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コラム「研究員のココロ」

実行される中期経営計画を!

2006年03月06日 八幡晃久


 本稿をお読みになっている方の中にも、中期経営計画(以下“中計”と称す)を策定されている会社は多いかと思います。コンサルタントという仕事柄、企業経営者の方から「中計の策定を手伝ってほしい」というご相談をいただくことがしばしばありますが、「過去の中計はあまりうまくいかなかった」とおっしゃる経営者の方が多いことに驚かされます。経営者の方は、目標が未達成であったことをもって「うまくいかなかった」という表現を用いていることが多いですが、その要因について言及されることは稀なように思われます。
 本稿では、多くの企業で策定されてはいるものの、なかなかうまくいかない「中計」を成功させるコツについて考えてみたいと思います。


「実行されてこそ」の中計

 では、中計の成否はどのような要因によって決まるのでしょうか。筆者の結論としては、「いかにして社員をやる気にさせ、実行性を担保するか」が最も重要であると考えています。
 「戦略の効用」を「戦略の優位性」と「メンバー(実行主体)の納得性」の2軸で見た場合、「戦略の優位性」よりも「納得性」を高めたほうが戦略の効用は高まるという考え方があります(図1参照)。いかに「きれいな経営戦略」を描きそれを中計に落とし込んだとしても、実行されなければただの「絵に描いたもち」に終わってしまうことを考えますと、直感的にも理解しやすい概念であり、筆者自身、この考え方に共感する部分が多くあります。

図1
図1
堀公俊著「ファシリテーション入門」より抜粋

 中計策定という局面では、社内外のステークホルダーを意識してか、とにかく「きれいな戦略」を描きたくなる傾向があるのではないかと考えています。もちろん、戦略の検討自体はしっかりと行わなくてはなりません。しかしながら、「きれいな戦略」に目を奪われるあまり、「社員が納得感を持って実行できる戦略」という観点がおろそかにされているのではないか、というのが筆者からの投げかけです。
 過去の中計を振り返る際には、単に業績の達成状況に注目するのではなく、「これまでの中計は、本当に社員が納得できるものになっていたか。最後までやり切れていたか」という視点で一度検証されてみてはいかがでしょうか。そして、次の中計策定にあたっては、「きれいな戦略」よりも「納得される戦略」、「実行される戦略」という考え方に重点を置いてみてはいかがでしょうか。


実行される中期経営計画策定のポイント

 それでは、中計の実行性を高めるためにはどのようなアプローチが必要なのでしょうか。
 社員の納得性を高めるアプローチのひとつとして、実際に中計を実行していく各部門のキーマンを戦略立案段階から巻き込み、当事者意識を醸成する方法があげられます。既にこのような取り組みをされている企業も多いと思いますが、実際にうまく機能している例は意外に少ないと感じています。
 うまく機能していないと感じられている方は、まず、本当に「キーマン」が集まっているかどうかを今一度確認してください。
 良く見受けられるのは、各部門の手の空いている人を集めてプロジェクトチームを組んでいるというケースです。これではキーマンが集まるわけがありません(どの企業でもキーマンは多忙です)。わざわざ忙しいキーマンを集めて議論してもらうのは、キーマンに納得してもらい実行に移してもらうためです。そして「キーマンの持つ影響力」により、各部門全体に「中計を実行していくのだ」という雰囲気を伝播してもらうためです。人選の際には、各部門の中で「あの人がそういうのであれば、ともかくついていこう」と思われる人を選んで頂きたいと思います。
 もう1点、うまく機能しない理由としては、議論する「場」が担保されていない、ということが考えられます。
 筆者自身、クライアント企業の部門横断的なプロジェクトチームにおける議論の場に同席させていただくことがありますが、プロジェクトメンバーの発言の中に「自部門の利益を損なわないようにしたい」という思いが読み取れることがあります。プロジェクトメンバーが自部門の利益代表者として振舞っていては、議論は平行線をたどるか、もしくは「声の大きい人」の意見が最終決定となってしまいます。
 日常業務において異なる役割を与えられている部門間では、その文化の違いにより、同じ言葉でも使い方や受け取り方が微妙に異なっている場合があります。例えば、「在庫」という単語を聞いたとき、営業部門の社員は「在庫は多いほうが良い(在庫があればお客様に商品を売りやすい)」と考えるのに対し、財務部門の社員は「在庫は少ないほうが良い(運転資金を圧縮したい)」と考えるでしょう。必要なことは、まず「在庫の増減によるメリット・デメリット」についてプロジェクトチーム内で合意形成し、「在庫」という言葉の意味を共有することです。この段階を経てはじめて、在庫に関する議論ができる準備ができたといえます。その上で、全社的な利益を最大化するためには「在庫」はどうあるべきなのか、という議論を進めるべきなのです。


最後に

 本稿では、中計策定にあたり、「実行すること」の重要性を訴求した上で、そのためのポイントを簡単に紹介しました。ただし、これらのポイントを実践する際には、「経営者の強い意思」が必要不可欠となります。例えば、各部門からキーマンを集めてプロジェクトを組成することだけをみても、社員に大きな負担を要請するものであり、経営者の強い意思がなければ形だけのものになりがちです。
 中継の策定は、本来大変なエネルギーを要する1大イベントです。それでもなおこれをやり遂げようとされている経営者の方々にとって、本稿が少しでもお役に立てれば幸いです。
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