大規模な場合においても切実な悩みです。
 こうした悩みにこたえるための思考の武器として、経営学には大きく二つの分野が存在しています。一つは「組織変革」、もう一つは「リーダーシップ」です(この二つはかなりオーバーラップするものの、前者が組織全体の取り組みに関する知見、後者が一人ひとりのリーダーの在り方に関する知見を提供するという意味で性格が異なります)。
 どちらの分野も膨大な書籍や記事が出ていて、勉強材料には事欠きません。ただ、組織変革の本は、多くの人に「大きいスケールの話だなあ、私には関係ないや」(そんなことないのですが)という印象を持たれがちで、なかなか親しみを持って接してもらえません。そこで、大抵の場合、リーダーシップの本が私たちの関心の標的になります。古今東西の著名なリーダーの話や、すごい組織をつくりあげた人、牽引した人の実録をせっせと読んで、観て。例えば、「プロジェクトX」のように。
 そこに登場するリーダーは、確かに力強く、華麗でさえあり、私たちに感動を与えてくれます。そして「よし、私も明日からあんな風に!」と思わせてくれます。
 けれども、「あれはすごいカリスマリーダーの話。心動かされるけれども、とても私にできることではない」と感じてしまう人も多いのではないでしょうか。また、心構え、修羅場をくぐる経験の大切さ、滲み出る人格等々、リーダーの在り方を説いた本は山ほどあり、どれを見てもどこかで読んだような感覚に捕らわれ、大切さは納得できるのだがなかなか明日からの実践につながらないという状態になりがちです。

■「方法」の視点も必要

 今、私たちに求められているのは、二つの観点ではないでしょうか。
一つは、いきなり大きい《組織》を掲げるのではなく、3~20人規模の《チーム》を研究の題材に取り上げること。わたしたちにとって身近な「人の集まり」をイメージしながら、そこで役立つ考え方や方法は何かを問うことです。
 もう一つは、リーダーの人的資質《以外》の側面に光を当てること。「こんな素晴らしいリーダーになろう」という掛け声はひとまず置き、チームを元気づけ、力を合わせるために《何ができるか》に焦点を絞るのです。つまり、カリスマではない、ごく普通のわたしたち一人ひとりが、チームをより良くするために実践できるちょっとした工夫をカタログ化するということです。
 これが《チームづくりの技法》です。カタログ化していくと、メンバーの集め方、メンバー同士が話しやすくするために場をほぐす方法(アイスブレイク)、同じく話しやすい環境の作り方(椅子・机の並べ方から始まって、何名で話をするかのグループサイズまで)、各人の本音を対話で出していく勘所、チームの方向性を皆で考えるのに使えるグループワーク等々、《使える小技》はたくさんあることが見えてきます。
 これらはリーダーを日々務めている皆さんにとっては「こんな小手技でうまく行くなら苦労しない!」と言いたくなるものばかりでしょう。けれども、私は、お客さま企業の管理職の方々と接する中で「その机の並べ方では、普通の人は意見を言えないでしょう?」「いきなり《ビジョンを考えろ》と言われても困りますよねぇ」といった局面に多く出遭ってきました。くだんの管理職の方の人的資質がどうのこうのという問題ではなく、ちょっとした小技にまで心を配るか否かが結果にかなり大きく影響するのです。
 小技の大切さは、別の観点からも言えます。それは、リーダー、マネジャー、管理職という肩書きがついていない人にも、より良いチームづくりに貢献する可能性を切り拓けるということです。例えば、「うちのチーム、なんとか変えてやりたい」と情熱を秘めている若手社員が「うちのチーム活動をこんな風にすべきです」とそもそも論から提起したら揉めそうですが、「今日はお菓子を持ち込んでやれ」と画策したり「ポストイットに書いて議論すると、全員が参加しやすいと聞いたのですが…」「ちょっと時間を取って、こんなやり方で自己紹介しませんか」と提案したりするならば実行可能なのではないでしょうか。また、誰かがあからさまにリーダー的振る舞いをすると軋轢を生ずる集団(例:マンション管理組合)でも、小技ならば使いやすいと思います。

■二分法に陥るのではなく

 こういった経緯で、小技を整理しようと試みたのが拙著『チーム・ビルディング』(日本経済新聞出版社。共著)です。ところが、のっけからアマゾンで「あれもこれもで散漫だ」「技法に注力しすぎて、実践する人のマインド面に触れられていない」「実際のチーム・ビルディングに携わった現場経験に乏しい人が書いている」という批評をいただいてしまいました。
 散漫という批評はごもっともで「はい、すみません」と言うほかありませんが、「技法ばかり」というご指摘については、上に述べてきたことが回答になっています。心構えや在り方は他著に任せ、小技のカタログ化こそが今求められていることだと考えたのです。
 「技法ばかりだ」と批判する人の思考は、単純化すれば、次のようになっていると想像できます。「チームは技法だけを使ってもうまく行かない→だから技法のリストを見せられても役立たない」。これは、リーダーの振る舞いを「技法使用&マインド不在」か「技法不使用&マインド有り」に二分してしまっていると言えないでしょうか。
 しかるべきマインドを持った人が的確な技法を使う、これがめざす境地だと思います。となれば、リーダーとなる人たちが「こんなやり方もあんなやり方もあるのか」と知っておくこと、言い換えれば、「方法」のポケットを豊かにしていくこと、がとても大切になってくると思うのです。

■されど道は続く

 とはいえ、批評は胸にこたえました。
 前著の『ファシリテーション・グラフィック』は、自分が極めて自信を持ってやっていることを言葉にしたので筆致に自然と躍動感が出るのですが、『チーム・ビルディング』は試行錯誤的な側面も多く、現実にうまく行かないこともままあります。そのため、確固たる自信の無さが文章に現われ「現場感に乏しい」と言われてしまうのでしょう。
 また、あるとき経営企画部の方々と部門横断チーム(CFT: Cross-Functional Team)の組成の仕方について討議した際、「いやあ、活動のキーマンの当たりをつけるときにね、パッと見、物分りが良さそうで、情熱も持っている人には注意しなくちゃいけないんだよ。そういう人は『活動の主旨には賛成、でも、中身は俺流でやるから放っておいてくれ』という場合があるからねぇ」というお話しを聞かせていただきましたが、そこまでの泥臭さは盛り込めていません。こういう泥臭い小技にもきちんと向かい合って研究していかねばならないなと思いを新たにしています。


※本稿にご興味を持ってくださった方は、是非『チーム・ビルディング』(堀公俊+加藤彰+加留部貴行、日本経済新聞出版社)をご参照ください。
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