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コラム「研究員のココロ」

通信と放送の融合点を見る(前編)

2005年06月27日 宇賀村泰弘


 日本市場は長らく細かなビジネス単位の縦割り市場が形成されていた。そのため、同じようなサービスであっても異なる事業者からサービスを受け、結果として割高なサービスがユーザーに提供されていた。しかし規制緩和により、市場相互の融合が進んだ結果、競争は激化し、その勢力図は大きく変化している。通信、放送業界も大きな波を受けてその変化はより加速している状況である。通信と放送の融合と言われて久しい中、その融合点に目を向けてみたい。


1.通信と放送の融合は、「事業展開」と「インフラ統一」である

 電気通信役務利用放送法の施行により、ソフトバンク、KDDIがIP(Internet Protocol)での放送サービスを開始した。必ずしも順調であるとは言い難いが通信事業者のIPによる放送の始まりである。両事業者ともアクセスラインはFTTH(Fiber To The Home)、またはADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称デジタル加入者線)であり、インターネットサービス、音声サービスなどもセットにして、通信と放送サービスの両方を一事業者が提供している。融合と言えるのは、通信と放送は「伝送」と「情報」を区切り、一つのインフラに複数の情報を載せるモデルになっているからだ。

 下図を見ていただきたい。今までは各通信、放送サービスは、異なる物理ネットワークの上に、異なるPF(Plat Form)を持ち、それぞれのサービスを完全に独立に行っていた。ブロードバンドの普及、電気通信役務利用放送法の施行、通信料金の低下など様々な背景により、右図のような形へ融合が進んでいる。

【図表】市場構造から見る融合の姿
市場構造から見る融合の姿
(出所)日本総合研究所


 より正確に見れば、通信と放送の融合は、「事業の展開」と「インフラの統一」の二つの要素を持っている。規制緩和により、通信事業者はより高レイヤのサービスの提供を開始すると同時に、低レイヤの物理ネットワークはコスト削減効果と、大容量(将来の拡張性)への期待から光ファイバへの統一を進めている。つまり、通信と放送の融合は通信事業者の積極展開にその実態が見られる。高レイヤを中心に事業を行っている代表的な存在である民放各社は、既存の事業モデルが安定しているため、積極的に事業展開を図る通信事業者に攻められる側になっている。こうした動きは、通信各社の競争による通信費用の低価格化により、通信会社の事業環境が著しく厳しいことを考えれば、至極当然のことと言える。


2.通信事業者の高レイヤへの進出

 通信事業者の放送サービスが既存の放送と大きく異なるのはIPによる放送であること、地上波の再送信が出来ないことの二点である。ユーザーから見れば、IPであることは視聴そのものに関してはさほどの意味を持たず、利用料の低減や品質が重要である。むしろ事業者側においてシンプルで汎用的技術のIPであることは非常に大きな意味を持つ。IPでは、多対多の双方向通信手段を一定の信頼性を確保して低価格で実現できることで、設備投資の削減に寄与するからである。一方で、肝心なコンテンツはというと、地上波の再送信がIP放送事業者に認められていないという現状があり、これは通信事業者にとって大きな障壁となっている。

 迎え撃つ民放、ケーブルテレビ各社は今、どのような状況だろうか。民放は既存放送メディアにおいてコンテンツ制作と伝送の両方の機能を保持しており、地上波放送が主流である今日においてその機能の全てを脅かされる可能性は低い。特にコンテンツ制作、アグリゲーション機能を通信事業者が担うことは難しい。そのため、今後民放にとっての通信事業者との関係では伝送機能が焦点になる。2011年にはアナログ放送が停波になり、デジタル放送に全面切替されるが、そのための設備投資は膨大であり、系列の地方局は対応に苦慮している。また、双方向のサービス提供には有線が欠かせない。こうした中で、伝送機能は、電波による無線方式ではなく、FTTHを利用した有線での再送信に期待がよせられている。但し、民放各社はIP放送を行う通信事業者をパートナーとするのではなく、より関係性が強く、単純な再送信を行うケーブルテレビ事業者をパートナーとして有力視している。

 ケーブルテレビ事業者は、顧客ニーズの多様化を背景に多チャンネル放送を展開し、国内のみならず海外からもコンテンツ(チャンネル、番組)を仕入れ、コンテンツ拡充を武器に顧客獲得に力を入れている。もともと、CATV事業者は地域での棲み分けが行われており、同業者による競争は市場内では発生せず、衛星放送だけがその競争相手であった。しかし今後は、IP放送を行う通信事業者との競争が激化することになり、現時点でもインターネット接続サービスでは通信事業者との激しい競争が行われている。インターネット接続においては同軸ケーブルにおける高速化技術も進んでおり、FTTHと対応に渡り合えるまでになりつつある。しかしながら、加入者の伸びは一定であり、FTTHの猛追を受けている。


3.通信と放送は融合するのか

 融合と一言で言っても立場ごとに分けて考える必要がある。ユーザーの立場から見れば、単一の事業者から、通信と放送の両方のサービスを同じ機器で同時に受け、まとめて料金を払うことは融合されたと見ることができる。一方、事業の立場では、自社でどこまで通信、放送サービスを提供しているかで融合を図ることはできない。提携など他から資源、サービスを調達することができるからだ。この視点での事業者から見る融合とは、通信、放送サービスに必要な資源、サービスを自社で行うことも、そして外部調達を行うことも自由にできることを意味する。

 この考えをベースにすれば、通信と放送の融合は未だ実現していないことがわかる。ネックになっていることがいくつかある。
  • IPでの放送では地上波の再送信が認められていない。
  • IP電話がかならずしも既存の固定電話と同レベルの機能を有していない(発信制限、プロバイダ間の連携などによる全国規模での統一がなされていない)
  • 国内の映像コンテンツの権利処理が進んでいない(再利用ができない)。
  • 全国すべてにおいてブロードバンド環境(光ファイバ)が普及していない(特に地方)。

 こうした項目が解消されると同時に、通信と放送は一緒に取り扱われるようになり、ユーザーとしても一つのインフラを通してサービスを享受するようになる。今までの放送は一方向のサービスであったが、通信との融合により、放送サービスはインタラクティブになると考えられる。私個人としては、真の融合とは「ユーザーの生活そのものにより大きな「変革」をもたらすものであり、そうした変革こそが融合の本質である」と考えている。
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