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コラム「研究員のココロ」

企業のコア・コンピタンスとしての「経営戦略力」を鍛える<第2回>

2007年04月23日 谷口知史


■トップマネジメントとコンサルタントとのダイアログ(対話)から

 前述のとおり、筆者は、「経営戦略力」というコンセプトを提示してから、企業のトップマネジメントを中心とした多くの方々と「経営戦略力」をキーワードに議論を重ねて来た。その内容には、各企業に固有のものもあるが、他企業にも共通するものが少なくない。
 そこで、筆者(およびクラスター・メンバー)がトップマネジメントの方々と交換してきたメッセージの中から、「経営戦略力」というコンセプトに対するトップマネジメントの視点による問題意識を体系的にまとめてみたい。以下に、その内容を「トップマネジメントとコンサルタントとのダイアログ」におけるQ&A形式で記す(各企業に共通性が高いものを抜粋して、FAQ的にまとめている)。

「経営戦略力」をキーワードとしたQ&A(FAQ)


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<FAQの構成>
テーマ/ダイアログの主たる論点
Q:トップマネジメントからのメッセージ
A:コンサルタントからのメッセージ
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テーマ1.戦略が画餅にならぬ為の施策構築のKEYは

Q1:策定された経営計画を「どの様に実行可能な施策に落とし込むか」について、戦略が画餅にならぬ為の施策構築に際してのKEYとはどの様なものでしょうか?

A1:経営計画を策定する際に、「戦略が画餅にならない為にはどのようにすれば良いか」と悩まれるトップマネジメントは少なくありません。「戦略から(戦術レベルの)施策への落とし込み」のステップにおいては、その合理性・納得性・実行可能性が担保されるように、トップマネジメント自らが強く意識されることが重要です。そのために、「戦略が画餅になる」原因が経営計画のPDCAサイクルのいずれのステップにあるのか、を正確に把握することが要件となります。
施策構築のKEYとしては、以下のようなものが考えられます。

(1)PDCAサイクルの「P」のステップでの

  1. 経営計画策定に対するトップマネジメントの強いコミットメントと明確なメッセージ

  2. 上記1をサポートするミドルマネジメント層の強いコミットメント

  3. CFT(クロス・ファンクショナル・チーム)の組成
  4. BSC(バランスト・スコア・カード)の活用(「戦略からアクションへ」というコンセプトを重視)

(2)PDCAサイクルの「D」・「C」・「A」のステップでの

  1. 「C」・「A」を確実に行う仕掛けの具体化(「組織」・「機能」・「場」)

  2. 戦略管理オフィス(OSM)の設置

などを検討されては如何でしょうか。

テーマ2.政策の展開を組織末端まで徹底するために

Q2:経営戦略の策定から具体的行動計画の立案までは形を整えることができますが、政策の展開が組織末端まで徹底できていません。

A2:私たちがコンサルティングの現場で数多く直面するトップマネジメントの悩みのひとつです。(前記のテーマ1と共通する要素が少なくありませんが)「政策の展開が組織末端まで徹底できていない」原因が経営計画のPDCAサイクルのいずれのステップにあるのか、を正確に把握することが、改善に向けた施策を検討するための要件となります。PDCAサイクルの「D」のステップでの問題点が、「P」のステップに起因することが少なくありません。
そのため、下記項目について自己評価を行われては如何でしょうか。

(1)PDCAサイクルの「P」のステップでの現状再確認

  1. 経営計画策定に対するトップマネジメントの強いコミットメントと明確なメッセージ

  2. 上記1をサポートするミドルマネジメント層の強いコミットメント

  3. CFT(クロス・ファンクショナル・チーム)の組成

  4. BSC(バランスト・スコア・カード)の活用(「戦略からアクションへ」というコンセプトを重視)


(2)PDCAサイクルの「D」・「C」・「A」のステップでの改善策検討

  1. 「C」・「A」を確実に行う仕掛けの具体化(「組織」・「機能」・「場」)

  2. 戦略管理オフィス(OSM)の設置


テーマ3.政策立案にあたり、メンバーの温度差をなくすために

Q3:政策の立案にあたり、「あるべき姿」および「現状把握」の認識において、管理職レベルでも温度差が大きいのが実状です。

A3:本メッセージを頂いた御会社では「管理職レベルでも温度差が大きい」とのことですが、私たちの経験では「トップマネジメント層レベルでも温度差が大きい」ことが少なくありません(例えば、社長とその他の役員との間の認識の差が大きい、営業担当役員と管理担当役員との間の認識の差が大きい、等々)。
 本テーマを考える際のキーワードは、「全体最適を重視する組織」だと考えられます。

