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コラム「研究員のココロ」

何だかおかしいCS調査

2006年01月30日 白石宗基


 飲食店などに行くと、よくテーブルにアンケート用紙がおいてあります。私は仕事柄、よく質問内容をチェックしたり、たまには回答したりしますが、なかなか答える気分になれないのが正直なところです。なぜなら、「本気で聞きたいの?」と疑ってしまうほど、無造作に置いてあるからです。「答え甲斐のなさそうなアンケート」、そう思ってしまうのは筆者だけでしょうか。
 最近、CS調査(顧客満足調査)が「氾濫」しています。しかしながら、あまりにも「安易な調査」が多いのではないでしょうか。本稿では、CS調査に「本気で」取り組むことの本質的な意味を考えてみたいと思います。


何のためのCS調査?

 CS調査を実施する主旨、目的は、一般的には次の2点とされています。
  1. 現在の商品力やお客様対応力等に関する問題点を「発見」すること
  2. 発見した問題を「解決」し、現場(顧客接点)のクオリティーを高めること

この2点をやりきるだけでも実は大変です。実際、日々お目にかかる企業においても、「それらしい調査はしているが、しているだけ」とか、「問題点は把握できたが手を打っていない」といったところが大半を占めます。ですから、まずはこの2点をやり尽くすだけでも構わないのですが、筆者は「まだ足りない。何かおかしい」と考えてしまいます。なぜなら、これではCS調査(顧客満足)と言いながらも、実は企業の都合で、「企業のルール」でお客様の声を利用しているだけだからです。CSは「お客様のルール」によるものでなければなりません。主役はあくまでもお客様です。ですから、筆者は「CS調査の主旨、目的」に次の3点目を加え、コンサルティングの現場においてもそうした取り組みを実践しています。
  1. CS調査のプロセスを通じて、CSそのものを創造する

 せっかくのCS調査です。これを契機にお客様との「いい関係づくり」にまで発展させなければもったいないとは思いませんか。対象は、個人のお客様(生活者)に限りません。法人のお客様であっても同様です。

 以下では、その考え方や取り組み内容を簡単にご紹介しましょう。ポイントは2つです。


不退転の枠組みで行うCS調査

(1)大前提としての「経営者の積極的関与」
 アンケート調査形式の場合、冒頭、必ず「調査へのご協力依頼文」を付けますが、この「依頼人」を経営者にします。お客様に対して自社の評価をお願いするのですから、経営者の名で行うのが当然です。さらに、筆者は、単に経営者の肩書きと氏名を記載するのみでなく、可能な限り経営者ご自身にこの挨拶文を考えてもらっています。どれくらいの紙幅がとれるかにもよりますが、次の2点を経営者自らの言葉で記し、お客様に対して自らの「本気度」を示すことが何よりも重要と考えています。
  • なぜ今回、お客様にアンケート調査をお願いするのか
  • いただいたご意見を一体どうするつもりなのか
    (今後の参考にするのか、手を打てるものはすぐ対応するのか・・・)

(2)ご回答いただいたお客様には必ず「応える」
筆者自身、「お客様」の立場で様々なCS調査に回答してきましたが、実感ベースで振り返ってみると、約80%の企業からは何もありません。「なしのつぶて」です。某有名ホテルや高級旅館も含まれます。某大手デジタル機器メーカーのCS調査は、ネットでかなりの質問に回答しましたが、何もありませんでした。仕事であるリサーチ業務を外注した某調査会社の場合も無反応でした。筆者としてはかなり大きな不満を記したつもりなのですが・・・。
 生年月日を記入したレストランからは、誕生日前に「DM」が届いたりすることがあります。しかし筆者が控えめに記した改善提案には何のコメントもありません。調査目的はDMリストづくりだったのでしょうか・・・。
 こうした企業も、実際には、寄せられた回答を参考にして、問題発見とその解決に鋭意取り組まれているのかもしれません。しかし、仮にそうであったとしても、やはり根本的に間違っていると思います。筆者がコンサルティングの現場で実践しているのは次のような取り組みです。
  • ご回答いただいたお客様には、当然のこととして「お礼状」を出す(経営者の名で)
  • どのような「声」が寄せられたかを必ず公開する
  • そして、寄せられたご不満や改善提案については、一定の整理を行ったうえで、「すぐに取り組むもの」、「時間をかけて取り組むもの」、「経営方針として敢えて取り組まないもの」といった形で、きちんとご説明する

※ 昔と違って、通信環境は飛躍的に進歩しています。メール等をうまく活用すれば直接コストも抑えられます
 要は「なしのつぶて」にしない。ただそれだけです。ただそれだけなのですが、これは「問題解決のアクションプラン」をお客様に曝け出すことに他なりません。お客様に対して「ここまで良くなります」とコミットすることになるのです。筆者はこれを「不退転の枠組みを敷く」と言っています。前述した「CS調査の主旨、目的」に話を戻せば、cの目的を付加したことで、aとbにも必死で取り組まざるを得なくなるということです。


お客様の期待値を高める

 ある経営者の方が言われました。「そこまで手の内を曝け出さなくても・・・。パンドラの箱を開けるようなものじゃないですか。」
 おっしゃるとおりかもしれません。では、なぜCS調査で「不退転の枠組みを敷く」必要があるのでしょうか。一言で言えば「お客様から期待され続ける企業」になるためです。
 お客様の選択は完全に自由です。その自由な選択の中で、選ばれる企業は生き残り、そうでない企業は潰れます。ただそれだけのことです。では、これからの時代、どういう企業が選ばれるのでしょうか。筆者は「お客様からの期待値」を高め続けられる企業だと考えています。期待値を高める努力をしないで、あるいは元々の期待値が低い中で「今年度は顧客満足度が70ポイントから75ポイントに上昇しました」などと喜んでみても、とても虚しいことと思えるのです。
 ただ一方で、お客様から期待されることが非常に難しい時代になっているのも事実です。世の中をアッと言わせるような商品やサービスを提供し続けられる企業など限られています。そうした中で、CS調査は「お客様からの期待値を高める」ための絶好のきっかけを与えてくれるものと確信しています。
 21世紀型のCS調査。それは、「お客様のルール」で、お客様の目線から取り組まれるべきものではないでしょうか。
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