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コラム「研究員のココロ」

がんばれ! 老舗企業

2007年04月09日 小谷和成


 最近は、2000年前後から始まったITバブルも収縮し、新興企業も一時の勢いは失っているようである。それならば、「老舗企業が復活してきたか」というと、かならずしもそのようではない。多角化した老舗企業が解体され、バラ売りされる事例などが世間を賑わしているが、老舗企業が産業界に革新の息吹を与えたということはあまり耳にしない。
 そもそも、「老舗企業」とはどのような企業であろうか?端的に言えば、長きに渡り社会からのその意義を評価され、そのため組織として長期間存在してきた企業である。長期間とは、30年とも40年ともいわれる企業の平均寿命からすると、50年続くと老舗企業といえるであろう。この定義からすると、例えば旭化成やソニーも老舗企業の範疇である。しかしながら、これらの企業を老舗企業とみなしている人はあまりいないであろう。いくら長期間存在していたとしても、時代とともに事業領域を変化・拡大させていく企業や、常に先進的な製品を世の中に出していく企業は、老舗企業とは言われない。つまり、老舗企業という言葉には、企業として長い歴史を有しつつも、その事業領域をあまり変えず、既存の製品中心に事業を行う企業というイメージがある。
もちろん、このような老舗企業が悪いというわけでない。顧客のニーズに応えるとともに、顧客から高い信頼を得ているからこそ、長期間に渡り存続し続けるのである。しかしながら、社会全体から考えた場合、どうであろう。「もったいない」のではないか。

 そもそも、企業というものは、数多くの経営資源の集合体であるが、経営資源には、いわゆるモノやカネといわれる実物資産のほか知的資産が含まれる。知的資産には、a.従業員そのものやそれに付随するスキルや知識まで含む人的資産、b.経営管理の仕組み、企業文化、技術力、ブランド力、効率的な業務プロセスなど組織の知識(スキル・ノウハウ)ともいえる組織資産、c.顧客、仕入先、取引金融機関、ビジネス・パートナーなどとの対外関係である関係資産、があり、企業のイノベーションの原動力となるものである。
 老舗企業は、永く続いてきたが故に、実物資産のみならず知的資産も含めて貴重な経営資源をたくさん蓄積しているケースが非常に多いであろう。少なくとも、裸一貫ゼロからスタートした企業家からみれば、何ともうらやましいことである。新しい事業を起こすにしても、一定の経営資源を土台にすれば、ゼロからスタートするよりもはるかにリスクも少なく、成功の確率も高まるはずである。まして、既存の経営資源を有効活用できるのであるから、老舗企業から新しい事業が興るのは、社会全体の効率を考えても望ましいものといえよう。
 もっとも、老舗企業故に新規事業への発展を阻害するような経営資源(負の経営資源)があることも事実である。変革への抵抗力、横並び主義、現状追従、といった企業風土がそれに当たるであろう。
 しかし、何といっても老舗企業は、数段上からスタートを切れるのであるから、新規事業や新製品が老舗企業からどんどん発現していったとしても何ら不思議ではない。それが可能であるし、そうあるべきだと信じている。

 老舗企業を活性化し、新規事業、新製品を開発させるには、まず経営資源の棚卸しが必要であろう。新規事業・新製品開発にとって貴重でかつ利用可能な経営資源を社内から見つけることである。老舗企業のなかには、こうしたことを行わない企業風土となっているところもあるかも知れないが、実物資産、知的資産にかかわらず、一度洗い出してみるとよい。このとき、研究・開発、生産、販売、本社管理などの一般的な企業内バリューチェーンを切り口とすれば、やりやすいのではないか。おそらく、新興企業では足元にも及ばないような素晴らしい経営資源がたくさん出てくるであろう。この経営資源を活用して、新規事業・新製品への開発につなげ、老舗企業を活性化していくのが、経営者の役割である。
 また、自社の経営資源だけでは不十分な場合には、他社から経営資源を取得する、あるいは、他社と経営資源を交換するといった業務提携やM&Aの手法も必要となるであろう。業務提携やM&Aは、ブランド力という経営資源の維持との兼ね合いもあるが、老舗企業といえども、企業活性化のためには必要不可欠な経営手法となっている。
 このようなことばかりいうと、かなり難しい経営を強いられる気がするかもしれないが、新事業・新製品開発において、老舗企業は一歩も二歩をリードしていることを考えれば、決して困難なことではない。繰り返しになるが、ゼロから事業を始める方がはるかに厳しい。要は経営者の意識の持ち方である。社会全体の効率の見地からも、将来老舗企業から新事業・新製品が湯水のように湧き出てくることを大いに期待している。
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