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コラム「研究員のココロ」

通信キャリアはITインフラを狙え

2005年08月01日 冨島正雄


 新たな収益源を求め、通信キャリア(特に固定系通信キャリア)のシステム・インテグレーションへの進出が活発である。これはIP-VPN、広域イーサネットが登場し、コンピューターと通信の融合が進む環境下では当然ともいえる。
 一歩進んで各社の状況を見ると、業務アプリケーションまで手を出してSIerと対抗しようとする企業もあれば、ネットワーク周りにとどめようとする企業もある。また、思うようにソリューション事業から収益を上げられず、苦しむ企業は多い。では、通信キャリアはシステム・インテグレーションのどの部分を狙うべきであろうか。
 私の理解では、システム・インテグレーションの世界は業種特化した「業務アプリケーション」(ユーザの業務に適合するように作成されたアプリケーションソフトウェア)に近いものと、業種共通的な「ITインフラ」(IT を活用して業務を遂行するための基盤となるパソコン、プリンタ、社内ネットワーク (LAN)、インターネット接続回線、ファイルサーバ、各種ソフトウェア等)に近いものとに分けられる。

図1:システムインテグレーションを構成する世界
システムインテグレーションを構成する世界
出所:日経コミュニケーションズ2004.10.15
「もう”線路屋”とは呼ばせない!」を参考に日本総研作成


 現在のところ、ITインフラの設計・構築は、SIerが業務アプリケーションとともに請け負うことが多い。しかし、SIerでもITインフラは業務アプリケーションとは別の部署又は専門の下請企業が行うことが多く、互いに関連はしているが独立性は高い。なぜなら、業務アプリケーションとITインフラとでは、設計・構築に必要な知識・コスト構造が異なるためである。

図2:業務アプリケーションとITインフラの設計・構築と通信キャリアの現状
業務アプリケーションとITインフラの設計・構築と通信キャリアの現状
出所:日本総研作成


 業務アプリケーション、ITインフラの設計・構築に必要な知識・コスト構造と、通信キャリアのそれとを比較すると、業務アプリケーションに近い部分は顧客業務に対する深い理解が必要なため、通信キャリアにとってハードルが高いことがわかる。
 一方、ITインフラの設計・構築は通信キャリア事業と比較的似ており、ハードルは低い。つまり通信キャリアは、
  • 顧客業務に対する理解が深いとは言えない。
  • ネットワークの知識を持った営業マン・SEを多く抱えている。
    (通信キャリアが持つ通信ネットワーク構築・管理ノウハウは、企業内情報インフラ構築のノウハウと似ている。通信プロトコルは同じTCP/IPであるし、通信機器やサーバ類も規模の差はあるものの、機能はほぼ同一である。)
  • 設備投資や物件費など、モノに関するコストが重い。

という状況になっている。
 また、以下の点で競合(SIer)に対して差別化できる。
  • 通信キャリアはネットワークも含めてITインフラを総合的に提案・提供できる。
  • その企業規模・体力から、ソフト・ハードの調達力を持っている。
  • 立場上顧客のITインフラの情報を手にいれやすい。
上記三点を細かく説明する。

 ITインフラを提供する事業者の中で、ハード・ソフトからネットワークまで総合的に提案・提供できるSIerは残念ながら少ない。とくにネットワーク部分は工事や切り替えの進捗管理が重要かつ手間がかかるにも関わらず、直接工事部門と交渉しながら顧客に対応できる事業者は少ない。これは他社に対してサービス面での差別化要因となりうる。
 その上、通信キャリアは強力な機器調達能力を持っている。自社ネットワーク構築のためにメーカーから機器を直接大量に購入するため、ルーターやサーバー等を非常に安い価格で仕入れることができる。
 また、通信キャリアは立場上顧客のITインフラの情報を手にいれやすい。とくにIP-VPNや広域イーサネットの普及がすすんでから、顧客のネットワーク図やサーバ配置図を入手しやすくなった。さらに、大規模工事の情報は必ず通信事業者の耳に入る。顧客の情報を手に入れやすいという立場を活かしてITインフラ部分のソリューション提案に持ち込んで行くことは、それほど困難ではない。

 固定通信サービスの法人マーケットはIP系商品やVOIP等の新技術の登場により、専用線や電話が衰退し、トータルとして売上げの大きな低下に直面している。国内の法人向け固定通信市場は3兆円ほどであり、毎年固定通信マーケットが5%程度縮小しているのを考慮すると、毎年1,500億円ほどマーケットは縮小している。一方で、日経ソリューションビジネスの推定によると、IT基盤・運用サービス全体では一年に推定2兆3,500億円の市場がある 。今後通信キャリアがシステム・ソリューションに対する理解を深めた上で取り組みを強め、新しい収益源に育てるためには、ネットワーク技術など自社が持つ強みを活かし、競合相手との差別化を図って、顧客に評価されるソリューションサービスを提供していくことが必要である。

 (注)
   日経ソリューションビジネス 2005.1.30号 「ITサービス市場動向予測」
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