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コラム「研究員のココロ」

なぜ建てた会社が住宅を直さないの?
~住宅供給業者は失われた関係性を取り戻せるか~

2006年12月11日 新角耕司


 ほとんどの生活者にとって、個人としての最高額の買い物はいまだに住宅であろう。この半世紀、政府の強力な住宅取得促進政策に後押しされ、我が国は世界的にも類を見ない急速な住宅ストックの蓄積を実現した。同時にそれは住宅および住宅部材(住宅設備・建材)の産業化を促し、年商一兆円を超える巨大企業が複数成立するまでに至った。
 しかし足下を見ると、我が国の人口はすでに減少過程に入っており、世帯数も平均世帯人員を減らしながら今後10年以内にピークを迎えると予測されている。加えて住宅の耐久性が向上し、近年新設される住宅が年々長寿命化していることを踏まえると、住関連業界が新築住宅にのみ依存して成長可能な時代はもはや終わったと言わざるを得ない。

 このような状況で住関連産業の各プレイヤーが次なるターゲットとして狙うのは、修繕・改装などの住宅リフォームである。事実、建設後10~20年経過した「リフォーム適齢期」の住宅ストックが大量に存在することを背景に、リフォーム市場の将来については強気な将来予測が多く存在する。また、内閣府「住宅に関する世論調査(平成16年11月)」等の各種調査結果を見ると「同じ住宅に住み続けたい」と考える生活者は多い。さらに住関連業界各社の経営方針等に目を転じても、軒並み「リフォーム市場・ストック市場の開拓」を目標の一つに掲げている。
ところが国土交通省「増改築・改装等調査」等の各種調査結果から現状を見ると、住宅リフォーム市場規模の推移は新設着工戸数のそれとほぼ傾向を同じくしており、ここ10年ほど決して拡大しているとは言えない。

 対象となる「適齢期」の住宅は多数存在し、住まい手も今と同じ住宅に住み続けたいと思い、企業もやる気にあふれているのに、住宅リフォーム市場は大きくならない。なぜか。作り手と住まい手の間の関係が切れてしまっているからだ、とわたしは思う。

 住宅が新しく建てられた時点で、その住宅のことを最もよく分かっているのは、作り手である住宅供給業者であろう。住まい手は「住宅利用のプロ」ではあっても「住宅建築のプロ」では必ずしもないからだ。であるならば、「住宅のお医者さん」として住宅の維持管理を最適に行えるのもまた、住宅供給業者であるはずである。ところがこれまでの住宅供給業者のミッションはその名の通り住宅を「供給すること」であり、「維持管理すること」ではなかった。つまり作り手の方から積極的に住まい手と住宅を手放してしまったのである。
 その結果どうなったか。住宅の新築時には確立されていた、住宅供給業者を頂点とするサプライチェーンは崩壊し、住宅部材メーカー・施工業者・専門工事業者など、サプライチェーン上の各プレイヤーが一斉に住まい手の元へ殺到している。さらにその中にリフォームの名を借りた詐欺まがいの業者が多数紛れ込んでしまった結果、住まい手のリフォームそのものに対する信頼感までが低下してしまっている。サプライチェーン上の各プレイヤーから見ても住まい手から見ても、住宅供給業者はいまや最も頼れる相談相手ではなくなってしまっているのだ。

 一度冷え込んだ需要を刺激し、同時にかつての盟友たちと競争しなければならない状況で、住宅供給業者がリフォーム需要獲得のためにすべきことは何か。自らが建築した住宅ストックを自社の資産と捉え直すことであろう。
資産であれば維持管理は必須である。建築した後も住まい手とともに住宅に手を入れ続けることで、住宅の物理的・社会的な寿命を伸ばすことができる。これは住まい手の住宅に対する満足度を高めるだけにとどまらず、仮に住まい手がその住宅に住み続けられなくなった場合でも、高く転売できる可能性を高める。この両方が、自社にとっての需要獲得機会を生み出すことになる。またそのような姿勢を明確に打ち出すことで、住宅供給業者に対する住まい手の期待感は高まり、リフォームだけでなくインテリア製品・ホームクリーニングサービスなど、他の住関連商品の販売機会獲得も期待できる。
 もちろんこれを実行するには、現在の新築供給に最適化した販売組織では対応困難であり、「住宅の性能の維持向上度合い」が評価の対象となるような、住宅と住まい手への対応に特化した本格的な支援組織が必要となる。

 かつて、住宅は住まい手と棟梁との共同作業によって建築された。棟梁は地域コミュニティに根ざし、近隣全ての住宅の面倒を見る存在であったろう。地域コミュニティそのものが失われつつあるいま、住宅供給業者こそがその機能を進んで担う必要があるとも言えよう。いつの時代も「住宅のお医者さん」は必要とされているのだから。
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