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コラム「研究員のココロ」

IRとCSR:株主利益とCSRは相矛盾するものか?

2006年01月16日 手塚貞治


 昨年2005年は、ライブドアや楽天、村上ファンドなどの台頭によって、いわゆる「敵対的買収」が注目される1年となりました。その中で、声高に叫ばれたのが「株主利益」という言葉です。一方昨年は、列車脱線事故や構造偽装問題などが起こり、利益至上主義の弊害が露呈することともなりました。「CSR(企業の社会的責任)」が真剣に議論された1年とも言えるでしょう。
筆者はIR支援を業としている関係で、「株主利益」と「CSR」がどのように両立できるのか、を考え直すきっかけともなりました。

 このテーマに関して、企業経営者や投資家の方々など、いろいろな方と議論させていただきました。CSRに関して非常に真摯に取り組まれている方もいらっしゃる一方、株主利益と他のステークホルダーの利益は両立できるわけがない、投資っていうのは結局リターンだけで評価されるもの、等、いろいろなお考えを頂戴いたしました。

 では、株主利益とCSRは両立し得ないものなのでしょうか?私の結論は「両立可能」というものです。
 なぜなら、CSRとは「各ステークホルダーとの協調関係によるサステナビリティ実現」だと考えられるからです。確かにCSRは、論者によって定義がいろいろありえる言葉だとは思いますが、私は、企業が各ステークホルダーとWin-Winの協調関係を築きながら、永続的な発展(サステナビリティ)をすることだと定義しています。
 したがって、IRでは各ステークホルダーの利益と株主の利益が直結するということを投資家にロジカルに説明することによって、企業と投資家との間で信頼関係を築くことは可能だと考えます。

 具体的には、米国の大手小売業シアーズの事例が参考になると思います。シアーズは、80年代の多角化路線が立ち行かなくなり、90年代初頭に苦境に陥りました。そのときに、CEOアーサー・マルティネスの構造改革の中心に据えられたのが、図表に示す「エンプロイー・カスタマー・プロフィットモデル」でした。従業員満足が顧客満足に影響を与え、それがひいては投資家満足をもたらすということを体系化・指標化したものです。これによって、全従業員に対して改革の方向性を明確にしました。従業員のベクトルが統一され、投資家の信頼も回復し、会社の再建にも成功したのです。
 このモデルは、各ステークホルダーとの関係やステークホルダーの利益の相関を表現した点が特徴です。それぞれの指標データを毎年蓄積し、多変量解析の手法を用いて、指標間の相関関係を全て解析していきました。さらに、決算数値と同様に一つ一つのデータ自体を監査法人に監査させるところまでやっています。ここまでやれば、従業員の満足度が投資家の利益に跳ね返ってくるということについて納得性が高まります。投資家に対しても十分信頼を得るものとなるでしょう。また、こうした考え方こそが、真のIRと言えるのではないでしょうか。

 昨今では、ツールとしてのIRは出尽くした、というのが現状です。「これを開示すれば投資家に受ける」といったツールはもはやありません。企業が地道にサステナビリティを追求していくことが株主利益に直結するということこそ、本質的なIRだと考える次第です。

シアーズの「エンプロイー・カスタマー・プロフィットモデル」
エンプロイー・カスタマー・プロフィットモデル

【参考文献】
アンソニー・J・ルッチ、スティーブン・P・カーン、リチャード・T・クイン「シアーズ:復活のシナリオ 顧客価値を生み続けるシステムの構築」ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー1998年8月-9月号
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