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コラム「研究員のココロ」

企業のコア・コンピタンスとしての「経営戦略力」を鍛える<第5回>

2007年05月14日 谷口知史


企業が「経営戦略力」を鍛えるためには、トップマネジメントが「意識と方法論」の両面において、自社の課題を正しく整理することが要件となる。「トップマネジメントとコンサルタントとのダイアログ」(テーマ別Q&A)から、そのヒントを見出して頂きたい。

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<FAQの構成>
テーマ/ダイアログの主たる論点
Q:トップマネジメントからのメッセージ
A:コンサルタントからのメッセージ
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テーマ19.戦術面での実行不全に対してとるべきアクションは

Q19:「経営理念」・「ビジョン」については、過去1年間、各店部社員に年間2回の頻度で説明し、年間4回開催の店長会議で理解度を確認しているところです。しかしながら、戦術面(具体的に説明済)での実行がなされていないことが判りました(例えば『部門別月次決算』に関して、『工期完了まで粗利益が把握できない』という実状)。主な理由は、「日常の業務に追われ、時間がない」・「そこまでしなくても良いのではないか」というものです。トップとして、どのようなアクションをとれば良いでしょうか?

A19:私たちは、「経営者の基本的役割」として、『経営理念の明確化と将来ビジョンの構築』・『戦略的意思決定』・『執行管理』の三点を明示しています。その観点からは、本メッセージを頂いた御会社では、トップ御自身の基本的ミッションは果たしておられるものと敬意を表したいと思います。
その上で、本メッセージで示されている問題提起に対する私たちの意見は、下記のとおりです。
  1. 戦略レベルではなく戦術レベルでの実行不全に対してトップ自らがとるべきアクションとしては、 戦略に関する「WHY(その戦略をなぜ実行するのか)」と「WHAT(その戦略により何を目指すのか)」を組織内で浸透させるために語り続ける一方で、戦略・戦術に関する「HOW(どのように 戦略・戦術を実行するのか)」については、ライン組織担当役員等に任せることが望ましい。


  2. 戦略実行のプロセスを管理するために、中期経営計画のPDCAを徹底する「組織」・「機能」・「場」という仕組みを通じて、社内に『意識』と『方法論』の両面を根付かせることが要件となる。
    上記1.2.の遂行のためには、トップ御自身にとっては(ある種の)『我慢』が求められることとなりますが、御会社の(組織としての)「経営戦略力」を鍛えることに資するものと考えています。

テーマ20.計画策定の方法論の向上のために

Q20:環境分析やSWOT分析が形式的になりがちであり、どこまでやれば良いのかという問題意識をもっています。また、どうしても数字中心の計画に陥りがちです。

A20:本メッセージも、コンサルティングの現場で私たちが直面することの多い事象のひとつです。中期経営計画の策定・実施のサイクルを複数回重ねて来られた企業において、こうした問題意識が強くなるというのが私たちの実感です。
本メッセージにより示されている問題提起に対する私たちの意見は、下記のとおりです。
  1. 「環境分析やSWOT分析が形式的になりがち」なのは、評価基準が不明確な場合によく見られる事象。例えばSWOT分析においては、『自社のビジョンを評価基準とする絶対評価』と『何らかのベンチマーク指標(業界平均・競合他社等)を評価基準とする相対評価』の2タイプでは結果も異なるため、実質的な分析のためには両面からのアプローチが望ましい。


  2. 「分析はどこまでやれば良いのか」という問題意識に対しては、『分析のための分析に止まらずに、戦略的意思決定に直結できるものとなっているか』および『過去(実績)・現在(現状)・将来(予測)について、すべて分析できているか』という観点で、そのレベルを再確認することが必要。


  3. 「数字中心の計画に陥りがち」な場合には、例えばBSC(バランスト・スコア・カード)の活用を通じて、『定量目標』と『定性目標』をリンクさせた経営計画策定の方法論を社内で確立させることが望ましい。
    上記1.2.3.の内容を参考に、御会社が経営計画策定の方法論のレベルアップに努められることを期待します。

テーマ21.中期経営計画への取り組み

Q21:当社は今年度「中期経営計画」(向こう3年間)と銘を打って、各部門ごとに年度ごとの業績目標を策定し、各部門はその業績目標を達成するための様々な施策をたて、全員で実践に取り組んでいます。また、定期的に実践の進捗状況について、経営層とのヒアリングを実践し、確認と軌道修正を行っています。従業員の士気は高まってきています。

