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カーボンオフセットをビジネスの本流に組み込むためには?

2008年03月18日 松井英章


最近、カーボンオフセットの商品への組込みが加速している。カーボンオフセットとは、事業の運営や商品・サービスの利用・購入など、経済活動を通じて排出される二酸化炭素の排出量を見積もり、それに相当する分の二酸化炭素削減活動に投資することで相殺しようとする手法である。その意味で、京都議定書のCDM(クリーン開発メカニズム)もカーボンオフセット的な行為の一種であるが、カーボンオフセットは必ずしもCDMを活用するものばかりではない。例えば、植林などのボランティア的な活動に募金するようなスキームのカーボンオフセットも存在する。

カーボンオフセットを組み込んで話題になった商品として、昨年末に販売されたカーボンオフセット年賀がある。残念ながら、インクジェット対応のカーボンオフセット年賀は発売されなかったため、筆者は活用を見送ったが、カーボンオフセットという言葉を一般に広めた功績は大きいであろう。その他にも、カーボンオフセット商品は多数存在する。二酸化炭素の排出の多い航空機であるが、機内で「カーボンオフセット」を販売する航空会社も現れた。通常の宿泊料金に1000円追加することでカーボンオフセットを提供するホテルも登場した。今後も、環境意識の高いLOHAS層などの取り込みを狙った、様々なタイプのカーボンオフセット商品やサービスが登場することだろう。

カーボンオフセットの意義の一つは、手軽さだ。消費者自らがカーボンオフセットの活動をしようと思って植林などを行うにはハードルが高いが、ここではカーボンオフセット商品を選択して購入するだけでいい。次の意義は、教育効果である。商品を買って使うという行為自身が二酸化炭素を排出しているんだ、ということを実感してもらうことは重要であろう。

とはいえ、カーボンオフセットが組み込まれた商品は、まだごく一部に過ぎず、モニュメント的な位置付けに留まっている。意識の高い企業が、意識の高い消費者向けに商品・サービスを一部提供するという構図であるが、より裾野を広げ、ビジネスの本流に食い込まれるためには、3つのポイントがあると考えられる。

一つは、信頼性の付与である。利用者の疑念は、本当に追加で支払ったお金が二酸化炭素削減活動に寄与しているかどうか、という点にあると考えられる。一つの削減活動がダブルカウントされていないかどうかも心配だ。この点に関しては、環境省は今年 2月に「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」を発行し、カーボンオフセットに対する信頼性・透明性確保のためのガイドラインを提示した。ただし、まだガイドラインに過ぎず、第三者認証機関による審査サービスの普及が望まれる。しかし、審査に高額なフィーを要求されたら普及の足かせになるため、低額かつ高品質な認証サービスが必要になるであろう。併せて、オフセットすべき量を正しく把握できる手段が提供されることも重要だ。

次のポイントは、販売者・消費者双方へのインセンティブの付与である。企業に対し、温室効果ガス排出に対するキャップ(排出枠)を適用するか否かについて議論されているが、その削減の義務履行方法の一つとして、オフセット商品の販売が組み込まれることになれば、普及に弾みが付くであろう。さらに、消費者側では、カーボンオフセット商品の購入に対して何らかのポイントが付与され、税が控除されたり公的サービスを受け易くなるといった何らかのメリットが受けられれば、需要側にも強力なインセンティブが働くだろう。

最後に、当然のことであるがカーボンオフセットが利用される前提として、力強く二酸化炭素削減活動が実施されている状態が維持されていることが重要である。そのために、カーボンオフセット商品販売によるお金の流れが削減活動促進のドライビングフォースとならなければならない。自己満足かつ抽象的な数値だけが行き交い、実際の二酸化炭素削減活動が推進されなければ意味がない。逆に、お金の流れが活発になり正しくリンクされることで、二酸化炭素削減代行事業のようなものが世界各地で活発化されれば、温暖化対策に大きな推進力を与えることになるだろう。

※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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