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コラム「研究員のココロ」

斎場に対する「指定管理者制度」導入の動向と留意点

2005年03月28日 渡辺康英


斎場に対する「指定管理者制度」導入の動向

 公共施設の管理運営の効率化を目指し、指定管理者制度が普及しはじめています。斎場(火葬場)に対しても、川崎市や上尾市などで指定管理者制度が導入されています。
 斎場の整備並びに管理運営は市町村に任されていますが、斎場の管理運営に関する最近の動向はほとんど把握されていない状況です。そこで、平成16年11月から12月にかけて、人口規模10万人以上の223都市を対象としたアンケート調査を実施し、斎場の管理運営体制や指定管理者制度導入の意向を把握しました。(「斎場の管理運営に関する自治体アンケート調査結果」を参照)
 このアンケート調査によって、斎場を抱える自治体では、斎場に対する指定管理者制度の導入について関心が高く、経済的効果を期待していることなどが把握できました。


参考:「斎場の管理運営に関する自治体アンケート調査結果」より

●管理運営の効率化に向け「指定管理者制度」に強い関心

斎場の管理運営の効率化に向けて、これまで採用した手法を尋ねたところ、「業務委託の競争促進」、「雇用形態の多様化」、「業務委託の領域拡大」等の回答が上位を占めました。一方、斎場の管理運営の効率化に向けて、今後採用したい手法を尋ねたところ、「指定管理者制度の導入」が第1位回答となり、同制度に対する関心と期待の高さがうかがえました。


●「指定管理者制度」普及の可能性

斎場に対して指定管理者制度導入の可能性を尋ねたところ、「導入済み」、「導入に向けて検討中」、「来年度以降に検討する予定」との回答は、合わせて約2割を占めました。さらに、「導入する可能性がある」との回答も約3割あり、指定管理者制度導入に前向きな回答は約5割を占めました。斎場に対する指定管理者制度の導入は、今後一層普及する可能性がうかがえました。


●「指定管理者制度」導入に関する斎場固有の不安

斎場に対して指定管理者制度を導入する場合に気にかかることを尋ねたところ、「行政のチェックが間接的になり、個人情報の管理に不安を感じる」、「斎場の指定管理者導入事例が少なく、導入効果を確認しにくい」、「斎場の中心業務である火葬業務を担える指定管理者は限定され、競争原理が働きにくい」、「指定管理者から再委託される業務が多ければ、業務ごとの委託と変わらない」、「管理運営の効率化が優先され、サービス低下に不安を感じる」等の回答が上位を占めました。
情報管理、サービス低下といった公共施設の管理運営に共通する不安とともに、参入事業者が限定されがちな斎場固有の不安も上位を占める結果となりました。


●「指定管理者制度」導入では経済的効果を期待

斎場に対して指定管理者制度を導入する場合に期待する効果を尋ねたところ、「効率的経営などによる管理運営経費の削減」が第1位回答となり、第2位回答である「職員研修の充実などによる接客サービスの向上」を大きく上回りました。斎場は、民間事業者による創意工夫の余地が少ないことから、指定管理者制度の導入には、経済的効果が特に期待されていることがうかがえました。



斎場への「指定管理者制度」導入に伴う留意点

 東京都区部をはじめとして、民間事業者が経営する斎場(火葬場)では、長年にわたり行き届いたサービスを提供しています。一定の技術や経営規模を満たす民間事業者を選定することができれば、指定管理者制度の導入によって、斎場の管理運営の効率化とサービス向上を両立できると考えられます。
アンケート調査からもうかがえるように、斎場に対する指定管理者制度の導入は、さらに広がるものと予想しています。ただし、指定管理者制度の導入は、民間事業者の募集から協定書の締結まで、時間と手間がかかる作業でもあります。加えて斎場に対して指定管理者制度を導入する場合には、斎場固有の留意点があります。私自身、平成16年度に斎場に対する指定管理者制度の導入支援業務に携わりましたので、この経験を通じて実感した指定管理者制度の導入に伴う斎場固有の留意点を、下記のとおり整理しました。