A21:本メッセージは、自社事例として中期経営計画への取り組みを示して頂いたものです。
 私たちのコンセプトとしての「経営戦略力」を鍛えるためにも、中期経営計画のPDCAサイクルの徹底を図って頂きたいと考えています。
私たちは、「中期経営計画のPDCAサイクルを恒常化する」ことで、企業の組織全体に、意識と方法論の両面から「中期経営計画というフレームを浸透させる」ことが十分に可能となるものと考えています。
 そのためには、「愚直に、地道に、徹底的に」・「当たり前のことを当たり前に」実行することが求められます。その結果として、多くの企業が顕著な業績改善を実現しています。
 本メッセージを頂いた御会社が、今次中期経営計画を完遂されることを期待しています。

テーマ22.人材に関する課題

Q22:中途採用が多く、ビジネスマンとしての教育に不備があり、教育制度もありません。
幹部社員はプレーイングマネジャーが多く、社員管理に問題が多いのが実状です。
経営層にマネジメント能力が不足しているという潜在的な問題があります。


A22:本メッセージは、自社課題として人材に関する課題を示して頂いたものです。
 私たちのコンセプトとしての「経営戦略力」の観点からは、経営戦略の全体体系における人事戦略として捉えることができます。
 人事戦略は、経営戦略の全体体系の中では「機能別戦略」レベルに位置づけられます。そのために、『経営理念』・『経営ビジョン』・『経営目標』および『全体戦略』・『事業戦略』・『組織戦略』との間の一貫性・整合性が重要な要素となります。換言すれば、トップマネジメントの立場からは、(機能戦略レベルの)人事戦略だけを独立的に策定・実行することは困難だと考えています。
本メッセージに示されている諸課題に対する具体的な『改善・改革の方向性』を検討するためには、御会社の経営戦略(あるいは、その具体化としての「中期経営計画」)における『人材採用・教育制度・社員管理・経営層育成』に関するPDCAの状況を検証することが必要となります。
 上記内容を参考に、御会社の人事戦略の再評価・再検討に着手されることを期待します。

テーマ23.経営戦略について

Q23:経営戦略については、これまで漠然と考えてはいたものの、具体的な取り組みについてはしてこなかったので、今回良い機会と思い、貴社のセミナーを受けることにしました。とりあえず色々やってはいるのですが、組織的な統一性に欠けていて、私自身も総合的に理解していないところがあります。

A23:本メッセージは、自社事例として経営戦略に関するトップマネジメントの所感を示して頂いたものです。本メッセージを頂いた御会社も、決して経営戦略なしに存続して来られたとは考えられないため、形式的にはともかく、実質的には経営戦略を策定・実行・評価・修正して来られたものと拝察されます。コンサルティングの現場で、私たちが多く経験することに「経営トップの想いが社内に浸透していない」ことによる『経営戦略の不全』があります。
 私たちのコンセプトとしての「経営戦略力」を鍛えるためにも、中期経営計画のPDCAサイクルの確立を図って頂きたいと考えています。
中期経営計画の目的は、「企業価値向上の方法を利害関係者に理解してもらい、かつ実践するために、戦略や計画をとりまとめること」と捉えることができます。また、そのための要件は、「トップマネジメントが中心となり、『説得力のある形で』・『市場との共通言語で』中期経営計画を策定し、情報発信を行うこと」です。
 本メッセージを頂いた御会社が、まず基本的な形式による中期経営計画のPDCAサイクルの構築に着手されることを期待します。

テーマ24.顧客戦略・商品戦略に関する課題

Q24:顧客および商品ラインアップの拡大が困難です。

A24:本メッセージは、自社課題として顧客戦略・商品戦略に関する課題を示して頂いたものです。
 私たちのコンセプトとしての「経営戦略力」の観点からは、経営戦略の全体体系における事業戦略および営業戦略として捉えることができます。
事業戦略および営業戦略は、経営戦略の全体体系の中では「事業戦略」および「機能別戦略」の各レベルに位置づけられます。そのために、『経営理念』・『経営ビジョン』・『経営目標』および『全体戦略』・『組織戦略』との間の一貫性・整合性が重要な要素となります。換言すれば、トップマネジメントの立場からは、事業戦略および営業戦略だけを独立的に策定・実行することは困難だと考えています。
本メッセージに示されている課題に対する具体的な『改善・改革の方向性』を検討するためには、御会社の経営戦略(あるいは、その具体化としての「中期経営計画」)における『顧客戦略・商品戦略』に関するPDCAの状況を検証することが必要となります。
 上記内容を参考に、御会社の事業戦略および営業戦略の再評価・再検討に着手されることを期待します。

(注記)
2006年度経営戦略クラスター(大阪)主催セミナー(平成18年11月16日実施)
「『経営戦略力を鍛える』トップマネジメントセミナー」フォローアップ資料より抜粋


次回、第6回へ続く

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