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コラム「研究員のココロ」

企業提携や異業種交流の成功は意識改革から(実践編)
~提携ありきの提携を成功させる「コンセプト創造型提携」への意識改革ポイント~

2006年02月27日 吉田賢哉


 前回、理論編では、提携の目的を再考した。多くの提携には最終的なビジネスイメージが存在し、実現に向けた効率性が重要となるので、一般に提携では効率の追求に意識が向きがちとなる。しかし、時には目的のはっきりしない提携も存在する。目的のはっきりしない提携ありきの提携において、強い参画意識を持った企業が集まっている場合を他の提携と区別して『コンセプト創造型提携』と呼ぶこととした。また、ビジネスイメージを生み出すために参画意識が重要であることを述べた。
 今回、実践編では、異業種交流会を例として、コンセプト創造型提携に求められる参画意識を備えるためには、どのような意識改革が必要かをより具体的に考察する。


◆異業種交流会における『コンセプト創造型提携』の例

 中小企業では、何かしらの新規ビジネスの創出を期待して、異業種交流という1つの提携の形態を取ることがあるが、この背景に、行政から補助金が貰えるから提携するという意図が隠れている場合がある。このような提携は、最終的なビジネスイメージは存在せず、補助金を貰うためのまず提携ありきの提携となっている。補助金のみを目的とした提携は、多くの場合失敗する。筆者は、いくつかの異業種交流会にインタビューを行ったが、失敗した異業種交流会から聞こえてくる声は、「異業種交流会に参加したけれど、何も仕事がなかった」、「定例会はただの茶飲み会になってしまい、時間の無駄と感じてしまった」、「異業種交流会内部の役職争いが起こり、新しいビジネスを生み出すことよりも、内部の闘争に力が使われてしまった」といったものであった。

 成功している異業種交流会に共通していえることは、「新製品を開発する」、「独自の技術を習得する」、「地元のために貢献する」といった意識が、異業種交流会の参加者に強いということだ。皆、参画意識を持って異業種交流会に集まっている。また、最終的なビジネスが自分たちにもたらすであろう利益よりも、異業種交流会の活動そのものに価値を見出しており、異業種交流会を通じて「様々な情報や知識に触れることができた」、「新しいビジネスを生み出す経験を積めた」、「異業種交流会を通じてやりたいことを考えるうちに、自社がやりたいことは何かを考えるきっかけとなり、自社の『理念』を構築することができた」、「異業種交流会のメンバー企業や、外部の専門家などとの人脈が広がった」などの声がインタビューから聞こえてきた。
 参画意識の高い異業種交流会は、まず提携ありきの提携であっても、常に、「自分たちは何をしたいのか」を問うている。自分たちがしたいことを突き詰め、自分たちの活動を決めていく。つまり、提携を通じて、活動のコンセプト・方向性を自分たちで創造していく。筆者が、理論編でこのような提携を他の提携と区別して『コンセプト創造型提携』と名付けたのも、インタビューを通じてこのようなことがわかったからである。

 ビジネスの最終的なイメージが存在して、経営資源獲得や、コストのコントロールを目的とする提携では、合理性や効率性の追求は大切である。しかし、提携を通じてビジネスのコンセプトを創造していく場合には、合理性や効率性の他に、参画意識が重要である。
 コンセプト創造型提携を実現するために、提携に関わる企業が強い参画意識を持つよう意識改革を行うことが、企業提携や異業種交流成功の1つの鍵となるのではなかろうか。


◆異業種交流の成功と失敗の分かれ道~参画意識を持った「コンセプト創造型提携」の集団となるためには

 提携に対して高い参画意識を持ってもらうよう、意識改革を行うことが提携成功の1つの鍵であると先に述べた。では、コンセプト創造型提携で改革すべき意識とはどのようなものであろうか。ここでは、異業種交流会へのインタビューを参考に、いくつかの考察をしたい。
 理論編でも述べたが、まず、最終的なビジネスイメージがない提携をしている際には、そのことを十分に認識する必要がある。合理性や効率性の検討だけに向きがちな意識を、ビジネスのコンセプト創造にも十分に向ける必要があることを理解しなければならない。合理性や効率性は、どちらかというとわかりやすく、売上や利益に直結するので過剰に重視したくなる。しかし、あまり掴み所がなく、売上や利益にはすぐつながらないコンセプトに関する議論を疎かにすれば、ビジネスの方向を誤り、合理性や効率性の検討も無駄になってしまう。目の付け所が悪いことを効率的にやるよりも、多少効率を後回しにしてでも、良いところに目を付ける方が、最終的な結果が良好になる場合がほとんどである。
 そして、「提携は仕事を割り振ってくれるもの」ではなく、「提携は仕事を共に生み出すもの」という意識になることも提携成功には欠かせない。特に中小企業では、大企業の系列に組み込まれていた経験などに起因して、「提携で集団に属せば仕事が割り振られる」と勘違いしている場合がある。下請け的な発想に終始し、与えられた仕事を上手くこなすことだけに留まっていては、最終的なビジネスイメージが無い状態を脱することができず、失敗の提携になってしまう。異業種交流などは、仕事を与えてくれる場ではなく、共に仕事を生み出す場なのである。
 また、提携のパートナーの成功をむやみに妬んではいけない。提携先が自社よりも多くの利益を上げるといったメリットを享受していると、面白くない気持ちになってしまい、提携解消へと進みがちである。しかし、自社も何かしらのメリットを提携から得ているのであれば、提携を継続することに意味があるはずである。妬みの気持ちは、自社のメリットを見失わせる原因になる。それゆえ、提携パートナーと自社の相対的な関係からメリットを考えて提携を眺めるのではなく、従来の自社と現在の自社という観点でメリットを考えて提携を眺めることが重要となる。
 以下に、コンセプト創造型提携の際に求められる意識改革を簡単にまとめる。

【図表】コンセプト創造型提携に必要な意識改革
コンセプト創造型提携に必要な意識改革

(出所)[1]を参考に筆者が作成



◆まとめ

 多くの場合、提携には目的が存在しているため、提携では目的を合理的・効率的に達成することが重要となる。しかし、一部の提携は、目的が存在しない状態でなされている。この場合、提携を成功させるためには、「コンセプト創造型提携」を行わなければならない。提携によって達成する最終イメージを遠回りのように見えてもしっかりと議論し、提携で目指すコンセプト・方向性を決めていかなければ、成功へと近付くことはできない。
 コンセプト創造型提携を行うためには、参画意識を持った提携のパートナーが必要である。コンセプト創造型提携は、仕事を与えてくれる提携ではなく、共に仕事を生み出していく提携である。このような意識を持って提携に臨まねば、提携は成功に至らない。
 選択と集中の戦略によって磨かれた強みは、他社の強みと機械的に組み合わすだけでは十分な効果を発揮しない。強みに自社の気持ちを込め、他社の気持ちを読み取ろうとする努力を通じて、真に輝きだすのである。
 まず提携ありきでとりあえず提携をした企業や、なんとなく異業種交流に参加した企業は、意識改革をするだけで、大きなチャンスが目の前に転がっていることに気付くかもしれない。提携への意識改革は、提携成功の鍵であり、チャンスへのスタート地点である。


【参考文献】
[1]
吉田賢哉・妹尾大“企業提携関係のダイナミズムへのアプローチ”,経営情報学会春季大会予稿集,2003.
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