●指定管理者制度導入の工程について

指定管理者制度の導入には、条例改正、指定管理者の指定などに関して議会の議決が必要になります。また、斎場の管理運営に関する全ての業務を洗い出し、指定管理者が満たすべき条件を検討した上で、募集要項、要求水準書、協定書案の作成を行わなくてはなりません。特に新設斎場の場合には、管理運営水準や管理運営費等のデータがないため、類似規模の斎場を参考にしながら要求水準書を作成しなければならず時間がかかります。さらに、民間事業者の選考や協定内容の協議も慎重に行う必要がありますので、約1年程度の工程を確保して指定管理者制度の導入を図ることが望まれます。


●条例改正を契機とした料金体系の見直しについて

指定管理者制度の導入に際しては、斎場の管理運営に関する条例改正を伴います。この条例改正は、火葬料金をはじめとする料金体系を見直す機会でもあります。施設利用に関する原価を試算し、現行料金体系の妥当性を検証して、受益と負担の適正化に向けて料金体系を改定することが望まれます。


●条例改正に伴う管理運営内容の見直しについて

斎場の管理運営に関する条例には、指定管理者が行うべき業務範囲や開場日時等を示すことになります。条例改正について議会で説明する時点までには、募集要項や要求水準書等の骨格を決定しておくことが必要です。指定管理者制度の導入を契機として、斎場(自治体)が担うべき業務をスリム化し、その一方では、開場日や開場時間などを拡大してサービス向上を図ることが望まれます。現在の管理運営内容に関する見直しの検討を行い、指定管理者に求める管理運営内容や水準を早期に決定しておくことが望まれます。


●周知期間、提案書作成期間の確保について

指定管理者募集の周知が不十分であれば、応募者は限定され、競争原理が働きません。火葬炉メーカー、葬祭業者、ビル管理会社等をはじめとして多数の民間事業者が応募し、水準の高い提案を得るためには、周知期間や提案書作成期間を十分に確保することが必要です。さらに斎場の施設・設備の特徴を民間事業者に理解してもらい、最適な管理運営案を得るためには、現場での説明会や見学会を開催することが望まれます。


●民間事業者に対する評価について

民間事業者を選考する上で、経済性は中心的な評価項目です。自治体職員による管理運営よりも、民間事業者の提案額が低額であることは不可欠ですが、過剰に抑制された提案額には注意が必要です。人件費が過少の場合には、配置人員の不足、正社員割合の低下、タイトなローテーションなどの可能性があり、設備保守点検費、清掃費などの施設維持管理費が過少の場合には、管理水準が正しく理解されていない可能性があります。民間事業者の選考に際しては、管理運営費の下限値を事前に試算し、それを下回る提案額は評価を低くし、経済性とサービスのバランスがとれた民間事業者を選定することが望まれます。


●不正行為の防止について

喪主には、香典返し、墓地購入、相続などが伴うことから、葬儀関連業者の営業標的になりがちであり、個人情報の管理徹底が必要です。また、特定の個人・団体を優先する受付や心付けの受取り等などの不正行為がないよう、公平性を厳守した管理運営が必要です。不正行為を防止するためには、指定管理者に対して社員教育の徹底を求めると同時に、定期的な外部監査や不正行為に対する罰則を協定に盛り込むことが必要です。


●住民に対する指定管理者制度の説明について

指定管理者制度の目的や仕組みは、住民にはほとんど浸透していません。このため、民間事業者が斎場の管理運営の全てを担う指定管理者制度の導入は、効率性だけが優先され、斎場周辺地域を顧みなくなると、住民はとらえる可能性があります。斎場に指定管理者制度を導入する場合は、平行して住民への説明を行うとともに、民間事業者と住民との意見交換の機会を定期的に確保して、住民の不安を取り除くことが必要です。


●指定管理者制度導入指針の作成について

斎場以外の公共施設に対しても、指定管理者制度が導入されることが予想されます。指定管理者制度を円滑に導入するためには、全市的視点で指定管理者制度導入指針を策定することが望まれます。導入を検討する公共施設を明らかにするとともに、募集要項、応募様式、要求水準書、協定書等に関して一定の基準や書式を示すことによって、同一自治体で多岐にわたる指定管理者制度の導入を効率的に進めることが可能になります。

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