 本来、経営戦略には階層があるため、基本的には「企業(全体)戦略→事業戦略→機能別戦略」というステップを踏んで経営計画の策定が行われることになります。そのプロセスにおいて、「全体戦略はトップマネジメントの権限と責任で」・「事業戦略は事業部門責任者(多くの場合、担当役員)の権限と責任で」、「機能別戦略は機能部門責任者(多くの場合、担当役員)の権限と責任で」という組織機能が問われることとなります。
 管理職レベルのメンバーの温度差をなくすためには、クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)を組成する等の具体的な「場」の設定を通じて、ミドルマネジメント層における「全体最適」志向の醸成が不可欠だと考えられます。

テーマ4.中期経営計画策定プロジェクト・チームのポイントは

Q4:社長のスタッフ部門として、次期中期経営計画を策定中です。ライン部長を中心としたチームを作り運営していますが、メンバーの経営に対するレベルがまちまちで、活発な議論となりません。プロジェクト・チームを組成するにあたってのポイント等はどのようなものでしょうか?もっと若手を入れた方が良いのでしょうか?また、事務局が上手くチームをリードしていく方法としてはどのようにすれば良いでしょうか?

A4:本メッセージのような事象は、珍しいことではなく、そうした事象を回避するためには、メンバー全員の「目的意識」と「当事者意識」を統一することが不可欠です。「目的意識」に関しては、『中期経営計画の策定』という点で大きなブレは生じないと考えられますが、「当事者意識」に関しては、『プロジェクト・チームにおける自分の役割は何か』という点でメンバー各自の理解度・納得度にブレが生じるケースが少なくありません。プロジェクト活動を「イノベーションを目指して『もの・こと・ひと』を創出・育成する組織活動」と解釈すれば、「改善ベースの業務的意思決定」よりも「改革ベースの戦略的意思決定」を強く意識した『現状打破のための議論』が求められます。
 プロジェクト・チーム組成のポイントとしては、明確な目的意識と当事者意識を有するコア人材から成るクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)が望ましいと考えられます。「若手層」の参加に関しては、次世代のコア人材として期待されるメンバーを育成する目的で検討されては如何でしょうか。事務局がチームをリードする方法としては、プロジェクト活動に対する「トップマネジメントのコミットメント」と「ミドルマネジメントのコミットメント」が共に維持・強化されるように、社内の階層間・部門間での『情報の共有化』を徹底する社内PRがポイントとなります。

テーマ5.合弁企業の利害関係調整のポイントは

Q5:合弁企業である為、株主間あるいは株主・現場間での利害調整が困難なのが実状です。

A5:近年、資本市場を中心に企業合併等の動きが活発化していることに伴って、広く「会社は誰のためにあるのか」というテーマで議論される機会が増加しています。また、コンサルティングの現場においても、大企業を中心にグループ経営・連結経営を重視した中期経営計画の策定・実行に関するサポートを求められるケースも増加する傾向にあります。
 本メッセージは、「グループ経営における個別企業経営」および「全体戦略における個別戦略」というテーマとして捉えることができるでしょう。
まず、株主間の利害調整が困難なことに対しては、各株主企業ごとに「グループ経営における『当該企業のミッション』がどのようなものなのか」について再確認することが不可欠です。具体的には、上記内容に関して、本メッセージを頂いた御会社から各株主企業に対して改めて問いかけをされることをお勧めします。(実際上は非常に難度の高いアクションだと拝察されますが)「中期経営計画のPDCAの一環」としての目的によることを明示されては如何でしょうか。
 その上で、株主・現場間での利害調整が困難なことに対しては、「全体戦略における個別戦略」の中で、その合理性・納得性等を高めることを通じて調整の可能性が高まるものと考えられます。

テーマ6.中期経営計画策定時に、高いコスト意識を持つために

Q6:赤字転落の経験が無い為、中期経営計画策定時に、あらゆるコストを絞り込んだ計画にまではなかなかなりません。

A6:本メッセージも、私たちがコンサルティングの現場で多く経験してきたケースのひとつです。いわゆる「安定的に成長してきた」と評される「老舗企業」に多く見られる事象です。
 そうした企業においては、『会計上の利益が黒字である』ことと『(企業あるいは事業が)真に成長している』ことは必ずしも同義ではないために、トップマネジメントが合理的な戦略的意思決定をされているかを検証することが望まれます。
「中期経営計画のPDCAプロセス」における「P(=策定力)」のレベルアップのために、下記項目について検討されては如何でしょうか。

(1)トップマネジメントを中心とした、意識面での「気づき」の醸成
  1. 計画策定時の定量目標設定における「目標水準」の見直し

  2. 「P/L中心の経営」から「キャッシュフロー重視(P/LプラスB/S)の経営」への転換)

(2)トップマネジメントを中心とした、方法論面での「内部分析」手法の見直し
  1. PPM分析の再評価(例/営業利益率○%が「金のなる木」なのか)

  2. バリューマップ分析の導入(黒字イコール「価値創造」とは限らない)

次回、第3回へ続く

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