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コラム「研究員のココロ」

営業力強化に向けての基本視座

2006年08月14日 木下輝彦


 営業変革を妨げる最大の要因は、「景気回復・上昇」である。逆に、景気が低迷し、企業業績が低迷すると決まって「科学的マーケティング領域最後の課題」として営業改革に焦点が集まる。
 少しでも景気・需要が上向き、他律的な企業業績が上向くと途端に「今のままでもよいのでは」という雰囲気が社内・部門内を、何よりも経営トップの頭の中を支配し始める。景気に併せて営業力強化の取り組みが盛衰する、という現実がここにある。

 このことは「なんだかんだといっても営業は売ってなんぼ」というパラダイムから脱皮できない証左であろう。景気に左右される企業経営を受容する企業であれば、従来の「短期的な売上結果を重視する営業」で十分だが、「どのような環境下でも成長し続ける企業」を志向するのであれば、パラダイム転換を真に図らなければならない。では、「売ってなんぼ」パラダイムの深層にはどのようなことがあるのだろうか?複数考えられる真相の中で、今回は「営業力」というビッグワードに絞って考察を試みたい。

 上記のように、真の営業改革が進展しない1つの論点は「営業力」という言葉が抽象的すぎて、活動スペックに落ちない、という点であろう。活動スペックは市場・顧客状況に応じて変わるため、最終的な活動計画は各営業担当者に委ねられる。結果として、本部・上層部からの営業力強化指針は、抽象的な戦略論・精神論とならざるをえず、その実現方法論の根幹としての「営業力」についても様々な見解が営業組織内で飛び交う。
 あるヒトの「営業力」とは、「営業担当者個人の能力」であり、また別のヒトの「営業力」とは、「顧客情報に基づいた的確な組織的対応能力」をさし、さらに別のヒトは「顧客ソリューションに向けての技術開発・物流等他部門との協業度合い」をイメージしている。
 このような状況で「営業力強化」を議論しても、何も結論は出ない。各営業担当者の混迷の度合いが強まり、モチベーションを下げる大きな要因である。
 ここでは、営業力を「エンドユーザーにとっての最大価値を提供するために、社内外の資源をコーディネートして価値実現する力」と定義付けよう。
 この定義からは、営業力は複数の力から形成されていることがわかる。以下、仮説レベルで「営業力」を形成するスペック(及びその効果)に分解してみよう。

1.社内資源
(1)企業ブランドによる認知度・信頼感(顧客アプローチの初期障壁の低さ)
(2)製品・サービス品質(製品性能以外の不可視なベネフィットの説明効率化)
(3)価格低減体力(価格低減を可能にする財務体力蓄積)
(4)ロジスティック力(決まったものを、決まった時間に、より低コストで届ける)
(5)アフターサービス力(売った後に、購入前期待の実現度を確認し、修正、追加サービスを提供する)

2.社外資源
(1)顧客ソリューションに向けた各種専門家とのネットワーク力、及びその目利き能力
(2)自社からエンドユーザーに至る流通チャネルの力

3.営業担当者の個人能力
 さらに個人能力はいくつかのパワーに細分化される。
(1)顧客理解力
 顧客の課題は何か。どう解決すればよいのか。当社・自分の役割は何か。誰がOKといえばよいか、何を欲しがっているか、どう言えば納得するかを心得ている。
(2)社内外専門家との調整能力
 エンドユーザーソリューションに向けたチーム形成とそのメンバーの探索、調整能力
(3)顧客説得力
 顧客側の立場でエンドユーザーソリューションに寄与するパートナーとしての立ち居振る舞いを行うという関係構築の最終合意を獲得するクロージング能力
(4)上記の結果として、(社内外)人脈活用を含めた問題解決力
 自分自身の分析・提言能力もさることながら、専門的知識・能力を有するネットワークの保持と活用。いつ、誰を使うと最も効果的かという検討に労力を使う。

 別の見方をすれば、1、2の社内外資源の総和を、顧客のニーズとおぼしきテーマに向けて最大化するソリューションを実現するために、3の個人能力を活用するという図式になるだろう。
 ただ理解しなければならないのは、3.の「営業担当者の個人能力」を除いては、いずれも営業部門ではアンコントローラブルなパワーとしての営業力要素だ、ということである。
 この局面において重要となるのは、顧客側の意思決定基準を用いて、資源組み合わせの総和の最大化をするという複雑性である。さらには、競合他社との相対的最大化を図るという点も複雑性に拍車をかける。

 さらにいえば、1から3の品質は実は客観的に一律ではなく、顧客側意思決定者の主観に大きく左右されるという事実を前提にしなければならない、という点を考慮しなければならない。
結果として「事実こんな価値をもたらす」ということよりも「あなた・あなたの会社にはこのような便益をもたらす」という顧客意識に基づいた翻訳作業がないと、顧客には届きにくい。
 あるいはもし届くとしても、それは客観評価によるものになるため、営業担当者からいうと「ウチの製品・価格・ロジスティックでは競合との相対比較では勝負にならない」という主観判断による行動回避という悲しい結果になりがち、という点は注目に値する。

 社会科学としての「営業論」の存在を危うくするのは、「客観的資源の総和としての営業力」が一律に効果的だとは言えない以上、「顧客の主観判断としての営業力」を定量的に判断しなければ、現実的な財務数値に反映しにくいという点である。
 この「営業力強化が財務数値に反映するかどうか、を実証する」ということは極めて重要な論点である。営業力強化を試行する企業が「現在の強化活動を続けて果たして財務数値に反映するのかどうかわからない」という点において活動モチベーションを低下させている、という事実がその重要性を物語る。
 このことは「客観資源数値を上げる」という生産管理的ダイレクトな改善活動(例えば営業間接業務を効率化し外販時間を増やす)は顧客から受け入れられるかというと必ずしもそうではなく、営業担当者からも「こんな顧客もいるから、一律には効果があるとは言えない」という言い訳を生む。さらには、理論フレームとしての営業モデルが客観的には定式化困難という点も炙り出す。
 結果として、仮説としてのモデルを営業現場においてゼロベース(例えば売上げ目標を全部はずして)で営業現場において取り組み、仮説が検証されたのかどうかを入念に分析し、次なる仮説構築に役立てるという着実な取り組みを部門横断的に、継続的に実践することこそが営業力強化の王道と言えるだろう。1950年代から90年代にかけて構築された、成長市場における営業モデルをパラダイム転換するのに、その簡単な方法論は存在しないと考えた方がよいだろう。
 マーケティング理論フレームを越え、戦略論、管理論、組織論だけでは語れない、哲学、倫理学、心理学、教育学、管理会計まで動員しなければ営業力は語れない、ということを念頭に置かねばならない。
 つまり一企業における営業力強化を考え、定着する上では、営業部門に閉じた発想では自ずと限界があり、製品開発・人事・財務・物流という各部門を巻き込み、さらには社外の専門家、チャネルとの綿密なすり合わせと仮説形成、仮説検証に向けた活動が必要だといえるだろう。
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